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勇者な彼女と英雄への道  作者: ウサギ様@書籍化&コミカライズ
第五章:信じるのは、あなただけで
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醤油の勇者と勇者の村③

 荷物を使いやすい場所に移動させた後に、家の外が騒がしくなっていることにエルが気がつき、外に出る。


 騒がしいとエルが言っていたが、周りに人気はなく音も聞こえない。


「こっちです」


 相変わらず耳がいいな。 歩いてやっと聞こえるぐらいなのに、部屋の中からでも聞こえたのか。

 だが、そんな静かなのに騒がしいとはどういうことだろうか。


 その音の元に向かうと、その言葉の意味が分かった。


「お祭りの準備……いえ、お祭りって程の規模じゃなくて」


「歓迎会ってやつか」


 思ったよりも歓迎されている。 というよりかは、誰か新たな住人が来るたびにしているのだろう。

 大した規模ではなく、外で宴会をやる程度に見えるが手慣れていて丁寧だ。


「悪いことしました、ね」


 先ほどの村長への警戒した態度のことか、それとも準備を覗いてしまったことか。 エルは手伝いたそうにしているが、歓迎される側が動く訳にもいかない。


「とりあえず、まだ時間がかかりそうですし、村の中の瘴気を浄化しながら散歩でもしましょうか」


 レベルアップしたエルの浄化は、浄化する物を選択が出来る。 それでもエルの身体の浄化は防げないが、こういった無差別に浄化したらいいというものではない時には役に立つ。


 光量も限界まで下げて、出来る限り広範囲に浄化をしていく。 現在は半径20m程の球形に浄化が出来る。

 さほど広くない壁の中をゆっくりと練り歩き、歓迎会の近く以外の瘴気は取り除き終えた。 尤も、ゆっくりとではあるが流れ込んでくるので、また明日にでもした方がいいだろうが。


 そろそろ戻っておいた方がいいかと判断して、与えられた家の中に入る。


「……とりあえず、しばらくの滞在はしましょう。

あちらが歓迎してくれるなら、その……嫌なところもありますが、返さないと。 とりあえず数人が魔法を使えるようになるまでは、聞き齧りの知識を伝えたりしようと思います」


 それは、いつまでかかるか分からないな。 エルの場合は数日、それも少し空いた時間で出来たから「普通」の学ぶ早さが分からないのだろう。 ロトのやつも同じようなものだったので、それに拍車をかけている。

 いや、それとも勇者は魔法の習得が早いのが普通なのか? 月城はまだ使えるようにはなっていなかったが、可能性はあるか。


「俺はその間どうするか。 エルの近くからは離れられないからな。 離れるつもりもないが」


 瘴気のこともあり、例えばエルが教えている間に魔物を狩りに行く、なんてことは出来ない。


「剣を教えるとかはどうですか?」


「教えられる程に熟達はしていない。 が、ここの連中よりかはマシか」


「まぁ、剣とか見たこともない生活をしていましたからね。 ……やっぱりアキさんが教えたりするのは不安が……」


「なんとかなるだろう。 ……来たぞ」


 魔力の感知で夕永の魔力を感じ取り、立ち上がる。

 エルも遅れて立ち上がり、扉に向かう。 剣は持たずに行くか、ナイフは懐にしまっているから問題はないだろう。


「おーい、二人ー、いるか?」


 夕永が扉をたたき、俺たちを呼ぶので返事をしてから扉を開く。


「おお、いたいた。 今から歓迎会するつもりだけど、いけるか?」


「あっ、はい。 いけます。 ありがとうございます」


 夕永の後ろに着きながら、だいたいやることを知っている歓迎会へと向かう。


「まぁ、歓迎会ってもちょっと飯食って、酒飲む奴は酒飲んで、顔を合わせる程度のものだから、あまり緊張しなくても大丈夫」


 エルが俺にぴったりとくっついていることを緊張のためと解釈した夕永は言った。


 家をまちまちと建てられている中、大きく開いた広場のような場所に机と椅子が十分な間隔を持って並べられていて、そこに座っている奴がいたり、まだ飯を運んでいる奴がいたりとしているが、随分と行儀がいい。


「お、主役がきたことだし、始めようとしますか」


 一人前に出ていた流水が、風に長い黒髪を弄られながら、注目を集めるためか少しだけ大きな出した。


 エルが三十人は越えそうな大勢から見られて怯みながら、流水の指示に従い流水の横に移動する。

 俺も不躾な視線を感じながらもエルの隣に並び立つ。


「えーと、こっちの日本人の女の子はエルちゃんで、それとエルちゃんの仲間のここの世界の人がアキレアくん。

仲良くしてあげてね」


「えと、ご、ごしょ、ご紹介させていただきました、エルです。 その、その色々とご迷惑をお掛けすると思いますが、しばらくのあい、間……よろしくお願いします」


 エルが涙目で俺へと目配せしたので、必要ないかと思っていたが、続く。


「アキレアだ。 これからよろしく頼む」


 何人かが椅子に座りながら頭を下げたのを見て、俺も軽く頭を下げて会釈をする。


「んじゃあ、これ以上エルちゃんに無理させるのは悪いし、好きに食べたりしてよ」


「……はい、すみません色々と」


 エルが申し訳なさそうに頭を下げ、流水は気にするなと伝えたあと、食べ物を摘みにいった。

 俺たちが、正確にはエルが動かなければ歓迎会は始まらないといった様子なので近くの空いている席に座り、エルが周りの人にぺこりと頭を下げる。


「えと、よろしくお願いします」


 エルが一番端に座り、俺はこの横に座る。 俺のエルの隣でない方のまだ幼さの残した、弟のレイと同じ程の年頃の勇者が俺の眼を見て、少し椅子ごと身体をずらす。


「こんにちは」


 警戒している。 それが容易に分かるも、その警戒を解く術は分からない。 エルに助けを求めようと一瞥すると何か焦っているので頼りには出来ない。


「ああ、こんにちは」


「こっちの人なんだよね、いや、ですよね」


「そうだな」


「そっちの子の仲間なんですね」


「ああ」


 それで会話が途切れて、少年が気まずそうに頰を掻く。

 腹も減っているから早く飯を食べたいところだが、この状況では手が出しづらい。


「俺は浩二って言います。 よろしく……」


「ああ、よろしく」


 そんなぎこちないやりとりを村の連中としていき、だいたいの住人と顔合わせを終える。 灯こそあるものの、夜も遅くなってきた頃になり、流水が再び近づいてきた。


「楽しんでる? ……ようには見えないね」


「すみません」


「いや、無理矢理楽しめなんて言わないよ」


「はい、すみません。

あっ、あの、僕、魔法が使えるんですよ。 アキさんと僕とで少しは教えられるので、よろしければやり方だけでも……」


「えっ、使えるんだ! すごい! じゃあ、早速明日からそれをみんなに教えていってよ。 人集めるからさ」


 話は滞りなく進み、周りの数人にエルが幾つかの魔法を見せたあと、明日の朝から希望者には魔法を教えることを伝える。

 魔力が多い勇者もいるので、上手くいけばそこそこの魔法使いになる奴もいそうだ。


「えと、それとこちらのアキさんも剣が扱えるので、それも出来る限りは……」


 エルがこちらに目配せをしたので頷く。


「ああ、希望があるのであれば丁寧にとは言わないが教えはする」


 流水がわざとらしく「おおー」と驚く。 少し顔を歪め、明日の朝には始められることを伝えてから、疲れた表情をしているエルを連れて与えられた家に戻る。


「すみません……。 ああいった場は慣れなくて。 助かりました」


 あのままだと長いことあの場から抜け出せないのが続いていただろう。 数人、酒を飲んで酔い潰れていた奴がいたので途中に抜け出したと言えど、それほど印象も悪くはないと思う。

 何よりエルは子供にしか見えなければ、流水や周りの人間からも子供扱いされていたので、一応主役とは言え、夜も遅くなってきたときに疲れを見せて戻ったことに不快に思う奴はいないだろう。


「明日から、また囲まれるかもしれないがな。

他にも何かしら作業があるだろうから何人くるかは分からないが」


「うぅ……気が重いです」



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