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かつて辿った道 ~元勇者の祖父と勇者な孫娘~  作者: ケツアゴ
第一章 勇者召喚
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決意

グルファリアには毎年行われている儀式がある。たとえ戦争中でもその日だけは兵士たちは武器を置き、祈りを捧げる。その儀式の名は魂送り(たまおくり)。そして今年もその日が近づいてきていた……。


「あれ? お祖父ちゃんは?」


力を使いこなす為の鍛錬を終えた柑奈が鉄堅の姿を探すも何処にも見当たらない。隣で休んでいた香瑠に訊いた所、呆れたような顔をされた。


「……話を聞いていなかったのか? 明日開かれる祭りの手伝いに行くと言っていただろう」


香瑠はそう言うと休憩を終え素振りを始めた。今の彼女の格好は服の上から動きやすい軽鎧を着込み、下は金属製の脛当てを装着している。対する柑奈は黒装束に額当て付きの黒頭巾と忍者のイメージそのままの格好だ。腰に大きな巻物を背負い、忍具を入れたポーチを付けている。そして胸の所は些か窮屈そうだ。


「……それは嫌味か? 巨乳アピールか?」


「えぇっ!? 胸に合うサイズがなかっただけだよっ!? 胸に合うサイズはブカブカだったんだ。言っておくけど胸が大きくても邪魔なだけだよ? 走ると痛いし、肩は凝るし」


「はっ! 私には嫌味にしか聞こえんなっ!」


「……何時ものお姉ちゃんじゃない」


別にどうでも良さそうに呟いたのは桜。魔女を思わせるとんがり帽子に黒いローブ。手には先端に目玉のような模様がついた杖を持っている。


三人の装備は全てフィーが用意させた物だ。見た目よりずっと頑丈で魔法への耐性も高い一級品。エルフの作った装備自体があまり市場に出回らない上、その中でも今着ている装備は高価な部類に入るのだ。


「桜。お前の方の特訓は良いのか? 魔法の方は教えてくれる人が居るが、三つ目の戦職(ジョブ)は……」


「……大丈夫。さっき試したけど上手くいった。……良い匂い。お腹減った……」


「本当だっ! お祭りのご馳走かな? そういえば私もお腹が減ったな」


「……そうだな。昼ご飯を食べに行こう。きっとお祖父さんが待っているし、ご馳走を食べれるかもしれないぞ」


時刻は昼過ぎ。鍛錬に夢中になっていた為に昼ご飯を食べていない三人の腹の音が鳴る。その空腹を刺激するような匂いまで漂ってきたから堪らない。三人は昼ご飯を食べに行こうとして前のめりに倒れそうになる。後ろから轟音と共に吹き飛ばされた土砂が襲いかかって来たからだ。


「んっ~! 魂送りの事、知らねえのか? 今漂ってくる臭いの元のご馳走は食べねぇよ。全部燃やして死人に捧げんのさ。この儀式は死んだ者が望む場所に生まれ変われるようにってモンで、その旅路に食べる為に捧げんだ。……知らねぇって事は嬢ちゃん達が勇者か?」


後ろを振り開けると地面にクレーターができており、その中心から一人の男が歩いて来る。日に焼けた逞しい体に大きなアフロ、そして頭の両側から生える黄金の角が特徴的だ。男はサングラス越しに三人を眺めるとニカッと笑う。その瞬間、三人を膨大なプレッシャーが襲いかかった。




「……二人とも注意しろ。アレは只者じゃない。逃げようと背を向ければ……死ぬぞ!」


「そ~のリアクションからして当たりの様だな。こりゃラッキーだ! 俺は魔帝アーリマン様が率いるダエーワの六大魔王が一人、ゲンドゥル様が下僕ガーボン! 此処へは降伏するように言いに来たが勇者の首を持って帰らえてもらうぜっ!!」


ガーボンは両腕に力を入れると筋肉を膨張させる。着ていた服はあっさりと破れ、ガラ空きとなった腹目掛けて苦無が投擲された。


「えいやっ!」


ガーボンは苦無をアッサリと弾くがその隙に柑奈は懐に潜り込む。そして長い脚をガラ空きの顎に叩き込んだ。何か叫ぼうとしていたガーボンの口は強制的に閉ざされ、蹴りの衝撃で巨体の足が地面から離れる。柑奈は瞬時に横に跳び、その背後から迫っていた香瑠がクレナタで切り掛かる。


「はぁっ!!」


シャドウスラッシュによって五本に増えた刃はガーボンの腹部に赤い線を入れる。着地したガーボンが両腕で掴みかかるが香瑠は咄嗟に屈んで避け、背後から飛んできた直径三十センチ程の火球がガーボンの顔面に直撃した。


「……フレイムボール、成功」


「いや、もう少しで私の髪を全焼させる所だったぞ?」


香瑠自慢のポニーテールの先は火球が掠ったらしく少し焦げていた。


「あれれ? これなら結構楽勝かもっ!」


柑奈が見詰める先には顔を押さえて蹲るガーボンの姿。それを見て楽観的な言葉を漏らす柑奈の耳にガーボンの声が聞こえてきた。


「っ……くっ…くくくくくくくくくっ!! はっはっはっはっはっはっはっはっ!! この程度かよ、勇者さん達よぉっ!」


平然と立ち上がったガーボンの顔には火傷一つなく、胸の傷も薄皮が切れた程度。どうやら三人の攻撃は全く効いていなかった様だ。ガーボンは肩を押さえながら腕をグルグルと回すとクラウチングスタートの様な構えを取る。


「ヨーイ! ドンッ!!」


ガーボンの姿がブレたかと思うと掻き消え、香瑠のすぐ横にいた柑奈の姿も消える。次の瞬間、柑奈はガーボンと岩の間に挟まれており、ベキベキと何かが折れる音が響いた。


「柑奈っ!」


「おぉっと! 次は嬢ちゃんの番だぜ?」


「くっ!」


瞬時に後ろに回り込んだガーボン目掛け、香瑠が横薙ぎに剣を振るうも空を切り、後頭部に飛び膝蹴りを叩き込まれる。頭に衝撃を受けた香瑠の意識が一瞬飛び、ガーボンは追撃の手を緩めず香瑠の髪を掴んで投げ飛ばす。


「俺流ドロップキックッ!」


そして飛んでいく香瑠の腹に向かって両足の飛び蹴りを叩き込んだ。香瑠の口から血が吐き出され骨が軋む音が聞こえる。香瑠はそのまま背中から地面に叩きつけられた。


「はっはっはっ! 流石だ俺っ! 俺が俺を最高と称えるだけあるな。……後は」


ガーボンは最後に桜の方を振り返り、そのまま背中を見せて歩き出した。頭に手をやり、何やら呆れた様子だ。


「おいおい、勘弁してくれよ。雑魚と餓鬼相手じゃ殺る気が起きねぇ。……仕事だけ終わらせて帰るか」


「……ストーンニードル」


「ふごっ!?」


地面から飛び出した尖った地面はガーボンの肛門に吸い込まれるように刺さり、ガーボンは堪らずお尻を押さえながら飛び跳ねた。


「ク…クソガキがっ! 俺が手ェださないって知って良い気になりやがって」


「……だ」


「あぁん?」


「……桜が相手だ。お前なんか倒してやるっ!」


桜は震えながら杖を構えて呪文を唱える。だが、大地の槍も火球もガーボンの拳一つで粉砕された。


「……いい加減にしろよ、餓鬼」


「……うぅ」


使える魔法を出し尽くした桜はその場で膝を折り、ガーボンは桜の頭を掴むんで持ち上げる。そして空いた手の拳を構えた。


「歯ぁ食いしばりなっ!」


「……っ!」


そのままガーボンの拳は桜の顔面目掛けて向かっていく。桜は必死にガーボンの腕を蹴ろうとするも足は届かない。そして拳の先端が触れようとした瞬間、突如桜の姿が消失した。


「えへへ~、救出成功っ!」


「なっ!? テメェはさっき俺が……」


桜を抱き抱えながら得意げに笑う柑奈に対し、ガーボンは驚いて先程の岩を見る。其処では柑奈の忍者装束ソックリの服を着せた丸太が真っ二つに折れていた。


「変わり身の術だよっ! へっへっへ~! 引っ掛った、引っ掛ったっ!」


「そして、隙有りだっ!」


「ぐおっ!?」


ガーボンの背後から香瑠の声が響き、それと同時に背中から血が噴き出した。


「テ、テメェ。さっきはこれ程の威力は……」


「ああ、済まない。つい訓練の時のように殺気を込めずに斬りかかったんだ。だが、受身を取ったとは言え結構食らったし、何より可愛い妹を殴られそうになって殺気を込めずに居られるかっ!」


香瑠は再び剣を振るい、ガーボンは咄嗟に避ける。巨体からは想像もつかない敏捷さで距離をとったガーボンは少し息を切らしていた。


「……ぬかったぜ。俺とした事がなっちゃいねぇ。俺が最高と称える俺らしくもない」





「それ、自称だろう?」


「!」


ガーボンは背後から聞こえてきた声に反応して振り向く。その瞬間、顔面を万力の様な力で掴まれた。


「儂の孫達が世話になった様だな」


鉄堅は自分より大きなガーボンを片手で持ち上げると淡々と話しかける。ガーボンは逃れようと蹴りかかるも鉄堅は少しも動じない。


「さて、礼をさせて貰うぞ。嫁入り前の可愛い孫娘を甚振ってくれたのだ。……儂の怒りを思い知れっ!!」


鉄堅はそのまま拳を構え振り抜く。鉄堅の拳はガーボンの腹に深々と突き刺さり、体をクの字に折れ曲がらせる。顔を押さえている鉄堅の指の隙間から血が漏れ出した。


「さて、コレだけでは終わらんぞ。……!」


(アタシの孫が受けた痛みは百倍にして返してあげるわっ!)


鉄堅が再び拳を振るおうとした時、ガーボンの体を光が包む。そしてそのままガーボンの姿は消えていった。



「……逃げた。いや、誰かが逃がしたか」


(……恐らくダエーワの幹部ね。この里はフィーが結界を張ってるのに転移させれるなんて……)


鉄堅は手に付いた血を振り払うと気を取り直して香瑠達に近づいて行く。香瑠はその姿を見ながら拳を握り締めていた。


(……強くなりたい。お祖父さんに守られなくても皆を守れるくらい強く……)


その思いに応えるかの様にクレナタに埋め込まれた石が光ったが、この時は鉄堅以外は気付いていなかった。







「……無様ね、ガーボン」


「も、申し訳ねぇ。次こそは絶対あいつらを……」


鉄堅から逃がされたガーボンは主であるドゥルジの前で跪く。そんな彼を見るドゥルジの目は冷やかだった。


「……もう良いわ。貴方の目には怯えが見える。もう使い物にならないわ」


「待ってくれっ! アンタに助けて貰った恩を返すまでは傍に……がぁっ!」


必死に縋り付くガーボンをドゥルジは振り向きもせずに蹴り飛ばす。ドゥルジは痩身の女性であるにも関わらずガーボンの体は紙の様に吹き飛ばされた。


「……恩、ねぇ。ああ、そんな事もあったわね」


「あ、ああ。俺らゴルホン族の角が石化病の薬になるからって人間に村が襲われて、逃げ出して彷徨っている所をアンタが助けてくれたんだっ! だから…」


「あの病気、私の仕業だから」


「……え?」


「聞こえなかったの? 石化病を創って広めたのは私。ついでにアンタラの角が薬になるって教えたのも私よ。理由? さぁ、退屈だったから適当に思いついた事をやっただけ。貴方達を拾ったのは妹の方が使えそうだったから。貴方はついでに拾ったに過ぎないわ」


ドゥルジの口から告げられたことにガーボンは呆然と固まり、次の瞬間には飛びかかった。


「ドゥルジィィィィィィィィィ!!」


ガーボンはそのままドゥルジに迫り拳を突き出す。






「……貴方如きが私に触れれる訳ないじゃない。身の程を知りなさい、ゴミクズが」


そして、一瞬で灰になって消えていった……。





「さ、あの子にはガーボンは勇者に殺されたとでも言っておきましょう」


ドゥルジはクスクス笑いながら闇の中に消えて行く。彼女が消えて暫くの間笑い声が響いたが、やがて何も聞こえなくなった……。










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