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かつて辿った道 ~元勇者の祖父と勇者な孫娘~  作者: ケツアゴ
第一章 勇者召喚
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薬草とアイツ (ボクっ娘と姉御と仮面)

今回、人によっては不快なシーンが御座います お気を付けを

「……くっ! 面倒な事になった」


冒険者ギルドで質の悪い男達を叩きのめしたユアナ、静凪、ギリィの三人は他の冒険者達に取り囲まれていた。三人が絡まれている間は何もしなかったのに、男達を叩きのめした途端に寄って来たのだ。



「うっしゃあっ! アタシの勝ちだよっ!」


「うぉっ!? この姉ちゃん、五人抜きだっ!」


「さっき頼んだ料理、全部お代わり! 全部大盛りでっ!」


「……おいおい、まだ食うのかよ。賭け金がパァだ……」


静凪は屈強な男達との飲み比べて連勝してすっかり打ち解け、ユアナは大量の食事を腹に収めるもまだ食べ続ける。彼女が何処まで食べれるか賭けに興じていた男達は彼女の食べっぷりに目を丸くしながら食事姿を見守る。なお、負けた奴が出した賭け金の一部が彼女の食事代に当てられる事となっていた。


「おい、兄ちゃん。オメェら纏めて俺らのチームに入らねぇか?」


「ちょっと、コッチのチームの方が良いよ。その男の所より女が多いし、連れも安心でしょ?」


「はぁ……」


ギリィは大きな溜息を吐くとジョッキに並々と継がれた酒を一気に飲み干した。


「……悪いが断らせて貰う。理由は言わない、他を当たってくれ」


「ま、それなら仕方ないか。無理に誘わない、詮索しない、の二つが冒険者の暗黙の了解だ。いやいや、さっきは世間知らずのお坊ちゃんが女連れで冒険者ごっこをするつもりかと思って眺めてたが、スゲェ強いな」


「……手を出さなかったのは登録をさせない為と……私達を利用する為か?」


ギリィが横目で睨むと冒険者の男は気まずそうに目を逸らした。


「……まぁな。お前達がグリーより弱かったら適当な所で助ければ良いし、強かったらやり過ぎないように止めれば良い。何方にしろ、あの状況だったらグリー達はお仕舞いだ。実際、アイツ等は除籍処分で、お前らは指定する仕事を請けるだけで終わっただろ?」


「……ふん。その仕事が厄介なんじゃないか」






「っち! ジメジメして嫌な所だねぇ。アタシはこういう所は嫌いだね」


静凪は目の前の沼地を見ながら不機嫌そうに舌打ちをする。沼地はジメジメとしており妙に蒸し暑い。静那の服装はノースリーブの上着に半ズボンの様な物を穿いており、拳と脛を防具で覆っているという動きやすさ重視の軽装だ。それでも暑いのか服の首元に指を入れて引っ張っている。なお、胸には下着の代わりにサラシを巻いていた。


「あわわ!? 静凪さん、はしたないよ!」


「五月蝿いねぇ。どうせ野郎が居ないんだから良いじゃないか」


「でもさぁ……」


ユアナはまだ何か言いたそうだが言うのを辞めてギリィの方をチラリと見る。一緒に注意して欲しそうな視線を送るが無視されてしまった。


「でも、この依頼を受けるのが罰則代わりだなんて変だよね? 沼地の奥にある洞窟から薬草を採取するだけなんてさ。報酬も貰えるそうだし……おっと」


ユアナは泥濘に足を取られそうになりながらも何とか体勢を直す。ユアナの服装は小さめのテンガロンハットにポケットの多いシャツの上からコートを着込み、足はジーンズと革靴というカウボーイを思わせる服装だ。腰に装着したガンベルトで二丁の銃を携帯している。


「おいおい、気を付けなよ?」


「……ふん」


静凪が転びそうになったユアナを心配して声を掛けた時、ギリィが馬鹿にするように鼻を鳴らした。


「間抜けな事だ。私の様に常に注意していれば転ぶ事など……」


そして泥濘に足を盛大に取られたギリィは仰向けにひっくり返った。ギリィの目に映った空はどんより曇り、今にも雨が降り出しそうな嫌な空模様だ。


「……」


「「……」」


気不味い沈黙が流れ、立ち上がったギリィは後ろを歩いていた二人の方を見る。その瞬間、二人は空を見上げた。


「あ…あ~、天気が悪いねぇ」


「う、うん。今にも降り出しそうだよ。困ったなぁ、ボク達、傘持って来てないよ」


「……先を急ごう」


ギリィは目に涙を浮かべながら歩を進める。今日、ギリィは優しさは時に痛い物だと知った。




「……そろそろか。貴様ら覚悟しておけ。この依頼がなぜ罰則になるのかが分かるぞ」


霧の中、無効にうっすらと洞窟が見えてきた辺りでギリィは立ち止まる。その顔は少し青ざめていた。


「今回の依頼って薬草採取でしょ? 難易度は低いけど報酬はかなり良いしさ。薬草の名は確かボルーナだったっけ?」


「……ああ、そうだ。十数年前に突如発生した奇病を治す薬になる。ボルーナが見つかるまでは……いや、止めておこう。思い出したくもない」


ギリィは苦虫を噛み潰したような表情を見せると先に進む。洞窟の中は薄暗く、天井から雫が落ちてきていた。


「ひゃんっ!?」


首筋に水滴が落ちて来た事に驚いたユアナは思わず飛び跳ね、その際に帽子を落としてしまう。暗がりの中、松明の明かりを頼りに辺りを見渡すと直ぐに帽子は見つかり、拾おうと腰を屈めたユアナの顔に柔らかいものが落ちてきた。


「ん?」


何やら毛の様な物で顔を撫でられたユアナは思わず振り払う。すると手と顔にネチャネチャした嫌な感触の白濁色の粘液が掛かっており、顔に触った手と顔の間で糸を引く。そして、ユアナの姿を、いや、ユアナの顔に落て来たものの姿を見た静凪は顔を青ざめた。


「げぇっ!? ま、まさかアレって……」


「……そうだ。あれは此処特有の魔獣でな、子猫より弱いから脅威度は低いのだが……」


ユアナに振り払われたのは体長三十センチ程の大きさに全身を覆う白濁色の粘液。長い触角を動かし、腹が上になったので起き上がろうと必死に毛の様に長細い足を動かしている。そう、色と大きさを除けば台所でお馴染みのアレだった……。



虫型魔獣”ビージー”。嫌いな魔獣ランキングで上位に位置しており、冒険者がこの洞窟に来るのを痛がる最大の理由だった。


漸く起き上がったビージーはカサカサと逃げて行き、姿を見せなくなる。洞窟内に水滴が地面に落ちる音のみが響く中、ユアナはユックリと立ち上がる。そしてユアナは両手に魔銃を構えながら不気味な笑い声を上げた。


「……はは、はははははははは! そう、この洞窟に住んでるんだね? だったらさぁ、この洞窟を吹き飛ばしちゃえば良いよねぇ? チャージ! チャージ! チャージ!」


何処を見ているかも定かでない瞳をしたユアナは両手で銃を構える。そしてユアナが叫ぶ度に銃口が光り強烈な力が蓄えられていく。


「あはははははははははっ!! 皆、(み~んな)吹き飛…」


「落ち着きなっ!」


「きゅう~」


後頭部を強打されたユアナはそのまま地面に顔面から倒れこむ。運悪く顔が激突したのは先ほどビージーが腹を上に向けてもがいていた場所。ユアナの顔は再び白濁色の粘液まみれになった。


「くっ! アタシの従姉妹をよくもっ! 後ろから攻撃するなんて……絶対に許さないよ、魔獣共!」


「いや、今のは貴様が……」


「絶対に許さないからねっ!」


全ての罪を魔獣に押し付ける気の静凪は白濁色の粘液で汚れたユアナの顔を拭うと背中に背負って歩き出した。




「……そういや奇病ってのはどんなんだい? ちと気になってさ」


「……奇病は石化病(せきかびょう)と呼ばれている。発症すると体内まで石のように固くなり、やがてヒビ割れて死に至るという厄介な病だ。実はボルーナに有効な薬効がある事が見つかるまで人間は……」


ギリィが其処で口を閉ざした時、目的の薬草が生えている場所まで行き着いた。そこは壁中に苔が生えており、途切れ途切れにに茎が螺旋を描いている草が生えている。


「アレがボルーナだ。早く採りに……っ!」


採取しようとボルーナに近づいていったギリィは咄嗟にその場を飛び退く。その視線は上空へと注がれ、其処には二人の少年が居た。


「見てよザリチェ。あんな所に人間とエルフ……いや、ハーフエルフが居るよ」


最初に口を開いたのは真っ赤なコートに真っ赤なロシア帽の様な物を被った少年。その瞳も服と同様に赤い。


「あはは! 此処は薬草が生えてるんだから採りに来たんだよ、タルウィ」


返事を返したのは緑の服に緑の帽子、そして瞳の色も緑と赤い服装の少年と服の色以外は全く同じ少年だ。


二人の少年は一つの背もたれを挟んで背中合わせになった椅子に座っており、その椅子は王座を思わせる作りだ。二人の少年は宙に浮かぶ椅子に腰掛けたままクルクル回り、静凪達を指差して笑っている。


「そういえば此処の薬草は何に効くんだったっけ、ザリチェ?」


「石化病だよ、石化病。ドゥルジのオバさんが創りだした石化病だよ、タルウィ。アレは面白かったなぁ。ゴルホン族の角が薬になるって知った時の人間ときたら……あはははははは!」


少年達が笑う中、ギリィの顔は怒りに染まり、短剣を持つ手は震えている。


「お前らがあの病気を広めたのかっ!」


「わぁ! あのハーフエルフ話を聞いてないよ、ザリチェ。ドゥルジのオバさんが創ったって言ってるのにね」


「そうだね。人の話を聞かない奴にはお仕置きすべきだと思わない? タルウィ」


             


             「「出て来い! ”オクトパスマイマイ”!」」


二人が叫ぶと共に地面に魔法陣が出現し、巨大な魔獣が出現した。








「んっん~! 漸く見えて来たぜ。あの森にエルフ共が居るんだな。さ、ドゥルジ様の命令だ。張り切っていくぞ、俺!」


その頃、頭から黄金の角を生やした巨漢がエルフの里へと続く森に近づいていた……。



意見 感想 誤字指摘お待ちしています


最初はツッコミ&苦労ポジ予定だったユアナに 食いしん坊+暴走キャラ+汚れ が。これがキャラが勝手に動く、か……

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