第一話③『清明』――「机上/空論」
屋上での独自調査の中、突如現れた謎の少女。二人の思考に次々と謎が浮かび上がり――
ゆらゆらとこちらに向かってくる少女。
その度に黒髪は風に躍る。
足取りは歩き始めた赤子のようにおぼつかない。
『生前』の有栖は子どもっぽくファンタジーに興味のある不思議ちゃんではあったが、
身体能力はすこぶる高かったはずだ。それはまるで別人の様で。
そこで信の頭に一つの仮説が浮かぶ。
第一に、見て呉れ。これは明らかに彼女が朝霞有栖であることを示している。
第二に、肌の白さ。
第三に赤の瞳。
そして第四に歩き方。
この四つの示すことはトンデモだが、もしかすると彼女は。そこまで考えて信は彼女に目線を映した。
彼女の歩みは相変わらず遅い。ただその遅さが妙な緊張を生む。場の緊張により信も修也も動けずにいた。
(もし俺のトンデモな仮説が正しいとすれば……この女は有栖で且つゾンビってことに)
いや、ない。非科学的な現象が嫌いな信は自分の立てたトンデモ理論を一刀両断した。
そもそもゾンビの定義を確認する。
ゾンビには二種類ある。
一般的な動物的ゾンビと、思考実験に用いられる哲学的ゾンビだ。
動物的ゾンビ。知能はなく、その名の通り血色の悪い死人。本能まま彷徨い人を襲う。
人を襲う理由は様々。空腹を紛らわすためのカニバリズムともいわれれば、生気を食うとも言われたり、吸血鬼の様に血を飲むこと等々。
哲学ゾンビ。思考実験上で扱われる特殊な生態の事を哲学的ゾンビという。
スワンプマン等が有名である。
人と同じ体、知能を持つ。記憶は情報として組み込まれている。
機械に処理されているが人間味の帯びたリアクションを取ってくれることだろう。
たぶん家族や親友がこの哲学的ゾンビであっても気づくことはほぼ皆無だ。
それほどに彼らは人間に等しい。
唯一の欠点は感覚質だと言われている。記憶と呼ばれる情報によってその欠点も表面上では克服されているため本人でさえも分からないのかもしれない。
今回の例は前者だ。ただ彼女がここで一言。声を発しさえすれば彼女はゾンビではない、と言える。
もちろんファンタジーでは喋る亜種もいるであろうが、それもこれもまずは会話できる知能があるかどうかという点に問題点を置くことが出来る。
信はこの沈黙を破る一言を待った。
(一言。一言でいいんだ。どんな言葉でも)
何も語らず俯いたままこちらに体を大きく揺らぎながら歩く少女。
信はまたそこで思った。
(もし彼女が言葉をしゃべれば彼女は何者なのか)
それは彼女が喋った後でいい。今は現状に前意識を傾ける。
警戒は解かない。信の目線はは鋭く、彼女の美しい体へと伸びる。
(さあなにか。何か喋ってくれ。)
彼女の上唇が持ち上がる。ただ彼女は声という声を発さない。
ケタケタと笑っている様にも見えるが、その笑い声さえ聞こえない。
その場に響いていたのは彼女のローファーとタイルが奏でるカツンカツンという甲高い音だけだった。
彼女は二人の間にたどり着くと彼女は顔も見ず、タイルの上に彼岸花を供えた。
どうやら目的はこれだったらしい。
踵を返そうとする彼女は大きくバランスを崩すと彼女は信の方によりかかった。
信はよろけた彼女の体を受け止める体制を取る。
彼女は信の胸に顔を埋める様に倒れると信も抱き留める。
彼女は暫くすると手を振りほどいてまた歩き出す。
二人とも何もできずただ彼女が屋上から出ていくのを眺めるだけだった。
曇り空が緩やかに立ち去っていく。
結局、彼女の事は分からず仕舞いだった。
一体彼女は何者なのか。朝霞有栖なのか、彼女のゾンビなのか。
何も分からず、二人は何もしゃべりもせず、ただ午後の学校に取り残されたままだった。
彼女の供えた彼岸花が強風に煽られる。
彼岸花は以前より一段と高くなったフェンスを優に超えていく。
ゆらゆらと揺蕩う光景はまるで俺たちの元に突然現れ去った彼女の様で。
その光景に違和感を覚えながら、二人はその花が飛んでゆく方を、ぼうっと見ていた。
彼岸花は桜の木への方へ飛ぶ。
また風が吹くと桜の花びらと共に風に煽られ、花びらの群れの中、霞のように消えていった。
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さてさて、今回も結局謎は謎のままでしたね(笑)
作者でさえも今後が気になりますね!(え?)
いえいえ、ご安心を続きもちゃんと作ってます。ちゃっかり。
今回はそんなとこですかねー
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