第一話④ 『清明』――「大人/介入」
舞い散る桜と消えた彼岸花。徐々に違和感を覚えていく信と修也は帰路を目指そうとするが――
少女によりドアが閉じられてから数分。相変わらず沈黙が続いている。
ただ二人は落ち着きを取り戻す為か、校庭を見下ろし、黄昏ていた。
その手には先程の飲料が添えられている。ペキョッと紙パックのへこむ間抜けな音だけがその場にはあった。
「なぁ、修也」
「ん?彼岸花って秋にさくよな?」
信は先ほど飛んで行った彼岸花を思い出した。
何故彼岸花を添えたのか。それを知るのにはやはり彼女が誰なのかを知る必要がある。
言い換えれば彼岸花を持ってきた理由が分かれば彼女が誰かも分かるのだが。
信の頭はそれが分かるほど柔軟ではなかった。
ただ彼のお固い知識の底に沈んでいた情報が顔を出した。
彼岸花は秋に咲くものだ。彼の中で渦巻く違和感。それは彼岸花の存在なのかもしれない。
「ああ、そういえば確かに」
修也の反応は薄い。まあ確かに都内に住んでいれば花などあまり見る事がないだろう。
ビルが雑多と並んでいる世界だ、彼岸花などシーズンになった花屋か墓地でしかみることがないだろう。
信の中の違和感がより遠心力を得てぐるぐると拡大し、心に浸食する。同時に脳も嫌な汗をかきながらただ思考速度を速めていった。
(明らかに何かがおかしい。謎の少女と彼岸花。手がかりのない殺人現場とほぼ無意味な証言。学校や家族、警察の反応。)
信にとって、全てがおかしいように思えてならなかった。
そう思っていると修也が語りかけていた。
「あれは一体……」
ドアの方を眺めながらの発言からして、あれ、とは先ほどの少女の事だろう。
「さあ」
二人は先ほど起こった怪現象たちに現実味を覚えることが出来ず、ただ黙ったまま屋上を後にした。
教室や部室に寄り道することなく二人は無言で正門をめざし、螺旋階段を下りていく。
彼女のどこか負傷したような足の速さなら、まだ正門あたりにいるかもしれない。
どこか期待しながら信は下駄箱へとたどり着いた。あたらしい置き場に少し戸惑いながらもできるだけ早急に靴に履き替え正門を目指す。修也はマイペースにスニーカーを履いていた。
正門は目と鼻の先だ。信は修也をよそ目に正門の方を見る。
そこには二台の黒い車が止まっていた。
車の前には前には男と女、そして校長がいた。
「あれもしかすると刑事か?」
「かもな、いやだろうよ」
いつの間にか信の隣に立っていた修也が答える。
生の刑事を見るのが初めてだった信に対して、父が刑事だった修也は驚きを示さなかった。
「本当に私服なんだな」
「ああ、パトカーじゃないのが少しひっかかるが、まぁあれも普通なのか」
二人は正門へ向かい、注意を払いながら無言で刑事と校長のいる場を抜けようとする。
かなり真剣な目つきで取り合っている為、先ほどの緊張とは違う大人たちによる緊迫した雰囲気がひしひしと伝わってくる。そこで
「あっ、君たち今帰りかい?ずいぶんと遅いようだけど」
予想外にも校長に声を掛けられた。校長の声は明るく全校集会で饒舌にどうでもいい話を語る時と同じようなトーンだった。顔もなぜか笑みだ。
「キミたちを待っていたんだよ」
獲物を捕らえたようにニコニコ笑う大人達。
それに対して
「なるほど、そういう風の吹き回しか」
と、修也は大人達に一礼をしながらも信にしか聞こえない様に呟いた。
信も後でつられて表面上礼をする。
すると大人たちはより機嫌のよい笑いを見せた。
(はっ、気持ち悪いったらありゃしねえ)
修也はその言葉を心にとどめ、校長の後に続いた。
正門から車には乗らず校長室に向かう一行。二人は結果的に引き返す形になった。
(あいつもいなさそうだったし構わないか)
信は少女を思い出しながら校長室へと入る。
(取調室ではなく、校長室とはいい趣味してんな、オイ)
一体大人たちによるどんな理不尽が待っているのか、修也は大人たちにどんよりとした黒い何かを察し、
それに対して嘲り笑い、信に続いて入室した。
前話のあとがきで間違えて書いてしまったオッサンたちの登場回です。
唯一の救いといえば女刑事でしょうか。
暫くの間オッサンは封殺して学園モノっぽい雰囲気を醸し出したいこの頃。
続きを作っていて思ったのですが「全く学園要素無いんじゃね?」
となって学園要素増量中です。推理という推理もしてませんね。
なのでジァンルもファンタジーに変えました。いや推理っぽいことはしますよ!?でも総合的に見ればこっちかなと思いまして。
推理ファンの方は不服かもしれませんがあしからず。
もしお時間許すのであればツイッターでフォローしてやってください(誰目線!?)
今回の様に作者がやる気になって作品の更新が速くなったりします。
続きが気になる方は是非。