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ハクシに至る③

 積み上げてきた技能が、リアナの技の理解を容易にさせる。 踏み込みが、歩法が、目線が、あらゆる動きが透けて見えるようですらある。


 身体を揺らすように、足を地面に擦らせて距離を詰める。 速さはさほどではないが、緩急が非常に付けやすい。

 腰を捻らせて刃を振り切る。 ロトの剣とぶつかり合い、力が強く、体勢も力の入りやすい位置にいる。 容易くロトの剣を弾き飛ばし、返す刃にてロトの短剣を断ち切る。


「終わりだな」


 リアナの剣も、ロトの剣も後方にあり、取りに行くよりも前に切り捨てるのは難しくない。 高みへと朽ちゆく刃がなくとも、駆けっこの速さでは今までで一度も負けたことがないのだから。


 ロトは諦めたように息を吐いて、切れた短剣と遠くにある長剣を消す。 リアナも詰まらなさそうに剣を拾いに行った。


「まぁ、負け惜しみだけど、俺には剣の他に能力も魔法も瘴気魔法もあるから……負け惜しみにしかならないけど」


 実践になればどうなるかは分からないか。 それは確かだ。 剣の届く範囲は狭く、魔法は遠くまでも届く。

 だからこその、何物よりも早く速く疾い刃、高みへと朽ちゆく刃なのだろう。


「ああ、やっぱり強えな。 アキは。

俺の方が長く多く剣を振るっているはずなのにな」


 ロトはヘラヘラとした笑みを消して、少しだけ細めた目で俺を見た。


「ロト……?」


「ん? どうかしたか?」


 睨んでいるように見えたのは気のせいだったのか、ロトはいつものような不快な笑みを浮かべていて、少し前に見える馬車に歩いていってる。 リアナもロトの横に着いて歩き、一人取り残される。


 薄らと首筋が、逆立つように鳥肌立っていて、それを軽く触れて落ち着かせる。 何か俺に敵意を抱く魔物でも周りにいるのだろうかと見回したが、魔物の姿はなかった。


 遅れて俺も走り、馬車の中に一番に入り込む。 それと同時に治癒魔法がかけられ、同時にエルの甘いいい匂いが感じられた。


「お腹、大丈夫ですか?」


「見ていたのか。 まぁ、少し戻しそうになったが、一応ある程度は軽減していたから問題はない」


「なら良かったです。 んと、あのお二人は?」


「多分怪我はしていないと思うが、魔力が必要ないのならば使ったらいいんじゃないか? 動いて疲れているだろう」


 エルは遅れて入ってきた二人に魔法をかけてわ同時に労いの言葉を言うが、リアナは興味がなさそうに剣の手入れを始める。


「おお、エルちゃんありがと。 ケトがいないと回復手段ないから助かるよ」


「んぅ、どういたしましてです。 一応、色々魔法使えるので、何か不便があったらお伝えください」


「馬車が揺れて、尻が痛い」


 エルはだいたいの時間に俺の膝に乗っているので、馬車の揺れで尻が痛くなることに気がつかなかったのだろう。

 ロトとリアナの尻に追加で治癒魔法を行い、新たな魔法を開発のために考え首を傾げる。


「馬車の揺れ、クッション……んぅ、風属性でも難しそうですね。 土魔法で道を均しながら……はさすがに魔力の消費が」


 暫く色々な魔法を提案し、時には実行しながら試行錯誤していく。 途中、エルが思いついたように手を打った。


「そうです、毛布を下に敷きましょう」


 魔法関係なかった。

 こうして、修行やら、日常的な生活をしながら、グラウの元に向かう。

 時々、エルが俺を見ながら鎖を握りしめていたのが少し怖かった。


◆◆◆◆◆


 グラウの近くに辿り着いたと察することが出来たのは、些細な感覚だった。 薄らと入る血の匂いに、肌の薄皮一枚が痺れるかのような小さな違和感。

 匂いの濃い方へと歩く内に、鉄臭さが増していくのを感じる。


「グラウは、待っていたのか」


 ロトの言葉を疑っていたわけではないが、こうして事実を認識すれば、また違った感慨を抱く。

 一人で走りながら剣を振るっていた、エルと出会い共に歩いた。 それと同じぐらいに、グラウとの出会いは、グラウの教えは俺を大きく変えたように思える。

 腕っ節だけではない、一人の男として、学んだ。


 だからこそ、妙な不快感が喉に張り付く。

 血の匂いを嗅ぎ、内側の獣が興奮したかのように言葉を発することすら億劫になる。


 森の中に入り込む。 鬱蒼とした日の光が届かない森の中で、日の光がない故にグズグズに腐った魔物の肉がそこらかしこに転がっていて、不快だ。

 久方ぶりに見た襲い来る魔物を軽く一蹴して、また進む。


 素人臭さを感じる足音に、足を止める。 魔力も感じないが、この森に何か用がある人物でも現れたのか。 避難を促そうと思い、そちらを振り向くと、白い男が幽鬼の如く、ふらりと揺れながら立っていた。


「……グラウ?」


 グラウ以外の何物だと言うのか、しかし思わず尋ねてしまう。

 グラウの白髪交じりの赤髪は殆んどの髪から色が抜け落ち、赤は目を凝らさなければ見えないほどだ。 片目も白く色を失っていて、鍛えられていた身体も目に見えて衰えている。


「グラウだよな」


 もう一度尋ねると、グラウは目を細めて俺の姿を見た。


「……ああ、アキ……レアか。 やっと来たか」


 半年も経っていないはずだが、その男の衰えは……朽ち方は数十年の月日を思わせるほどだ。 先ほどの歩き方も素人同然で、いや、素人よりも間抜けな足運びだ。


 どうなっている。 強く頭に疑問を感じるが、グラウは俺を見て頬を緩ませる。


「……俺を止めに来たんだろう。 さあ、剣を取れ、戦おう」


 何が楽しいのか、グラウは笑みを浮かべて赤黒い石の剣を構えた。

 俺は剣を構えずに、首を左右に振る。


「違う。 話をしにきたんだ。 グラウが悪事を働くとは思えないからな」


 エルもロトもリアナも、俺より前に出ることはなく俺とグラウに話す機会をくれている。 リアナは軽く腰の剣に手を当てているが、今すぐに抜剣することはないだろう。


「いや、俺はこれを使って、悪事を働くつもりだ」


 グラウは絵本を懐から取り出して、俺に見せる。 まるで俺と戦うための口実を作るような言葉に、額にシワを寄せて表情を歪めるとグラウは剣を構えなおし、言った。


「アキレア……行くぞ」



 ーー高みへと朽ちゆく刃。


 グラウの石剣と、俺の荒鋼がぶつかり合い、荒鋼の剣先が欠ける。 斬り落とされたわけではないが、明らかに押し負けている。

 後ろから風を感じると同時にグラウに向かって背後から短剣が飛び出し、グラウの足元が泥に包まれる。


誰だか知らないが(・・・・・・・・)邪魔をするな」


 泥に足を捕らわれたままにグラウの剣が振られて、短剣が空中で斬り裂かれ、俺の横からリアナが飛び出し、剣による刺突を放つ。

 荒鋼を振り上げて、振り下ろす。 再び高みへと朽ちゆく刃同時がぶつかり合い、リアナの刺突は返しの高みへと朽ちゆく刃にて斬り伏せがれる。

 一式同士でぶつけ合ったところで、技量の劣る俺では勝てるはずもない。 二式、それもリアナの技術を組み合わせることによって、破壊力を大きく強化させた。


 大質量の剣、それが嵐のように連続して振り切られ、それに加えてロトの短剣とエルの熱線の魔法が幾つもグラウに向かって飛ぶが、グラウはぶつけ合わせるように剣をぶつけ、衝撃を発生させる。


 打撃の三式。 二式を途中で止められ、手の痺れから身体が硬直。 グラウはその一瞬で俺の横をすり抜けて、リアナを掴み、ロトに投げ飛ばす。


「邪魔をするな」


 違和感を覚える。 グラウの言葉ではないような、不自然。 そのおかげな、グラウの髪が、俺や父親のように赤黒く染まっていることに気がついた。

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