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逃避、その意味、その価値、その結果④

 樹と共に街で食事を摂る。

 その後、剣だけではどうしてもグラウには追いつききれない気がして武器屋による。

 魔道具でもある武具のような掘り出し物でもあればいいのだが。 いや、あったとしても買えるだけの金銭はないか。


 何にせよ。 以前は諦めていた武器を買い集めて練習するべきだろう。


「ついにルトさんもKATANAを使う気になったんですね」


「……まぁ、あれぐらいの刃物だったら使えなくもないか。

脆いのなら使い道を考える必要もあるが」


「他の武器と併用するつもりでしたら、そんなに考えなくてもいいんじゃないですか?」


 確かにそうだな。 必要な時にだけ使えばいいのだし。 普段はグラウのように木剣を中心に扱っていくつもりだしな。


「そうだな。 あと、弓矢と槍に……斧あたりも買っておくか。 大剣も欲しいな」


「何を目指しているんですか?

ウェポンマスターみたいなのも確かに浪漫ありますけど」


「一人でエルを……樹を守れるようになるには、やはり手段が豊富に欲しい」


 樹が照れたように顔を赤らめて、俺の服の袖をつかむ。


「頑張ってください。 守られてあげますよ、いひひ」


「ああ」


 予定通り武器屋に来て、数打ちの安い武器を適当に買い漁る。

 剣は木剣を使うのでいらないためなし、大きな敵と戦うときように長槍と戦斧、飛んでいる敵に対抗するための弓矢、エルの勧めの刀と、それに加えて大剣、普段使いしているナイフの買い替え、それだけ買えばかなりの値段がしたが、まぁそれも仕方ないだろう。


 最後にそれを装備しやすくするための防具を買って、身体中にそれを取り付ける。 かなり重いが、問題なく動ける程度だ。


「……ルトさんが何を目指しているのか、分かんないです」


「樹を守れる男。

……帰ったらまた練習するか」


「もう夜ですから、ご飯食べて寝ましょうよ」


「分かった、飯食ってから練習する」


「半分しか分かってないじゃないですか。

……僕も、まじない術の練習しますよ。 修行あるのみ!」


「樹は早く寝ろよ。 ただでさえ疲れているんだから」


「ブーメランです!」


 ブーメラン? ああ、投げても戻ってくる投擲具か。 ついでに買っておこうか。

 武器屋に戻るかと尋ねると、樹は首を横に振った。


「そういう意味ではないですよ。

ん、無理はしないでくださいね」


 無理はするに決まっている。 それに無理はしたい。

 けれども、とりあえず頷いておく。 不要な心配をかける必要もないだろう。


 樹と共に食事をとってから、家に戻って庭に出る。

 樹は俺を見ることができる位置にある木の根元に腰掛けて、俺の持っていたまじない術の本を手にしながら、魔力を放出し始めた。


 それを見てから、小さく息を吐いて樹から目を反らす。

 視界に樹を入れていると、どうしてもそちらに目がいってしまうので仕方ない。


 集中、虚空を見つめるように空間を視認し、背から槍を取り出す。

 慣れない武器で、その長さと重さに対する違和感をなくすために強く握ったり、軽く握ったりと触り心地を確かめながら緩慢にその槍を突き、振り回して手に馴染ませる。


 その次は刀、斧と練習していこう。

 ……ロトに会う前には物になればいいのだが、ロトはどうしているのだろうか。


◆◆◆◆◆


「リアナ、トドメは任した!」


「またお前は無茶苦茶なことばかり!」


 血の匂いが入り混じった風が吹き荒れる中、黒髪の少年、ロトはヘラヘラと笑った。

 口元を隠すように手で口から流れる血を拭った。


 相対している魔物は、竜。

 赤竜に比べて細身、しかしながら赤竜より巨大な身体を血に塗れながら自身の僕である風を吹き荒らしている姿は、赤竜と比べてもより一層の威圧を感じさせた。


 翠竜、風を繰り、翼も持たぬ蛇の姿をしているのに関わらず、他のどの生命よりも空と共にいる生物。 この魔物はそれの姿を模したレプリカのような物だが、脅威には違いはなかった。


 ロトが投擲した鋸刃の短剣が翠竜の近くで曲がる。

 飛んでいるために遠距離からの攻撃しか出来ない、だが遠距離から放たれる程度の攻撃では辿り着く前に風によって捻じ曲げられて届かない。

 一投目から間髪入れずに投げられた短剣も同じように曲げられ……翠竜に引き寄せられるように突き刺さる。


 ロトは軽く笑みを浮かべる。

 何故軽い短剣が翠竜の元に届いたのか。 それは風の流れを理解していればそれほど難しいことでもなかった。


 一投目の短剣を弾くためには風を操り短剣の進路の邪魔をするように自身の近くから放出しなければならない。

 風を操ることは出来ても生成しているわけではない。

 つまり、風を、空気を補給するための「見えない風の道」は必ずどこかに存在している。


 近くに寄れず、遠くからの攻撃は全て弾く、なんてデタラメな強さを持つ翠竜の致命的な弱点。

 「見えない風の道」を見ることさえ出来たならば、翠竜にとって唯一にして最強の防御の手段である「風の鎧」は、反対に自身の元に攻撃を引き寄せるだけの物に変質する。


 ロトが投げた短剣、それに込められていた獣人の少女ケトのあるだけの魔力が翠竜の体内に浸入し、その身体を侵していく。


 一瞬、翠竜の動きが緩慢になり、風が緩くなる。


「シールド、シールド、シールド」


 リアナは魔力の道を生み出し、それに駆け上って翠竜に向かって突き進む。


「ロト! 合わせろ!

行くぞ、ソード!」


 リアナの握っていた剣にシールドと同質の魔力の刃がへばりつき、擬似的にその剣の刀身を伸ばす。

 ロトの投擲する、大量の短剣。 それがリアナに反撃しようとする翠竜の動きをまた一瞬だけ封じ込める。


 リアナは剣の刀身になった魔力に全ての魔力を注ぎ込み、剣をより巨大、強大なものへと変質させ、大きく振り被る。


「死ね」


 そんな言葉と共に、翠竜の頭頂に向かって刃が振り下ろされた。 翠竜から血が吹き出て、纏っていた風が吹き飛ばし吹き荒らす。 辺りを真っ赤に染め上げながら翠竜は空から墜落する。


「……着地のための魔力を残しておくのを忘れていたな」


 このまま翠竜と落ちれば間違いなく死ぬ。 そんな状況の中でも、リアナは取り乱した様子もなく、疲れに身を任せて剣を手から離して脱力する。


 地面に到着する直前に起こった風。 それに身体が落ちる勢いを少しだけ緩められる。 そして横から飛び込んできたロトの黒髪が一瞬だけリアナの視界に入る。


「おべらっ!」


 自身をクッション代わりにしたロトの口から叫び声が聞こえる。

 リアナは急いで尻の下にいるロトから飛び退いた。


「……大丈夫か?」


「痩せろデブ、筋肉、ゴリラ」


 それだけ言えるのならば、問題はないか。 リアナはロトから視線を外して側に倒れている翠竜を見る。

 頭蓋を潰した感覚はあったが、完全に殺しきれているかは不明だ。 何しろ、竜で魔物だ。まだ死んでいなかったとしても、さして不思議ではない。


 確かめるように睨み付けながら剣を拾うが、動く様子も風を起こす様子もなく、安堵を示すように小さく息を吐き出した。


 剣を翠竜の巨体に突き刺して、魔石を探す。

 普通ならばこうも適当に素材にもなる魔物の死骸を切り刻んだりはしないが、何しろ旅の途中で持ち歩く荷物には限度がある。


 リアナは翠竜の魔石を見つけて取り出してから、剣を手放して血塗れの翠竜を背にして座り込んだ。


「流石に、疲れた」


「おう、お疲れさん」


 リアナはヘラヘラと余裕の笑みを浮かべている少年を睨み付ける。

 まだ動けるのなら共に探してくれてもよかったんじゃないか。 そう思っていたが、よく見るとロトは目がまっすぐに向いておらず、定まらない視線をこちらに向けていることが分かる。


「無理をして強がる必要もないだろう」


 そう言ってからリアナは立ち上がり、ロトの腹を蹴って沈める。 気絶したロトを拾い、遠くに隠れているケトの元に向かった。


 アキレアとエル、それにグラウと別れてから約一ヶ月……。 度重なる魔物の襲撃により、怪我をしてその治療に脚を止められ、治ったと思えばまた強敵の襲来。 未だに敗北こそしていないが、その歩みは遅かった。

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