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情けない君が好き⑥

 まさかの歳上に三人でため息を吐いて、その後にロトが楽しそうに口を開いた。


「出会って3ヶ月もなしで結婚って、結構早いな」


「そうですか? 出会う前に結婚することもままあることですし、そうでもないかと」


「あー、異世界だもんな。 日本みたいに恋愛結婚ばかり、なんてことはないのか。

それはそれで、なかなか悪くないな」


 料理を頼みに少し席を外して、横目でレイとロトの様子を見るが、やけに仲が良さそうだ。 十日も一緒に戦っていれば仲良くもなるか。

 レイは有能だし、ロトはいい奴だ。


 エルの方を見てみると、あちらはあちらで楽しそうに話している。

 こう、他の奴と楽しそうにしているとモヤモヤとした不快な気分になるが……まぁ仕方ないだろう。 我慢するしかない。


 時折、照れたように顔を赤らめているので、おそらく結婚の話をしているのだろう。

 一人に言ってしまったなら、もう全員に言っておいた方が話は早い。


 料理を受け取り、エルの方に向かうかロトとレイの方に向かうかを少し迷い、ロト達の方に向かう。


「あれ、こっちに来たのか。 エルちゃんがあっちにいるから、あっちに行くかと思った」


「……行きたかったんだが、混ざるのも悪いかと思ってな」


 ロトが驚いたような表情を浮かべて、すぐにわざとらしいヘラヘラとした笑みを浮かべた。


「あのアキも、成長したな」


 どこか偉そうだが、少し前の俺なら間違いなくエルにつきっぱなしだったろう。 なので否定は出来ないが、どこか腹立たしい。


「……どうせこれからずっと一緒にいるから、数分だけは、我慢する」


「あっ、成長してねえわ」


 二人から遅れながらだが飯を食おうと食器を手に持ったと同時に、エルが立ち上がったので食器を置いてエルの方に向かう。


「あっアキさん。 ご飯取りに行くだけですよ」


「ああ、俺が持とう」


 エルの小さな身体では、色々と不便だ。 配膳している場所もエルの身長からしてみれば結構高く、危ないというほどでもないけれど、一苦労しそうなので代わりに持つ。


「アキさんと結婚生活してたら、箸より重い物が持てないような生活になりそうです」


 箸? ああ、食器の。 知ってるような気がする。 どこかで本でも読んだか?


「……良ければ、それも俺が」


「いいです。 いらないですよ……」


 そうか。 少し落ち込みながら、エルの食べる分を運ぶ。 リアナとケトが俺を見て、嬉しそうに祝福した。


「おめでとう。 色々大変だろうが、仲良くやってくれ。

グラウじゃないが……依存しすぎには気をつけた方がいい」


「おめでとうございます」


 微妙に説教くさいリアナの言葉を無視して、一言礼を言ってから、椅子を引いてエルを座らせてからロト達の方に戻る。


「我慢する。 我慢って何でしたっけ」


 レイが呆れたように言った。


「俺とアキでは使っている言語が違うのかもしれない。

我慢するって言った二秒後には我慢してなかった」


「……いや、あれはエルが持つのも大変だろうから。

寂しくて行った訳ではないからな?」


「この近距離で、三分も経たずに寂しくてなんて発想が出る時点でおかしい。

まぁ関係ないからいいけどよ」


 どうでもいいなら、言わなければいいのによ。

 再び料理を口に運びながら、ロトを睨む。


「なぁ、今は体調どうなんだ?」


「……気遣っているのか?

まぁ、まだ戦いの感覚が抜けきっていないとでも言うべきか。 妙な昂りを覚えたままだな、それに血が足りないし、全体的に本調子には戻らないな」


 軽く伸びをして、手を握ったり開けたりしてみるが、感覚が鋭すぎるようなむずかゆさがある。

 代わりに飯を食ってもやけに味が薄く感じられて、嚥下するのにも軽い引っかかりを覚える。


「つまり調子が悪い……と。 なら、模擬戦するか」


「下衆か」


「あと、高みへと朽ちゆく刃も使うなよ。 俺は能力で武器を出すけど、お前は素手な」


「ロトさんは、人間として間違っている気がします。

受けるんですか? 兄さん」


 少しだけ考えて、水を口に含めて嚥下する。


「まぁ、やるか」


 考えたが、考える必要もなかった。 戦闘は好きではない。 だが、この昂りは戦闘でしか晴らすことが出来ないような気がする。

 あれだけ戦って、結局は人任せだったことも、物足りなさに拍車をかけているのだろう。


 小さく笑みを浮かべて、血が沸き立つのを感じる。


 素手だろうと何だろうと……人一人、引き裂くことぐらいは容易だ。


 歯を剥いたような笑みを浮かべて戦の喜びを表していると、それに冷水を浴びせるように、少女の声が聞こえた。


「アキさん」


 獣性を明らかにした俺の顔を見て、いつの間にか近くにいたエルが、不安そうに俺を見上げた。


「あっ……エル、か」


 笑みを浮かべていた顔が、ひどく醜いようなものに感じて、恥じ入るようにいつもの表情に戻す。


「んぅ……大丈夫です、か?」


「ああ、問題ない。 どうかしたか?」


「いえ、その、アキさんが一人で食べられるかなって……」


 エルの中では、俺は赤子のような存在にでもなっているのだろうか。

 呆れたようなため息を吐いてからエルの頭を撫でる。


「食えるに決まってるだろ。

食べ終わったら、ロトと軽く運動することになったから、話でもして待っていてくれ」


「大丈夫なんですか? ん、僕も一緒に行きたいですよ」


「大丈夫だ。 軽くだしな」


「俺の侮られっぷりよ」


 それにしても、どこでやるつもりだろうか。 宿屋の裏手では明らかに手狭だし、外に行くには些か遠い。 俺の走りならすぐだが、ロトの鈍足だとどうにも時間がかかる。 まぁ、散歩がてらって考えると丁度いいか。


「んじゃ、行くか」


 俺が食事を終えて、ロトがそう言った。


 心配そうに見つめるエルの頭を撫でて、別に怪我をすることはないとだけ伝える。

 下膳してから、体を軽く伸ばしながらロトと、何故かついて来たレイと三人で道を歩く。


「こう、決闘って男って感じがしますよね」


「そうか。 よく分からんな」


「浪漫があるよな。 地球じゃあ、そういうのなかったしな」


 数分歩いて、街の外に出る。

 もう日が暮れ始めていて、レイは横からくる夕焼けを眩しそうに見ている。


 軽く離れてから、ロトは短剣を引き抜くように中空を掴み、引いていく。


「……いつでもこい、ロト」


「オッケ、行くぞ。 アキ」


 軽く目を交わし合ってから、ロトが動いた。

 俺やグラウがするような一瞬の加速の跳躍ではなく、地に足を付けた疾走。 前よりも成長したのか、多少は速いが、それでも俺と比べるとあまりに遅い。


 攻撃が可能な距離の差も、短剣だと投擲でもしなければ素手と差はなく、俺も十全に動けるほどの距離からの、突き刺し。


 力では押し負ける可能性もあるので掴み止めることは止めて、身体を捻りながら躱してロトの懐に入り込む。

 そのまま殴打しようとするが、一瞬で勘付いて後ろに跳ねて逃げる。


 服の中に短剣を仕込むって、随分と卑怯な。 あのまま殴っていたら、手が切れていたことだろう。


「随分目がいいな」


「お前があんな分かりやすい隙を見せたら、誰だって警戒するだろう。 というか、卑怯だろうよ」


「防具はありに決まってんだろ。 それとも全裸で戦うつもりかよ。

……まぁ、ばれたら重いだけだから消すけどよ」


 そう言ってから、ロトは片手に四本ずつの短剣を中空から引き抜く。


「やっとくるか」


 ロトが得意としている、投擲の技。 尤も、小器用なロトは近接戦闘も得意だろうから、それだけに気を取られるわけにはいかないが。


 離れた位置から、同時に放たれる八つの短剣。 その全ては明確に何処を狙うか、俺がどう動くように誘導しているか、が分かる。

 手本にしたくなるような攻撃だ。 そして間髪入れずにまた新たな短剣が投擲されて、上から降らせるように投げる短剣、山なりにゆっくりと飛んでくる短剣、と緩急や投げ方を工夫された投擲がロトから大量に放たれる。

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