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勇者な彼女と英雄への道  作者: ウサギ様@書籍化&コミカライズ
第五章:信じるのは、あなただけで
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醤油の勇者と勇者の村④

 早速、エルと俺の元に人が集まった。

 この国は魔法大国ということもあり、魔法が主に利用され、それを中心とした文化が形成されている。


 例えば飲み水。 飲み水は殆どが魔法、あるいは魔道具に魔力を注ぐことで賄われている。

 暖房や調理に使われる燃料。 それも殆どが魔法か魔道具で、使ったとしても魔力と併用して使われる程度だ。

 建築。 木製の家は殆どない。 魔法により生み出された均一な石を積み上げて、それを魔法で固めたものに色々と付け加えて作られる。


 それ以外も、だいたいの事柄が魔法によって行われて、魔法によって賄われている。


 流石は魔法大国というわけではなく、反対に魔法がなければ何も出来ないと言える。

 川に流れている水は飲み水には適さなく、大抵の川の水は飲めば腹を下す。 地下水も多くはなく、水脈も深すぎてそれを取ることも難しい。


 家の建築も、国が草原ばかりで木が少ないせいで、木材が非常に不足しているために魔法が使われている。

 燃料も同じだ。


 何もない国であるがために、使える技術を最大限に伸ばしたが故の魔法大国である。 つまり、魔法の使えない勇者達は水を飲むことでさえ金が必要であり、それを甘んじて受け入れるしかなかった。


 だからだろう、エルと俺の前にいる勇者はこの村の三分の一もいる、現在仕事をしていない勇者全員が参加している。


 流水は村長としての仕事、夕永はあの飲食店に戻っているので、昨日の歓迎会での顔合わせを除けばほとんど知らない奴等だ。


「とりあえず、俺がやる」


 エルの緊張が解れるまでは、俺が主体となってすることにする。 年齢が俺よりも上の奴等が多いからか騒がしくなく、やりやすそうだ。


「えーっと、魔法がやりたいってことでいいんだよな? 剣は後回しでいいな?」


 頷いた人達を一瞥してから、軽く頭を纏める。


「面倒臭いから、まず魔力を感じてもらうか……。

とりあえず、並んでくれ。 今からお前らの身体に魔力を流していくから、それを感じてくれ。 感じられなかったら他の方法を使う。

すげえ気持ち悪い感覚になるやつもいるから、覚悟はしていけ」


 エルが「僕には取らなかった方法を……」というが、当然だろう。 エルと違って大切でもなんでもなければ、気持ち悪い思いをしてもどうでもいい存在だしな。


 素直に一列に並んだ奴等の手を取り、魔力を流し込む。

 自分の物ではない純粋な力が入り込み、まるで無理矢理血を注ぎ込まれるような感覚に顔を歪めるが、俺がされたときのように気持ち悪すぎて悶えるということはなかった。

 それから十人全員に魔力を注ぎ終えると七人ほどが魔力を感じられるようになり、残りはよく分からなかったのか首を傾げたり人に感覚を聞いたりしている。


 才能がないのかもしれないなと思いながらも、エルがやった方法をその三人にしてもらうことにする。


 持っていた3つの魔道具、水を出す魔道具が一つと火を出す魔道具が二つ、水は同い年ぐらいの男に、火力が低い火の魔道具は二十行くか行かないかぐらいの女に、火力が高い方は二十代後半程の男にそれぞれ渡して、火が出るかもしれないから取り扱いには気をつけるように言っておく。


 魔力が感じられた奴には魔力を動かすことが出来るように練習するように伝える。


「まぁ、とりあえず以上だ。

魔力を感じられるようになった奴は努力と才能次第だが、数日の内には魔道具程度は最低限扱えるようになると思う。

そっちの三人は、魔力がないわけではないからな……まぁいつかは出来るようになるだろう。

共通して教えられることはここまでだな。 気になることがあるなら俺に聞きに来い」


 知識だけなら充分以上にある。

 魔法の実技的な側面はこのぐらいだろう。 知識の面は幾らでも教えられることはあるが、それこそキリはないし、実技的な面をこれ以上教えるのは感覚的過ぎて伝えるのが難しく、魔力の操作の次の段階の魔法を使うのは俺には出来ない。


 幾つかの質問に答えてから、質問がこれ以上はないことを確認してから、今日はここまでと伝えて解散する。


「ああ、あと、明日もまたここでやるから、来たい奴は来たらいいように全員に伝えてくれ」


 最後にそう伝えてから、エルと共に村の中の瘴気を浄化するために散歩をする。


「魔道具を渡したから、また買いに行かないとな」


「そうですね。

あと、他の人にも練習用と日常生活用に買った方がいいかもしれません。

……それと、そこまでする義理があるかは分からないですけど、安全の為にギルドで売っていた魔石割り人形くんもここに渡せるといいかもです。

ここから街まで近いとはいえ、魔物も出ることありそうですから」


 あの値段の物を人にあげる為に買うのか……。 しかもあまり気に入らない奴等だ。

 少し迷うが、エルがそうした方が良いのだと思うのならば、俺が近辺の魔物を狩って金策をして買っても良いだろう。 飯と宿は村の連中の世話になるので、しばらくしたら買える程度には溜まるだろう。

 剣と魔法を教えるのと雑務と狩りで、休む暇はなさそうだが、それも仕方ないか。


 一通り村をまわり終えて、村の中から魔物が発生することがなくなってから、一旦家に戻る。

 エルの体力では続けて街まで行くのは辛いだろうし、そろそろ用意してくれるらしい昼飯が出来上がる頃だ。

 少し休んでから昼食を食べに行くことにする。


 村での食事は食堂のようなところで食べられるようだが、どうにも食堂が手狭に感じる。 三十人全員がいるわけではないのに、ほとんど満席だ。

 元々これほどの人数が集まるとは思わずに設計したのかもしれない。


 食事の準備の手伝いをしようかと思ったが、手際が良い中に入り込めるとは思えずに空いた席に二人で座ると、隣に座っていた男が話しかけてくる。


「さっきはありがとな。 結構魔力が動かせるようになってきた」


 成長が随分と早いな。 エルよりも魔力も多いし、魔法関連に優れた才能があるようだ。

 確か名前は……。


「金田だったか?

魔力もそこそこあるようだ。 練習すれば魔法使いとしてでも生きられる程度にはなりそうだな」


「おっ、そうなのか?

……村長の意向であまり現地の人は入れないようにしていたけど、やっぱりいた方がいいよな。 ぶっちゃけ異世界に来たのに村に引きこもってるだけだし」


「それは知らないが……。 嫌ならば出ればいいんじゃないか?」


「そう言っても、俺は能力が弱いからなあ。 エネルギー生成って何に使えばいいのか。 飯を食わなくてもいいのには助けられたが」


 金田と会話をしていると、エルが不思議そうに小さく呟いた。


「……エネルギー生成?」


「ああ、なんか、しばらく飯を食わなかったり、息をしなかったりしても大丈夫な感じ、ぶっちゃけ使い道がよく分からん」


「……その、あの、魔力とかは、作れないんですか?」


「あっ、そうか。 レベル上がったらそういうのもいけるのかもしれないな。

今は無理っぽいが。 失念してたな……まだレベルを一つも上げてないからレベルが上がることを忘れてた」


 随分と間抜けだな。 だが、エルの予想の魔力を生成出来るとしたら、非常に強力な能力かもしれない。

 魔力切れという魔法使いにとっての命題とも言える問題の解決、あるいは緩和が出来たら強いなんてものではないだろう。


「力尽きることなき兵。 この能力、意外と悪くないな」


 妙な名前の能力だな。 エルやロトのものとは名前の付け方が随分と違う。そもそも能力の名前って誰が付けているんだろうか。 女神だろうか……それにしては、エルの能力とは名付け方が随分違う。


 まぁ名前なんてどうでもいいか。

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