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かつて辿った道 ~元勇者の祖父と勇者な孫娘~  作者: ケツアゴ
第一章 勇者召喚
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大喧嘩

―――聖剣、それは聖なる力を与えられた剣の総称で、グリファリアにも聖剣と呼ばれるものは存在する。その名は『クレタナ』。高潔な人格と強力な力を秘めているとされる意志を持つ剣であり、勇者の資格を持つ者のみ扱えるとされている。


「……これが聖剣か」


「はい、そうです。先代勇者が魔帝を倒した後、再びこの場所に戻したと伝えられています」


 勇者として家族と共に戦う決意をした香瑠(かおる)は女性の神官…チロルというらしい、に連れられて神殿の地下洞窟までやって来た。途中にある封印の解き方を知っている事からチロルはそれなりの地位と実力を身に付けているのだろう。奥までやってきた一行の目に映ったのは中央が隆起した擂り鉢状の泉で、中央の岩には剣が刺さっていた。刃が水に浸かっているにも関わらず少しも錆びておらず、柄には宝石らしきものが数個埋め込まれている。


「では、カオル様。此れに着替えて彼処まで一人で向かって下さい」


そう言ってチロルは白装束を差し出し、鉄堅は着替えを見ないように曲がり角まで移動する。鉄堅が曲がった先で胡座をかいて座っていると水音と共に声が聞こえてきた。


『やっほー! お久しぶりだネ、カオル☆ クレタナちゃんだよ、ブイブイ♪』


 その声は鉄堅の頭の中に直接響き、他の誰にも聞こえない。これこそが聖剣クレタナの持つ能力の一つ『勇者との念話』である。一定以上の実力者を持った勇者のみが使える力で、この時初めて聖剣の人格がアレなものだと知る事になる。なお、高潔な人格というのは教会側の思い込みによるもので、勇者時代の鉄堅がいくら言っても信じてもらえなかった。何時もの言動のせいだろう。


『……久しぶりね。言っておくけど、今度の勇者はアタシの孫娘なの。アタシが元勇者って事は秘密ね』


『え~!? 何で何で? あ、さっきまでしてた口調で通してるから、バレるのが恥ずかしいの?』


『……それもあるわ。でも、それ以上にバレてはいけない訳があるのよ。あの子達はまだ子供なの。なのに、頼るべき存在であるアタシが不真面目な勇者だったと知られたら不安にさせるでしょ? アタシ、これでも厳しい祖父で通してるの』


『分かったよ。じゃあ、秘密にしておくね☆』


『……それと、アタシの本名は鉄堅だから、もし孫と話す時にアタシをカオルって呼んだら肥溜めに沈めるわよ?』


『りょ、了解であります!』


鉄堅がクレナタと念話をしている間に香瑠はクレナタまで辿り付き、刺さっていた岩からあっさりと抜き去る。するとクレナタの柄に埋まっていた宝石の一つが鈍く輝き、そのまま香瑠の腕に吸い込まれていった。


「これが一つ目の力か……」


 香瑠が念じる度にくれなたは何度も消えては現れを繰り返す。これが第一の力である、聖剣を自由に取り出せる力だ。


「香瑠ちゃん、凄い! これで魔帝を倒せる……んだったっけ?」


「……まだ無理。お姉ちゃん、力を全て引き出せてない」


「ああ、そうだ。だが、必ず全ての力を使いこなして……」


 香瑠はクレナタを仕舞い、柑奈達の居る所まで泳ぎ始める。その後、香瑠が着替え終わった事を確かめた鉄堅は角から姿を現した。


「香瑠。分かっていると思うが、彼らの想いを背負い込み過ぎれば重しにしかならんぞ」


「……はい」


 鉄堅の言葉に香瑠は静かに頷く。そして、この洞窟に来るまでの事を思い出していた。




「あれが勇者様だっ!」


「あぁ、有り難や!」


「なっ!?」


 香瑠達が召喚された建物から出ると、ボロ着を着た住民達がその場に跪きだした。そして、香瑠が驚いたのはそれだけが原因ではない。城だった(だった)と思われる建物から出てみれば、まるで両方とも大型の地震と竜巻が同時に来たかのように荒れ果てていた。寄って来る人も皆疲れ果てているようで、まるで死人のような顔付きだ。その惨状に鉄堅さえも言葉を失った。


(どどど、どういう事!? なんでこれ程まで荒れ果てて……)


「……何があった」


 鉄堅は内心動揺しているのを隠しながら聖剣の所までの案内役のチロルの方を見る。すると、彼女は言いにくそうに言葉を詰まらせながら顔を逸らした。


「……先日、ダエーワの兵がやって来まして……この国は…壊滅しました。今、残っているのは辛うじて神殿の地下室に逃げ込めた者達だけです。他の国に移るアテもなく、生まれた土地を捨てられない者のみが残っています」


「あれ? だったら旅の支援はどうするの?」


「そ、それはご安心ください。旅に必要な品は出来るだけご用意いたしています。では、早く行きましょう」






「!?」


 そして聖剣を手に入れた一行は地下洞窟から外に出て、完全に破壊された街を目の当たりにした。壊れかけの建物は完全に壊れ、人っ子一人いる気配もない。城があった場所と街の中心辺りには大きなクレーターが出来ていた。



「そ、そんな……。街の皆は?」


 チロルはその場にヘタリ込み狼狽し出す。暫くの間、鉄堅達は彼女と共に生存者が居ないか探したが、誰一人として、死体すら見つからなかった……。





「んああっ! 少し起きるのが早かったか」


 とある岩山の頂上で、先程まで寝ていた男が目を覚ます。年の頃は三十代前半で、髪型は黒髪をアフロにし、肌は日に焼けて異黒光りしている。ゴツゴツした顔にはサングラスを掛けており、ノースリープの毛皮の服の前を開け、鍛え抜かれた肉体を惜しげもなく晒している。そして、その即頭部からは曲がりくねった金色の角が生えていた。


「いえ、むしろ寝過ぎです、兄さん。|たかが人間の街一つ潰したくらい《・・・・・・・・・・・・・・・・》でこんなに休んでいてはドゥルジ様に叱られますよ?」


 彼の背後から近づいてきたのは二十代前半の女。黒光りはしていないが男と同様の褐色の肌と金色の角を持っており、ノースリープで丈の長いチャイナ服のような服を着ている。少々呆れたような女に対し、男は筋肉を誇示するようなポーズを取りながら歯を見せて笑った。


「おいおい、固い事言うなよ、アーリィ。俺は何時も俺の事をこう呼んでいるだろう? 完璧な男、だとな。少しくらい仕事をサボっても……」


「要するに自称なんですね。では、先を急ぎましょう。あ、そうそう。ドゥルジ様ですが、”ガーボンが仕事を怠けたら減給するから報告してね”、だそうです。……これで暫くは贅沢はできませんね。良い気味です」


「マイシスター!?」


女…アーリィは兄であるガーボンを無視して歩き出した。




「うわぁ、結構広いんだね」


「まっ、ここいらで一番の商業都市らしいからね」


 静凪とユアナが訪れたのは商業都市ヴィッパ。先代勇者を召喚したレゾル国から西に行った先にあるホーエンっという国にある都市で、様々な場所から隊商(キャラバン)が集まり賑わいを見せている。


「……ふん。観光目的か? 全く良い身分だ」


 都市の様子を珍しそうに見ていた二人の背後から不機嫌そうな声が聞こえる。其処には背中に弓を背負い仮面で顔を隠したエルフが腕組みをして立っていた。


「はっ! 緊張感を何時も保つなんて出来る訳ないだろ? ていうか、喧嘩売ってんのかい、ギリィ?」


「私がお前に喧嘩を売る? そんな下らない事しないさ。時間が惜しい、早く行くぞ」


 鎧のエルフ…ギリィは鼻を鳴らして否定すると目的の場所へと向かっていった。



「……ったく、女王も何であんな奴を旅に同行させたのかねぇ?」


「|ふん、やっふぁほれなりの《うん、やっぱりそれなりの》|じつりょくがあるんらとおもうよ《実力があるんだと思うよ》」


 ユアナは何時の間にか買い込んだ屋台の品を頬をパンパンにしながら頬張っていた。


「……うん。アンタの大食いっぷりには何も言わないよ……」


あ、ほう?(あ、そう?) ほれなら(それなら)……」


「食べるか喋るかどっちかにしな……」


 ユアナは当然の様に食べる方を選択した。




「おい、何をやっていたんだっ!」


「悪かったね。んじゃ早速、冒険者ギルドに登録するとしようか」


 冒険者ギルドとは、商人や一般人、時には国からの依頼(クエスト)を登録した冒険者に斡旋して仲介料を取る事で成り立っている組織で世界中に支部が存在している。登録は犯罪歴がなければ特に制限はないが、依頼を受ける時は投げ出さないための保証金を預けるようになっており、傘下にある店での割り引きなどの様々な恩恵がある反面、正当な理由がないのに一定期間依頼を受けないと様々なペナルティがあるのだ。


「一定期間ごとに依頼を受ける必要があるのは面倒だが、登録しておくと色々便利だ。身分証明書にもなる。おい、三人登録したいのだが」


 ギリィはギルドに入るなり受付に向かう。この都市のギルドは酒場も併設しており、昼間から酒を飲んでいた男達の視線が三人に注がれた。


「はい、承りました。では、犯罪歴を確かめる為、此方の水晶に手を翳してください」


 ギリィに応対したギルド職員はスーツの様な服を着た若い女性。茶褐色の短髪にメガネの真面目そうな顔付きだ。彼女が水晶を取り出した時、横合いから伸びてきた手が彼女の手を掴む。彼女の手を掴んだのは先ほど三人を見ていたガラの悪そうな男の一人で、他の男二人はユアナと静凪を取り囲むと舐め回すように見だした。


「おいおい、仕事が欲しいなら俺たちがくれてやるぜ。そこの姉ちゃん達よ、俺らと遊んでくれや。んで、ミリィ。お前もどうよ? 病気の父親の為に金が要るんだろ?」


「ひっひっひっ、丁度三対三なんだな。俺、コッチの気の強そうな方♪」


「んじゃ、俺はこっちの金髪の子だな」


「おい、兄ちゃん。お前は要らねえからあっち行きな」


「やめなさい! 貴方方は前回揉め事を起こして勧告を受けてるでしょ!」


 男達は勝手な事を言いながら三人に手を伸ばす。ギルド職員のミリィがやめさせようとするが男たちは酔っ払っているせいか聞き入れない。そしてミリィの手を掴んだ男は無理やり唇を奪おうとした。




「酒臭い顔を私に近づけるな」


「がはっ!?」


 だが、その直前にギリィの肘が鳩尾に叩き込まれ男は吹き飛ばされる。残った男二人は慌てて吹き飛ばされた男に駆け寄った。


「「兄貴!?」」


「ぐっ…くそっ! おい、お前ら! あの餓鬼ぶっ殺して女共を犯すぞ!」


 男はそう言うと腰に携えていた剣を抜く。子分らしき二人の内、痩せたチビはナックルを手に嵌め、太った大男は斧を取り出した。


「おい、糞餓鬼! 不意打ちが成功したからって良い気になるな! 俺は『軽剣士(ライトソード)』の戦職(ジョブ)持ちだぞ! テメェの様な木っ端とは違うんだよ! マムシのグリーの名を聞いた事があるだろ!」


「無いな。貴様の様な雑魚の名前なんて聞いた事など無い」


「テ…テメェ!!」


「チョッ、その人結構強……」


何の感情も込めず平然と言い放つギリィに対し、グリーは青筋を浮かべてプルプル震える。ミリィが慌てて止めようとするが、ギリィはトドメの一言を言い放った。


「ああ、すまない。貴様、名前なんだっけ? あまりに弱そうで覚えられなかった」


「ぶっ殺してやるよっ!!」


グリーは剣を片手に構えるとギリィに突進していく。その速度は口で言うだけのモノはあり、中々の速度だ。そしてギリィが間合いに入った瞬間、グリーは剣を振り抜く。


「シャドウスラッシュ!!」


グリーはそう言い放つと刀身がブレ半透明の刃が本体に寄り添うように出現する。これが軽戦士の職技(アーツ)の一つであるシャドウスラッシュだ。


「死ねぇぇぇっ!」


「っ!」


 これから繰り広げられるであろう残酷な光景を思い浮かべたミリィは思わず目を閉じる。しかし、何時まで経っても血飛沫の感触を感じるどころかギリィの断末魔も聞こえてこない。


「え?」


恐る恐る目を開くと、短剣を鞘にしまうギリィの姿と、下着以外の服を全て切られ、首に峰打ちの跡があるグリーの姿が目に映った。


「ほら、やっぱり雑魚じゃないか。せめて刀身を三つに増やしてからデカい口を叩く事だ。……まぁ、それでも私の半分だがな」







「ぎゃはははっ! 服全部ひん剥いてやんぜ、姉ちゃん! くのっ! このっ!」


 チビの男は下品な声を上げながら静凪に掴みかかる。だが、どれだけ掴みかかろうとしても静那は殆どその場から動かずに避けていた。


「……やれやれ、他の奴らは見物かい。ま、こんな世の中じゃ赤の他人を助けるのは馬鹿らしいんだろうね」


「くそっ! 大人しく捕まりやが、ぶぇっ!」


手を振り回しながら掴みかかってきた男は静凪に足を掛けられ無様に転ぶ。そして起き上がろうとした時、尻を思いっきり蹴り飛ばされた。


「ぐぎゃっ!」


「なんだいなんだい、情けない(なっさけない)ねぇ! アンタみたいなチビは家に帰って母親の胸でも吸ってるのがお似合いだよっ!」


「……この、クソアマがぁぁぁぁっ!! シャドウブロウ!!」


男が叫ぶと右手の拳の左右に半透明の拳か出現した。


「どうだっ! 俺は『格闘家(ファイター)』の戦職持ちだっ! そして、技は兄貴が使う同系統のシャドウスラッシュより上の計三個! これを喰らいたくなかったら今すぐ自分で服を全部……」


「悪いねぇ。アタシも格闘家の戦職を持ってんだ。当然、その技も使えるよ」


そう言い放つ静凪の拳の周りには上下左右の拳が出現し、計五個となっていた。この技は一個多いだけでもかなりの技量差を指し示す。それが二個差となれば……。


「う…うわぁぁぁぁぁぁっ!!」


 男はもはや恐怖に突き動かされながら静凪に殴りかかる。それに対して静凪は彼の拳に向かって拳を振るう。静凪の拳は男の拳をあっさり弾き、そのまま腹部に五発の拳を叩き込んだ。そのまま男は小柄な体格のせいか簡単に吹き飛ばされ、錐揉みしながら床に落下する。ピクピクと痙攣してはいるが命には別状はなさそうだ。


「手加減はしておいたよ。母ちゃんの腹の中からやり直しな!」


 周囲は一瞬固まり、すぐに歓声が上がる。見物していた者達は静凪に酒を振舞うと言い出し、彼女はあっさりとテーブルに向かっていった。





「なぁ、嬢ちゃん。痛い目に会いたくなかったら今すぐ俺の部屋に来な。可愛がってやるぜぇ。言っておくが俺は『重戦士(ヘビーソード)』だ。女子供が敵う相手じゃ……」


「……五月蝿いなぁ。ボクはね、怒ってるんだよ? ギリィは会った時から偉そうだし、此方にはお米が無いし、 さっきから人の体をジロジロジロジロ厭らしい目で見てきてさ、挙句の果てに犯す? はは…、はははははっ! ……アクアショット!」


 ユアナがエルフの国で習得した戦職は『魔銃士マジックガンナー』。魔銃と呼ばれる魔力を弾にする武器の扱いに補正がかかる戦職で、習得するだけの素質があるものは非常に少ない。そして彼女が放った職技『アクアショット』は水を弾丸をして放ち、相手を撃ち抜くよりも衝撃を与える事を目的とした技だ。それが太った男の股間に命中し、男は声も上げずに蹲る。周囲の男達も思わず自分の股間を押さえた。


「サカリのついた駄犬は去勢しなきゃね。はは…ははははは……」


「……おい、お前の従姉妹って……」


「大丈夫。ストレスが貯まったらああなるんだ。直ぐ戻るよ……」





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