少女の願いと嘘っぱち③
高みへと朽ちゆく刃を覚えられなかったときの保険、とは少し違うが、覚えられなくとも何か身になることはということで普通に戦う練習もしておく。
とはいえ、ただの打ち合いだが。
「……遅いな。 遅いなら遅いなりに、やり方があるだろう。 目を使え、俺の癖を読んで次の動きを予測しろ」
「はい!」
一人が景気のいい返事をするが、もう一人は黙って木剣を振るい続ける。 上段、後ろからは真横に薙ぎ払い。
荒い息遣いと、癖で分かる。 速度で上回ってもいいんだが、それだとこいつらの練習にはならない。 同程度の速さにまで落として技量で対処する。
身体を半歩ずらして前からの攻撃を避けて、木剣で後ろから攻撃を防ぐ。 無理矢理軌道を修正して俺にぶつけようとしたところの手に脚で蹴り、木剣を落とさせる。
「無理矢理軌道を変えるなら、しっかりと握れ。 そんなのでは硬い魔物に当たった瞬間にふっ飛ぶぞ」
「はい!」
「後ろのお前は単純に体力不足だ。 死角に回りこんでも、そんなに遅いとどうにもならないぞ。つか、そもそも何と戦うつもりだよ。 多対一で、しかも人間相手以外だと通じないだろ」
「……」
前はもう剣を落としたから問題ないかと思い、身体を捻りながら後ろに振り返り剣を振るう。 後ろの男の剣とぶつかり合い、男の剣が吹きとぶ。
勝負は着いたかと木剣を置いて、二人を見る。
「まぁ色々と言いたいところはあるが、何よりも筋力がないな。 今は速さを合わしたが、この程度の速さだとゴブリンに剣をぶつけるのがやっとだ。 二匹とか相手ならばまず勝ちが望めない」
故に、そう言ってから男達を見る。
「高みへと朽ちゆく刃の練習と同時に、走り込みと素振りぐらいしておくといい」
息も荒らくなっていて、これ以上の練習は無理だろうと判断して、今日はこれで終了と伝える。
ロトも技量の割に体力がなかったが、勇者は皆そういうものなのだろうか。
「……アキさん。 と、鬼さんと佐藤さん、お疲れ様です。
お水です、よろしければ飲んでください」
「あ、ありがとっす」
俺よりも先に礼を言った少年を睨む。だが、少年は睨まれている意味が分からないと言うように首を傾げる。
「どうかしましたか? あっ、先に水を取ったことを……」
「いや、大したことでは……あるんだが、俺の問題だ。 気にするな」
鬼と名乗った少年は不思議そうにしながら水を飲む。 佐藤という男は鬼と名乗る少年よりも体力がないのか、礼を言う余裕もなく水を受け取ってそれに口を付ける。 礼を言わないのも言わないので腹が立つ。
最近エルと二人きりでいる時間が短いせいか、ちょっとしたことで嫉妬してしまう。
悪い傾向であることは分かっているが、エルが最近キスをしてくれないので仕方ない。
身体を動かしたが、それも全力には程遠い動きだったせいか、なんとなく収まらないというか動き足りない。
「……俺も素振りぐらいしておくか」
そう本格的に戦う予定はないが、腕が鈍ってエルが守れないなんてことがあってはならない。 木剣から金属製の剣に持ち替えて、素振りを始める。
「アキさんは、努力家ですね」
「暇をするのが性に合わないだけだ」
エルが見ているので余計に気合が入る。
上段からの一式、振り上げの一式、横振りの。 と幾つかのパターンで一式を空に放ち終えて、身体に違和がないことを確かめてから、息を整えて縁を袈裟に切り易いように構える。
袈裟に振り切り、振り上げ、振り下ろし……一息もおかずにひたすら剣を振り回す。
二式。
一式と同じように、だが途中の一瞬だけ、ブラす。
三式。
四式の移動は人が多い場所でするわけにはいかないので、次は二式と三式の組み合わせ。
連続で、剣による打撃を行う。 これは上手くいかず、途中からただの二式になる。
また荒くなった息を整える。
俺も体力がないな。 村の中だと瘴気が一切ないので、走り込みぐらいなら出来る。 が、その場合エルと離れることになるのでやめておく。
剣を振るうのに足りない体力は、剣を振るうことで身につけようと決めて、ひたすら剣を振り回す。
二式と三式の組み合わせ、それはいつまで経っても成功はしなかった。
集中して剣を振り回している内に見学しているものが増えてきていることに気がつく。 汗もかいているし、これぐらいで充分か。
「エル。 そろそろまた街の方に行くか?」
「えっ、あっ、はい。 質問などがなければ、もうこれで今日は終わりにしましょう。 ついでに幾つか本を買ってきますね」
本は高価なものではあるが、俺がエルを背負いながら走って魔物を刈り続ければ一時間もあれば一冊買う程度には金も入る。
勇者の村は、ほとんど収入がないので、効率よく教えようとすると俺たちで本を買う必要がある。 そこまでしてやる義理は……まぁ、一応滞在しているので全くないわけではないので、これぐらいはいいとしよう。
人格がエルに影響されて変わってきたような気がするが、まぁひたすらやるべきことをやり続けるだけの奴よりはいいだろう。
近くに寄っていたエルの身体を抱き寄せて、家に戻る。
「んぅ、アキさん。 ここでは恋人ってことを秘密にって話なんですから……」
「あれぐらいいいだろ。 最近は……鎖を解いてからは本当にエルと触れ合えるのが少ないと思うのだが」
「あの時は、アキさんと交際出来た喜びとかですごくテンションが上がっていて……。 ん、ここの中だったら、あーんぐらいならしてあげますけど。
……何より、そういう気持ちにはなれませんよ」
「まぁ、少しは分かるが」
少女のことが気にかかっているのだろう。 元々死ぬことが分かっていたのに、なんて馬鹿なんだ。
……とは、俺も言えた立場ではない。
「願いを叶える道具って、本当にあるのでしょうか?
すみません。 変なことを聞きました」
「仕方ない。 探すか……」
見つかることはないだろう。 あったとしても、そう簡単に見つかるようなものは、もうとっくの昔に使われているだろう。
探すのはエルの慰めのためだと割り切って、エルの頭を撫でる。
あれ、いや……。
「少女を助ける方法、あるかもしれない」
「本当ですか!?」
エルが俺に飛びつくように迫り、目の前にくる愛しい人の顔に少し頭に血が上り感覚がする。
「あ、ああ。 治癒魔法や、薬学の分野では不可能なものでもなんとか出来る技術がある」
「不可能なものがなんとか出来る技術、ですか?」
「あまりの曖昧さ故に随分と昔に枯れた技術で、今になっては使い手はいないと言われているが……」
「どんな技術なんですか?」
エルは強い期待を込めた目で俺を見つめる。
「まじない術」
「えと、魔法の原型でしたっけ……?」
「ああ、昔に使われていた技術で、圧倒的に大雑把且つ不確実な事象を起こせる。 だが、魔法とは違って、出来ることに限りがない。
まじない術で治療法の発見、延命、自然治癒、運の向上などを手当たり次第に願えば……あるいは、可能性はある」
「不確実……」
エルは考え込むような様子を見せてから頷いた。
「やるしか、ないですよね」
実用性がない故に、ほとんど失われた技術であるまじない術。 それを探すことに決まった。
少女が死ぬまでにどうにか出来たら良いのだが。




