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勇者な彼女と英雄への道  作者: ウサギ様@書籍化&コミカライズ
第一章:名無しな俺と名騙りの勇者。
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有用な勇者

 雨夜から受け取った依頼書は、三枚。

 ホーンラビットの討伐、ホーンラビットの角の納品、魔草の納品。

 上の二つを同時にしたら効率がいいのは分かるが、最後の魔草の納品は何故一緒になのだろうかと頭を捻る。

 すると、雨夜が口を開けて理由を説明する。


「ホーンラビットのお肉は、食べれます。

僕の浄化があれば寄生虫がいても取り除けますから」


 なるほど納得である。 というか、何故今までそういうことに気がつかなかったのだろうか。 時間がない上に頭が悪いからだな。


「狩ったのを食うって発想がなかったな。

でも、調理する道具とかないぞ?」


「まだ、来てから日が浅いので相場は分かりませんが、火を出すだけの器具なら、三つの依頼が出来たら、宿代のあまりで買えます。

パンはまだ少し残ってますし、明日以降も使えるので節約になると思います」


 ピクリと、節約という言葉に反応してしまう。

 貧乏臭いが、実際に極貧を一週間続けたのでそれも仕方ないだろう。

 ホーンラビットの詳しい情報を聞き、気になっていた最後の依頼を訊ねる。


「分かった、最後のは?」


「群生して、繁殖力が高くて、すぐに増えるみたいなのですが。 ここ二ヶ月は依頼が受けられてないようなので、多分たくさん見つけれます。 それにホーンラビットの生息地と被ってるので手間にはなりません。 上手く見つけれたら、その……腕も、治せるかも……しれないです」


「なるほど。 確かに効率が良さそうだな。 とりあえず今日はそうしてみるか。

雨夜はどうする。 宿で待っていてくれるか?」


 雨夜は首を横に振って、本や依頼が置いてある場所を指差した。


「まだ、気になることがあるので、ここにいます」


 朝早いこの時間帯なら大丈夫だが、後になれば柄の悪い奴等が多くくるので少し心配になる。

 そんな様子を察してか、受け付け嬢が「心配なら、あっちに置いときましょうか?」と受け付け嬢が座っているスペースを指差した。


「悪い、じゃあそうしてくれ。 頼んだぞ」


 何故か受け付け嬢の膝の上に座らされた雨夜は、昨日の初対面の時のように居心地が悪そうにしながら、魔物の生態が書いてある本を読み始めた。

 魔物が好きなのだろうか、奇特な趣味であるが口を出す必要もない。


 受け付け嬢に三つの依頼を受けさせてもらい、本来なら有料である肩に背負う袋の貸し出しを後払いで借りさせてもらった。


 街の外に出て、いつもとは違う方向に進む。

 ホーンラビットは見たことがないが、角のある兎らしいので判別は簡単だろう。

 戦闘能力的にはゴブリンと同じ程度らしいが、群れないので一人での狩りに適している。


 ここまでが雨夜からの受け売りだ。


 雨夜も軽く調べた程度らしいので他にも重大な情報があるかもしれないが、大まかには分かった。

 道中に現れたゴブリンを数匹狩って、生息地とやらにやってきてすぐに角の生えた兎を見つけた。


 雨夜は以前依頼が受けられているかも確認していた。 おそらくホーンラビットの依頼も少しの間は受けられてなかったから俺に勧めたのだろう。 だから、こんなに早くに見つけられた。


「いや、流石に買い被りか?」


 首を捻るが、その答えを知るのは雨夜のみだ。

 兎と相対し、鞘のない抜き身のままの剣を右手で構え、まともに物も握れない左手はぶら下げておく。


 ホーンラビットはゴブリンと違い、明らかに好戦的だ。

 ゴブリンのように逃げ出す素ぶりはなく、紅い目を俺に向けて、跳躍。


 速いーーが、目で追うことが出来ない程の速さではなく、不意打ちでもなければ充分に対応可能である。 何より、単独であるために集中出来るのが大きい。

 しゃがみ込むように体制を下げ、剣を振り上げてホーンラビットを切り裂く。


 ゴブリンと同じ程の強さ、とは思い難い。 いや、跳躍が見切れなければ同じ程の強さに感じるのかもしれない。


 ロト曰く、速く器用であるらしい俺には、力があるゴブリンよりもこちらの方が倒しやすい。


 必要な物は、魔石と肉と角……だいたい全部だ。 多少嵩張るけれど全て持っていくしかないか。

 依頼の達成に必要な最低数は、角は三つ、魔石は一つなので、最低であと二体倒せばいい。


 余裕があれば多く取ってもいいが、魔草の採取もあるので倒しすぎても持って帰れなくなる。


 魔物の割に小さい兎を袋の中に突っ込んで、魔草の群生地を探して歩く。 見た目は見たことがないので分からないが、魔力を持っている草となれば、魔物と同様に近くによればなんとなく分かるだろう。


 歩き回っているとゴブリンが現れたので剣を振り上げて追いかけまわしていると、他の草が一切ない、その一種のみで構成された草原が見える。

 その草原から微かな魔力を感じ、この群生した草が魔草であることを理解する。


 見た目はただの少し背の高い雑草に見えるが、一種のみしか生えていないのは異様で、分かりやすい。


 どれほど取ればいいのか分からないけれど、とりあえず持てそうなぐらいを刈り取ればいいかと思ってゴブリンを叩いてからそこに行く。


 適当に狩っていると、目の前に黒い毛と紅い目をした小動物のような魔物。 ホーンラビットがいた。


「うおっ!」


 驚いて後ろに倒れ込んだのが運が良かった。 真上をホーンラビットが通り過ぎたのを見てから立ち上がり剣を構える。


 ホーンラビットが着地し、もう一度跳んできたところを剣で撃ち落として、脚で踏みつけてトドメを刺す。


 魔草のせいで、魔力による魔物の気配に気がつくことが出来なかった。 これは確かにゴブリンと同じ程度には厄介かもしれない。


 他に魔物が近くにいないのを確認しながら魔草を刈り取り、兎と一緒に袋に詰め込めばあと二匹ぐらいの隙間になった。

 立ち上がって魔草から離れたところで丁度よく見つけたホーンラビットに駆け寄り、剣で刺して依頼の最低限は終了した。

 あと、は帰りながら見つけたらいいだろう。見つからなくても問題はない。

 日が暮れてしまえば店も閉まってしまうので、長居も出来ない。 少し早いが袋を背負って剣を片手に戻る。


 帰り道にゴブリン三匹を見つけたので、追い掛けて剣を振るいゴブリンの一匹の首をを切り裂き、もう一歩進んで、二体目の足を断ち切り逃げれなくしてから三匹目を後ろから剣で突き、魔石をくり抜いて殺す。


 初めに比べ、慣れたものだ。 いちいち一匹一匹討伐していた時に比べて手際もよく、出来ているし、走るのも速くなっている。


 強くなっている実感が湧き、慣れない喜びが頬を緩ませる。

 魔法の練習をひたすらやっていた時に比べて、成長出来ている実感がなんとなく充実している気分にしてくれる。


 街に着いたので、真っ先にギルドに行く。


「あ、おかえり、なさい?」


 雨夜が俺に気がついたらしく、受け付け嬢の膝の上から降りて俺の元にくる。


「魔草ってこれであってるか?」


 魔草らしきものを取り出して雨夜に見せると、手に取り見詰めたあとに、小さく頷く。

 袋を受け付け嬢の前に置く。


「これ頼む。 雨夜は大丈夫だったか?」


「いい子でしたよ。 ずっと本読んでました。

……あっ、ホーンラビットはちゃんとバラしてから来てくださいよ……。

外に出てバラしてください。 それまでに報酬とか用意しておきますから」


「報酬誤魔化したりするなよ?」


 外で魔石と角だけ取り出してから、受け付け嬢に渡して報酬を受け取る。


 多い。 というか、重い。 いつもの数倍はあり、ゴブリンの巣の時に比べたら少ないが、それに迫る程である。

 左腕の治療は出来る程ではないが、予定の火を出す器具ぐらいなら買えそうだ。

 まだ夕方にもなっていないのに……である。



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