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かつて辿った道 ~元勇者の祖父と勇者な孫娘~  作者: ケツアゴ
第一章 勇者召喚
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プロローグ

科学の代わりに魔法が発達した世界『グリファリア』。人々は魔法の恩恵を受け、平和に暮らしていた。だが、ある日を境に平和な日々は終わりを告げる。突如地面より湧き出した魔気(まき)により動物達は凶暴な魔獣へと変貌する。これが歴史に記された大禍津時代(おおまがつじだい)の始まりであった――。


全ての元凶の名は魔帝アーリマン。六体の魔神と共にダエーワという名の軍勢を率いてグリフェリアを支配しようとしていた。多くの戦士が勇気を振り絞り戦いを挑むも呆気なく敗れ去れ、世界には暗雲が立ち込め様とする中、人類最後の希望を託された四人の男女により、今まさに暗雲は消え去ろうとしていた。





「くくく、貴方達も私も瀕死の身。そろそろ戦いも終わりとなるでしょうね」


六枚の羽と六本の腕、そして三個の瞳を持っていたアーリマンだが、右側の羽は全て切り落とされ、腕も三本しか残っていない。そして相対している者達も既に立っているのが不思議なくらいの怪我をしており、僧衣を思わせる服を着たエルフの少女は頭から血を流して倒れる赤い鎧を着た女騎士を抱き抱え癒しの術をかけていた。


「けっ! 最後までスカシやがって。テメェの最後のセリフは間抜けだったって大嘘を伝えてやるよ」


少々柄の悪そうな魔法使い風の男は先端に宝石の付いた杖を振るい、呪文を唱える。


「ミョル…ニル!!」


「ぐぁぁぁぁぁぁっ!!」


杖が光ると共にアーリマンよりも巨大な雷の巨人が現れる。男は力を使い果たしたのか其の場に崩れ落ち、巨人は雷を纏った戦鎚を振り下ろす。鎚が直撃すると共に雷撃が迸りアーリマンの体を焼く。そしてアーリマンに隙が生じた瞬間、神々しく輝く剣を構えた少年が駆け出していく。


「うぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!」


「舐め…るなぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」


アーリマンが残った手を前に突き出すと、手の間に黒く悍ましいエネルギーを放つ黒球が出現する。腕が足りないせいか不安定さを見せているが、それでも感じ取れるエネルギーは凄まじい。それを感じながらも少年の足は止まらずアーリマンへと突き進む。そしてアーリマンが少年目掛けて黒球のエネルギーを開放し、エネルギーは波動となって真っ直ぐ放たれた。


「カオル!」


エルフの少女が少年…カオルに向かって叫んだ瞬間、カオルは跳躍して波動を避け、そのままアーリマン目掛けて剣を突き出した。


「何ぃ!? ぐっ! ぬぉぉぉぉっ!!」


だが、その剣が届くより前にアーリマンの爪がカオルを指し貫こうとする。そしてカオルが着ている鎧の表面に触れた瞬間、光を纏った矢がアーリマンの腕に突き刺さり動きを止める。後方では先ほど倒れていた女騎士がフラつきながらも弓を構えていた。


「行けっ!」


「これで…終わりだぁぁぁぁぁぁ!!」


カオルの剣がアーリマンの額にある目に深々と突き刺さり光を放った。その瞬間、アーリマンの体内から光が溢れ出す。アーリマンの体は夜の闇が朝日に掻き消されるかの様に崩れ始めた。


「ぐっ! ぐぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!! 馬鹿な。馬鹿なぁぁぁぁ!!」




「……勝った。勝ったぞぉぉぉぉぉぉ!!」


「……けっ! 最後に美味しい所を持って行きやがって」


起き上がった男は悪態を付きながらも足取りの覚束無いカオルに肩を貸す。女騎士はその様子をエルフの少女に支えられながら見ていた。


「……終わったん…だな」


「ええ、終わりました。これで世界に平和が戻ります」


エルフの少女は嬉しさから涙を流しながら頷く。四人の脳裏には今までの辛く厳しい旅の記憶が駆け巡っていた。







『そうですね。暫くは大丈夫でしょう』


「なっ!?」


そんな時に聞こえて来たのは、先程倒したばかりのアーリマンの声。カオル達は周囲を見回すもアーリマンの姿を捉えられず、それを嘲笑うかのような笑い声が響く。


『ははははは! 無駄ですよ。私は今、体が無い状態ですからね。……勇者さん、良い事を教えて差しあげますよ。私は何度でも復活する。まぁ、大分時間は掛かりますがね。まぁ、その頃には貴方方の内の三人は死んでいるでしょうし、その時こそこの世界を頂きますよ、ふふふふふ……』


やがて声は消えて行き、エルフ達は勝利の喜びも消え失せて複雑そうな顔で俯く。そんな時、笑い声が聞こえてきた。


「ほらほら、なに落ち込んでるのよ。未来の事はこれからの人に任せて、私達は今は楽しみましょ?」


恐らく先ほどまでは戦いの中で気が高ぶっていたのだろう。カオルは別人の様な話し方と表情で笑い、三人も釣られて笑いだした。


「かかっ! それもそうだな。アーリマンが本当に復活しても、倒せる奴を育成すれば良いだけだ。っと、なりゃ酒でも飲もうぜ」


「もぅ! 貴方は相変わらずですね、ギリアン。ほら、ユーリ様も何か言ってください」


「なに、別に良いじゃないか、フィー。さて、急いで帰ろう。父上達が魔帝討伐の知らせを今か今かと待っているだろう」


ユーリは晴れ晴れとした表情で天井を見上げる。先程までの激戦で天井には大きな穴が空き、雲一つない青空が広がっていた。







「勇者様バンザーイ! 姫様バンザーイ!」


四人の旅の出発の地であるレゾル国の王都レゾルフィアでは盛大な宴が催され、城下町の平民にもご馳走や酒が振舞われた。


「あ~、俺らはオマケですってか? 元罪人と他所者には冷たいねぇ」


「そんな事言うものではありませんよ。カオル様は勇者として異世界から召喚した人で、ユーリ様は聖弓の使い手で、この国の王女なのですから。それに私達も散々讃えられていたじゃないですか」


片隅で酒を飲んでいたギリアンは魔法を使い、鬱陶しいほど寄って来るモノたちから見つからない様にして酒を飲んでいた。フィーはそんな魔法など気にした様子もなくギリアンの隣に寄っていく。ギリアンは彼女の手をチラチラ見ながら手を動かすも直ぐに戻し、その手にフィーの手が重ねられた。


「フ…フィー!?」


「……あの、ギリアン。エルフの国で住む気はありませんか? 世界を救った貴方なら受け入れて貰えます。……住むところは私の城がありますし……」


「……なぁ、それって」


ギリアンの言葉に対し、フィーは長い耳まで真っ赤にして無言で頷く。ギリアンの顔も顔も真っ赤になっており、それは酒のせいではなかった。






「主役の姿が見えないと思ったら、こんな所に居たのか」


「あら? どちら様かしら? アタシは女神様に知り合いは居ないけど?」


「……誂うな、馬鹿者」


宴の最中、こっそり抜け出したカオルはバルコニーで夜空を見上げながら街の様子を眺める。すると後ろからユーリが声を掛けて来た。旅の時に着ていた鎧ではなく真っ赤なドレスだ。カオルの言葉を聞いたユーリは弾かしそうに前髪に手を当てながら目を逸らした。


「……なぁ、カオル。帰って…しまうのか?」


「……ええ、そういう約束でしょ?」


カオルはグリフェリアの世界の住人ではなく、別の世界から勇者として召喚された存在だ。そして、魔帝を倒す事で再び二つの世界が繋がると聞かされた彼は渋々ながらも役目を引き受け、今こうして役目を終えて帰って来たのだ。再び街の方を向くカオルに対し、ユーリはその背中に抱きついた。


「……嫌だ! お前と別れたくない! ……頼む、この世界に残ってくれ! 勇者らしく振舞えとは言わないし、他の妻がいても良い! だから……」


「……御免なさい。向こうにも大切な家族が居るのよ」


ユーリの方を向いたカオルは彼女の瞳からこぼれ落ちそうだった涙を指先で拭う。その体は徐々に透け始めていた。


「……未練が残るといけないからって、ギリアンに時間が来たら発動する様に術を掛けて貰ったの。あ、彼を責めないでね? ……あの、最後に言っておきたかった事があったの。アタシの名前って、実はカオルじゃないのよ」


「……は?」


「いやね、本名があまりにもゴッツイから嫌いだったのよ。で、せっかくい世界に来たんだから、その間だけでもって思って偽名を名乗っちゃった。……てへ✩」


「お…お前なぁ……」


いきなりのカミングアウトにユーリは呆れ顔だ。そして、カオルの体はついに光の雫となって消えて行く。


「ばいばい、ユーリ。アタシの初恋の人。色んな子に目移りしたけど貴女が一番好きだったわ。私の本名はね―――」


「なぁ、―――。私もお前が……」


ユーリが言葉を言い終える前にカオルの姿は消えさり、暫くの間バルコニーにはユーリの嗚咽の声が響いた……。





その後ユーリは修道院に入り生涯独身を貫き、彼女の弟が次の王に即位する。ギリアンはフィーと共にエルフの里に移住し、彼が死ぬまで夫婦生活は続いた。




そして三百年後、再び世界は暗雲に閉ざされようとしていた。世界が平和になった当初、各国はアーリマン復活に備えていたが、長い時の流れと共に人間同士での争いに発展してしまった。そして世界に残された希望は異世界からの勇者召喚。儀式は無事成功し、召喚用の魔法陣から放たれた光が収まると四人の人物が姿を現した。



「……?」


一人目は黒髪を短く切りそろえた小柄な少女、見た所十歳程度で、少々表情が乏しい。状況が飲み込めないのかキョロキョロしている。


「あれれ~? 香瑠(かおる)ちゃん、此処何処だろうね。あっ! あの絵、すごく綺麗!」


二人目は、少し間の抜けた感じの少女。赤毛混じりの髪をツインテールにしており、スタイルが良い。緊張感を微塵も感じさせずに周囲を見ている。


「……さて、周囲の者達が何か知ってそうだが」


三人目は眼光鋭い少女。黒く艶のある黒髪をポニーテールにしており、体型はやや慎ましいが、細身ながら筋肉が付いて引き締まっている。二人目の少女と違い警戒しながら周囲を見ていた。


「此処は……」


そして最後の一人は白髪の老人。顔に刻まれた皺から可也の高齢である事が伺えるが、オールバックにした髪は白髪ながらフサフサしており、その肉体は逞しく腰も曲がっていない。武道でもやっているのか、戦う為の肉体をしていた……。





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