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岩の巨人討伐④

 足手まとい。 は、この都市全域の人間だ。

 正直に言って並程度の人間など、この場でら巨人の餌でしかなく、放つ攻撃魔法も巨人には効かないのに、俺には当たれば致命傷になる。


 むしろこいつら敵なのではないかと思うが、逃げろと言って届く距離でもない。

 いつか切れる魔力も、たくさんの人間が入れ替わりながら撃っているので、その弾幕が途切れる様子はない。


 囮にして……と考えても、一撃当てられるだけならば倒し切れる相手ではなく、無駄に人死にが起きる。

 現在、最高の威力を誇るのが荒鋼を獲物として扱った高みへと朽ちゆく刃の一式というのが惜しい。

 二式では、折れた腕では二撃目以降を振るうことは叶わない。 三式は細やかな動きが必要なので重い荒鋼では不可能、


 もっと負担が大きくとも、威力の高い技があれば囮に使うことで落とせていただろうが、無い物ねだりだ。

 結局俺には、ひたすら戦うことしか出来ないらしい。


 無視して、ぶっ叩く。

 討伐にきた連中も、遠距離からの投擲程度なら防ぎきれるだろう。

 俺がやるべきなのは、あちらに動けば首を切り落としてやると、脅しをかけるように首を狙うことだ。


 それも、いつまで保つか。


 飛び交う幾十もの魔法の弾を掻い潜り、歩こうとする巨人に迫る。

 首にまで向かうのに、シールドを展開する必要はない。

 土の魔法、氷の魔法、無属性の魔法、足場にできる魔法は飛び交っている。

 地面を跳ね飛び、前方で飛んでいる魔法に足をつけて蹴る。 蹴る。


 首に迫る俺に巨人は手を振るう。

 足止めできたら良いので、それ以上追う必要はなく、素直に自由落下に身を任せて避ける。

 途中にある土の魔法に乗ってから、再び跳ねる。


 巨人の腹に足を当てて、壁登りをするように垂直に走る。


 振り切った後に戻ってきた腕を避けるために巨人の胸から跳ね飛んで、魔法に足を当てて、すぐに戻る。


 本当に狙うのは、首ではなく……その指。

 片腕を無くしている巨人から残った片手の指を奪えば、遠距離からの投擲は殆ど防げる。

 それに、指を落とすだけならば一撃で可能だ。 五本の指を一回ずつで、計五回。それだけで随分と足止めが楽になるはずだ。


 まず狙うのは……親指。 付け根から切り落とすために大きく振り被り、振り下ろす。 高みへと朽ちゆく刃。


 その指が切れ落ちて、右肩が外れる感覚がする。

 治癒魔法で治らないような怪我に一瞬だけ焦るが、大剣を手放して左手で無理矢理元に戻す。

 真上にシールドを展開し、姿勢を翻してそのシールドを蹴って下に向かって、落ちた大剣を中空で受け止めて、また飛来する魔法を蹴って駆け上り、何もすることなく巨人の頭上にまでくる。

 治癒魔法で腕が直るまではまともに攻撃も出来ないのが歯がゆいが、足止めは充分出来ている。


 俺の方が強い。 そう思わせて本気にさせるために巨人の頭に乗り、馬鹿にするように笑った。


 頭に血が上ったわけではないだろう。 馬鹿にされたことは気にしてなどいないだろうが、よりも明確な「敵」であることを示した。


 口に咥えた水の魔道具に魔力を込めて、喉を潤わせる。


 喉を鳴らして嚥下し、飛び降りざまに、指に向かって剣を振るう。

 高みへと朽ちゆく刃。 小指を切り飛ばし、細い指だったおかげか身体にそれほど負担がなかったので、切り返すようにもう一度。


 残りの指は二本。 もうまともに物を握ることを不可能だろう。 五本とも飛ばしてやろうかと思っていたが、不器用なのか、二本も指が残っていて何も持つことが出来ていないようなので、次に狙う場所を変更する。


 やはり狙うのならば足か。 あるいは攻撃手段をなくすために腕か。

 足は具足で守られていて、切り裂くのなら腰の近くからになる。 腕はそもそもそれが狙えるなら首を狙った方がいい。


 まぁ、そんなこと出来るわけもないが。 まともに攻撃が出来るのは、エルの治癒魔法を集中させても十分毎が限界。


 その前に以前のように力尽きるのは間違いないか。


 やはり無理だ。 分かりきっていたことだが、一切の勝機がない。

 戦うにはあまりにデカすぎる。


 エルが辛い思いをするのを分かっておきながら、あいつらを見捨てるか。 あるいは、死ぬまで戦うか。


 説得しに向かい、無理ならば死んでもらおうと決めて、踵を返そうとする。

 不意に、全身に掛けられていた治癒魔法が失われる。


「ッァーーーーーー!!」


 声にならない叫び声を上げて俺は走りだそうとすると、巨人の頭上に強大な魔力が出現する。


 あれは、俺は知っている。 俺のガラスのような無属性の魔力ではなく、金剛石に近い性質を得ている無属性の魔力。 他を突き放し凌駕する圧倒的な密度、広範囲の破壊を目指した巨大な槍の形。

 レイの使う、模倣ではない、本元の魔法。

 最強の魔法使い『血紅鎧』の十八番、純粋で単純で、捻りのない破壊の魔法。


 ーー堕ちる終の槍(ラス・キークラ)


 何故こんなところに、という謎と共に強い安堵が生まれる。

 父親がここにいるということは、瘴気を排除出来る者が近くにいるということだ。


 口から漏れ出る叫びを、伝えるために無理矢理に矯正して、少女の名前に変える。


「ーーーーッ、エルゥゥウウウウウ!!」


 その叫びへの返事はすぐにくる。

 巨人が破壊される轟音の中、か細い声は確かに俺の耳に届いた。


「ーーーーアキさんッ!」


 どれほどの音が起きようと最愛の人の声を聞き逃すはずがなく、大きな音に紛れて掻き消されようとも、どこから出た声なのかが分からないはずもない。


 破壊され飛び散った巨人の岩片を浴びながら、一直線に声の聞こえた方に走る。

 今にも倒れそうな小さく華奢な黒髪の少女。 その顔はやつれきっていて、体はふらふらと倒れそうに揺れている。

 それでも表情はこの世の誰よりも幸福であると言っているかのように、満面の笑みを浮かべて手を広げた。


 そんな倒れそうにしている身体を抱き止めるように、膝を地面に着いてエルの身体を抱きしめる。

 そんな倒れそうになっている身体を抱き止めるように、エルは背伸びをして、俺の身体を抱きしめた。


「アキ……さん。 怖かったです、良かったです、貴方がいてくれて」


 エルはそう言って、目を閉じた。

 急いで息を確かめると普通に寝息を立てていたので安心して、その身体を抱きしめた。


「おー、お疲れさん。 お前も寝とけよ」


 適当な、軽薄そうなロトの声。 しかし見てみれば疲れているのが分かるほど目にはっきりとした隈を作っていた。


「無理をさせたようだな。 ……悪い」


「今更だ。

それに……エルちゃんのが無理をしてるからな。 文句言いたくて堪らないが、文句言うのは恥ずかしい。

これからはあのおっさんとレイに任せてろよ」


 お前も戦えよ。 そういうより前に、ロトは幾つもの短剣を中空から引き抜きながら駆け出した。


 いつもいつも……頼りになる。


 この三人ならば、手負いの巨人程度には負けはしないだろうと安堵して目を閉じる。 戦いは、終わった。


 幾つもの破壊音を後ろに、エルの冷えた身体を抱きしめながら、眠りについた。

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