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勇者な彼女と英雄への道  作者: ウサギ様@書籍化&コミカライズ
第一章:名無しな俺と名騙りの勇者。
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役に立つ勇者

 ポケットの中で硬貨がぶつかり合って音を鳴らす。

 そのまま買い取らせてもらった袋の中にはホーンラビットの死体が入っていて、これから街の外で焼いて食べる予定だ。


 手のひらほどの火を起こす魔道具は安かった。 いや、正確には安い魔道具を雨夜が見つけていたのだ。


 雨夜は俺がいない間、本を読んでいただけでなく、馴染みの受け付け嬢やギルドに来た人の中で話しやすそうな人から、この街について聞き込みをしていたらしい。


 そのおかげで質はそこそこだが、安く幾つかの魔道具や生活に必要な道具が手に入った。


「……僕、ちょっと男の人が苦手……あっ、すみません」


「いや、いいよ。 気にしてないから」


「だから、男の人の話は聞けてないので、情報も片手落ちみたいな、ものです」


 俺とは話しをするため、雨夜は俺には心を開いてくれているのかと思ったが、どちらかと言うと、必要だから話しているといった感覚が抜けない。

 事実、必要のない話は一切なく歩いている時の距離も一定を保たれている。


 避けられてはいるが、恐らく嫌われてはいないので俺も距離を置いて接すればいいだろう。

 拾ったから世話はするが、苦手ならば、それ以上干渉する必要はない。


 街の外で、周りに魔物や動物がいないことを確認したあと、雨夜に兎の肉を浄化してもらおうと袋から取り出す。


 取り出した兎の肉を見た雨夜は一歩後ずさり、目を閉じてそれに触れて浄化する。 後の二つも触らせて浄化してもらい、火の魔道具を取り出し、気がつく。


「そういや、燃料ない」


 手を考える。 丸焼きは火力が足りないので無理なので、兎の肉を薄めに切りシールドを地面の少し上に張ってから置いて、下に魔道具を設置する。


「魔法、ですか?」


「そうだけど、そんなに珍しい魔法でもないだろ」


 それだけ答える、肉が焼けるのを眺めていると、雨夜が声をかけてきた。


「そう……ですか」


 シールドの上で、焼けた肉をパンの切れ端でなんとかひっくり返す。

 調味料やら何やらはないが、久しぶりのパン以外の食べ物に涎が出てくる。


「これは食いにくいな。 っと」


 パンの切れ端の上に乗せて、口まで運び、パンごと食べる。

 何度か咀嚼してから飲み込む。 独特な獣くささと口の中に広がる魔力の感覚が酷いが食えない訳ではない。


「不味いけど、食えなくはない」


 兎肉の感想を言ってからら同じように雨夜に渡す。 受け取った雨夜は大口を開けてかぶりつき、盛大に顔を顰めた。


「何ですか、このモワッとするのは。 噛めば噛むほど、モワッと……」


「それは魔力だ。 多分魔物だから、噛めば魔力が出てくるんだと思う」


 魔物から出てくる魔力は、噛めば漏れ出て口内に広がる。 魔力は毒ではないが、自身の魔力と反発する性質がある。

 そのため魔力の動きで、口の中がモワッとする。 多分しっかり噛まないと腹の中でモワッとしてしまうので、このモワッと感は甘んじて受け入れるしかない。


 その後、二人で顔を顰めながら食べていると、一匹分の兎とパンの切れ端がなくなったので宿に戻ることにする。



 夕暮れ時で赤く染まる街。

 不意に、昔のことを思い出す。

 俺が子供の頃に父親と歩いた夕暮れの道。 父親は俺と同じ赤黒い髪色で、夕日が出ていたらより赤く見える。


 そんな赤い髪が、血のように見えて仕方なくて普段寡黙であったこともあり、近寄るのすら憚られるほど恐ろしかった。


 隣を歩く少女を見る。 黒髪は赤く染められて、いつもの俺の髪色に少し似ている。

 あの時の俺のように、雨夜も俺を怖がっているのだろうか。

 思えば、今の俺は父親と似たり寄ったりな無愛想な奴になっているかもしれない。


 あの時の父親のように怖がられているとしたら、なんとかした方がいいだろう。

 なんとかするには、交友を深めるしかないか。


「なあ、雨夜」


 声をかけたところで何を話せば良いのかが分からず、開いた口を閉じる。

 不思議そうに俺の顔を見ていて、俺が雨夜に目を向けると目を逸らされる。


 怖がられている。 そう理解して、何も思い浮かばず「何もない」なんて言って誤魔化した。


 着いた宿でいつもの部屋を取り、雨夜が浄化したために異様に綺麗になった部屋に入る。

 若干寂しくなったポケットの中身を取り出して、机の上に置く。


「明日、金がないと何も食べれないだろ。 とりあえず、持ってろ」


 一応渡しておこうと思ったのだが、雨夜は首を振って拒否する。


「良ければ、ですけど……。 僕も、着いていっていいですか?


 遠慮がちに、雨夜は言う。 理由を問えば、少し言葉を考えてから話す。


「高く売れる魔物の卵があるんです。 でも、普通の鳥の巣に托卵する性質がある魔物なので、性質とか、跡とか細かく分からないと見つけれないみたいです」


「分かった。 じゃあ、明日はそれを取りに行こう。

だが、外では絶対に離れるなよ?」


 雨夜が頷いたのを確認してから、寝ようとしたが、ここで寝たらまた昨日みたいに気を使わせてしまうのではないかと思い、横になりそうだった体を起こす。


「ベッドで寝てろよ。 変な気を使うなよ」


 それだけ言って寝転がり目を閉じる。 眠りそうになりながらウトウトしていると、左腕に何かが当たり、部屋が少し明るくなる。


 ああ、雨夜の浄化か。 疲れていたこともあり、口を開くや目を開けるのも億劫で、そのままいたら眠っていた。


◆◆◆◆


 目を覚ます。

 雨夜も先に目を覚ましていたのか、眠たそうに目を擦りながらベッドの上で座っていた。

 自然に目が覚めたというよりか、わざわざ目を覚ましたように見えるのは俺に合わせて出るためだろう。


「おはよう、ございます」


 言い始めてから顔色を伺うために一瞬言葉を止める。 雨夜のする、妙な話し方にも少し慣れた。 顔色を伺ってばかりなのは、俺が信用ならないからだろう。


「ああ、おはよう」


 挨拶に合わせて笑いかけてみるが、ぎこちなかったせいか目を逸らされる。


 それ以上、無理に何かの話しをするのも、下手な笑顔をする気にもなれず黙って立ち上がる。

 狩りに出てからすぐに寝ていたのに身綺麗なのは、雨夜の浄化のおかげか。 後で礼を言わなければならないか。


 脱いでいたボロボロだけどヤケに綺麗な上着を着て立ち上がる。 不味いけど、兎の肉も弁当代わりに持っていくことにしよう。

 他に必要な物は剣と、袋に一応金も持っていくか。 あと、昨日買った魔道具と道具を幾つか。 ほとんどすべての荷物を持ってから、雨夜を連れて部屋の外に出る。


 宿屋の主人に今日の分の宿賃を先に払い、少しポケットの中を軽くしてから外に出る。


 今日は、ギルドの依頼とは違う卵を探すということなのでギルドには寄らずに直接街の外に出る。


 どうやら森の中にその魔物の卵があるらしく、森のある方向に歩く。

 今日はいつもと違い雨夜がいるので道は雨夜任せにして、俺は周りに気をつけながら進む。


 途中ゴブリンを見つけ、どうするべきか迷う。


 ゴブリンは四匹。 近くに来るようであれば、荷物を置いて一瞬で済ませればいいか。


 意外と探知能力の高いゴブリンはすぐに俺たちを見つけてやってくる。

 ゴブリンは放置しているとずっと追ってきて、まともに休息も取れなくなるので無視するわけにもいかない。


 ゴブリンの姿を見て、明らかに怯えている雨夜に気づき。


「問題ない」


 とだけ言って、荷物を下ろして剣を構える。

 最近より速くなった走りでゴブリンとの距離を縮め、逃げることは諦めたらしいゴブリンの飛びかかりを、まっすぐ胸に突き刺し、手首を捻りゴブリンから魔石を取り出して殺す。

 返す剣で同じように近くにいたゴブリンの魔石を抜き取り、まだ空中にある一匹目の魔石を剣で弾きゴブリンにぶつけて怯ませたところを剣で突き刺し、魔石を抜き取り、呆然としているゴブリンにも同じようにして殺す。


 雨夜の周りに何もいないことを確認してから、落ちている魔石を拾い集めて、元の道に戻る。



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