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強ければ強いほどに強くて強いのが強さ②

 馬鹿みたいな量の肉を頬張りながら、両手に持ったナイフで肉の塊を切り、斬られた肉にフォーク代わりにナイフを突き刺す。 両手とも似たような動きをして、口も手も止まることはない。


「こういう、すごく器用なところは、やっぱり兄弟ですね」


「一緒にしてくれるな」


 俺はエルよりかは食べる方だが、こいつほどに食い意地は張っていない。 そういうことを言っているのではないのは分かっているが、この姿を見て見ていると言われるのは甚だ遺憾である。


「やっぱり、家で食べるご飯が一番美味しいですよね」


 レイは一先ずすぐに用意出来た食物を全て嚥下したあと、水で喉を潤す。 同意を求められるが、それはそうだろう、そもそも食材が高いものを使ってるのだから。


 レイは軽く伸びをしたあと、眠たそうに目を擦る。


「何があったんだ? 見たところ…….随分とやられたように見えるが」


「急いで帰ってくるのに苦労しただけですよ。 傷も、無理に急いだせいで付いたものばかりで」


 ならば何故、急いで帰ってきたのか。 だいたいの想像は付くが、あまり聞きたい話ではない。

 エルは労わる気持ちが優先されているらしく、甲斐甲斐しく作られた料理を運んだり、水を注いだりしているので、レイから聞くべきなのは俺だろう。


「それで、負けたのか?」


「負けましたね。 勝てる気がしなかったです。

もう正直な話、話しをする意味もない気がするんで寝ていいですか?」


「奪われたんだろ。 良いわけがないだろ」


 大切な物らしいそれを奪われたまま放っておくわけにもいかないことはレイにも分かっているはずだが、レイは俺の言葉にまともに返すことはなかった。


「あれは仕方ない。 ですよ。

正直、勝ち目がないですから、話しをするとか、そういうのもう面倒です」


「生きて帰られる程度の敵だったんだろ? それなら、俺やエルも共に行けば」


 レイは机に突っ伏して、ナイフを皿にぶつけるなどして遊びながら、言った。


「生きて帰ったんじゃなくて、普通に逃がされただけですよ」


「魔物に、生かされた?」


「ああ、いえ。 敵は魔物ではなくーー」


 レイはことも無さげに、あるいはもう完全に諦めきったかのような言葉を発した。

 優秀な弟に嫉妬したことは多い。 少しだけだが自慢にも思っていて、仲がいい兄弟ではないが、いや仲が特に良くないからこそか、今までレイの言葉を疑ったことはなかった。

 だが、今回の言葉は信じられるわけもなく、理解することも出来ずに、意味も分からずにレイを見つめた。


「グラウさん、ですよ」


 グラウ。 グラウ。 知っているグラウはあの白髪混じりの赤髪、桃色の髪に見える小汚い男一人しかいない。 だが、そんなわけがなかった。

 エルは聞いていなかったのか、料理と水を持ってきて、呆然としている俺を不思議そうに見る。


 エルの身体を抱き上げて、膝の上に乗せて抱き締めた。


「どうかしたんですか?」


「……ああ。 いや、大したことじゃないのか?」


 思考がブレる。 グラウのことは鬱陶しいと思うばかりで、大切だと思ったことも、好意を感じたこともなかったが、いざ敵に回るかもしれないとなると酷く戸惑う。


「あれは、俺の師だ」


「分かってますよ。 ロトさんから聞きましたから」


 レイは料理を飲み込み、水で口をゆすいだ。

 グラウが敵にまわる。 理由は置いておくとして、勝てるのか? 俺が。 あの男に。


 ある程度は腕を磨いたつもりではあるし、身体能力も以前よりも向上しているが、それでもグラウの高みへと朽ちゆく刃を防げるイメージが湧かない。


「兄さんの剣の師匠って言ってましたね。 父さんの旧友というのも聞きました。 でも、理由も話さずに武力であれを奪いました。

あれが一体どんな価値があるのかも知りませんけど……。 あの人に勝つことは不可能ですから、もう諦めて寝たいですね」


 レイは正しく、心が折れている。 といった様子だ。英雄願望があり、自信家であるレイがこういう姿は何となく不快に思うが、それも仕方ないのかもしれない。


「なんでグラウさんが、レイさんたちを……」


「さあ、分からないです。 なににせよ、あれには勝ち目がないですから。 考えるだけ無駄じゃないですか?」


「エルが回復、お前が魔法攻撃、俺とロトとリアナが前で抑えたらどうにかなるんじゃないか?」


「無理ですって、ロトさんとリアナさんが一秒持たず斬られましたから。 治癒魔法で治してもらってましたけど」


 治癒魔法で治してもらっていた。 って、完全に敵になったわけではないのか? いや、絵本が目的だったから、殺す必要がなかっただけか。


「アキさん。 無理をする必要は……」


 エルはそう言いながら俺の上から降りようとするので、抱き締めることで逃さないようにしてから、否定する。


「戦わなくとも、話を聞きに行くぐらいはしよう。 金はもう困ってないんだしな」


「二人で住める小さなお家を買うって話だったじゃないですか……。 仕方ないとは思いますけど」


「ごめん。 俺もそっちの方がいいが……」


 何せ、人のいるところでは、鍵を閉めて部屋を締め切っていたとしても、させてくれない。 もし二人暮らしが出来たら、エルの羞恥心も少しは緩和されて……。


「……? あ、アキさん、降ろして、降ろしてください」


 突然エルが暴れ始め、腰の辺りが気持ちよくなる。


「……悪い。 つい」


「……いいですけど。 もう止めてください」


「二人して、どうかしたんですか?」


「レイには関係ないことだ。

……早いうちに、グラウの元に向かう。 もう去っているかもしれないが、魔物を引き寄せる絵本を持っているのだから、探すのは難しくはないだろう」


 レイは料理を食べ終えて、もう満足したのか椅子から立ち上がって食堂から出る。


「まぁ、分かりました。 兄さんはあの人に気に入られてましたし。 僕やロトさんでは教えてくれないことも教えてくれるかもしれませんしね。

面倒なんで、案内はロトさんにでもさせてください。 僕は、もうしばらくここで食って寝てで過ごします」


 扉が閉じられ、レイの食い散らかした後の皿と、食堂の料理人がまだ作っている最中の料理が残る。


「……浄化。 ご飯、少し早いですけど食べちゃいますか。 先に他の人の様子を見に行ってから」


 頼んだなら全部食べてからいけよ。 今、作っている量が半端ではないので食べるのはしんどそうだ。 様子を見に行くついでに、月城も呼ぶか。


 エルとともに食堂から出ると、エルが俺の顔をチラリと見てから顔を赤くしながら尋ねた。


「アキさん、あの……その、さっきの、溜まってるって、こと、なんでしょうか?」


「溜まってる?」


 エルは恥ずかしそうに表情を変えて、俺の顔を見ないようにして言う。


「えと、月城さんから聞いたこと何ですけど。

 その……男の子は、普段から……一人でもいいけど、あれを出しておかないと、えっちなことをしたくて堪らなくなる……って聞いたんです。

ずっと僕が近くにいるから、その、それを……出来ないのかと……」


 月城はなんてことをエルに教えているんだ。 そりゃそうだが、何となくエルからそういった卑猥な言葉を聞くのは興奮するけども嫌な気分にもなる。


「……気にしなくていい。 一瞬でもエルと離れる方が嫌だ」


「いえ……それは僕もですし……ですから、その。 僕がいても気にしなくて、してもらっても……いいです」


 エルなりに最大限に気を使って言ったのだろうが、それは無理だ。



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