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勇者な彼女と英雄への道  作者: ウサギ様@書籍化&コミカライズ
第七章:君に弱いと認められた幸福
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お家に帰ろう⑤

 エルの仮説を聞き終えた月城は「分からない」と感想を言った。


「んー、まず私はエルたんほど頭も良くないし、魔力とか瘴気とかの経験もないからなぁ」


 首を横に捻って、月城は言った。


「それに戦に巻き込まれた三輪くんはもアーク化はしてないんだから、別の要因かも」


 確かに、とエルは俯いた。 エルが魔物化しただけならば瘴気のない異世界では誰も耐瘴気性がなくともおかしくないと思っていたが、エルよりも多く瘴気を浴びているはずの三輪がアークヒューマンになっていないのはおかしいように思える。


「まぁ、私達が召喚された理由とかは考える必要もないと思うよ。 せっかくこの世界に来れたんだから、ゆるゆる楽しむだけでいいと思う。

エルたんはいい人も見つけれたんだし」


「……お昼ご飯の前にも言いましたが、お母さんが心配ですし、アキさんとずっと一緒にいたいので、帰れる方法を探したいです。

召喚された理由はそれに関連するかもしれないので」


「ん、すごい根性だよね。 現地の人と結婚するどころか、連れ帰るって」


 少し呆れを含んだ声で月城は言うが、何がおかしいのか分からずに首を傾げる。

 湯気とともに品のいい香りが鼻腔に入り込み、その暖かさに釣られてカップを手に取った。


「アキくんはそれでいいの?」


 月城の言葉に首を傾げる。 それで何がいけないのなが分からない。 エルも不安そうに見ていて、何故か手には黒い靄のような魔法を発動させている。 あれは、洗脳魔法だろうか。


「それはいいに決まっているが」


「決まってるんだ」


 月城は呆れたように言って、紅茶に口を付ける。 エルは黒い靄を払って、俺の手を握った。


「良かったです。

アキさんにはあの魔法をかけたくなかったですから」


「あの魔法?」


「ん、僕に依存させる魔法です。

いひひ、僕から離れると落ち着かなくなったり、嫌な幻覚を見たり、僕に近づくとすっきりして明瞭で気持ちよくなれるといった感じなんです」


 ……既にかけられていたのか。 試しにエルの手を撫でてみると、柔らかくすべすべな肌触りに夢中になる。 すごく気持ちいい。


「そんな魔法あるんだ……」


「オリジナルですけどね。 とはいっても、自分で試してみましたが、効果があるのかないのかがあまり分からなかったですけど……」


「とりあえず試してみるか?」


「いいんですか?」


 そういうよりも前に、エルは息を乱しながら魔法を発動して俺を見る。


「エルたんがヤバい表情してる……」


 エルは黒い靄を纏わせた手で俺の頭を触る。

 頭の中に魔力が入り込む感覚が起きて、一瞬身構えるも何事も起こらずにそのまま頭の中に染み込んでいく。


「……どう、アキくん。 エルたんと手を繋いでるけど、気持ちよくなる?」


「いや、そりゃなるけど、いつも通りだな」


「不発ですか…………。

精神に作用する魔法ってあまり練習出来ないので、上手くいかなかったみたいです」


 エルは小さくため息を吐き出す。

 月城が何か思いついたように言った。


「反対の効果の魔法だったらいけるんじゃない? エルたんが嫌になる魔法とかなら」


「嫌だ」


 即座に否定するが、エルは少し迷ったような表情を見せる。 その可愛らしい顔を少し顰めさせた後で、ほんの少しだけ緩めるように頬をあげて、俺の顔を見て赤く染める。


「あの、その、ちょっとしたいんですけど……。 5分もしないぐらいで治すので、掛かってもらえませんか?」


 エルが嫌になる魔法、そんな人格を一から改変するかのような悪逆なる魔法に心底怯えて、エルの手を掴みながらも距離を取る。


「僕、実はちょっと……アキさんに叩かれたかったんです!」


 とんでもない告白と共に、掴んでいないエルの手には黒い靄が纏わりつく。

 エルがゆっくりと椅子を降りて、俺の方に来る。


「止めるんだ、エル。止めてくれ!」


 しかし、エル相手にはどうしても本気が出せず、エルの手を離すのも嫌なために徐々に追い詰められる。


「アキさん、覚悟!」


 エルの手が俺の頭に伸びてーーシールドに防がれる。 弾かれたエルの手を掴みながら、その魔法の中に俺の魔力を無理矢理に突っ込む。

 極端にシールドになりやすい性質の魔力がエルの魔法と混ざり、エルの魔法を巻き込んでシールドを形成する。


「うぅ……アキさんのけちんぼ……」


 エルが悲しそうに瞳を潤ませながら俺の顔を見る。


「エル、その、ごめん……」


 エルの願いだとしても、エルのことを叩くなど出来るはずもない。


「まぁ、エルたんの性癖は置いておくとして、魔法で人の気持ちを弄るのはよくないよね」


 月城がそう締め括り、洗脳魔法の話は何も解決することなく終了した。

 エルは悲しそうに顔を伏せながら、紅茶を手に取った。


「あれですよ、壁ドンの進化した僕ガンですよ。 萌えるシチュエーションですよ」


「元々結構暴力的な感じなのに、もはやただの暴力だよ。

せめてガンじゃなくてドンだったら……」


 エル撫でだったら喜んでしたのに。 とりあえずエルの頭を撫でると、いひっと笑って嬉しそうに俺を見る。


「それで、そのエリクシルって能力? 魔法? で、この国では魔物が発生しないように出来てるんだよね?」


「あっ、はい。 今から実物作りましょうか?」


 エルはキョロキョロと見回して、物が見つからなかったからか、手を机の上に置いて魔力を放出して、収束させる。 エルの手には小さな丸い石が握られている。


 その後、エルは両手に石を挟み、祈りを捧げる。 語りかけ、笑いかける、触れること、見る憚られるほど神聖な光がエルから漏れ出していく。

 光が失われると、握られていた石が机に置かれる。


「なんか、聖女っぽい」


 月城の言葉に、エルは恥ずかしそうに頬を掻く。

 コロン、と転がっている石を押して月城に渡す。


「そんなことはないですよ。 それでこれなんですけど」


「と言うか、土属性の魔法も使えるんだね。 苦手な属性とかないの?

ちなみに私は土属性と水属性なら使えたよ」


「ん、特に苦手なのは……一応火属性は火力高いのは難しいですね。

得意なのは、光と闇です。 特に闇属性は性能が良さげです」


「病み属性? アキくんも得意っぽいよね」


「いや、俺は無属性のシールドしか扱えないが」


 脱線した話を戻すように、月城はエルが生み出した石を見つめる。

 殆んど完全な円形に、不純なものが混じっていない白い石を触ったり、持つなどして観察をする。


「パッと見は普通の魔法の石にしか見えないね。へーこれで瘴気ってのを消せるのか。

神聖っぽい感じありありだね。

これ、誰かに配ってもらったりするの?」


「んぅ、ロトさんがレイさんを返しに戻ってきたりした場合に、少し渡そうかと思っていますが……。

やっぱりかさばる物ですから、国外にはあまりばら撒く目処がついてはいないですね。

少量なら、今から翻訳の仕事をするつもりなので、その本に付けて置くことで、少しずつにはなりますが、各地の魔物の発生を抑えようかと」


 エルは俺のために、勇者としての責務を放棄している。

 第一の目的であるはずの魔王殺しを中心に魔物との対峙を避けて過ごしている。 その中で、せめてもの魔物への抵抗なのだろう。

 それもどれほど効果があるかは分からないが……。 死ぬまで書き続けたものを各国にやれば、魔王を倒すことなく世界平和に出来るかもしれない。


「……敵の発生を抑えるってすごい能力なのは分かるんだけど。

なんでエルたんが付きなしの勇者なんだろう?」


「魔王を倒せないからじゃないですか? それに、この能力も魔法との組み合わせで成り立っていますし」


「でも、例えば国付きの勇者としてエルたんが出てきて、パワーレベリングをして、一気に各地に配れば、魔王の復活のせいで起きた被害を抑えられると思うんだけど」


「まぁ、確かに……。能力と魔法の組み合わせを想定していなかった……?

魔法は、女神様の空間だと使えない技術ですから、能力と魔法が組み合わせることが出来るのを知らなかったとかですかね?」


「……あるいは、そういった勇者より、付きなしの勇者としてアキくんに守られていた方が安全だったから、とか?」


 エルは考えるように俯いてから、頬をにやけさせる。


「つまり、僕とアキさんが出会うのは運命だったってことですか?」


「……何この隙あらば惚気て来る子。 新婚さんだから多少は多目にみるとしてもちょっとうざい」


「いひひ、申し訳ないです」


 エルと出会うことが、決められていた?

 あくまでも適当に言った仮説である事は分かっているが、なんとなく……しっくりとくる。

 完全に前衛に特化している俺と、サポートに特化しているエル。 エルの魔法で常時回復しながらの戦闘であれば、並大抵以上の敵も容易に倒す事が出来ることは分かっている。

 ……いや、考えすぎだろう。

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