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勇者な彼女と英雄への道  作者: ウサギ様@書籍化&コミカライズ
第七章:君に弱いと認められた幸福
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変わらぬ日々などないと知りつつ①

 年若い男の使用人は俺の姿を見て、少しだけ表情を和らげる。


「あ、ルト坊ちゃん。 どうかしましたか?」


 やけに馴れ馴れしいな。 と考えていると、そう言えばだいぶ前からこんな奴がいたような気がする。


「月城という、使用人擬きの黒髪の奴がを知っているよな」


「あっ、はい、知ってますよ。 月城ちゃん、あの綺麗な長い黒髪の美人さんですよね。 仲良くさせていただいていますよ」


 美人さん。 という言葉に後ろを向くが、肩にも届いていないぐらいに切られていて、あまり長くはない。

 俺の知らない第三人物のようだ。


「いや、そいつじゃないな」


「あってますよ……。 アキさん」


 美人さん……美人さん? 美人って何だったっけ。 容姿の整っている人のことだったはずだが……。 そう言えば、整っているのか。


「月城ちゃんがどうかしたんですか?」


「……大したことじゃないんだが、おかしな様子をしていたりしなかったか?」


「おかしな様子ですか?」


 使用人の男は俺の言葉を聞いて、考えるような素振りをするが、何も思い浮かばなかったのか首を横に振る。


「いや、特に変わった様子はなかったですね。

それにしても、奥さんの前で他の女性の話とは、やりますね坊ちゃん。 いつの間にかあんな小さかった坊ちゃんが……」


「俺はエル以外には興味はないぞ。 今は必要があるから聞いただけだ。

あと、この問いや話を月城に言うなよ」


「分かりました。 内密にしておきます」


 使用人の男はそう言って、俺の方を見て少し笑う。 俺にはこの男は見覚えぐらいしかないが、この男からしたら違うらしい。


「ああ、最後に……写真を撮ろうかと思っているんだが、いい写真屋を知らないか?

俺はそういった写真を見たことがない、写真を持っていたら少し見せてくれないか?」


「申し訳ないですけど、知らないな。 所詮使用人ですからね、お金がかかるようなものは」


「いや、いい。 ありがとう」


「坊ちゃんがお礼!? あっ、すみません」


「別にいいが」


 まるで俺が礼の一つもしないような奴かのように言われたが、事実だったので否定もせずに、エルの手を引いてその場を去る。


 二人目の若い男も違うらしく、少し面倒になってきた。


「んー、最後の一人か……エルではないようだしな」


「女の子同士ですからね……。

アキさんでもなさそうですよね、写真を見ているところを見たことないですし。

というか、写真って高いんですね」


「それはそうだろ。 手間も暇もかかる。 それは異世界でも変わらないと思うが」


「いえ、日本だと一秒に20連写ぐらい余裕でしたよ」


「……日本の人間は化け物なのか?」


 少し恐れを抱き始める。 そういえば、ロトが普通の学生だとか言っていたような……。 背中に嫌な汗が流れる。

 そんな修羅の国でエルは生きてきたのか。 共に向かう時は、覚悟をしなければならないか。


「写真らお金持ちしか撮れなくて、ずっと写真を見ているような人で、月城さんと関わりがある人ですか」


 エルが俺の顔をジッと見る。


「……分かりましたけど。 無理っぽいです」


 エルに付いて歩いて着いたのは、父親の部屋の前である。 中では暇を持て余しているだろう父親がいることだろう。


 それで父親以外は誰もいないはずだ。


 無言でノックをしてから、扉を潜った。

 味気ない、生活感のない、置かれたものがほとんどない殺風景な部屋の中で、父親は写真を眺めていた。


「ルト……アキレアか」


 写真立てごと持ち上げていた腕を机の上に置く、カタンと、軽い音が聞こえる。

 あまり感情を感じさせない紅い目が俺を見て、エルを見た。


「何か用か?」


「……いや、何の用もない。 邪魔したな」


 また扉を潜って部屋の外に出た。

 死んだ母親の映っている写真を見ている父親は、顔を顰めさせている。 あれのことを好きになるやつなどいるのだろうか。

 結局、母親もグラウのことを好いていたらしいので、月城ぐらいのものになるのか。 物好きなやつである。


「まぁ、アキさんに少し似てますからね」


「どんな理屈だ」


 月城の想い人が分かり、一歩前進したかと思うと落とし穴に嵌められたような気分だ。

 父親の性格を考えると、再婚してなどということは考えられない。


「仕方ないですね」


「そうだな」


「違う方法を探しましょうか」


 諦める気はさらさらないらしい。 作戦会議と、結局まだ取れていない疲れを取るために部屋に戻る。

 エルとベッドに寝転がると、疲れがドッと溢れてくるようだ。 父親と話すと秒単位でも酷く疲労してしまう。


「恋の成就、は難しそうですね。 洗脳はダメですし」


「いや、いいんじゃないか? 父親だぞ」


「いいわけないですよ。

んぅ、別のアプローチ…….。 月城さんが好きなもので、あっちの世界にないものって、何かないでしょうか」


 エルはそう言いながらも眠たそうに目を擦る。 エルも長い旅で疲れてきているのだろう。

 軽く手をエルの髪に絡ませて、引くようにして撫でると、ゆっくりとエルの目が閉じられていく。


「あ、き……さん」


「こんだけ眠たい中で考えても、何も思いつかないだろう。 とりあえず、少し寝て、また後で考えよう。

おやすみ、エル」


 エルからの返事はなく、小さな寝息だけが部屋に残った。 いつもエルの寝息を聞きながら寝ているからか、その息の音を聞くと、釣られるように眠気が増していく。

 子守唄に近いそれに抗うことが出来ず、抗う必要もないので、目を閉じる。


 すぐに意識が途切れて、睡眠につく。



◆◆◆◆◆◆


 寒い。 ベッドの中で布団を掛けて寝ていたはずなのに、酷く寒くて目が醒める。

 温まろうとエルの身体を探すが見つからない。 飛び起きて、部屋を見回すがエルは見つからない。


「エル! エル、どこにいる!?」


 部屋から飛び出て、首をひたすらに動かしながら走る。


「エルー! エルー!!どこだ! 大丈夫か!?」


「奥様なら先程月城様の方に」


「分かった、ありがとう!」


 そのまま廊下を突っ走って月城の部屋の前ににたどり着く。 ノックをするのも時間がかかるので、扉を開けて、中に飛び込む。

 エルの姿が見えて、抱きしめて安心する。


「良かった、いてくれて……」


「どうしたんですか? 怖い夢でも見てしまいましたか?」


 エルが背伸びをして、俺の頭を撫でる。


「起きたら、エルがいなかった」


「いひひ、甘えんぼさんですね。

でも、ノックもなしに勝手に入っちゃダメですからね! 月城さんも、僕も着替えてるかもしれないのに。 その時は鍵を閉めてますけど、一応、気をつけてください」


 めっ、と、エルが俺の額をペチリと叩く。 子供のようなエルに子供扱いされるのは少し不思議な感覚だけど、まぁ仕方ないぢろう。


「本当に驚くから、部屋から出て行くなら起こしてからにしてくれ」


「……心配しすぎですよ。 旅とは違って、ここは安全ですよ?」


「いや、三輪がいるだろ」


 あのエルを狙ってるクソ下衆野郎がいる限り、エルが一人で屋敷の中を歩き回るのは不安が残る。


「いや、三輪くんなら、街の宿に泊まってるよ。 今も多分街中を散策しているかな」


「あ、そうなのか」


 それならそれほど危険はないか。 無駄に焦りすぎたらしい。

 最近はずっと寝ても醒めてもエルがいたから、視界にエルがいないのは驚きであった。


「それで、月城のところで何をしていたんだ?」


 その質問にエルは誇らしげに答えた。


「僕はですね、アキさんより早く起きて、寝顔をツンツンしながら思いついたんですよ」


 月城は苦笑しながらエルを見た。


「僕が考えてもら分からないんだったら、直接月城さんに引き止める方法を聞けばいいんだって!」


 ……エルは頭がいいけど、ちょっと天然なのかもしれない。

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