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勇者な彼女と英雄への道  作者: ウサギ様@書籍化&コミカライズ
第五章:信じるのは、あなただけで
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少女の願いと嘘っぱち⑥

 治癒魔法使いと親らしき人物が少女の部屋から出て行ったところで、屋敷に忍び込む。

 いつものように窓から覗き込むように少女を見る。


 余命がより短くなったことを伝えられた少女はどれほどの痛ましい思いをしているのだろうかと思っていたが、意外にも、少女は涙の一つも流さずに俺たちの顔を見て笑った。


「こんにちは」


「うん、こんにちは」


 もしかしてエルの聞き違いなのではないかと疑いたくなるほど少女の様子はおかしくなく、いつも通りだ。 この場合は、おかしくないのがおかしいのだが。


「エルちゃん、どうしたの? 大丈夫?」


「は、はい。 大丈夫です。 心配されるようなことはないです」


 少女は気丈に振る舞っているのか、それとも、もう覚悟とやらが出来ているのか。


「今日は、何のお話が聞きたいですか?

僕かアキさんの知っていることなら……」


「うーん。 他の街に行ったことがないから、他の街について教えて! 多分もう行くことはないから」


「そんなこと……。 ん、僕よりアキさんの方が詳しいでしょうから、お願いします。 アキさん」


 頷いてから少女の顔を見る。 顔色は悪いが元気そうだ。 それが嫌に不憫に見えて落ち着かない。


「俺の知っている街はこの周辺のことぐらいなんだがな……。

まず俺の故郷の街はーー」


 話をするのはあまり得意ではない。 人付き合いがなかったのもあるだろうが、元々頭も悪いので人を楽しませる話術なんて心得てはおらず、ただ淡々と知っている事実を並べていく。

 人口やら、街の規模、大きさなんて興味があるわけではないだろう。 しかし少女は楽しそうに頷きながら俺の話を聞く。


 そこらで調べれば出る程度の知識を放出し終えたあと、一息吐き出す。


「ありがとう、面白かったよ」


 そんなわけがないだろう。 だが少女は本当に楽しそうにしていて不思議に思う。


「ああ、質問があれば答えるが……」


「ないよ。 ん、私も行ってみたいな」


「悪い、連れていってやるのは……」


「うん。 我儘を言って……ごめんなさい」


 いや、と否定する。

 水色の髪が窓から入り込む風に揺らされて少女の顔を隠した。


 エルが表情を歪めて、窓から手を伸ばして少女の手を触る。


「僕が、きっとなんとかしてみますから。

その時には、一緒に行ってみましょう。 アキさん強いですから安全ですし、僕も便利なので快適ですよ。 安心安全で快適な旅を出来るんです。

馬車で移動するときは、手狭ですからひっつきながらお話したり、夜中にちょっと出歩いてみたり、街に着いたら宿を取って、外食したり……たいへんなこともありますが、楽しいですよ」


「えへへ、楽しそう。

……治るかな?」


「治してみせます。

多分、りーちゃんの病気を治すために魔力が増えたんだと思います。

願いを叶える道具は見つかっていませんが、今、自作中なので、楽しみにしていてくださいね」


 エルはわざと陽気に振る舞って、無い胸を自慢気にとんと張った。

 願いを叶える道具、まあ確かにそうなのかもしれない。 理屈を無視して飛ばしている、まじない術はそう呼んでもおかしくない代物だ。


 問題はそれが不確実なことか。


「明日にでもそれを持ってくるので、それにお願いことをしてくださいね。 病気が治りますようにって」


「……うん。 分かった。ありがとう。 エルちゃん大好き!」


「僕も大好きですよ! ……アキさんは嫉妬しないでくださいね?」


「しない」


 いや、少しはするが、流石に死にかけの少女に嫉妬するほどではない。


「……そろそろ、眠くなってきちゃった。 あ、でも……明日からは会えるかわからないや」


「え? なんで明日からは」


「看病してくれる人が……。 ごめん。 ちょっと寝む……」


 何故かの疑問を聞き終わる前に少女は目を閉じた。

 看病してくれる人が……付くのだろう。 寂しい気持ちもあるが、ずっといることも出来ない俺たちがいるよりかはいいのかもしれない。


「エル、行くぞ」


「……はい」


 問題は作成している千羽鶴を渡せるかどうかか。

 まあいざとなれば、どうにでもなるか。 エルを抱き上げて塀を飛び越える。


「アキさん。 早く帰って、作りましょう。

教えるのも、一日ぐらい休ませてもらえるでしょうし……」


「ああ、分かった」


 体調の悪そうなエルの身体を背負い、村にまで早足で歩く。

 村に着いて、流水の奴に今日は休ませてもらうことを快諾してもらってから家の中に入る。


 エルが休んでいる間も、急いで折り鶴作りを始める。


「……折るの、アキさんに任せっきりで申し訳ないです」


「まあ、エルが一つ折ってる間に四つは折れるからな。

代わりに魔力込めるのは無理だから……」


 口を動かしながらも折り鶴を作り続ける。

 なんか、いつも頑張るときは小さい女の子のためばかりで、もしかしたら本当に小さい女の子が好みなのかもしれないな、なんて考えながら折っていると、いつの間にかエルは眠っていたのでベッドに移動させて布団をかぶせておく。


 もう百ほど折れ、そろそろ腹も減ってきたなと思いながら伸びをする。


「エル、そろそろ飯でも食いに……」


 振り向き、ベッドの方を見る。

 病気ではないだろうが、よほど疲れていたのかよく眠っていて起こすのが戸惑われる。

 一人で移動すると瘴気に触れて魔王の命令を受けてしまうかもしれないので動くことも出来ない。


 エルが起きるまでの間に折り続ける。


 俺が言い出したことだけれど、本当にこんなもので治すことが出来るのだろうか。

 藁にも縋る思い、ではなく、ただ少女の死を考えることが嫌で……。 首を横に振って考えを打ち消す。


 違う。 違う。 違っていてほしい。

 自分の気持ちなんてほとんど持っていなかった昔とは違って、妙な不快感が付きまとう。


 エルと出会う前はもっと、やるべきことだけをやっていて……。


「なんだよ。 くそ」


 悪態を吐いてから頭を掻き毟る。


 エルが起き上がったころには作り終えていて、あとは魔力を込めて少女に渡せば終わりだ。


「……じゃあ、魔力込めていきますね」


「無理はするなよ」


「ん、昨日と意見が違いますね。 ……魔力も増えたので、休憩を挟みながらなら楽勝ですよ」


 そう言ってからエルは千羽鶴に魔力を込めていく。

 この行いに本当に意味があるのかが分からず、ただのごまかしにエルを付き合わせているのではないかと思うと、虚しさのみが胸中に広がる。


◆◆◆◆◆


 翌日、魔力を込め終えた千羽の折り鶴を持って少女の元に向かう。


 窓の外から眺めると、昨日の話の通りに看病をしている女性が少女の隣に柔らかな笑みを浮かべながら座っていた。 少女も寂しい思いをしていなかったようで少し安心する。


「どうやって渡しましょうか……。

渡した後にしまう場所ぐらいありそうですけど」


「トイレに行く時ぐらいあるだろう。 気長に待てばいい」


「そうですね。 お屋敷の外だったら捕まることはないでしょうし……」


 エルと共に少女に会える時間を待つ。 エルは耳がいいので、覗き込まなくともだいたいの部屋の中のことが分かるのでバレる心配はない。


「今、出て行きました。 急いで行きましょう」


 エルの身体を抱き上げて塀を飛び越える。 外を眺めていた少女が驚いたような表情をし、その元に駆け寄った。


「りーちゃん。 昨日言ってたもの、お届けに来ました」


 そう言ってから千羽鶴を手渡す。


「なにこれ、多い……」


「それに願いごとをすればいい。 確か……半日に一度ぐらいすればいいはずだ」


「病気が治りますようにって、してください」


「これで、お願いが叶うの?」


 俺は頷くことは出来なかったが、エルは力強く頷いた。


「はい。 きっと叶うはずです。 だから、その……お大事に」


 そう言ってから再びエルを抱き上げて屋敷の外に逃げる。

 エルがほんの少し笑った。 少女が「ありがとう」とでも言ったのだろう。

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