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勇者な彼女と英雄への道  作者: ウサギ様@書籍化&コミカライズ
第九章:生きていくのに必要なもの
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寂しい夜の新たな出会い⑤

 いつの間にか暗くなってきた部屋がランプの火に照らされる。 嗅ぎ慣れない匂いに、火の暖かさを感じて、他国の物であることをより強く感じた。

 クロはその灯りに落ち着いたようで、小さく息を吐き出す。


「このペンギンという動物は、知り合いの勇者が飼っていた物だった。 一応、飼い主に返してやりたいんだが」


 クロは首を横に振る。


「シュバルツ……このペンギンという動物とも、短くない付き合いだ。

シュバルツの様子からも嘘のようには見えなく、そちらの方が良いのかもしれないが、俺としては気に入っている。 悪いが……。 いや、少し考えさせてくれ」


 クロは考え始めたところで、エルに服の裾を引かれる。 エルの目線を追えば、ペンギンがクロにくっ付いているのが見えて、俺はエルに頷いた。


「いや、いい。 そのペンギンも随分懐いているようだ」


「いいのか?」


「ああ」


 ペンギンを月城のところに返したところで、月城が思い直すとは限らない。 どうせ死ねば月城のところに戻ってくるのだから、何も問題はないだろう。

 仲の良い二人を引き離すようなものでもない。


 クロは息を吐き出して、椅子に深く座った。 どういう気持ちの変容かは分からない。 俺も落ち着いて椅子に深く座り直す。


「あれだな。 割と本気で焦った。

意外と大切に思っているものだな」


 何処か他人事のように言う。 俺も話を追えたので、これ以上長いする必要はないと立ち上がる。


「あ、ありがとう、ございました。

その、僕達も下の階にいるので……あの、何かあれば」


 エルも俺の後ろに付きながら頭を下げた。 何処か血の匂いをする部屋の扉を閉じる。 扉の隙間からランプの灯りの下で剣を磨いている男を見て、一応顔と名前を覚えておくことにする。


「良かったんですかね」


「良かったんじゃないか? 月城も帰るんだろう」


「ペンギン」


 何故いるんだ。 話が纏まったのにまた戻ってくるとは、面倒くさい。

 ペンギンを軽く追い払おうとするがエルに止められる。


「作業を始めたみたいですから、追い出されてしまったんではないでしょうか?」


「ああ、こいつ鬱陶しいもんな」


「ペンギン?」


 俺もグラウの剣が鞘もないまま放置されているので、それをどうにかする作業をする必要があるが、まぁどうでもいいか。

 二人を連れて部屋に戻る。 エルが魔法で明かりを灯すと、赤黒い刃が艶めかしく光を反射する。


「剥き身のまま置いておくわけにはいかないか」


 布でも巻きつけてしまおうかと思ったが、巻きつけた布が切れてしまったので、どうしようか迷う。


「エル、魔法で固い石を出してくれないか?」


「ん、分かりました……。 けど、石を掘って鞘にするのは難しいと思いますよ。 その、直接僕が作りましょうか?」


「いや、刃物だから危ない」


「大丈夫ですよ。 最近、過保護が過ぎます。

さっきも子供扱いでしたし……」


 不満気に言うエルに剣を渡し、エルに近づこうとしている不埒なペンギンを掴む。 代わりに俺の膝の上に乗せて、軽く触って弄る。 独特の毛の感覚が癖になりそうだ。


 エルは弄るように触り剣の形を把握すると、それに合うように石を形成させていく。 すぐに出来上がり、剣を鞘の中に差し込んでから、簡単に抜けすぎないようにや、入れた状態で何か不都合がないかを確かめてから、軽い装飾を施していく。


「名前書いておきましょうか? 失くした時のために」


「いや、失くさないからいい。

失くしたら、見つかることはないだろう」


 名前が書いてあるから持ち主に届けようなんて奴はいないだろう。 エルは不本意そうに俺に渡す。

 石造りだからか少し重いが、それでもエルがなんとか持てる程度で大した重さではない。 いざとなればこれも武器として使えそうで悪くないな。


「ありがとう」


「いえ、その……お力になれたなら嬉しいです。

それで、明日からどうしますか? 絵本を渡しに……でもいいですし、それほど急いでいるわけではないので、アキさんがまだ辛いようでしたら、その、一緒にいましょう」


 エルの提案は魅力的だ。 まだグラウの死は、酷く辛い。 エルのおかげで泣いて悲しむことが出来たが、それでも乗り越えられたとは言い難い。


「いや、行こう。 まぁ……ロトも知っているから、ロトの調子も知らないとな」


 ロトも、あいつはあいつでグラウとは仲良くしていた。 俺とは違って死に様を見ていない分だけ、辛いかもしれない。

 俺がエル以外の人を気にするのは少しおかしな気もするが、それも成長だろうか。


「……そうですね」


 エルは少しだけ顔を曇らせて、俺の頭を撫でる。

 心地よさに目を細めると、エルは手を離す。


「無理はしなくていいですよ」


「ああ」


 ペンギンを抱えながら頷く。


「……じゃあ、ロトに声をかけてくる。 明日行こう。

何かをしていないと、耐えられなさそうだ」


 そう言い残してペンギンと共に廊下に出て、すぐ隣の部屋の扉を叩く。


「アキレアか? 少し待て、今着替えている」


「ああ」


 衣擦れの音を聞きながら、ペンギンの形状を観察する。こんなよく分からない形で、生物として生きていけるのだろうか。

 しばらく待つと扉が開かれたので中に入る。


「アキ。 何か用か?」


「ああ、明日にでも、絵本を渡しに行きたいんだが、いいか?」


「あー、そうだな。 ……その後のことなんだが、リアナと話し合って決めたんだが、俺とリアナは剣聖という人物の元に向かおうかと思っている。

どうにも伸び悩んでいてな、ついでに勇者とも会えそうだから丁度いいかと」


 ロトのヘラヘラとした笑みがもう見ずに済むのかと思うと、嫌な話ではないか。 以前の俺ならば簡単に割り切れていただろうが、今はグラウがいなくなってすぐのためか人と離れるのがやけに虚しい。


 だが、止める理由もなく、小さく頷いた。


「アキはエルちゃんと一緒に家に帰るんだよな」


「ああ、そうだな」


 以前とは違い、戻ってからも剣を手放す生活はできそうにない。 まぁ、出来ることはそう多くもないが、新しい我流の剣技を身につけるぐらいは出来るだろう。


「リアナと二人旅か、懐かしいな」


「ついこの間の事だろう。 私はそれも悪くないと思う」


 この二人も仲が良いな。 恋人同士とかではないようだが、友人……いや、仲間だろうか。


「……もう会わないかもしれないのか」


「そうだな。 なんだかんだ言っても、他国に向かうことになるからな。

それからまた目的が出来て……となれば、会いに行くのは難しいな。 まぁ、暇が出来たら行くかもな。 なんだかんだ言っても、この国は住みやすいようだし」


 似合わない言葉を吐いたことに気が付き、頭を掻く。 ロトは俺の後ろを見て、真面目な表情に変えて話し始める。


「ああ、アキ。 エルちゃん近くにいないよな」


「部屋で休んでいる」


 そう答えると、ロトは少し顔を顰めながら続ける。


「勇者が、この前、襲ってきた。

目的は分からないが組織的な行動らしかった。 俺はなんとか撃退したが……一応、気をつけろ。 勇者を狙っているように見えた」


 エルが狙われる可能性があるのか。 少し三輪のことを思い出す。 あいつが襲われてて死ねばいいのに。


「分かった。 気をつける」


 エルがいない時に言ったのは何故だろうか。 ……まぁ、こうしてもらった方がやりやすいのは確かだが。


 ペンギンを連れて部屋から出て、エルの元に戻る。

 泣き疲れて寝ていたせいでまだ眠くないが、早く寝た方がいいだろう。 明日は早い。

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