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勇者な彼女と英雄への道  作者: ウサギ様@書籍化&コミカライズ
第五章:信じるのは、あなただけで
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醤油の勇者を探そう⑤

 母親のことを中心とした、エルの思い出を聞いていく。

 嫌だったこと、悲しかったこと、それと少しだけ嬉しかったこと。 その思い出は当然俺の知らないことばかりで、だけれども分かりたいと思いながら耳を傾けて、時々「ああ」と相槌をうって話を聞いていく。


 時々エルは水を口に含み、話して乾いたのどを潤わせる。 好きだった少女のことを聞き逃さないようにしているために少しだけ疲れる。


 しばらく話してもらっていると、エルが少し笑ってから、言う。


「アキさんのことも、教えてください。 僕も、アキさんと同じように、知りたいんですよ」


「……俺のことか? そんな話せるようなことは……」


 エルは笑って言う。


「なんでもいいです。 何気ない一日のことを丁寧に一日中語ってもいいですよ?」


「一日を語るのに一日かけてたら世話ないだろ。……何か聞きたいことがあるとかは、ないのか?」


「聞きたいことですか……。 聞きたいような、死んでも聞きたくないようなことは一つ、あります。

……僕の前に交際していた女性は……いますか?」


 エルが恐る恐るといった様子で尋ねてくる。 何故か左手で鞄の中を弄っているのが恐ろしくてならないが、答えることはエルの嫌がるようならことではないので問題ない。


「いないな」


「ん、そうですか。 いひひ。 そうですよね。アキさんはそういったことにうつつを抜かすような……」


「もう、うつつを抜かしているがな」


 そう言うとまたエルは笑う。


「じゃあ、初恋とかは……あった場合は誤魔化してください」


「いや、そりゃあるだろ。 なかったら交際なんてしていない」


「ん……あっ、えっ……。 なんで、そんな口説き文句が出るんですか!もしかして、実はアキさんは女たらし……」


「違う。事実としてそうだからそうだと言っているだけだ」


 エルが顔を赤らめながら、ブツブツと「ずるい」や「卑怯」と文句を言う。 何でそんなことを言うのだろうかと考えていると、外が騒がしくなっていることに気がつく。

 何事かと、感覚を研ぎ澄まして外の魔力の感知をすると、魔物が数匹現れたことに気がつく。


「魔物が出た。 手こずっているようだから行ってくる」


「あっ、僕も行きます。 移動しながらだと、浄化しないともしもが起こるかもしれないので」


 そこそこ大きい魔力なので危険かもしれないとと思いそれを理由にエルがついてくるのを止める。


「……アキさんの近くの方が安全ですよね」


 エルは何の気なしに、とぼけた表情をして言った。 ああ、なるほど。 先程のエルの「ずるい」というのはこういうことか。

 俺は剣を持って馬車から飛び出した。


 魔力のある場所に向かうと、異様に巨大化している角の生えた兎。 体高で2mはありそうだが、ゴブリンがホブゴブリンになるように進化、成長したのか?

 その周りにオークや、ホブゴブリンが数体。 オークもよく見る大きさよりも一回り大きくなっていて、強いものであることが分かる。

 それに対して、護衛として雇われている人間達は連携こそ上手くやっていて、遠距離からの魔法や弓矢で近づけないようにはしているものの決定打がない。 いや、この場合は決定打だけでなく地力が足りないのかじりじりと押されている。


「助太刀する。 一気に仕留める、魔法を撃ち止めろ!」


 剣を鞘から引き抜き、飛んでいる魔法の隙間を縫うように、魔法を追い越しながら魔物共の前に躍り出る。

 一体目のオークを斬り伏せたところで、驚いている人間の声が後ろから聞こえる。 返す刀でホブゴブリンの首を裂き、巨大化兎の跳躍を避けながらその脳天に剣を突き刺す。


 武器を失った俺に血走った目を向けるオークとホブゴブリンの攻撃を避けて、手元に小さいシールドを作る。


「シールド」


 思い出すのは、暴走時に使っていた魔法。 作ったシールドを握り潰し、破片の一つに魔力を無理矢理込める。


「フラグメント」


 あの時とは違い、一つの破片。 それを手に持った状態で腕ほどの大きさに巨大化させる。

 それを投擲。 成長している筋力により放たれたそれはホブゴブリンの一体の首に突き刺さる。


 ロトを見ていて感じた遠距離攻撃の有用性。 それを得るために思いついた簡易的な武器の創造だが、上手くいった。


 残りの一体のオークも同じように仕留めようかと思ったが、手元に武器はなく、シールド・フラグメントも魔力の消費が多いので連発はしたくない。

 後ろに跳躍して戦線を離脱し、近くの強そうな男に言う。


「武器を失ったから、残りの処理を頼む」


「あ、ああ。 火属性を中心に撃て!」


 幾人もの魔法がオークにぶつかり、魔力と熱量の奔流が巻き起こる。 剣で殺した時とは違う余剰の多い破壊はオークの身体を吹き飛ばし、焦がして殺しきる。


「攻撃止め! 魔物の死亡の確認と、周囲の警戒を」


 声をかけた男は隊長だったのか、幾つか指示を出したあとに俺の元にくる。 同時にエルが寄ってきたので、俺もエルに近づいてから男の方を向く。


「ありがとう、 正直、助かった」


「いや、勝手に飛び出しただけだ。

魔法は不得手だが、剣の腕には多少覚えがある。 用があるようなら呼べばいい」


「……助かる。

あなたが仕留めた魔物の素材はどうする。 解体して持っていかせようか?」


「魔石だけでいい。 荷物持ちがいないから、嵩張るものはいらない。 残りは好きにするといい、……焼くというのならば手伝うが」


「いや、ありがたくもらっておく。 じゃあ、魔石は後で運ばせるな」


 男に礼を言ってから、エルに返り血を浄化してもらう。

 他に魔物がいないことを確認してから、馬車に戻る。


「やっぱり、アキさん強いですよね」


「……多少な。ある程度の自信はあるが、やはり魔力の不足と魔法の種類が一種しか使えないのが痛いな」


「そこは僕がカバーしますよ! それに、魔道具だったら使えるんですから、攻撃出来るようなものを購入しただけで戦力アップです!」


 確かに、徐々にエルの魔法の種類は増えていっている。相変わらず適正のせいか攻撃に使えるような魔法……正確には、指向性を持って動いている魔法が使えないので攻撃の手段にはなり得ないけれど、治癒魔法を始めとして、体力の回復、除湿、加湿、発光、水を生み出す、土を生み出す、温度の操作、などとあれば便利な魔法をたくさん覚えたり、作ったりしている。


「ああ、ありがとう」


「それで、見て学ぶのってどうするつもりなんですか?

見たところ、集団戦の上に魔法中心みたいですけど……」


「まぁ、それは基本中止で金策をメインにしたらよさそうだ。 まぁ、さっきのでもう充分かもしれないが。 あれだけの大物だったらいい値段になるだろう」


「ん、もしかしたらですけど、魔物の質も数も増えてきているので……魔石の買い取り値段が下がっているかもです」


「……本当か?」


「はい。 ロトさんも少しそのことを懸念していたようですし、もしかしたらもう安くなってるかもしれないです」


 さっきのでしばらくはゆっくりしても問題ないかと思ったが、ままならないものだ。


「ん、ですが、アキさんも強くなっているのでお金はそこまで心配いらないかもしれません!

何か新しい魔法を使えるようになっていましたし」


「……世辞はいらない。

あれは新しい魔法ではなく、砕いたシールドの破片に魔力を込めただけだ。 エルにでも出来るだろう」


「いえ、僕はその、シールドが使えませんから……」


 エルは目を逸らして、水を注ぎながら言う。

 嘘だな。 すぐにそれが分かる。

 シールドは極々簡単な魔法だ。 動きもせず、魔力を固めただけで出来るもので、初めて使う魔法がシールドという者も少なくない。

 エルは治癒魔法という難しい魔法から入ったが、もう使えるようにはなっているだろう。 何より態度が白々しい。


 問い詰める気にもならず、黙ってエルからコップを受け取る。

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