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はにー!!■声劇用台本■2:1~2:3

作者: 七菜 かずは

はにー!!


■役表

メリイ:

ジョール:

ディギー:


ねこ (メリイ役が兼ね役可能) :

王妃 (メリイ役が兼ね役可能) :






■キャスト

メリイ

芸術家。学校でデザインの勉強をしている女の子。明るく、誰にでもフランクに対応する。十代~二十代?


ジョール

芸術家。フリーで、いつも絵を描いている男性。年下の芸術家仲間でもあるメリイの友達。二十代? メリイに、恋に似た憧れを抱いている。


ディギー

かなり栄えている酒場の店主。三十代? 誰にでも優しく、おおらか。


ねこ

野良猫。


王妃

この国の王妃様。色気がある。






【開幕】


 町の片隅の広場で、絵を描いている、ジョール。

 彼に呼ばれ、そこへやってくるメリイ。

 集中して絵を描いているせいで、かなり近づいても、メリイに気付かないジョール。

 彼の顔を覗き込んで。


メリイ「ジョール?」


ジョール「あっ、メリイっ」


メリイ「お待たせ。もしかして、凄く待たせちゃったかな?」


 芝生。彼の隣に座る。


ジョール「いや、ううんっ。大丈夫。絵を描きながら待ってたからっ」


 風景画を描いていた。


メリイ「そうなの? で、話ってなに? なんか怖い?」


ジョール「い、いやいや。今回さ、あのー」


メリイ「んん?」


ジョール「今回の展覧会。メリイは、何を出展するのかなって」


メリイ「え? あぁ」


ジョール「お題がさ、難しいなぁって」


メリイ「そうなんだよね。あたしも悩んでて」


ジョール「……“自分を幸せにしてくれる人へのプレゼント作品”……って。んー。メリイだったらさ、何貰って嬉しい?」


メリイ「えー? お菓子とかだったら、嬉しいっ! ケーキだったら、更にめっちゃ嬉しいっ!」


ジョール「プレゼントっていうか、ご褒美? みたいな? 成程ね」


メリイ「もし奥さんが居る人だったらさあ、宝石とかかなあ?」


ジョール「ああ、そうかも」


メリイ「指輪とか……。あっ、ディギーさんだ! おーいっ!」


ジョール「あ、酒場の……」


ディギー「おう。嬢ちゃん」


 ディギー、ジョールとメリイに近付いてきて。


メリイ「ディギーさん、おはようございますっ」

ジョール「おはようございます」


ディギー「うっす。なんだ、こんな真昼間っから、学校サボって日向ぼっこか? はっはっは」


メリイ「い、いやっ! 今日は授業無いんですよーっ!」


ディギー「またうちの酒、造ってくれよな」


メリイ「ええーっ? もお、まぁ何でも創りますとは言ったけどお。あたし、このままじゃ酒蔵屋になっちゃいますよ」


ディギー「はははっ。ちげぇねーや! ん、おいジョール、お前が描いた絵、こないだずいぶん良い値で売れたそーじゃねえか」


ジョール「あっはい」


ディギー「いつも粗末なもんばっか食ってんだろ? たまにはうち来て飲めよな」

ジョール「ははは……」

メリイ「ちょっとディギーさんっ。ジョールはやかましい所は嫌いなんですよっ」


ディギー「あぁ?」


ジョール「えっ、あっ、いやっ! メリイっ! す、すみません、いつもお金なくって……」


メリイ「あたしだって、お金ないけど、酒場には行くよ?」


ジョール「君には酒場でこなせるような仕事があるからじゃないか」


ディギー「嬢ちゃんが造る野菜や調味料や酒は、今じゃ街の名産品になりつつあるからなっ」


メリイ「もー。このままじゃあたし、酒場に嫁入り行くようじゃないですか!」


ディギー「おお、いいな。じゃあ息子と結婚してやってくれや」


メリイ「へっ。ディギーさん、結婚してるんですか!?」


ディギー「あー、してるっつーか、してたっつーか、」


ジョール&メリイ「?」


ディギー「俺バツイチ」


ジョール&メリイ「ええーっ!?」


ディギー「(キリッ★) 今は、お嫁さん募集中だぜ?」


メリイ「あーはいはい。で、ジョール、展覧会の話だったよね?」


ジョール「あ、うん……」


メリイ「ジョールは勿論、絵を描くんでしょ?」


ジョール「うん……。でも、どんなものなら、喜んでくれるのかなって」


メリイ「そっか……」


ディギー「そういや、来週展覧会だったな」


メリイ「そーなんですよ、やばいんですよ」


ディギー「お題は?」


ジョール「“自分を幸せにしてくれる人へのプレゼント作品”です」


ディギー「ほ~。ほうほう。じゃあさじゃあさ、メリイ! 酒造れよっ」


メリイ「ええ~っ? なんでですか」


ディギー「酒が嫌いな奴が居るもんか! お前のオリジナル! 新しくワインなんか造っちまえば、俺も幸せ、お前も幸せ! 審査員ベロベロ」


メリイ「や、で、すっ。あたし、今回はお菓子を作りたいんですよ。パイとかケーキとか」


ディギー「カーッ。なんだそりゃ。女子しか喜ばねえじゃねーかっ」


メリイ「いいんですよ。ティーリアにあげようと思って考えたんだから」


ディギー「素晴らしい親友情しんゆうじょうですね」


メリイ「ねえ、ジョール」


ジョール「ん?」


メリイ「ジョールを幸せにしてくれる人って、誰?」


ジョール「う~ん……。この町の人、みんな、かな。……旅して絵師をやってきた僕が、ようやく流れ着いた、安息の地な気がするんだ。この町のみんな、すっごく優しくって。あたたかくって。まるで、ゆりかごみたいな町」


メリイ「……うん。わかるよ。私も、三年前この町に来た時、同じように思ったもん」


ディギー「……なぁジョール。お前、こないだ売れた絵の金で何買ったんだ?」


ジョール「あっ。新しい画材を注文したんです。今日、雑貨屋に取りに行くんですよ」


メリイ「なに、画材とかだったらあたしが安値で作ってあげるのに!」


ジョール「そんな。君だって展覧会のことでいっぱいいっぱいでしょ?」


メリイ「別に? あたしにかかれば、お菓子を作りながらカンバス造り~くらい。出来るよっ」


ジョール「本当に凄いな。君って」

メリイ「ふふんっ」


ディギー「ジョール、メリイ、夜うちに来いよ。旨いもん食わしてやっから」


メリイ「え?」


ディギー「いっつもパンとイモばっかだろ?」


メリイ&ジョール「それはこっちっ!」(互いを指さして)


ジョール「あっ」 メリイ「あ……」


ディギー「ははははっ」


ジョール「あっ。あっ、あー」


メリイ「あたしはたまにはいいもの食べてますよっ!?」


ディギー「変なキノコとかだろ?」


メリイ「いやいやいやいや!」


ジョール「じゃあ、僕そろそろ」


メリイ「あ、うんっ。ばいばーい」


ジョール「ばいばい」


 ジョール、去っていく。


ディギー「ほんとにお前、菓子つくんの?」


メリイ「なんですか、別にいいでしょ!」


ディギー「残念だなぁ~」


メリイ「まあ、今回が最後の展覧会だしなあ。頑張らないと」


ディギー「あれ? まだあと二年あるだろ? 学校」


メリイ「んー」


ディギー「それに、学校出てからでも展覧会に出展は……」

メリイ「自分の国に帰ろうかなって思って」


ディギー「え……は……。はあ!?」


メリイ「ふはははっ」


ディギー「ちょっと待てメリイ! 聞いてないぞ!?」


メリイ「言ってないしー!? じゃあねっ。ディギーさんっ! 晩御飯、ご馳走になりに行きますーっ!」


ディギー「おい、メリイ-っ!?」






 夜。ディギーの酒場。かなり賑わっている。

 酒場の玄関の鈴の音が鳴る。


メリイ「よい、しょっ。こんばんは~」


 酒場のアルバイトのエミナナちゃんに、「あ、メリイさんだっ。いらっしゃ~い」と嬉しそうに反応され。すると、酒場に居るほとんどのお客さんが、メリイを見て笑いかけたり手を振る。


ディギー「おうっ。メリイ! 今日はまあ、ゆっくりしてけよ」


 一番奥にあるカウンター席まで歩いて行く。

 そこに辿り着くまでに、他のお客さんに、やいのやいのと挨拶と同時に話し掛けられる。「メリイちゃん、こないだ作って貰った薬、よく効いたよ」「メリイ、また美味しいお菓子沢山作って売りに来てねー」

 酔っ払いに絡まれたり、撫でられたりするメリイ。


メリイ「わ、結構今日は混んでますね? あっ、どうも~。はいはい、ありがとっ。毎度毎度っ。毎度ね。はい、こんばんはっ。ディギーさん、いてるのカウンターだけ?」


ディギー「ああ、そうだな」


 「俺の膝の上ならいてるよ~」と、酔っぱらいのおじさんに言われる。


メリイ「んん……。ジョールはまだ来てないのかあ」


ディギー「んっ? なんっかいい匂いがするな?」


メリイ「あっ。気付いちゃいました? じゃーんっ。アップルパイでーす」


ディギー「おー。展覧会に出すやつの?」


メリイ「そうっ。色々作ってて! ディギーさん、感想聞かせて下さいよ」


ディギー「おう。ちょっと待ってな。メリイ、先にこれ飲んでてくれや」


 白ワインを出される。


メリイ「はいっ。ありがとうっ」


 玄関の鈴の音が鳴る。


ジョール「こんばんは……」


メリイ「あっ。ジョール! こっちこっち!」


ジョール「あ、メリイ」


ディギー「おう、来たな」


メリイ「座って座ってっ」


ジョール「お邪魔します」


メリイ「何飲む!?」


ディギー「あ!? もうビール注いじまったよっ!」


ジョール「あー」


メリイ「かんぱーいっ!!」


 三人で、グラスを合わせる。


ディギー「うんっ! 頑張れよ、二人ともっ!!」

ジョール「あはは……」


メリイ「んっくっくっくっ……ぷはぁ、これって今日どんだけ飲んでもディギーさんの奢りなんですよね!?」


 メリイの後ろに座っていたお客さんが、「マジで!? ゴチになりやすっ!! マスター!」と叫ぶ。


ディギー「おいおい。あんまハメ外すなよ?」


メリイ「ジョール、次何飲むっ!? ディギーさん! あたしなんかいい感じの赤と~お肉が食べたいですっ!」


ディギー「はいはい、わかったわかったっ」


ジョール「あ、僕は、この一杯で十分だから」


メリイ「え~? 何言ってんのっ。タダ酒だよ!?」


ディギー「ん。酒が弱ぇ訳じゃねえんだよな?」


ジョール「あ……お酒は強いほうです」


ディギー「飲め飲め。な? ほら、ツマミ」


 海鮮の和え物やらステーキやらを、メリイとディギーの目の前に置くディギー。


メリイ「わーっ。おいしそっ。いたらきまーすっ。あむむ」


ジョール「……いただきます」


メリイ「んむー? なんっかテンション低くない?」


ディギー「どうした?」


ジョール「なんでもないよ」


メリイ「そ? ……って、ジョール、昼間、右手にそんな包帯してたっけ?」


ジョール「あ……えっと」


ディギー「ジョール、画材、いいの手に入ったんだろ?」


ジョール「っ……そのことなんですけど……」


メリイ「??」


ジョール「実は……さっき町のチンピラに絡まれちゃって。画材は全部下水に流されちゃって……はは」


ディギー「は?」


メリイ「なにそれ……」


ジョール「あっ。だからさ、メリイ! 今回は、頑張ってよ。僕はしばらく絵を描けないけど……。……っ!」(悔しくて)


メリイ「っ!!!!」


 酒場を出て行こうとするメリイを、ディギーが引き止める。


ディギー「待てメリイ!! どこ行くつもりだ」


メリイ「あいつら、前々から学校の子たちにもイタズラしたりしてるんだよ。あたしもう許せないっ!」


ディギー「待て。あいつらは大富豪の息子たちだぞ、手を出すのはやめとけっ! メリイだって富豪たちから直接依頼を受けたりしてるんだろう!? 仕事がやりずらくなるぞ!」


メリイ「っ!! それが何!? ジョールはやっと手に入れた新しい画材も、利き手すら傷付けられたんですよ!?」


ディギー「気持ちはわかるが落ち着け……」


メリイ「許さない……」


ジョール「メリイ、いいんだ」


メリイ「なにがいいの?」


ジョール「僕がぼーっとしていたのが悪かったんだ」


メリイ「そうかもね」


ジョール「メリイは、頑張ってね。展覧会。見に行くよ」


メリイ「……っ! ジョール」


 お酒を一気飲みするジョール。


ジョール「っ……。すみません、ご馳走様でした。お休みなさい」


 ジョール、酒場を出て行く。

 騒がしかった酒場内が、静かになってしまう。


メリイ「……なんでよ……」


ディギー「メリイ……」


メリイ「っ!! ディギーさん!! あたしに、依頼書を書かせて!!」


ディギー「えっ。はっ?」






 次の日。

 町の片隅の広場。芝生の上に座り、随分古びた筆と、かなり前に描いた絵を手にもっているジョール。


ジョール「……ふぅ」


ジョール「メリイ、大丈夫かな」


ジョール「逆恨みして、あいつらをやっつけに行かないといいんだけど……」


ねこ (メリイ役)「にゃぁ~ん」


ジョール「あ。……ちちち……」


ねこ (メリイ役)「にゃぁ~」


ジョール「ごめんね、何も持ってないんだ」


 ジョールのところへ、ディギーがやって来る。


ディギー「ジョール!」


ジョール「ん……。あっ、ディギーさん」


ディギー「うっす」


ジョール「おはようございます」


ディギー「で……。どうすんだ?」


ジョール「ここに来てから幾つか描きためておいた絵があるので、貴族や商人に買い取って貰えないか聞いて回ろうかなって」


ディギー「それ、か?」


ジョール「はい」


ディギー「でも、……メリイが言ってたけど、今お前の手元にあるほとんどの絵は、お前が気に入ってて手放したくないやつだって……」


ジョール「背に腹は代えられないですから」


ディギー「……そうか」


ジョール「メリイは、昨日無事に帰れました? そんなにお酒得意じゃないんだって言ってたけど……」


ディギー「ああ……。メリイん家、うちの裏だしな」


ジョール「美味しいお菓子作れるといいけど」


ディギー「あのさ、ジョール」


ジョール「はい」


ディギー「お前、展覧会に描きたかったもんは決まってたのか?」


ジョール「……はい。昨日の昼間に、やっぱりな、って……。思って。描きたいものは、決めてました」


ディギー「もし画材が今手に入ったとしてよ」


ジョール「? ……はい」


ディギー「何日ありゃ描ける?」


ジョール「……三日、あれば」


ディギー「成程な。じゃあジョール、明後日の夜、またうちに来い。……必ず来いよ。じゃあな」


ジョール「えっ。ちょ、ディギーさん?」


ねこ (メリイ役)「にゃぁ……」


ジョール「なんなんだ?」

 





 二日後の酒場。夜。


ディギー「おいメリイ。なぁんで隠れんだ?」


メリイ「だってそろそろジョールが来ちゃうでしょっ!」


ディギー「いや、うーん、カウンターの内側に居座られても、お前座敷童みたいだぞ」


メリイ「えっ誰が!?」


 酒場の玄関の鈴の音が鳴る。


ディギー「(シッ。ジョールが来たぞ) ……おう! いらっしゃい」


ジョール「こんばんは……。今夜はいてますね?」


ディギー「ああ。給料日前だからな」


ジョール「で、ディギーさん、用事って……」


ディギー「これだ。この代金を貰いてぇ」


ジョール「? 依頼書?」


ディギー「ああ。お前の名前で、勝手に俺がうちの依頼書と同じ扱いで掲示しといたんだけどよ」


ジョール「は、はぁ」


ディギー「カンバスと、紙を数枚、あとは……コレ! 12色の絵の具と、筆を四本」


ジョール「……あの、でも、僕、お金が」


ディギー「この20個、一個につき銅貨どうか一枚でいいぜ」


ジョール「えっ!?」


ディギー「なぁに、物好きなおせっかい学生が、こういう研究をしているらしくってよ。酒代の代わりにって置いてったんだ」


ジョール「ほっ本当ですか!? こ、こんないいものを、たった銅貨二十枚でいいんですか!? ぜっ全部ください!」


ディギー「はははっ。おうっ! 毎度ありっ!」


 画材を全て、袋に詰めてジョールに手渡す。


ジョール「ありがとう、ありがとうございますっ! 早速描かないと! これがあれば展覧会に間に合います!」


ディギー「ああ。よかったな。早く帰れ」


ジョール「はいっ!」


 酒場を飛び出していく、ジョール。


ディギー「……」


メリイ「……行った?」


ディギー「ああ」


メリイ「……はぁ。よかった。これで間に合うよね……っ! ごほっごほっ!」


ディギー「メリイ!? っおい、大丈夫か、どうした」


メリイ「あはは……。三日徹夜したせいで風邪ひーたっぽいです」


ディギー「ばっかやろう」(すこし笑って)


メリイ「はぁ、……っ。つかれたぁ」


ディギー「他人のケツ拭いてる場合かよ?」


メリイ「あはは……」


ディギー「どうすんだよ、今度の展覧会。メリイは間に合うのか?」


メリイ「ははは……。材料を揃えるのに三日、私が作ろうとしてたチョコレート細工を作るのに三日はかかります……。だから無理かな」


ディギー「ったく。お人よしが」


メリイ「でも、ディギーさんだって、協力してくれたじゃないですか」


ディギー「んまあそうだが、でもお前がどうしてもって言うからだな」


メリイ「ふふ……。……よかった。きっとこれで上手くいくよね」


ディギー「……ま、こんなん、あんたらしいよ」


メリイ「ありがとっ」


ディギー「ほめてねーから」


メリイ「あれえ?」


ディギー「っ。ほら、起きな。家まで送ってやるから」


メリイ「ぶああっくしょんっ! あーほんっきで風邪ひーたな」


ディギー「ちゃんと寝るんだぞー」


メリイ「はいはい。ふぁぁ」






 展覧会当日。

 ファンファーレの音。


ジョール「ああ、緊張する……」


ディギー「なんで。もう何回も出展してんだろ?」


ジョール「いや、王宮に居るってこと自体が、緊張するんですっ」


ディギー「そかあ?」


ジョール「メリイはまだ来てないのかな?」


ディギー「風邪がようやく治ったからなあ」


ジョール「えっ。風邪!? 風邪ひーてたんですか?」


ディギー「あー」


ジョール「どうして!?」


ディギー「いや、あの、なんつーか、あっ。そうだ。チョコの実を取りに行った時に滝つぼに落ちたらしくてなあ」


ジョール「ぷっ。はははっ。メリイらしい」


ディギー「あぁ」


ジョール「でも、メリイのことだから。意地でもちゃんとしたもの作って来るだろうしな」


王妃「次の者、入って参れ。ジョーン・ダンザルスト!」


ジョール「あっ、はいっ! ……じゃあ、行ってきますね」


ディギー「おう」


メリイ「……ディギーさーんっ!」


ディギー「お。メリイ、おっせーよ。今ジョールの作品を王妃が見ている所だ」


メリイ「はあ、すみませんっ。あー、ようやくベッドから抜け出せて。久々に町で買い物してたら遅くなっちゃったっ」


ディギー「あいつが優勝するといいな」


メリイ「……うんっ。頑張ってきたんだもんね」


ディギー「……ほんとお人よし」


メリイ「あー?」


ディギー「ふっ。なんでもねーよ」


王妃「素晴らしい! この者の絵が最も素晴らしい! 気に入ったぞ、ジョール」


ジョール「あっありがとうございます!」


王妃「ん、まだあと一人出展者が残っておったか? ああ、メリイ・ラティナ、か」


ディギー「あっ」


ジョール「あっ、メリイ!」


 ジョール、メリイに駆け寄って。


ジョール「メリイ、おはようっ」


メリイ「ああ、うん、おはよ」


ジョール「次、メリイの番だよっ」


メリイ「あーえっと……」


ディギー「……」


王妃「メリイ、昨年も一昨年も、素晴らしい作品を出しておったな。今回は、何を?」


ジョール「メリイ、何も持ってないけど……?」


メリイ「あ、あのう、その、私今回は……間に合わなくて。へへ。すみません、王妃様」


ジョール「えっ!? メリイ、ど、どうして」


 メリイ、ジョールに微笑みかけ。ウインクする。


ジョール「……っ! メリイ、もしかして……」


王妃「そうか。では今回の展覧会、優勝者を発表する。……優勝者は、ジョーン・ダンザルストの」

ジョール「――待ってください!!」


 静まる、会場。


ディギー「……ジョール?」


メリイ「……ジョール……」


ジョール「その絵は、メリイが作った画材で描いたものなんです! 王妃様!」


王妃「なんと、そうなのか?」


ジョール「はい! だからその絵は、メリイの作品です!!」


メリイ「な……!」


ジョール「っ」


ディギー「ははっ」


王妃「……つまりどういうことだ? わたくしは騙されていたということなのか? ジョーン・ダンザルスト」


ジョール「……描いたのは僕です。でも、」


メリイ「こ・ん・の……! あほたれえーっ!! あんった何言ってんのよ!! あのまま黙ってれば、賞金貰えたのに!!」

ジョール「い、いやっ。でもね、だって! ……っ君に対するケジメが……」

メリイ「ケジメなんてのは、あんたね、ちゃんとご飯食べられるようになってから言いなさいよ!!」


ジョール「なんだよ君だっていつもパンとイモしか食べてないじゃないか!」


メリイ「いやいやいーやいやいや! キノコも食べてますから!」


ジョール「あんまり美味しくないやつね!」


メリイ「はー!?」


ディギー「おいおい、お前ら……いい加減に」


ジョール「っメリイひどいよ! 僕に同情してあんなことして欲しくなかった!」


メリイ「なんで!? だって自分に出来ることだったんだもん、するでしょ普通!」


ジョール「いや、でもそのせいで君が展覧会出れなかったら意味ないじゃないか!」


メリイ「うるさいなーっもーっ」


王妃「ふふふっ……あははははっ……ふふふ……」


ディギー「……王妃」


ジョール「もっ申し訳ございません! 神聖な、伝統ある展覧会を……」


王妃「今回のお題を思い返してみよ。メリイ・ラティナ、ジョーン・ダンザルスト」


ジョール「自分を幸せにいてくれる人への……」


メリイ「プレゼント?」


 ジョールが描いた絵が、みんなに見せられる。


ディギー「おお、すっげー綺麗」


王妃「見よ。この絵はとても素晴らしい。大切な者同士を思い合う心が共鳴し合った、大作だ」


 その絵は、メリイの肖像画。


メリイ「……あ、あたし? なんで……」


ジョール「この町に、沢山、幸せを贈って来たのは君だ。だから。僕は……どうしても君を、描いて。この町のどこかに、君を飾って欲しくて」


メリイ「……ばっか」


ジョール「ふふ……」


王妃「今回の展覧会の優勝者は、二人だ! 褒美は、二人に平等に与えよう!」


 みんな、拍手して。


ジョール「えっ……!」 ディギー「おー」 メリイ「ええええっ!?」


ジョール「やっ……!」


ジョール&メリイ「やったああああーっ!!」






 次の日。早朝。


メリイ「よい、しょっ……っと」


ディギー「ふぁぁ……」


メリイ「もう、ディギーさん。悲しくなるから見送りはいらないって言ってたのに」


ディギー「そういう訳にはいかねーべ」


メリイ「そ?」


ディギー「ああ。可愛い娘の旅立ちだからなー」


メリイ「ははは。棒読みー」


ディギー「ねっみーんだよ。遅くまで店開けてたからなあ。ジョールが死ぬほど飲むからさ」


メリイ「ほんとよかった。これで、王宮で絵師としてちゃんと働かして貰えるみたいだし」


ディギー「ああ、そだな」


メリイ「じゃあ、行くね」


ディギー「おう」


メリイ「また、いつか帰ってこれたらいいな」


ディギー「一年以内には帰って来て欲しいかな、パパ的には」


メリイ「ええ~っ? ふははっ」


ディギー「寂しくなるよ。メリイ」


メリイ「うん、ごめんなさい。ありがとね、ディギーさん」


ディギー「ま、向こう着いたら手紙とかさ、くれよ」


メリイ「ふ。うん。わかった」


ディギー「……行って来い」


メリイ「……行ってきます」


 メリイ、城門に向かって歩き出す。


ジョール「――メリイ!!」


 ジョール、駆け付ける。


メリイ「……っ」


ジョール「はっ……はぁっ……!」


メリイ「ジョール……」


ディギー「お前あんなに潰れるまで飲んで……」


ジョール「ちょ、ちょっと、待って、……はっ、はぁっ……」


メリイ「大丈夫?」


ジョール「っ。んんっ。……はぁ、メリイ……!」


メリイ「うん?」


ジョール「どこ行くの? メリイの家の、大家さんが、家を出てったって……」


メリイ「一度実家に戻るの」


ジョール「えっ。どうして?」


メリイ「……」


ジョール「学校は?」


メリイ「辞めた」


ジョール「なんで?」


メリイ「……国で戦争が始まるかも知れないの。あたしなら薬も色々作れるし、……家族の傍に居たいの」


ジョール「……」


メリイ「ジョール、ごめんね」


ジョール「……ううん。……頑張って」


 二人、握手して。


メリイ「手紙書くね」


ジョール「うん……」


メリイ「じゃあ。元気で」


 メリイ、去っていく。


ジョール「っメリイ!!」


メリイ「っ?」


ジョール「次帰ってきたら、今度は僕がご馳走するね!」


メリイ「……っ。うんっ! いってきますっ!」


 旅立つメリイ。


ディギー「……行っちまったな」


ジョール「はい」


ディギー「頑張って、男上げとかねーとな? ジョール」


ジョール「はいっ」


ディギー「ん……じゃ、またなっ。俺は寝るぞー」


ジョール「……言いたいこと、なんにも言えなかったな」


ディギー「んあ? かかっ。……離れたくなきゃ、追いかけろよ?」


 ディギー、去っていく。


ジョール「……メリイ、ありがとう……。必ず、一流の宮廷絵師に、なってみせるよ。そうしたら……」






ジョール「だいすきって、言うよ」






 二週間後。酒場。


ジョール「ねえ、ディギーさんもメリイのこと好きなんでしょ!」


 ディギーの酒場でランチを食べているジョール。カウンター席。


ディギー「はー!?」(グラスを落として割る)


ジョール「ロリコン!」


メリイ「ロリコーンっ!」(酒場に入って来る)


ディギー&ジョール「っ!? メリイ!?」

ジョール「なんで!?」


メリイ「あははっ。帰ってきちゃったっ」


ジョール「はやっくない!?」


 ジョールの隣に座る、メリイ。


メリイ「だってさあ。誤報だったらしいんだよね、戦争のこと! お母さんの勘違いだったーみたいなっ?」


 ジョールのお皿に乗っていたポテトをつまみ食いするメリイ。


ディギー「学校復帰すんのか?」


メリイ「どうしよっかなー?」


ジョール「めめめメリイ! 一緒に仕事しようよ!」


メリイ「んー。まず家を探さないとねー」


ディギー&ジョール「うち来る?」


メリイ「え。やだ」


ディギー&ジョール「がぁー」






おわり

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