表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
勇者な彼女と英雄への道  作者: ウサギ様@書籍化&コミカライズ
第二章:高みへと朽ちゆく刃。
19/358

共闘

 大きく馬車が揺れる。 そのせいで俺の膝に頭を乗せて寝ていたエルの頭が飛び起きて俺の顎に頭突きをかます。


 あまりの痛みに悶絶するが、同じく涙目でデコを抑えながら倒れているエルに怒りをぶつける気にもなれず頭を撫でてやる。

 いくら速く動けるようになっても油断していると意外と動けないという弱点を知ったから良いとしよう。


 何があったのか、脱輪でもしたのかと外に首を出すと、数人の護衛が十数体の魔物と向き合っていた。


「んぅ、どうしたんですか?」


「魔物が出たらしい」


 エルが急いで一本の剣を俺に渡し、俺は飛び出るように外に出る。

 鞘から剣を抜き、後からやってきたエルから抜き身の剣を受け取って二本の剣を持つ。


 そこにいたのはゴブリンと魔物は見たことがない魔物だった。 ホブゴブリンに似ているが明らかに俺の背丈は超えるような巨体と筋肉質な身体つき、ホブゴブリンより更に発達していそうな手には木を削り出したような不恰好かつ巨大な棍棒が握られていて、まともに打ち合えば当たった瞬間に弾け飛んでしまいそうだ。


「加勢する」


 それだけ行って護衛の横に走る。

 リーダー格らしい男が少しだけ頷き、俺の参戦を認める。


「アキさん! ホブゴブリンです! 進化しそうなので絶対に仕留めてください」


 エル曰く、見たことがない魔物ではなくホブゴブリンらしい。 前に相対した個体よりも大きく、そして人に近づいているようにも見える。


 ゴブリンもヤケに凶暴な様相をしていて今にも遅いかかってきそうだ。


 同じと思えば痛い目に合うか。

 気合いを入れ直して二本の剣を構える。


「ーー来るぞっ!」


 リーダー格の男が声を発したのと共に護衛全員がその場から飛び退く。 一瞬遅れて俺も飛び退き、俺の方が速い分だけ着地は殆ど同時だった。


 護衛は全員が剣あるいは槍を構えてはいるものの魔法使いらしく、予備動作や隙の少ない単純な魔法をホブゴブリンやゴブリンに向けて放つ。


 俺のシールドは攻撃には使えないので、魔法を超えて飛び出てきた奴を仕留めるために力を足に溜めて魔法の雨に晒されるゴブリン共を見つめる。


 練度が低い訳ではないが、極力隙をなくそうと連続で放たれている魔法は仕留めるには明らかに力不足で、魔物の体力を削ぐことにのみに特化しているようだ。


 しばらく後退しながら魔法を撃っていれば、撃ち尽くしたのか魔法が止まる。

 土煙が舞い上がり、視界を悪くしている中、あれだけ撃ってもまだ衰えや戦意の喪失が感じられないホブゴブリンの威圧感は強く感じられる。


「俺とセインがボスのゴブリンを抑える。 他のゴブリンを先に仕留めろ!」


 その言葉と共に護衛が向かう。

 小さく息を吐き、護衛を追い越して目に入ったゴブリンの胸を突き刺して、剣が硬いものにぶつかるのと共に手首を捻り魔石を抜き出す。

 もう片方の剣で近くにいるゴブリンの頭を叩き割り、身体を捻ってその勢いで剣を振り回して二体三体のゴブリンの目を切り裂く。

 怯んだゴブリンの首に剣を突き刺しながら足を動かして次のゴブリンを目で捕捉して、一歩強く踏み込み急加速してからフッと息を吐きながらゴブリンの首を落とす。


「遅い! 遅い遅い遅い!」


 血を浴び、硬い骨を両断する感覚を手にしながら物足りなさを感じる。

 弱く、遅い。 こんな魔物は何体いたところで物の数ではない。

 一秒に一度剣を触れる。 剣を一度振れば一匹のゴブリンが倒れ、剣は両手で一本ずつ持っている。


 十秒もかからずにゴブリンを仕留め終えて、少し遠くのホブゴブリンの背中を見る。

 護衛のリーダーは戦い始めたばかりなのかまだ何もしていないように見える。 リーダーはこちらの様子は見えいたらしく小さく頷くサインをする。


 強く踏み込み、もう一度強く地面を蹴る。

 一瞬で近寄る無防備なホブゴブリンの背中に剣を突き刺してから剣を手放して退避する。


 痛みで暴れるホブゴブリンの脚護衛の一人が突き出した槍が刺さり、健が切れたのか明らかに体勢を崩す。


 ホブゴブリンが苦し紛れに投げた棍棒は護衛の一人に向かって飛ぶがリーダーの男が叩き落す。


 放って置いても死にそうだが、リーダーの男が魔法を放ったのに合わせて護衛の人達がさっきの牽制の魔法とは違う高威力の魔法を撃ち、ホブゴブリンが動かなくなった。


 リーダーの男がホブゴブリンに近寄り、ナイフで胸の辺りを突き刺して魔石を取り出す。


「っと、なんとかなったな」


「お疲れ様ーっす」


 護衛達がゴブリンの魔石を回収しながらゴブリンの死体を集めて焼いていくのを横目で見ながら、護衛のリーダー格と思われる男に小さく頭を下げてエルの元に行こうとするが、止められる。


「何か用か」


「お疲れ様。 魔石の取り分はいいのか?」


 金はあるだけ欲しいが……。 そうがめついのは人に恨まれたり嫌われる可能性が出てくるので乗り気にはなれない。


 首を振っていらないことを伝えてからエルの方に戻る。

 一通りエルに浄化してもらい、綺麗になったところで馬車に入る。


「怪我は、ないですか?」


 剣を鞘に収めながらエルは俺の身体を触り回すが、あれぐらいで怪我をしているわけもなく、ただむずかゆいだけだ。


「大丈夫だ。 やっぱり両手使えるのは楽だな」


「二刀流って、僕の世界だとあんまり強くないって聞いたんですけどね」


 二本あれば二倍強いのに、エルは何を言っているのだろうか。


 まぁ、幾ら賢いとはいえ、まだ子供なのでそういうのが分からないのだろうと納得して剣を片付ける。


「ちょっと、怖くて、目が覚めてしまいました」


「悪いな」


「いえ、見たのは自分ですし、慣れないといけないので」


 そんな強がりを聞くたびに、エルに戦わせようとしている女神とやらに苛立ちが募る。

 しばらくしてから再出発する馬車に揺られながらエルが口を開く。


「仲間にするなら、どんな人がいいんですかね」


 少し顎に手を当てて考える。

 昔、読んでいた小説だと何でも出来るカリスマのあるリーダーと。頭が良く何でも知っている魔法使い、力が強く勇敢な戦士、優しく穏やかな回復が得意な魔法使いの四人で旅をしていた。


 現在のメンバーを考えると、力も弱くて慎重な戦士と頭がいいけど何も出来ないリーダーの二人だ。


 駄目だ。 現段階から遠すぎて参考にならない。


「まぁ、バランスが良ければいいんじゃないか?」


「そうですね。 僕が魔法使えるかどうかもまだ分かっていませんし、今考えたところで実際に勧誘するときに考えないと意味ありませんよね」


 否定は出来ないが、俺としては妙な奴がエルに危害を加えないかが気掛かりで仕方ない。

 エルの最終目標には必要らしいので従うしかないないのが残念でならない。

 まぁ、仲間になった奴に何か怪しいところがあれば切って捨てればいいか。


「旅をするのだから、信頼出来るかが一番だからな。 最悪、お前を守る程度なら俺一人でもなんとかなる」


「ありがとうございます。 アキさん強いですもんね」


 実感こそないが、狩れる魔物などから考察すると腕が立つ方になるらしい。

 その代わりって訳ではないが、魔法がほとんど使えないので戦える状況は限られる上に、頭が悪いので行動が基本的にエル頼りになるので自慢出来るようなものでもないだろう。


「まぁ、強いて仲間にするのを選ぶなら、遠距離から攻撃が出来る、強い魔法が使える奴がいれば都合がいいな。

エルが覚えるなら必要がないが」


 魔法使いならエルに何かしようとしてもその前に叩き斬れるのが都合いい。


「あと、常識がある人がいいですよね。

僕は来たばっかりですし、アキさんもそういうのに疎いので。

僕としては、出来たら女の人の方が気が楽ですけど、女の人でアキさんぐらい戦える人っているんですかね?」


 庶民のではなく貴族の常識なら多少は分かるんだが、それを言うわけにはいかないので甘んじてその評価を受け入れる。


「少ないとは思うが、腕力や体力は未だしも魔力は男女に差はないからな。 いるんじゃないか?

移動時に体力がないと困るが、それはエルがいる時点であまり関係ないだろ。

いや、流石に二人背負って逃げるのは無理だから……置いてけばいいか」


「いや、置いていかないでくださいよ! 今から仲間にしようって人を見捨てる前提は……」


 そうだな。 と頷き、そういう状況ではエルだけ背負って逃げることに決める。

 この場では頷いていれば誤魔化せるだろう。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ