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いいとこなしのソードブレイカー④

 腕が増えたところで、俺とロトならば俺の方が速いことに違いはない。 それにーー。

 俺の持つ短剣と打ち合ったロトの短剣を、断ち切る。


 短剣を再び生み出すのにも、短剣を離す、中空を掴み、引いて取り出すという明確な隙が必要になる。


 また俺の短剣を防ごうとすれば、その防ごうとした短剣を断ち切って、防御の手を奪う。


「ルフト!」


「シールド!」


 最後の魔力を振り絞り、俺とロトの間に空気の爆発を起こして距離を稼ごうとするが、シールドを互いの背に配置して飛ぶのを防ぐ。


 至近距離から、四本の腕により連続で短剣を放つが、この距離においては悪手だ。


「シールド」


 投げようとした腕、投げようと腕を引いた場所にシールドを設置する。

 投げる、あるいは振っている途中の短剣をシールドで受け止めることは出来ないが、勢いがつく前ならば止めることは出来る。 それも、一瞬だが、その一瞬こそが、明確な隙だ。


 一歩踏み込み、ロトの瘴気魔法で生み出された腕で短剣を振り回してくるが、それを断ち切り、もう一歩。

 ロトが後ろに下がろうとするが、シールドに動きが止められる。


 ロトが倒れこみながら横に跳ねて逃れようとするが、それならば俺の方が遥かに速い。 即座に追いつき、喉元に短剣を突きつける。


「俺の勝ちだな」


「やっぱり強えな……。 いや、俺が弱いのか」


 ロトが溜息を吐き出して、立ち上がる。

 いつの間にか遠くにいたレイが近寄ってくる。


「いや、強いとは思うが……。 何故かは分からんが、そんなに怖くないな」


 それが俺のロトへの評価だった。

 剣の腕も体術も俺より少し劣る程度、速さこそ俺の方が圧倒的だが、魔法や賢さ、能力、応用力も加味すればロトの方が総合的には上回っているように思えるが、特筆すべき「強み」が存在していない。

 器用貧乏と呼ぶには、優れ過ぎているためにどう言う事も出来ない。


「……励ましてもらって悪いな。

結婚おめでとう。 お前はもう戦うの、止めるのか?」


 そういえば、何も考えていなかったな。

 エルと結婚することだけに夢中になっていて……。


「エル次第だな」


「お前の話だよ。 ゆっくり過ごしたいとか、あるだろ。

なんてエルちゃんに言われたら嬉しいんだ?」


 俺の意思か。 道具か、獣か、魔物か。 俺には意思など過ぎた代物であることは分かっている。

 それでも考えてみれば、朧げな望みはあることにはある。


「エルと、一緒にいたいな。 離れるのは、辛い」


「ん、そういうことだろう?」


 言ってしまえばそれだけの望みで、それが如何に難しいかも分かっている。

 小さく溜息を吐き出して、俺はロトに短剣を投げ返した。


「エルちゃんと、話せ。 一方的にお前があの子の望み通りにしたいと言っても、相手も同じように思ってるかもしれないだろ。

会話が少ない夫婦はすぐに別れるらしいぞ?」


 別れるのは嫌だな。 と頷く。

 何を話せばいいのか。 俺がしたいこと、どう過ごしたいか。


「ああ、分かった」


 そう返すと、ロトがヘラヘラとした笑みを浮かべる。 すぐにレイがやってきて、二人とも言えすごかったと褒め讃える。


「ああ、アキ。

お前の弟、しばらく借りるぞ。 色々便利そうだし、道案内に使う」


「あっ、兄さんには言ってませんでしたね。

結局、ほとんどの功績が兄さんと父さんで出回っちゃったんで、兄さんを見習って色々してみようと思ってます」


「……家のことは大丈夫なのか?

あと、あの雇っていたやつや、使用人もほったらかしているが」


「元々、家のことなんて、ほとんど国から任されてはいませんからね。 父さんも働いてるように見えてそんなに働いてはいませんし。

あの街に置いてきた人達も、回収のために人を遣わしてるんで大丈夫ですよ」


 レイの言葉に頷く。 まぁ、俺が否定する必要もないか。 ロトとともに旅をして、功績を挙げる。

 それはつまり、魔王に対抗することと同義で、それは俺にとっても都合がいい。


「ああ、なら問題はないか」


 だが、もしまたあの巨人レベルの魔物が現れたら……と不安にもなる。

 ロトの魔石割り人形君の魔物避けは、強い魔物には効果がない。 つまり、あのレベルの魔物相手には一切の対応が出来ていないということだ。

 俺がいなくて、大丈夫か?


 だが、エルと結婚してすぐにエルに危険な目を合わせるのも、エルと離れるのも嫌だ。


「そんなに遠いところじゃないし、今度はちゃんと魔物を処理しながら進むから大丈夫だって」


「……信頼していないわけでは、ない」


 それでも魔物は強い。 弱い人と弱い魔物なら弱い魔物の方が強くて、強い人と強い魔物なら、強い魔物の方が強い。


 ロトがどれだけ優れていようと、あの巨人や、俺と同程度の魔物と相対すれば勝ち筋は薄い。 そこにレイが加わったところで……だ。

 はっきり言って、高みへと朽ちゆく刃を使っていいのならば、この二人と二対一で争ったとしても、間違いなく俺が勝つ。

 レイは魔法が大味過ぎて、対人に向かないということもあるが。


「まぁ、不安だろうな。 だけど、大切なやつ全員をお前の近くで守るとかは無理だろ」


「いや、レイはそれほど大切でもないが。 いなくなると、家を継ぐ羽目になりそうで嫌だな」


「ブレねえな、お前」


「……兄さんも旅をして強くなったんですから、僕も旅の間に強くなりますよ。

目標も出来ましたしね」


 レイはそう言ってからロトを見る。 師弟関係というわけではなさそうだが、少しそれに近しい尊敬の念を感じる。

 俺に対して向けられたことがない目線だ。


「着いていけば、その瘴気魔法? ってのも教えてもらえるみたいですし、ちょうどいいかなって思いまして」


「……まぁ、好きにしろ。 俺がとやかく言えた義理でもないだろう。

だが一応、後で、ロトの魔力が回復したら、また模擬戦をするぞ。 二人がかりでいいから、俺に勝てれば安心して送り出せる」


「負けたら?」


「……仕方ないから、エルに頼んで着いていくな。 あの巨人のような魔物と出会ったら死確定とか、危険もすぎる。

エルもお前らが死ぬのは嫌がるだろうしな」


「うーむ、せっかく新婚生活をゆっくり昨夜はお楽しみてましたね、をさせてやろうかと思ったのに」


 ロトが愚痴を吐くようにそう言い、レイが顔を歪めながら口を開く。


「この歳で、保護者同伴の旅ってなんとなく恥ずかしいですね」


 その二人を見てから、エルに会いに行くために街の方に戻りながら言った。


「なら、勝てよ」


 無茶苦茶な言葉だが、納得したのか、後ろから「おう」という言葉が聞こえた。

 そろそろ日が暮れる。 エルもきっと、今か今かと俺の帰りを待っているはずだ。


 どうするのがいいのか、それが分からない。

 下手に強くなりすぎたせいで、やるべきことが増えている気がするが、それは他の奴も同じだろう。

 やはり、何にせよエルと話をするしかないか。


 宿屋に戻ると、エルが俺の周りをくるくると回りながら「おかえりなさい」と言った。


「何してるんだ?」


「その、怪我していないか、確認をしていました」


 可愛い。 心配そうにしているエルを抱きしめようとすると、避けられる。


「えっ…………」


「あっ、いえ、その……この場では、人もいるので……そういうのは後で、お願いします」


 ああ、そういうことか。 エルは恥ずかしがりなのだから。 突然人前で抱きしめるのは駄目か……。


「じゃあ、後で」


「んぅ、そう、ですね」


 またエルは顔を赤らめる。 ああ、そういう話をするだけでも恥ずかしいのか。

 少し難しいな、と思いながら、怪我がないことを示すように身体を動かしてみせる。


「ロトさんは、大丈夫ですか?」


「おう、問題ナッシングよ」


 少し話をしてから、夜になったということで各自の部屋に戻る。 かなりいい部屋なのか、部屋に入った瞬間に、周りの音が極端に少なくなる。

 昨日は風の音が聞こえていたが、そんなに風が強く吹いていたのか。 ……一応、気をつけた方がいいな。

 エルの軽い身体だと吹き飛ばされかねない。

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