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勇者な彼女と英雄への道  作者: ウサギ様@書籍化&コミカライズ
第二章:高みへと朽ちゆく刃。
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魔法と能力の練習

「一人で覚えてそれか、大したものだな」


「そうでもない」


 嬉しいことは嬉しいが、少し前に散々エルに褒められた後なのでその感情が顔に出ることはない。

  少し愛想がないためか護衛は共闘したおっさん意外は興味がなくなったように周りを見渡したり軽く会話をしたりを始める。


「お前達は何の用で行くんだ?

その子を学校に通わせるとかか?」


 おっさんはエルを指差して尋ねる。

 少し返答に迷ってから頷く。 もし本当にエルが神付きの勇者の囮としてここにいるとしたら、「勇者だ」「仲間探しだ」と騒いで回るよりも潜む方が安全だろう。

 幸い、俺も潜む方が都合がいいのでとりあえずは目立たない受け応えをしていた方が何かといいだろう。


「まぁ、何をするにしても魔法は覚えていた方が都合がいいものだしな」


 納得したように護衛のおっさんは頷く。

 何かを話すこともなくただ座っていると、後ろでエルが小さくクシャミをしたので立ち上がる。


「っと、身体も冷えてきたから戻る。 邪魔したな」


「あいよ。 二人とも暖かくして早く寝ろよ。

夜更かしする奴には鬼の魔物がきて喰われちまうぞ」


 子供扱いか、それもかなり幼い。

 珍しい対応に少しだけ笑ってしまう。

 まだ眠くはないが、外でうろちょろしている必要もないので馬車に戻る。

 空いている腹に持ち込んでいた干し肉と乾パンを突っ込む。


「アキさん。 着く前にちょっと魔法を教えてくれませんか?」


 エルが食べている途中の乾パンを握りながら、少し緊張したような表情で俺に言う。

 黒い宝石のような目はいつものように俺の目を見ることをせずに少ししたを見ている。


「いいが。 どうかしたのか?」


 魔法は使えなくとも、知識だけなら人並み以上にある自信はある。

 基礎を教えるには充分……かもしれない。 少なくとも教えれないってことはないだろう。


「いえ、アキさん、魔法が嫌いなのかって、思ってましたから、少し」


 しどろもどろになりながらエルが答える。 俺自身は気がついていなかったが、話が出ていると少し表情を歪めていたのかもしれない。

 それを誤魔化すように笑顔を作って少女に微笑みかける。 すると、エルに一歩引かれてしまう。


「まぁ、あんま気にするな。 基礎ぐらいは教えられる」


 手のひらを上にして前に出して、極力小さいシールドを作り出す。

 手本というには些か地味だが、これしか使えないのだから仕方ない。


「俺の使える唯一の魔法だ。 魔法名はシールド」


 エルがシールドをペタペタと触りながらそれを観察する。


「ガラスみたいですね。 宙に浮いていて、なんか変な感じです」


「身体の中にある魔力を使って何かを作ることを魔法と呼ぶ」


 とりあえず魔法の前に魔力を扱えるようになるのが先決かと、荷物から水を起こす魔道具を取り出してエルに渡す。


「とりあえず、魔力が分かるようになるまでそれで練習してろ。 魔力がそれに流れたら下から水が垂れるから分かるだろ」


 エルは魔道具を握り、振ったり擦ったりするが水が出てくることはなくエルは首を傾げる。


「そもそも、異世界の人間である僕に魔力ってあるんでしょうか?」


「あることは間違いないな。 お前からも魔力は感じる。

一応、他人の魔力を流すことで魔力を感じ取れるって荒治療はあるけど」


「そんなのあるんなら、してくださいよ」


 エルが俺の方に手を伸ばすが、その手を取ることはせずに先に注意しておく。


「してもいいけど、痛くて気持ち悪いぞ?

身体中の皮膚の中に蛆虫が巣食って神経を撫でながら動き回るような……」


「止めときます」


 手を引っ込めて、魔道具を再び握って振ったり抱きしめたりしているが反応はない。

 俺はそんなエルを眺めながら干し肉を齧る。 俺の場合、生まれつき魔力を感じていたので今のエルの苦労は分からない。

 なんか、人ととことん違うと感じることがある。


「普通、一週間もあれば感じるようになるらしい。 それでも無理なら、魔力流せばいいだろ」


「えっ、いや、痛いんですよね、嫌ですよ……」


「ちょっとだけならいいだろ」


「えー、んと、優しく……してくれるなら、いいです」


 説得が出来たので初期段階で躓くことはないだろう。

 あとは俺のように異常に魔法が覚えられないなんてことがなければ覚えられるだろう。

 物覚えも良く賢いので、俺のような異常さえなければあまり気にしなくても使えるだろう。


 しばらくエルがガサゴソと弄っているのを見ながら、干し肉と乾パンで腹を膨らます。


「あっ、ちょっと湿気てきたような……」


「手汗じゃないか?」


 言った瞬間、エルの手が光る。 浄化の光が収まる。


「……手汗でしたね」


 虫の鳴く音と風が草を凪ぐ音が聞こえ、騒がしかったエルが静かになったことが無理矢理理解させられる。


「……なんか、悪い」


 エルから目を逸らして謝る。

 落ち込んでいるエルの肩をさすって慰めようとするが、その手を掴まれる。


「アキさん、僕は別に汗っかきではないですからね?」


「あっ、魔法が上手くいかなかったから落ち込んでる訳じゃないのか」


 何となく安心して息を吐くと、エルが恥ずかしそうに手を俺の手に当てる。


「ほら、本当に、別に汗っかきって訳じゃないんです」


「お……おう」


 特に気にしていないが、エルには何か気になることらしい。 信じたと言って手を離してもらう。

 まだ気にしているのか手当たり次第に身体に触れてピカピカ手を光らせている。


「そういやそれ、手からしか無理なのか?」


 エルは少し考え込む様子を見せて、少し息を吐く。

 また一度息を吸って、エルの全身がピカピカ発光し出した。


「うわっ、まぶしっ」


 しばらくして、エルが俺の方を向いて身体を寄せる。


「アキさん……」


 目をこちらに向けて、俺はそのその黒い美しい眼に思わず見惚れてしまう。 夜のように黒く絹のように柔らかそうな髪に、真珠のように美しい肌。

 子供だ、なんて思っていても美術品のように美しいことには変わりなく、ぱっちりと開いたその眼に吸い寄せられるようにーー。


「目からビーム!」


「ぬがぁあああああ!? まぶしい!!!!」


 突然エルの瞳が発光して、光が視界を多い尽くす。 眩しいと思い目を抑えて蹲る。

 眩しすぎてむしろ痛い!


「えぁっ!? ごめんなさい! そんなことになるとは思わなくて!」


 慌てたエルの声が聞こえ、大丈夫だと分からせるために手を上げて落ち着けてジェスチャーをする。


「少し、驚いただけだ」


 目が直接強い光に触れたせいか、生理的に涙を流れ出す。


「えっ、あっ、大丈夫ですか?」


 未だテンパっているエルの頭を撫でて、目を開ける。まだ少し痛みは残っているが大丈夫だろう。


「大丈夫だが。 あれは止めろ。 目と心が痛む」


 見つめられて、思わず見つめ返したら目をやられたというとんでもない罠だ。

 服の袖で涙を拭い、エルの方を向く。 頭を地に付けんばかりの勢いで頭を下げていて、心配そうに俺の目を見ている。

 頭を多少強引に上げさせて、溜息を吐く。


「ごめん、なさい。 悪ふざけが過ぎました」


 泣きそうになってるエルの頭を撫でて慰めてやる。 なんか、エルが泣くのと俺が泣きそうになるタイミングが被りすぎていてエルが泣きそうになると俺も泣きそうになってしまう。


 少し落ち着いたらしいエルはまた頭を下げ始める。 顔を上げさせると、また目尻に涙を溜め始める。

 あれ。 なんかループしていないか。

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