第一話①『清明』――「空席/教室」
季節は春。美しく舞い散る桜。入学式の放課後、物語はひっそりと、ゆったりと動き出す――
カッ、カッ……ギィィィ……キィ……ギィィィィィイ……………
仲谷信は椅子が織りなす悲鳴で、夢から現実へと帰ってきた。
音はどうやら起立しようとする生徒たちが生み出した椅子を引く音であった。
その状況から察するに終礼が終わり、挨拶をするといったところらしい。
信は他の生徒に遅れながらも起立する。いつもなら大げさにおこしにくる人物がいたのだが、そう思い信はふと横目に右隣の席を確認する。そこは誰もいない。
すると信は目線を教卓へと戻し、また周りにつられながらも一礼した。
その空席は信の幼馴染、朝霞有栖の席であるはずであった。ただ彼女は朝の新しいクラスの発表に始まり、始業式、ついには新しい教室でのホームルームにさえも姿を現さなかった。
しかしそれは当たり前のことだった。
彼女が姿を現さないことには理由がある。引きこもりで欠席をしているだとかズル休みをしているとかそんな事情ではない。その事情を知っている生徒は信と去年は同じクラスの学友であり、二人の幼なじみである修也ぐらいである。信は帰り支度をしながら有栖の事を少し考えた。
有栖が死んだ。有栖は転落死だった。
有栖は死んだ。有栖は自殺するような軟な女ではなかった。
有栖はきっと、殺された。だからと言ってどうなるか。
それが最近の信が持つ思考だった。
親友、有栖の死に対しての感情は思っていたよりあっさりとしていた。
10年以上の付き合いだったが彼は特に涙を流すこともなく、悔しがる様子もあまり見せなかった。
どちらかと言えば、彼女はなぜ死んだのかという命題に目が向いていた。
色々と考えて見ようとも思ったが一高校生に解決することなど不可能である、そう溜息をついて寝ていたのが先ほどまでの彼だ。信はどこまで現実主義者であった。
信が帰ろうと荷物を整理していると、ドアの方に来客が来ていた。
「よお」
「おう、修也」
先程あげた有栖のまた信の幼なじみ、修也であった。
今回の二年生への進級で他クラスとなってしまった。
「今日の部活はどうするよ」
部活というのは三人で存続させたレキケン通称歴史研究部だった。
歴史に興味があったわけではない。専属顧問がいないことで自由に活動でき、特に大した活動もせず、
だべるためだけに放課後の教室を正当に占拠出来る部活だったからである。
ただ部長有栖無き今、休部とだべり場の危機がせまっているのは確かだ。
「確かに部室なら話すのには最適だが……屋上にいくか」
そう信が言ったときに一瞬だが修也は顔をしかめた。
信は知っていた。修也は有栖に好意を持っていたという事を。
そしてその有栖の思い人は自分であることを。
ただそんなことは彼にとってどうでもよかった。
恋愛なんで言う非生産的な行動は受け付けない。
(なら俺は何故交友関係などとっていたのだろうか。)
人の感情も踏みにじることが出来る。
(なら何故修也に確認をわざわざとるのか。)
自分が真実を知る為ならば他人を蹴落とすことなど造作もない。
(なら何故これほどに真実を追うのか。)
全ての答えは時と『己』が教えてくれる。
信は廻る思考を抑えるため溜息をつく。
落ち着いたことが分かると信は再三確認する。
「不満か?」
信の顔には修也に対する憐れみの情が浮かんでいた。
暫く腕をくんだ後、修也は努めてシニカルに微笑みながら言葉を紡ぎ答えた。
「そうだな、、、一度現場を診るのもありかもないいぜ」
やれやれ、といった感じに壁から離れると修也は信より先行して階段を上がっていった。
建前と本音の激しい人間。それが修也だった。
その足取りはどことなく重いように信には見えた。
学園編スタート!という明るいスタートが出来ればよかったんですがねぇ……
まぁこんな感じに始まりました。いかがだったでしょうか。相変わらず文章が下手ですみません。ご指摘や分かりにくい点があればぜひ。
超無愛想系男子、ノブとその仲間の活躍にご期待ください!いや、してください(笑)