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情けない君が好き⑧

 もう夜更けというのに、眠ることも出来ずにエルを膝の上に乗せて、夜空を見上げる。

 満天の星空というには黒い雲が薄らと星々を遮っていて、普段にも増して夜は深く暗い。


 エルの子供のような小さな肩が、俺の胸に当たり、そのまま背中を預けるようにゆっくりと、俺に身を任せた。

 暖かい。 人なのだから、当然である。

 そんな常識が分かる程の余裕はない。


 守ると約束した身で、何をしているのか。 安らいでいるエルの身体を、壊れてしまうのではないだろうかと思うほど、強く抱きしめた。

 エルの白い手が動き、その細く小さな指先でエルを抱きしめている俺の手を撫でた。


「アキさんが僕の物なら、僕はアキさんの物です」


 その鈴のような声は俺を落ち着かせるためにか、柔らかく落ち着いている。

 また俺は守られているのかと、どうしようもなく弱さが嫌になり、エルの身体を強く強く抱きしめる。


 だが、その弱さもエルが守ってくれることも、ひどく安らぐ。 俺の意思に沿うことなく、無理矢理に安堵させられる。


「何よりもアキさんのことが好きで、僕の全てはアキさんなんです。 アキさんが嬉しかったら僕も嬉しくて、悲しかったら僕も悲しいです」


 その言葉に、涙が溢れそうになる。 泣くわけにはいかない。 泣いては、また心配をかける。

 声を発せば泣き出しそうになり、声を出すことも出来ない。


「僕のせいで、辛い思いをさせてごめんなさい。

僕のために、強くさせてごめんなさい。 獣でも物でもなく、人でいて、ください」


 後ろを向いてもいないエルには俺が泣きそうになっていることは分からないはずなのに、エルは俺の手を両手で包み込むように握った。


「泣いてもいいんです。

誰にも泣いてるところを見られたくないなら、僕の胸を貸してあげますから」


 人は弱くて、魔物は強い。 俺は、弱い……だったら俺は。


「人でいて、いいのか?

人は弱いぞ。 すぐに鈍り錆び付く。 俺が今まで戦えてこれたのもーー」


「ごめんなさい」


 エルは俺の拘束を振りほどき、振り返って俺の顔を自分の胸に押し付けるように抱きしめた。


「僕の我儘で、アキさんを戦わせてしまって。

強い人だと勝手に思って、優しい貴方に苦しい思いをさせて」


 もう戦うのは止めましょう。 エルはそう言った。


「僕は、本当は悪い子なんです。

いつもすぐに人のこと嫌いになって、人の気持ちが、大好きな貴方の気持ちさえ分かってあげれなくて。

でも、悪いことだって分かってるけど、いいんです。

他の誰が傷ついても、アキさんが傷つくのは見ていられないんです」


 それが、俺を救う言葉だった。

 エルの胸から、俺の顔が離れる。 泣き出しそうな気持ちは少し落ち着いて、彼女の顔を見ることが出来た。


 もう見慣れた、見慣れいても見惚れてしまう絹のような白く滑らかな肌。 濡烏の黒髪。 肉付きの薄い、ほそりとした輪郭に、濡れたような黒い瞳。


 線の細さをうかがせる、その弱い表情。


 それはあまりに繊細で可憐に見えて、怪我をしないようにゆっくりと、逃がさないように力強く抱き寄せた。


「アキさん。 今まででは無理でしたが、今なら僕とアキさんの力があったら、ほんの狭い場所になりますが、ゆっくりと過ごせる場所が出来ます」


「ああ」


「もうアキさんが戦わなくて、いいようにしましょう」


「……ああ」


「アキさんは、僕の物なのでしょう。

僕の全ては、アキさんの物ですから、アキさんはアキさんの物です。 好きにしても、いいんです」


 甘い言葉が耳に入り込む。


「また、アキさんの気持ちを考えられない、僕の我儘を言います。

もう僕は……アキさんと、離れたく、ないんです」


 エルの華奢な身体を抱きしめて、泣き出しそうになっているその瞳を見つめる。

 空を覆っていた黒い雲から、水滴が溢れ落ちた。


 きっとそれは、間違っているのだろう。

 安全な空間を作ったところで、破られないとは限らない。

 いつか俺もエルも、死ぬだろう。 その時点で安全な空間は保たれない。


 赤黒い髪の毛から水が滴り落ちて、肩を濡らす。 より強く雨が降り、近くにある屋根の端からは滝のように水が流れ落ちていた。


 間違っていたとしても、今だけはこの空間に浸りたい。

 全身を濡らす雨も、破裂しそうな心臓の音を隠し、熱情に浮かされる身体を冷ますにはちょうどいい。


 エルを抱き寄せている腕にへばりついている水滴は、雨かそれとも。

 腕に少し力を込めて、エルの身体をぴたりと身体に付ける。


「エル」


 その名前を呼ぶと、小さく身体を震わして、薄らと白い頰を桃色に染める。

 小さく、小動物かのような声を出した。


「アキさん……」


 エルが名付けた俺の名前を呼んで、ゆっくりと目を閉じる。 どうしようもなく頭の悪い俺でも、その意味ぐらいは分かる。


 同じように目を閉じて、エルの吐息を、熱を感じながら唇を近づける。

 唇の先のみが触れ合う。 雨のせいで濡れている唇は、それだけで強い熱が発せられるようだ。

 胸が膨張と収縮を繰り返すが、それに意識を向けるほどの余裕はなかった。


 柔らかい。 一度は頰にされて知っていたそれも、唇同士でゆっくりと感じるのとは一切の感じ方が違う。

 その柔らかな唇の虜になったというには、あまりに獣欲が強すぎるが、他の言い方はしようがなかった。

 全神経がその一部を感じることに費やされ、荒くなっていた息が止まる。 その甘美な味わいを一度知ってしまえば止まれる筈もない。


 エルの身体ごと濡れた地面に押し付けて、獣が捕食するために抑え付けるのと同じように、エルの幼い肢体を押し倒して、その唇をより強くつけて味わう。


 「んぅ」と、エルの口から苦悶と悦びの声が漏れ出て、密かに隠していた支配欲と独占欲が沸き起こる。


 ゆっくりと、エルに自身が何をされているのかを分からせるように、一つ一つの動作を確認するかのように、舌を伸ばして柔らかく薄い唇の中を通していく。

 エルの口内は、熱情に浮かされている俺からしても温かく、どれほどの熱をエルが持っているかが分かる。


 悦んでいる。 エルは俺に組み敷かれて色情を抱き、唇を貪られて悦び、口内を犯されて興奮していた。 それがどれほど、俺の欲を満たし、それを昂らせるか。


 エルが漏れ出す苦悶と悦びの呻きに堪らなく獣欲を刺激される。 組み敷いて、我が物としている幼い女を感じて、理性が崩れていくのを頭の片隅に感じるが、その冷静さも「んぁ」とエルが感じた言葉を聞いた瞬間に消え失せる。


 エルの幼く小さな口内を舌で、嬲るように無理矢理に俺の舌を小さな舌に絡ませて、俺のものであることを教え込む。


 くちゅくちゅ、と品のない水音も雨の音で掻き消されるが、それで起こった小さな感覚は掻き消されることはない。

 一切の抵抗もなく受け入れる少女があまりに愛おしく、味わい尽くして、捕食するように舐り続ける。

 舌を絡ませ味わって、弄り嬲って覚えさせる。


 ゆっくりと舌を引き抜くと、どちらの物とも言えないような唾液が糸を引く。 エルが薄らと目を開けて、その糸を見て名残惜しいのか物欲しそうな表情をして。 その糸が切れるとすぐに息を荒げて、呼吸をする。

 エルは顔を真っ赤にしながら、涙で潤わした瞳を俺に向ける。


「んぁ……アキ……さん……」


 甘い、鈴のような少女の声が濡れているように聞こえる。 少しだけ舌が回っておらず、キスによっての疲労が分かる。 どれほど長い間していたのか。 互いに濡れていないところがないほど服に雨が染み込んでいた。


「悪い……無理矢理、ここまでして」


 熱情に浮かされているのは変わっていないが、ほんの少しだけ残った理性がエルに謝る。

 エルはふやけた表情を俺に見せて、地面に押し付けられていた身体を起こして、と俺に手を伸ばす。

 抱き上げるように身体を持ち上げると、エルはそのまま俺の身体に手を回した。


「あの……その……好きですから。 アキさんに……強引に、されるの」


 ほんの少しだけ首を上に向けて、目を動かして、俺の表情を伺うようにエルは見た。

 上目遣い、媚びるような視線に、鎮まっていた獣欲が再燃する。


 覆い被さるようにエルの身体を組み敷いて、再び唇をつけて、エルの口内に舌を浸入させる。

 愛する者と粘膜同士が絡む心地よさ、無理矢理組み敷いているという支配感が俺から理性を奪う。


「んぅ……ん、んぅ……」


 エルの口から、苦しそうな、嬉しそうな声が漏れ出る。

 気持ちがいい。 そのまま欲に身を任せてエルの口を貪り続ける。


 粘り着くような水音が雨音に掻き消されながら、続く。


 もう何分間し続けただろうか。 エルの口周りが互いの唾液でぐしゃぐしゃにぬれていて、エルのものが混じった唾を飲み込む。


「んぅ……ぁ……」


 エルの惚けた顔が俺に向けられる。 ぼーっとした表情で俺に目を向けて、


「もっと……して、ください……」


 舌足らずな口でそう言った。 その甘美な誘惑に耐えきれずにまたエルを押し倒そうとすると、「くちん」と可愛らしい音が響いた。


「あ……」


 よくよく考えたら、こんな大雨に濡れながらしていたら、身体が冷えるのも当然だろう。 何が雨音に掻き消されて……だ。

 急いでエルの身体を抱き上げて室内に運ぶ。


 全身に一切の強張りがなく、力が抜けているが、ぐったりではなくうっとりという表情だ。


 室内に戻ると、エルの服が濡れてエルの身体にぺたりとくっつき、エルの細く華奢な、悪く言えば女性らしい膨らみのない貧相な肢体が、分かりやすく浮き出る。


 また生唾を飲み込む。 何をしようと、エルが嫌がることはないだろう。

 俺の意思に気がついたのか、エルは顔を赤くする。


「その、僕から、お風呂に入ってきますから」


 そういうことをしても、いいということだろう。

 服が濡れて身体を冷やすが、エルとのキスで身体が火照り切っていて丁度いいぐらいだ。


 延々と続く、一人の部屋。 いつもならばエルの私物に鼻を近づけたりしているところだが、今日はそういう気分にはならず、何度も唾を飲み込み、破裂しそうになる心臓の拍に集中する。

 やろうと思えば、何年も前から適当な女と出来ていたことだ。 今更怖気付くのも分からなくはないが、何度も頭の中でしていた。 現実でもきちんとやれるはずだ。


 三十分以上、一時間には満たないほどの時間が経って、エルが風呂から出てきた。

 身体には月城が作っていたパジャマという寝巻きを纏い、子供らしさをと幼い姿を引き立てるような格好をしている。

 モジモジと顔を赤くしながらエルは言う。


「その、アキさんも……どうぞ、待って、いますから」


 エルのその服は生地が薄い。流石に透けるとか、身体の線が丸わかりだとか、そういうほどではないが、寝るために楽になるような、ちょっとした薄さだ。


 その服は何度も見たことがあり、寝相で乱れて、へそまで捲れあがっている姿も見たことがあった。

 唾を飲み込む音が部屋に響くように感じる。


 エルは緊張しているのか、正座という格好でベッドの上に座り、俺が行き、帰ってくるのを待っている。


 たまらなかった。

 ああ、俺のものだ。 俺のものなんだ。 幼い少女を占有し、その少女が自分に組み敷かれるために寝具の上で丁寧に清めた身体を置いて、いつでも押し倒される格好で待っている。

 少女の方も俺に支配されることに悦びを抱いているのか、頰を赤らめて、上目を使って俺を見ている。 恥ずかしそうに身体を縮こませていて可愛らしい。


 いつまでも眺めていたいような光景だが、このまま朝になったりすると困る。 身体の汚れは溜まっていないだろうから、さっさと洗って出ようと決める。


 身体を洗い終わり、適当に身体を拭う。

 酷く緊張しているが、それ以上にエルに受け入れてもらえる喜びと、あの細く幼く小さく、華奢な身体を好きにしても良いという興奮が打ち勝つ。

 手順や、やり方なんてまともに知らないが、どうにでもなるだろう。


 寝巻き代わりにしている服に着替えて、緊張を抑えるためにゆっくりとエルのいる自室に向かう。


 変わらずにベッドの上で座っているエルは、俺の姿を見ると顔を紅くして、小さく喉を動かした。

 一歩、一歩と近づき、手を伸ばすとエルの幼い身体に触れられるほどの位置にまでくる。ベッドに入り込み押し倒し組み敷こうとする前に、エルは正座の姿勢のままゆっくりと頭を下げた。


 降参を意味するような格好をした後に、震えるような声で少女は言った。


「その、あの……不束者ですが、これからも……その、よろしくお願いいたします……」


「ああ」


 それ以上の言葉が話せるほど、余裕はない。

 エルの華奢な身体を無理矢理組み敷く。 その際に着衣が乱れて見えたエルの白い腹。 それがほんのりと桃色に染まっているのが見て取れて、何も言わずエルの身体を抱き締める。


 愛おしさのあまり、撫でまわす。 エルの首から腰にかけての肌。

 幼く弱く細い、エルに言わせると「貧相な身体」は柔らかくさわっているだけで気持ちがいい。

 年頃の女性らしいなだらかな曲線も膨らみもないが、白く、薄くほんの少しだけ赤みがさしている肌は美しい。

 そして、ほんの少し、服の上からでは一切分からなかったほど薄い膨らみを見る。


「君が好きだ」


「はい」


「だから、もう離さない」

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