悩みが尽きない幸せもある②
紅茶を飲みながら考えていると、エルが口を開いた。
「やっぱり、ここは先人を見習って物作りしかないですね……。
魔法と科学を組み合わせた魔科学の時代が、今、幕を開けるんです」
「おお! ヤバい! かっこいいよエルたん!」
そして月城がエルに「どんなことをするの?」と尋ねるとエルは口籠る。
「そら、それはあれですよ……? 日本の知識を活かした魔法とか? そう、レールガンです! 電気びりびりー、です!」
「……私は使えないね。 それをして、お金になるの?」
「魔物を倒せば……ですね」
「エルが戦うぐらいなら俺が戦うが」
そう言うと、エルは目に見えて顔を沈めて、落ち込む。
「んぅ、何かアイデアはありませんか?」
「アキくんに頼んでも無理でしょ……」
日本の知識、は多少エルから聞いているが、エルの知識を越えているはずもなく、ただ無為に頭を悩ませるだけだ。
「んぅ、そもそも、現代日本人の技術なんて殆どコンピューターとか、電気がありきですからね。 トーシローが再現出来る物なんて……」
「蒸気機関車」
俺が口を開くと、エルがそれだ! というように手を打った。
手同士をぶつけて音を鳴らそうとしたのだろうが、微妙に鈍い音が響いて、エルが手を抑える。
「うぅ……痛いです。
それで、それはありですね。 でも、アキさんがなんで知ってたんですか? それとももうあるんですか?」
「この前、エルと離れた時にシノという奴に乗せてもらったんだ。
とんでもなく使い道がないものだったが、珍しいものだと思って覚えていた。 まぁ、五日も乗りっぱなしだったからな」
そう言うと、エルは少しはだけ悲しそうに目を伏せて、月城にバレないようにか机の下から手を伸ばして、俺の手をちょんとつついた。
その手を握ると安心したような表情に戻ったので、話を続けた。
「今までに見たことのないものだったから、多分……勇者の知識だと思う」
「ふむ、他の人もしてましたか。
ん、まぁそりゃそうですよね。 どんなものだったんですか?」
「ん、絵で説明した方が早いな。 月城、紙とインクとペン貸してくれないか」
「あいよー。 ちょっと待ってね」
月城が立ち上がり、俺たちを見て笑う。 手を繋いでいるのは座っていては見えなくても、立ち上がったから見えたのか。
エルはそれに気がつかずに俺の手をニギニギするが、それが月城にばれてることを言わない方がいいだろう。 言ったらまた恥ずかしがりそうだ。
月城から紙とペンを渡されて、エルの手を離してペンを持つ。
軽く思い出しながらそれを描く。
全体的な像にそれぞれのパーツ、見えていた部分の動力には注釈を付けながら描く。
それをエルと月城に見せる。
「ん、アキさんはやっぱり器用ですね。 写真みたいです」
エルが俺をおだてるが、とりあえず礼だけ言って、ペンを置く。 その後、机の下からエルの元に手を伸ばして繋ぎ直す。
「ん、アキくん。 これってどうやって止まるの?」
「止まらないな。 基本的に何かにぶつかるか、魔力の供給を止めて止まるのを待つしかない」
「どうやって曲がるの?」
「曲がらないな」
「おおう……使い道なくない?」
まぁ、使い道を考えろと言われても困る。 しばらく月城とこの車の駄目さを話し合っていると、エルが口を開いた。
「でも、これはなかなかすごい技術ですよ。
ほら、当然のことなので地球の物と違って動力が魔力なので、燃料を燃やすところとか、水を貯めるところとかがないんです。
代わりにここのところの部分を厚くしていて、変に故障がしないようになってますし。 排熱にもこだわってるみたいですね。 ここの素材違ったりしました?」
「ん? 言われてみれば違ったような。 だが、ものすごく暑かったぞ?」
「ん、じゃあ検証不足っぽいですね。
タイヤが少しおざなりな感じがしますね……。 わざと改良の余地を残してるっぽいですね、ブレーキとかハンドルとかをつけることを考えるのかな……。
いや、これは他の人に作らせようとしてますね。 多分わざと原型だけ作って見せて、こっちの人に余地を与えてるみたいです。 一番難しい動力のところはしっかりしてるので……ちょっと急いでる感じがしますけど」
エルが何を言っているのか分からない。 月城は半分ぐらいは理解出来ているのか、頷いたり首を傾げたりしている。
幾つかエルに質問されたのを答えてみるとエルは幾つか考えた後で俺に言った。
「蒸気機関は使えませんね……。 下手に上手いものを作ると、恨まれそうです」
「そうなのか? 普通に良いものを作った方がいいと思うが」
「ん、完成品をぽんって出すより、試行錯誤させて間の技術の発展を狙ってるぽいですからね。
多分これを作った方は、国付きの勇者ですね。 ……人付きの勇者は武か魔法の人がお供ですから、技術者とは遠いでしょうし、付きなしの勇者だと、三ヶ月程度なら生活の基盤を作るので精一杯のはずです。 基盤どころか技術者と関わってこれだけ大仰な物を作るのは……無理でしょう」
「そういえば、まだ勇者の存在が発表されてないもんね。
下手に戦わせるより、技術をって考えなのかな……」
エルと月城は顔を見合わせる。
軽い視線を交わし合っただけで考えがお互いに理解したのか、エルが話し始める。
「だとしたら、そろそろ発表されますね。 魔物の襲撃も激化していますから、批判逃れ……んぅ、国民を安心ささるために、他国の国付きの勇者は発表されてるでしょうし、そうすると発表しないわけにはいきませんし。
だとしたら……」
「偽物の国付きの勇者が発表されるのかな?
私みたいな人付きの勇者だったら、探しやすいし国付きよりは劣るけど魔物と戦うのに向いた能力だしね」
何を思ったのか、エルは頷く。
俺の手を握りしめて、エルは落ち込むように言った。
「魔科学は無理そうです……。 職人さんも、お金も全部負けてますよ……」
あの絵だけでそこまで分かるものなのか。 それだけ頭が良ければどうにかなりそうだと思ったが、エルは首を横に振った。
「これぐらいなら誰でも分かりますよ。
なんで天はNAISEIが出来る人に強い能力を与えたんですか……」
「いや、能力はその人に依存するから、そういうのが得意だからそういう能力になったんじゃないの?」
「そうですね。 いひひ、分かってますよ……」
エルは笑っているが、金策になりそうな話題が途絶えて意気消沈しているのはよく分かる。
椅子ごと身体を近づけてエルの頭を撫でて励ます。
「ん、もうアキさんに頭を撫でてもらっていたらお金なんていらない気がしてきました。 いひひひひひひ」
「お、おう」
エルはかわいいなあ。 そう思っていると、月城が口を開いた。
「なら、その技術者系勇者のところにいって雇ってもらえば?
よく分からないけど、エルちゃんの魔法はすごいんでしょ?
その瘴気ってのも技術者系勇者は知らないだろうし」
「んー、でも、移動するにはアキさんが戦うことになりますし、月城さんとも離れ離れ……」
「危険な旅ではないんだから、月城も連れて行けばいいんじゃないか?」
俺がそう言うと、月城の前にエルが首を横に振る。 かわいい。
「いえ、そういうわけにはいかないんですよ」
「人付きの勇者はそのお供と離れられないとかあるのか?」
「そういうわけではないんだけどね。
……ん、理由は秘密」
月城はそう言ってから笑う。
「でも、現実問題として行った方がいいと思うよ。
文化の土壌を無視しての発展ってなんか怖いし、せめて魔物のシステムぐらいは教えないと、歪なことになりそうな予感」
「んぅ、そんな浅いことはないとは思いますが、技術が育って他国には負けないだろうからって人同士で争われたら困りますもんね。
戦争があるところとか、瘴気が大変なことになりそうです。 そこに兵器が混じってしまえば……」
「ガチめに世界滅びそう」
すごいところにまで話が行ったな。 とっくの昔に話について行けてないため、皿に乗せられたクッキーの山が俺の方向にだけ削れていて、どこか物悲しい。
「うぅー、せめて式を挙げてからに……」
「どうせ私しか見る人いないんだから、ささっと挙げちゃおうよ。 ウェディングドレス作ろっか? 一月はかかるけどね!」
「……諦めます。 こっちのドレスみたいなのってどれぐらいの値段なんでしょうか?」
「エルちゃんの身体ならオーダーだね。 元々基本的にオーダーだし、作って置いてるのだと、子供用のはないから」
「……一月以上かかりますよね、それ」
「そうだね。 ……ごめん、ドレスはハードルが高いから作ってなかったや」
「いえ、月城さんにもらってばかりで申し訳ないです」
「まぁ、人に着せるの趣味だしね。 メイドさんには断られるからありがたいよ」
エルは溜息を吐いて落ち込む。
「アキさんと一緒に悠々と暮らしたかったのに……」
「まぁ、伝えるだけ伝えて戻ってきてもいいんだし……」
エルも知識を持ちすぎたせいで辛い思いをしているのか。 俺が強くなったせいで辛い思いをしていたのと同じように感じる。
「アキさん。 新婚旅行と思って、王都に行くことにしますか?」
「殆ど意味が分からなかったけど、行くしかないんだろう」
「うぅー、すみません」
いや、怒っているわけではないんだが。
何にせよ、ロトが言っていたようないちゃいちゃして過ごす、というのはしばらくは難しそうだ。




