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情けない君が好き③

 エルが落ち着いた頃に、共に身体を起こして伸びをする。


「……そろそろ、行きましょう。 多分ですけど、ロトさん達も心配しているでしょうし」


「ああ、そう言えばぶっ倒れた後だったか。 すっかり忘れていたな」


「忘れないでくださいよ」


 そういえば、何か大切なことを忘れているような気がする。 いや、特に何も思い浮かばないので気のせいか?


 エルに腕を引かれながら扉の外に出る。 見覚えのないような間取りだが、どこかの宿であることは分かる。

 適当に歩き、飯が食えるところでもないかと思っていると、見知った声が聞こえた。


「ん、ロトさんですかね? 何か怒ってる、みたいですけど」


 怒鳴り声ではないが、荒げた声。 一人でないことは確かだが、もう一人の声は聞こえない。

 とりあえず、盗み聴きして様子を確かめるのも面倒なので、扉を叩く。


「ここでサラッと入りに行けるのってすごいですよ」


 何故か褒められた。 少し待つと、ロトが扉を開けた。

 俺の顔を見て、少しへらりと笑うが、それが作り笑いであることがすぐに分かる。

 奥に見えた父親は、いつも通りの顰めた表情をしていた。


「起きたのか。 二人とも、身体に異常はないか?

腹が減ったのなら、もう金は支払ってるから下で食える。 一応、金も渡しとくな。

ん、幾つか話はあるが……まぁ余裕が出来たらまた来てくれ」


「ああ、助かる。

父親と話をしていたようだが……」


「大したことじゃない。 頼みごとをしていただけだ」


 頼みごと、か。 ロト達が父親を連れてきていたのだから知り合っているのは当然だが、そう気安く頼みごとが出来るような関係になっているとは思い難い。

 父親は気難しい人間ではないが……人の意思を汲み取れるような人間でもない。


「頼みごと、ですか?」


「ん、ああ、予定していたところに届ける……も難しそうだし、届けたところで守りきれるとは思えないから、預かっててくれないかって話をしていたんだ」


「それは、断られるでしょうね……」


「それで、預かってくれるようなところを教えてくれって聞いて、おっちゃんの先祖のところに手紙を書いてくれるらしいんだけど」


「よかったじゃないですか。 んぅ、遠くなら、僕達も……いえ、その……いきますよ?」


「無理はしなくていいぞ。 あんなことがあったんだし……無理はするな。

んでな、その先祖の場所を教えてくれないんだ」


 なんだそれは。 それだと一切意味がない。

 意味の分からない父親の言動に、二人で首を傾げていると、エルがおずおずと口を開いた。


「……アキさんと行けって意味じゃないですか?」


「…………なるほど」


 回りくどいな。 とりあえず腹も減ったので扉を閉じて、食堂に向かう。


「アキさんの、ご親戚の方達のところ……ですか」


「行くことになりそうだな。 まぁ、そこまで遠くはないが」


 数度行ったことがあるが、あまり長居はしなかったので、思い入れもなく、仲の良い人間もいなかった。

 連れて行くことは出来るが……。


「あまり行きたい場所でもないな」


「ん、なんでですか?」


「最近……いや、旅の最中だから最近ではないか。 レイから聞いた話なんだがーーーー」


「おお、二人とも目が覚めたのか」


 話を遮るように、大荷物を抱えたリアナが声を発した。


「えと、あ、お陰様で……。 あの、ありがとうございました」


「いや、気にするな。 昼食はもう食べたか?」


「んと、今からです」


「一緒に食べに行くか?」


「いや、二人で食べるから着いてくるな」


 そう言うと、エルに睨まれた。 リアナは特に気にする様子もなく「残念だ」とだけ言って去っていく。


「ん、アキさんはもっとオブラートに包むというか、優しく言う方がいいと思います」


「エルと二人がいいんだ。 どうせ、すぐに二人でいられる時間はなくなる」


「口説くようなことを言っても、ダメです。 ……まぁ、今回だけは、リアナさんも気にしていないようですから、仕方ないってことにしますけど」


 エルの言葉に頷き、食堂に入る。

 やはり見慣れない場所だが、食堂の窓から、上辺が壊れている高い塔が見えて、よく見知った街であることを知る。

 その塔の大きさや見え方の角度からして……あまり来たことのない、住宅が多くあるところの近くか。


 門の近くで倒れたはずだが、わざわざここまで運んできたらしい。何のために、かは分からないが別にどうでもいいことだろう。

 ちょうど昼飯時だったので、料理を作っている人に一声かけてから、人が周りにいない席に座った。


「それで行きたくない理由ですが。

ん、一応ロトさんに場所だけ教えるって手もありですよ。

お義父さん……いえ、アキさんのお父さんは気づいていないみたいですけど」


「ああ、父親は頭が悪いからな」


「アキさん……。ん、それでどうしますか?」


 行きたくない理由。 それをエルに話す。


「まず、俺もレイに聞くまでよく知らなかった俺の家系の話なんだが」


「レイさんは知ってたんですか? アキさんの方が歳上なのに」


「ああ、レイは始まって以来の神童だからな……平均点以下の平均点を取ることが出来るぐらい賢い」


「それって100人中25番目ぐらいですよね……。

それが神童……僕がしっかりしないと」


 エルは小さな手をグッと握り締めて、決意したように呟いた。


「それはさておき、多少だが前にも少し言ったが……俺の家系は親戚同士で、あるいは近親間での結婚を是としているらしく」


「あ、言っていましたね……。 もしかして、アキさんとそういう関係のあった女の子が……」


「そういうことはない。 だが、中心の家にいるから……そういう話がくるだろうと、レイが言っていたな。

特に、そんなところに行けば……な。

多妻や多夫も、多いらしい。 ……とりあえずは家に戻ることになるだろうから、その時に家系図でも見せる」


「うー、ダメですからね? 他の女の子にうつつを抜かしたり、そういう関係になったり、いやらしい目で見たり」


「しない。

無理矢理来られる可能性があるから行きたくないんだ。 最悪、案内した後逃げればいいだけだが」


「……嫌ですね。 アキさんがそういう風に思われたり、扱われたりするのは」


 少しだけムッと表情を顰めてから、料理を終えたらしいおばさんに声をかけられたので、それを取りに向かう。

 お盆に乗せられた料理を受け取って、エルがお礼を言うのを横目で見ながら元の場所に戻る。


「レイに任せるか。 あいつ功名心が強いし……前衛二人と後衛一人で多少バランスが取れる。

俺はエルと二人でいれるし、そっちの方が良さそうだな」


「んぅ……レイさんとロトさんがいいなら、それでも良さそうですね。

正直……またアキさんが戦うことになるのは、怖いですし。 他の人ならいいのかって、話ですけど」


 そう言ってエルは落ち込む。 腹が減っているので、ゆっくりと口を開けて、料理を口に運ぶ。

 忘れていたが、シノはどうなったんだろうか。 おそらく逃げただろうけど、あの金好きが何も貰わずにいなくなるということはないだろうし。 行くとすると、俺の家の方か?

 一応、父親に伝えておいた方がいいだろう。


「それでアキさん。 その……この国での結婚って、どういう制度なんですか?」


 エルがモジモジと顔を赤らめながら尋ねてくる。

 結婚は結婚だろう。 と何を言いたいのか分からなかったが、異世界では違うのだろうか。

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