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ハクシに至る②


「だーかーらー、なんで分からないんだ! 簡単だろ、こんなの!

空気中の瘴気に呼びかけるんだよ、ほら、来い集え! そんな感じ」


「うぅ……申し訳ないです」


 ロトの首元に剣を突き付けるが、エルに下される。


「ロト、お前もエルのやつを分かっていなかっただろ」


「あれは意味が分からないから仕方ない」


 こいつ、殺してやろうか。

 お互いの得た力は理解しがたいらしい。 エルにはクリーンがあるのでロトの瘴気魔法は教えられずとも、問題ないように思うが、エルは手をプルプルさせながら言う。


「来い集え! ……来ません。

来てください! お願いします! さあ! さあさあさあ!……来ません」


「来ないな」


 才能の有無などだろうか。 俺も試しに瘴気を睨みながら、手を前に出して言う。


「集え」


 目を凝らせば見える赤い靄が、俺の命令に従うように手元に集まる。


「アキさん、コツ教えてください……」


「いや、視認して命令しただけだが。 これからどうしたらいいんだ?」


「さっきの説明聞いてなかったのか。 詠唱……まぁ適当になんか言えばいいんだよ」


 適当か。 エルを見て、呟くように言う。


「『エルを守れ』」


 ふわふわとした靄がエルの周りにまとわりつく。 これで守れているのか?


「ちょっと試していいか?」


 リアナが横から人差し指のみを突き付けるようにエルへと近づけ、エルの頰が「ぷに」と潰される。


「痛っ」


「……」


「……」


「……リアナ、ちょっと表出ろ」


 木剣を持って言うが、エルに止められる。

 結局、しばらく瘴気魔法の練習をしてみたが、ロト以外の誰も扱うことが出来なかった。 エルのまじない術と能力の組み合わせもである。


「時間の無駄だったな。 ロト、身体が鈍りそうだ。 外で相手をしてくれ」


「おーう。 剣だけの勝負にするか? 魔法も入れる?」


「剣だけだな。 魔力は消費したくない」


 ロトとリアナは馬車から飛び降り、軽く稽古をするらしい。 エルが俺の肩を叩く。


「行きたいなら、行ってもいいですよ?」


「……まぁ、リアナの剣はまだ身につけていないからな」


 目立たなく、よく共にいる中では常人であるが、そうは言ってもリアナもロトの長所を見る目によって選ばれた者だ。 常人程度の身体能力しかなく、能力もなく、魔法もほとんど使えないのにロトに信頼されている。

 おそらくは剣の技術が高いのだと思われる。


 エルの頭を撫でてから、剣を持って馬車から飛び降りる。


「俺も混ぜろ」


「え、やだよ。 だってお前、高みへと朽ちゆくじゃん」


「……じゃあ、使わない」


 今は稽古で勝つことが目的ではない。 高みへと朽ちゆく刃を振り回して勝っても、得るものが何もない。


「まぁいいけどよ。 馬車には遅れないようにしながらやるからな」


 ロトは短剣を一つと、長剣を一つ虚空から引き抜き、馬車に遅れないように歩きながら俺たちを見る。

 リアナも剣を構えて、俺を見る。


「行くぞ」


 リアナが呟くように言う。 そのまま、俺の元に歩いてきて振り下ろすーー。 遅い?

 一瞬の油断。 ゆっくりとした挙動に虚を突かれた。

 振り下ろされた剣の突然の急加速に、付いていくことが出来ず、後ろに飛び跳ねて避ける。 その飛び跳ねた着地点に、ロトの剣が迫る。 足元を掬うような水平斬りを、腰を捻ることで身体を回転させて避け、それと同時に剣を乱雑に振るい、ロトの短剣に受け止められる。着地と同時に前に跳ね飛び、ロトから遠ざかりながら勢いよくリアナに剣を振り下ろす。


 勢いは強い、が、リアナは待ち構えていたように剣を上に上げており、剣同士がぶつかる。 かなり勢いを付けてしっかりと振り下ろしたはずが、リアナの剣は岩石のように堅牢でビクリともせずに刃が受け止められる。


「ッ……!」


 空気中で受け止められれば、完全に的でしかない。 リアナは鍔迫り合いを終わらせるように剣を振るい、俺の身体を空へと上げて、剣を後ろに引く。 ヒュッ、と小さな吐息と共に矢のようにまっすぐと俺に突き付ける。

 返すように剣を突き、リアナの剣先と俺の剣先が激突し、俺の身体が後ろに飛ばされてしまう。


「突きに突きをぶつけるとは、化け物め」


 化け物であることは、魔物ということもあるのであまり否定することは出来ないが、それとまともに打ち合えるリアナもどうなのだろうか。

 そもそも、ある程度鍛えられているとは言えども、野太い筋肉もないようなリアナが、俺との鍔迫り合いで制せる

のは何故だ。


 考える間もなく、ロトが剣を突き出し、それを半身回すことで回避し、ロトに向かって振るうと短剣で受け止められ、横からリアナの刺突が放たれたので跳ね飛び、伸びきった剣の上に乗る。


「曲芸するなよ、剣の勝負だろ」


「なら俺ばかり攻撃するな」


 リアナの剣の上から退きながらリアナに剣を振るうが、ロトの剣に受け止められる。 露骨に二対一になってきたな。


 異様に力の強いリアナの不自然を突き止めようと、リアナの身体を見る。 魔法なしの戦いなのだから当然だが、魔法を使っている様子もなく、筋肉もそれほど強いようには見えない。

 リアナは駆けることなく、馬車に引き離されないように歩いている。


「……歩いている?」


 わざわざ歩く意味が感じられない。 勢いよく斬りつけた方が威力が出ると思っていたが……思えば、リアナは今まで走りながら斬っているところをあまり見ない。 勢いを付けるのより、普通に斬った方が力が入るのか? そんな馬鹿な。


 ロトの剣を避けながら剣を振るい、再び短剣に受け止められ、当身でロトを吹き飛ばす。 リアナは吹き飛んだロトに目をくれることもなく俺を睨み、足を止めて剣を青眼へと持ってくる。

 俺が剣を横薙ぎに払うと、半歩下がりながら剣で受け止め、俺は剣を振り下ろし、斬り上げて、乱雑に振り回す。


 その全てが最低限の動きで止められる。 もう少し速度を上げれば、隙を狙えば容易に勝てるが、リアナの剣技の秘密が分からない。

 俺が剣を振るい、リアナが半歩下がりながら受け止める。


 半歩下がりながら……受け止める。 半歩、何故下がる。

 リアナの足元を見てみると、下がった方の足の下の地面、草が根ごと抉れて土が掘り起こされていた。 尋常ではないほどに力強く踏み下がられているのか。


 頭の中で、違和感とその正体が噛み合う。 先程よりも力強く剣を振り下ろせば、リアナの足は耐えるように動き足元の雑草が吹き飛ぶ。


 俺の剣がリアナの剣とぶつかる瞬間に、リアナは強く地面を押して、腕だけでなく脚の力も利用して対抗していたようだ。

 なるほど、勢いよく跳ね飛び剣を振るうと言えば聞こえはいいが、考え方を変えれば跳ね飛んだ力は移動している時に逃げており、地面をしっかりと捉えながら剣を振るえば全身の力を同時に扱うことが出来、その上に力の消失もない。


 軽く半歩だけ足を下げて、地面を脚で捉える。 身体の重心を少し下げ、それを戻すのと同時に剣を振るう。


「ッ! それは私の……」


 リアナも同じ技で対抗するが、筋力差により身体が後ろに大きく仰け反る。 大きな隙に剣を振るおうとするが、ロトの剣が俺へと振り下ろされ、それを避けるように後ろに跳ねる。


「悪いが、覚えさせてもらった」


「いや、謝る必要はない。 相手の技術を盗むのは当然だ」


 リアナは足を地面に擦るような独特の歩法に切り替える。 新たな技で対抗するつもりなのかもしれないが、その歩法の意味は理解出来る。 どの時においても、先程の剣技を扱えるようにするためのものだ。


 真似るように足を地面に擦らせながら相対し、リアナの剣とぶつけ合う。 結果は先程と変わらない。 同じ技をぶつけ合わせれば、力の強い方が勝つ。 リアナの持っていた剣が後方に飛び、勝利を確信したと同時に……リアナが半歩、足を下げる。


 先程の剣技と同じような動き、変わったのは剣ではなく拳。


「ラァッ!」


 俺の身体に、リアナの拳が突き刺さる。 当たるのと同時に後ろに跳ね飛ぶが、威力の軽減もしれている。 酷い痛みを腹に感じながら、顔を歪めて剣を振り上げてロトの剣を防ぐ。


「なかなか、やる」

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