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いいとこなしのソードブレイカー③

 だが、いくら投擲を繰り返そうと、俺を捉えられるだけの速さはない。

 避けられるほどの隙間はないが……飛んできた短剣と柄を掴み、自身に当たる短剣のみを弾いていく。


 ロトは小器用で隙がない。その上、相手の隙を探し、的確にそこを狙うだけの技量も持ち合わせているが、悪く言ってしまえばそれだけであり、レイや父親のような馬鹿げた魔力もなければ、俺のような速さも、グラウのような力強さもなく、当然エルほど賢くもなく、全てが高水準であるが、その全てが脅威にはなり得ない。

 非凡な才能。 天才とすら呼べるほどなのに……。 恐ろしさが一つとして存在していない。


 この前身につけた魔法が身になったのか、ロトの身体が荒れるような魔力を吹き荒む。 それが俺の周りにまで移動してきて、ロトのその言葉を合図に発動された。


「空気よ、吹き荒れろ『ルフト』!」


 聞き覚えのない魔法名。 おそらくは自己流《オリジナル》の魔法だろう。

 エルもそうだが、才も魔力も際立っていて学ぶ機会がなければ、いっそ自分で作れという発想にでもなるのだろうか。 あるいは勇者という人物がそうなのか。


 俺の周りに、風が発生する。

 吹き荒れろ、という言葉の通りに、荒れているというのが最も相応しいような……乱雑な風。


 上に、下に、前に後ろに斜めに……直線に、あるいは曲線を描き、強弱すら一定ではない。 立っていられないほどの風という出力もないが、俺は動かせずとも、周りの短剣の軌道は容易に歪められる。


 俺へと向かっていた短剣は俺を追うように曲がり、あるいは俺を避けるように、避けたかと思えば襲ってきて、追ってきたかと思えばまた避ける。


 無秩序な風は、俺の先読みを奪いとり、その場凌ぎに体を動かさせる。

 確かに厄介ではある。 おそらく、ロトにすら理解しきれていない短剣の動きは、読み切ることは不可能であり、全てを弾き落とすのは困難を極める。 だが、遅い。 近くにくる刃のみを淡々と弾き続けて、徐々に前に詰める。


 ロトはほんの少しだけ表情を焦らせて、また言葉を発した。


「空気よ、吹き荒れろ『ルフト』!」


 同じ魔法名。 しかし効果は先程とは打って変わり、全方位、全てが俺に向かって風が吹く。 それに釣られるように短剣が俺へと向かってくる。 それは到底捌ききれるような本数ではない。

 だがーー。


「それは悪手だろ」


 全てが俺に向かってきている。 それほど分かりやすく、対処のしやすい攻撃があるか。


「シールド」


 上、後ろ、左右の四箇所にシールドを張り、前からやってきた短剣を打ち払って前に出る。

 後ろでは一瞬の拮抗を破られ、シールドが割れる音が聞こえるが、もう俺はそこにはいない。

 短剣を投げできたので、手に持った短剣を投げ返してからその短剣を掴み取る。


 姿勢を低くし、量の手を持った短剣をしっかりと握りながら跳ねる。

 ロトは遠距離からの攻撃の方が有利にことを運べるはずなのに、俺と同時に前へと躍り出た。


「やる気か、ロト」


「やる気だよ、アキ」


 その一瞬の言葉の交わし合いと同時に、短剣同士が打ち合い、金属がぶつかる不快な音が流れる。

 右の手を振るえば、ロトはそれを読んでいたかのように軽く受け止めて、やり返すように左の短剣で俺を狙うが、俺はそれを見てから容易に受け止めて、返すように鋸状の刃を振るう。


 俺の方が速く、ロトの方が早い。 しかしそれも、十数合目のぶつかり合いで拮抗は崩れる。 俺が獣であるとはいえ、考えなしではない。

 ロトの動きを真似た剣壊剣術により、徐々に押し返す。

 目の前で行われている技術からするも、遥かに程度の低い技だが、それでも拮抗を崩すには十分すぎた。


 俺の短剣が、ロトが左手で握っていた短剣を弾き飛ばし、追い打ちをかけるようにロトの顔に向かっていく。


「こな、くそおぉぉ!」


 ロトはその言葉とともに口を開けて、閉じる。 否、閉じ切ることはなく、何かを噛むようにしている。


 口によって引き抜かれた短剣に俺の攻撃が受け止められ、ロトはそのまま空いた手で、中空を掴む。


 また短剣が引き出されるかと思えば、違う。 同じ深い鋸の刃だが、その刀身の長さが短剣の長さを遥かに超えていた。

 1mには届かないほどの、長剣。 エルの能力がレベルアップにより拡張されて強力になるのと同じように、より強力な力へと変質している、その長剣をロトは右手に持ち替えて、左手は無手に変える。


 ロトの無手は、短剣が握られているのも同然だが、何も持っていないときと同じだけの柔軟性も持っている。

 当然刺されても、投擲されても、掴まれても、何が起きても不思議ではない。


 長剣へと獲物を変えたロトは、短剣のときと違った厄介さを持っていた。

 単純のリーチの差が、動きを封じるようだ。 その上ロトは俺の接近を防ぐように剣を動かす。 無理にその剣を弾いて中に入り込もうとしたら、無手の左手の餌食だろう。


 時々、思い出したかのようにロトの左手から投げられる短剣が、俺の動きの阻害に一役買っている。


 俺が攻めあぐねていると、ロトがまた言葉を発した。


「空気よ、吹き荒れろ『ルフト』!」


 ロトを中心に風が竜巻く。 それに乗せるように短剣を風に放り込んで、ロトの周りに短剣の嵐が生まれる。

 短剣で弾けば何処かに飛んで行く程度だが、それも量が多い。


 ただでさえ長剣との長さの差で入り込みにくいのに、無理に入り込もうとすれば、短剣の嵐に斬られるだろう。


 実質、短剣で高みへと朽ちゆく刃もなしにこれを突破するのは不可能……。 いや、俺は知っている。 これを突破する方法を。


 長剣と短剣の範囲差が厄介ならば、それをなくせばいいだけだ。

 俺の短剣とロトの長剣がぶつかった瞬間に、長剣の刃が切り裂かれて落ちる。


「は?」


 間抜けなのは声だけで、ロトは即座に対応をする。

 後ろに跳ね飛び、それと同時に両手でひたすらに短剣を投擲する。


 戦場の夢を見た。 俺には足りなかった何かを埋めるような夢だった。


 一番初めに俺の元に辿り着いた短剣を弾き、弾かれた短剣が次にきた短剣にぶつかり止めて、その短剣も後続の短剣を弾く。


「曲芸かよ!」


 ロトは連続して投げるが、俺の一振りで三つや四つの投擲された短剣を防ぎきる。 どちらの方が体力を使うかは目に見えていて、ロトは少しずつ息が切れて行く。


「もう、終わりか?」


「まだまだ、むしろ今からが本番だろう」


 ロトの魔力が地面に染み込み広がっていく。


「ルフト!」


「シールド!」


 砂埃を巻き上げようとしたのだろうが、そこの地面を覆うように展開した俺のシールドがそれを防ぐ。

 ロトの魔力も、多い方ではないのでそろそろ打ち止めだろう。


 次にくる手は……。

 待つ必要もないな。


「君が望むは贖罪の時、俺が望むは許容。 その機会を与えよう。 魂削り、言葉を発さず、生きもせずに、この時を過ごす機会をーー」


 短剣を振り下ろすが、短剣に受け止められる。 そのまま切り裂き、ロトの身体を追うがその前に魔法ーー瘴気魔法が発動する。


「『(ルフト)語りの霊(シルフ)』」


「ーーーーッ! 瘴気、魔法!」


 ロトと共闘して倒した男の扱っていた、瘴気を扱って起こす魔法。

 魔物の材料である瘴気を利用するからか、何かに追い縋る、移動して攻撃を防ぐ、といった普通にはない「自動性」がある。


 ロトのそれも、その特性に違いはなくーー。

 空気の「手」が、俺の振り下ろした腕を掴む。


「ここだと、瘴気が薄すぎてほとんど使えねえけどな。

まぁ……手を一本や二本出すぐらいなら、十分」


 元から持っている二本の腕と、二本の風の腕が短剣を中空から引き抜く。


「……それが前に行っていた「とっておき」か?」


「ああ、腕の数が倍になって倍強くなったからな。 覚悟しろよ」


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