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ハクシに至る①

 新たな服に腕を通す。

 月城が以前から作っており、昨日の夜に寝ずに仕上げた物らしい。 少し固さを感じて、着心地が良いとはあまり思えないが、その分だけ暖かく丈夫そうだ。

 エルも別の場所で同じように月城の作った服に着替えた。

 前と同じく白を基調とした服装。 全体的に大きさが一回り大きく、ぶかぶかのように見える。


「……サバを読むべきではなかったです」


「……かわいいから、いいと思うぞ」


 半ズボンではない上に、上半身も首まで首巻きで覆っていて、エルの肌は手の半分と顔ぐらいしか見ることが出来ないが、それはそれで、他の人に俺のエルを見せないで済むと考えると悪いわけではないだろう。 いや、なんとなく寂しい気もするが。


 左腰に木剣を下げて、背に荒鋼を背負い、投げやすい短剣を数本、上着の中に仕舞い込み、矢を束ねて弓矢と一緒に紐で腰に縛り付ける。 背丈程の槍も荒鋼の横に背負い、斧は……荒鋼があるから必要ないか。 代わりに矢と短剣を増やし、脚にも予備の短剣を括り付けておく。


「そんなに持って、動きにくくないですか?」


「これぐらいなら変わらないな。 普通の剣も持って行くか」


 鉄製の剣を木剣の横に下げて、旅装束の完成である。 総重量はエルより重い程度で、ほとんど行動の妨げにならない程度に収めてある。


 前衛の剣士擬きの俺に対して、エルは基本的に魔法使いであるために装備はほとんどない。 何故か持っていくらしい以前、俺を縛っていた鎖。 それに護身用の短剣を一つ持たせているが、使い道はなさそうだ。


「ロトさん達も、そろそろ用意終わりましたかね?」


「ロトは武器を持つ必要がなく、リアナも剣一本あれば足りるからな。

あとはケトが用意してくれている食料や旅の準備を背負うぐらいじゃないか?」


「さらっとロトさんに持たせる気なんですね」


 一人だけ完全な手ぶらなんだしいいだろう。 そう思ったが、エルは許してくれそうにはない。

 部屋から出て、屋敷の玄関に向かうとロトが壁に背を預けて立っている。


「アキ、すげえ装備だな。 重くないのか?」


「これぐらいなら持っていないのと、そう変わらない。

……グラウと戦うなら、これでは足りないぐらいだろう」


「そん時は俺が武器を出してやるよ。

旅は、エルちゃんの体調が優れないということと、リアナとエルちゃんが馬に乗れないということなんで、馬車で行こうと思う。

流石にファンタジーな馬といえど、重装備のアキとエルちゃんを乗せて走るのは長く持たないだろうしな」


「ロトさんは、乗馬も出来るんですか」


「おうともさ、馬に乗りながらの戦闘とかも結構してるしな」


 相変わらず小器用な奴だ。 というか、馬車で移動するなら今の内に装備をしていく必要もなかったか。


「……それなら、俺がエルを背負って走ればいいんじゃないか?」


「グラウと会う前に疲れてたら意味ねえだろ。 それで大変なことになったら、その時はその時だ」


 随分と大雑把だが、焦るよりかはよほどいいか。 少し浮き足立っていた精神を落ち着かせて、リアナを待つ。


 少し待つと寝癖を跳ねさせたリアナが現れ、玄関から外に出る。 ケトの用意してくれていた食料が積み込んである馬車を使用人の男が運んできた。


 軽く礼を言ったあと、馬車の中に入り込むと、使用人の男が俺に挨拶をした後に御者台に座った。


「ああ、特に道中までは危険がないから頼んどいた。 俺とリアナが交互にやるのもしんどいしな」


「人の家の使用人を勝手に」


「お前の父親の許可は貰ってるからいいだろ」


 ロトはヘラヘラと笑い、軽く使用人の男に頭を下げる。 エルも同じように会釈をする。


「えと、ヨグネさん。 よろしくお願いします」


 俺も知らない使用人の名前をエルが知っていて、少し使用人の男に嫉妬をする。


「はい、よろしくお願いします。 坊ちゃん、すごい格好ですけど、そんなに危ないところに向かうんですか?」


「まぁ、強い奴と話にいく。 道中は基本的に危険はないと思うが、まだ魔物は普通に出会うだろうから気をつけてくれ」


「分かりました。 出発しますか?」


「いや、少し待て」


 屋敷の中からパタパタと足音が聞こえ、月城に引きづられたレイが屋敷から出てき、何人かのエルと仲の良い使用人と、何故か使用人の格好をしているケトが屋敷の中で頭を下げる。


「エルたん。 頑張れ!」


「はい。 出来る限り頑張ってきます」


 月城がどさくさに紛れてエルの頭を撫でようとしたので睨む。 レイが興味なさげにぷらぷらと手を振り、ケトが嬉しそうに頭を下げた。


「行ってくる。 また会おう、レイ、ケト」


「レイ、ケトに迷惑かけんなよ? ケトも新しい仕事頑張れ」


 リアナとレイが順番に言葉を掛けて、ケトとレイは頷く。


 馬車がゆっくりと動き始め、俺は出入り口の戸を閉める。 ガタガタと揺れる馬車の中、俺は身につけていた武具の一部を取り外して床に放る。

 五人が寝泊まりすることを想定されているのか、非常に広い。 おそらく五人全員で寝るのは無理程度の大きさだが、なんとか頑張れは寝れるかもしれない。

 まぁ、常識的に考えて、馬車の中で寝られるのは三人までだろう。


 そんな大きな馬車を運ぶ馬達も非常に体躯が大きなもので馬力がありそうだ。 やけに立派な馬車で、街を過ぎれば馬車の上に乗ろうかと思ったが、座り心地も悪くなく外の寒さを考えると出たくなくなる。

 以前のように魔物が大量に発生しているということもないので見張らなくとも問題はないだろう。


「あー、この旅楽そうだな。 むしろ腕が鈍りそうな気がする」


「そうだな……んじゃあ、瘴気魔法について教えるか」


「この周辺、僕の能力で瘴気はなくなってますけど……。

先に僕の能力と魔法……まじない術の組み合わせから教えましょうか?」


「そっちの方がいいな。 感覚的なものが大きいから、説明だけだとどうにもな。

てか、まじない術って何?」


 エルとロトが仲良さそうに話しているのを見て、思わず額に皺が寄る。 ある程度は仕方ないことであるのは理解しているので、何も言えはしないが不快感は強い。

 面白くない。


「えと、まじない術というのは……魔法より曖昧な魔法といった感じで、理論立てて考えずにイメージだけで発動させる感じです。

普通の魔法だと、能力と上手く混ぜる事が出来ないので、まずまじない術を覚えていただければと思います」


 手本を見せますね、とエルが荷物の中から短剣を取り出し、それを触媒として膨大な量の魔力を詰め込む。


「まず、その事象を象徴する物に魔力を詰めます。

次に、起こしたいことをイメージします。 これは何でも大丈夫です。 いい天気になーれとか、世界平和とか、何でも」


 短剣の柄を手で包み込み、目を閉じて祈りを捧げる。


「女の子にモテモテになりたいとかでも?」


「……そういうのは、リアナさん一人で我慢すべきだと思います。 浮気、良くないです」


「いや、リアナとはそういう関係じゃないし。 この国って一応重婚いけるから」


「そういうのをアキさんの前で言うのは止めてください……。 アキさんが僕以外の女の子と結婚するとか言い出したらどうするんですか」


 俺は首を横に振るがエルは疑わしそうに俺を見た。 エルの身体に触れたくて触れたくて仕方ないが、ロトとリアナの前であり、エルが嫌がりそうなので我慢をする。


「……アキさんはちっちゃい子なら何でもいい疑惑がありますから。

小さくなった僕にあれほど大喜びしていたことは、忘れられそうにないです」


「いや、あれは……エルだから」


 確かに小さな女の子の方が可愛らしいと思うようになったかま、それはエルの影響である。 エルが大きくなれば大きな女性にしか反応出来なくなる可能性は高い。


「そういう話はもういいから、続き教えて」


 ロトは呆れたように言い、エルは慌てて説明に戻った。

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