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『シキキキキ』  作者: Otama
【第零環・コウジシキケン―No.1―】
2/7

序詞 「混濁/意識」

複数の世界から織りなされる、物語。これはその物語の一幕――小さな小さな病室から全ては始まる。

 カッ、カッ……ギィィィ……キィ……ギィィィィィイ……………

 

 ワタシは長い眠りについていた。

そんな中、幾つもの刺激がワタシを眠りから覚まそうとする。 

 まずは安らぎ。春の陽気だろうか。冬の羽毛の布団だろうか。何かは分からない。ただ暖かさを感じる。

 次は声。甘い声。女の声だ。その声はワタシに向かって優しく語りかけられている。

 最後は音。先程挙げた奇妙な音。何の音かはさっぱりだ。気味が悪い。

 ただ、これらの作用全てによってワタシの体は起きたのではない。音だ。何よりも音が決定的だった。奇怪な音の所為で、ワタシの体は反射的に瞼を開いていまった。

 さて、ワタシは誰か。分からん。何処だ。また分からん。何時か。また、また分からん。何が原因か。さあ、さっぱり。何故、寝ていたか。皆目見当もつかぬ。ただ現状を確認することにワタシは意識を費やした。

すると耳に入ってきたのはあの音ではなく女の声だった。

声の主を見る。女はワタシの右手に居り、イスに項垂れるように座っていた。窓から差し込む日差しが後光のように見えるのは彼女の美貌の所為であろう。女神のような天使ような、そんな神聖なる印象だった。黒く長い髪が風に踊る。そんな髪とは対照的に彼女は酷く悲しげな顔をしていた。

彼女の両手はワタシの右手を掴んでいる。どれほど握られていたのか。

ようやく彼女はワタシが目覚めたことに気づいた。

萎れた花の様に屈んでいた彼女の体は跳ね、顔にはその美しさにふさわしい上品な笑みが戻った。

 そんな彼女だが会ったことはなかったと思う。ワタシの記憶は混濁しているが何故か自信がある。

まるで取ってつけたかのように、嫌にはっきりと分かった。それがなんとなくさびしかった。

それは、ワタシを知ってくれている人がいないという寂しさか、彼女と出会ったことがないという事実に向かっているのかはわからない。そうワタシは何も、何一つわからんのだから。

彼女が優しく声をかけてる。


「気分はどう?」


どこか懐かしい声のような気もしたが、違う気もする。ワタシは、わからない、とだけ答えた。

すると女性は何かを察したのか、はたまた思い出したのか、視線を逸らし考え込んでしまった。


「私が誰かわかる?」


さあ、良く思い出せない、と生意気をきいたような口調で答えた。物理的に近いからか、彼女との心の距離はそれほど遠くない気がした。すると彼女は顔に寂しさを浮かべ、そう、とだけ小さく答えた。


「一つだけ、お願い聞いてくれない?」


かなり遠慮がちに尋ねてくる。今までのワタシの態度のせいであろうか。性分なのだろうか。

ワタシが返答をする前に、彼女は望みとやらを実行した。全く油断していた。先程の言葉は撤回しよう。遠慮でもなければ性分でもない。あれは、罠だ。偉そうに答えたりしている割にはワタシにはイニシアティブなんてなかったのだ。ワタシにはなにもないのと同様に。

彼女は遂行に任務を遂行する。そう、瞳を閉じワタシの唇に彼女の唇をあてがう行為を。神聖なる行為を。


 まるで浄化されたようなというより漂白された気分だ。ただでさえ少ないワタシの自我をスッカラカンにされた気分だ。

ワタシは虚無だ。彼女に身を委ねる。すると彼女は次に大いなる安らぎを与えてくれる。心地よい。

最初に感じた安らぎは彼女の存在自体だったのかもしれない。この何ともいえない、優しさというか温もりというか幸せというか。ワタシはこの安らぎに匹敵する言葉を持ち合わせていなかった。

ワタシも美しい彼女がそうするように、瞳を閉じるだけ。

ゆっくりと時計の針は進んでゆく。ワタシ達の息づかいに呼応するようにカチカチと針は音を響かせる。

虚無と永遠。

ここはそういう場所だとワタシは感じ取った。

 彼女が腕をワタシの右手から首へと回す。ワタシは寝たきりの体を少し起こしただけだったからか、彼女がワタシの体に覆い被さる姿勢となった。

ワタシは手を伸ばし、軽く彼女の肩に手を置く。

やはりこの女と出会ったのは今日が初めてはないと体感する。

では何故ワタシの記憶は嘘を吐くのか考えることに努力するが、彼女の口付けがそれを拒んだ。

やはり白く頭が染まる。虚無とは違う白に染まる。ワタシ達の躰は安らぎを覚えるだけにすまず、熱を感じ取り始めた。目を開けるとそこには先程まで髪の黒とコントラストを表していた肌の白がグラデーションを構築しながら赤みを帯びていた。ワタシの頬も触れるまでもなく火照っているに違いないだろう。そう思うと熱くなるのを感じた。どこともわからぬ病室で、見知らぬ女と(知っている気はするのだが)接吻を交わすワタシ。客観的に考えればおかしな話である。しかも相手が美しいと来た。ワタシには釣り合わない。性格は明瞭ではないが、控えめな小悪魔である。危険な気もするがそれでも良かった。いやなお結構ではないか。体に快が走り出す。これ以上はいけない。お天道様が許そうが神様が許そうがワタシの理性が首を縦に振らなかった。彼女の唇から逃れようと首を後退する。

だが、彼女の手にあっさりと捕縛される。彼女は目を開きワタシの表情を覗く。くりくりとした瞳がワタシの表情をとらえ、やがて心中へと目標を移し、浸食する。ワタシは空っぽの己を、理性を守った。

功を奏したのか彼女は腕の力を緩め、名残惜しそうにワタシの唇から立ち去ってゆく。

 ワタシは落ち着きを取り戻すため、ため息を一つ。同時に彼女は甘い吐息を一つ吐いた。

互いが顔を見合わせ、驚き、言葉を交わさず小さく笑う。肩の力が抜けたワタシはこの状況が照れくさくて頭をかいた。彼女がニコリと満面の笑みを浮かべる。再び彼女の手がワタシの頭を固定した。やはり小悪魔の罠は巧妙だった。次に彼女は再び唇をワタシの顔へとしむけるのだが先程と少し違う。舌先が可愛らしい口元から露見していた。このままでは流れに、彼女に呑まれると思った。無意識に応えようとするワタシの躰。ああ罪深い。彼女の心拍数が聞こえる。小悪魔的な態度とは裏腹に激しく高鳴っていたよく見れば頬も真っ赤に染まっている。恋する少女のようだ……そう思った時、ある少女との記憶が走馬灯のように脳内を駆け巡る。少女は女と瓜二つの気がした。ワタシは記憶の少女に呼びかける。


「キミは誰?」


不意に口走った発言に女は体を小さく震わす。

そして、彼女の、女の全ての行動が止まる。

女の手が小刻みにふれる。上目遣いでこちらを覗く女。刹那、女は思い切りよく口付けをする。何かを振りきるように。行きよいの良さにワタシは頭を打った。

女はお構いなしにワタシの口の中で暴れる。落ち着きこそ無いが、ひどく真剣に。頭の中まで上書きするかのように。気がついているのかいないのか女はワタシの体の上に座っていた。ワタシは受け身の姿勢をとり続けていると彼女は涙を浮かべた。どうして?そう訴えかけているきがした。あれほど心地よかった口付けもそれ以上の深い口付けも今ではなんとも思わなくなった。まるで何も感じない。不毛な行為だった。彼女もただ泣きながら口付けを交わすだけ。悲しげな沈黙が病室を支配していた。

沈黙を破るようにノックが三回なる。突然の来客に応対できず、ワタシと女はそのまま固まっていた


「どうですか彼の様子わっ!?し、失礼っ」


白衣を着た、ガタイだけ良い大男が入室したと思えば、退出していった。廊下からも、ちゃんとノ、ノックはしましたからねっ?という言い逃れが聞こえてくる。大男な割に小心者だった。

 

突然泣き出す女。ギャップのある大男。なんだかすべてが茶番の様に思える程、ワタシは変に冷静であった。ワタシは何事もなかったかのように窓の方を見る。桜が咲いており、その花弁は婉然と舞い散る。しかし本体となる樹はどこか鬼気というか狂気を感じる。ふと、誰かの顔が浮かんでは消えていった。たぶん気のせいだろうと想いながら現状にため息をつく。


 これが、いつかはわからないが、ある晴れた昼下がりの出来事だった。

いかかだったでしょうか。イメージとは違いますがこういう形からのスタートになりました。こういうシーンは自重していくスタイル……えっ?もっと過激なのが欲しい?悪魔でもR15なのでご了承を。思ってたのと違うよ、こんにゃろうという方。次話より本編です。前書きで書いた通り「複数の世界」から成り立っている作品で、この「病室」の世界は挿入、幕間扱いです。ただ後々ストーリーに絡んできたりするので、こちらはゆっくりとお楽しみください。

 さて、誤字脱字が目立っているともいますが、コメでバンバン指摘してください。一週間一本はなかなか点検する時間がなくてですねぇ……(言い訳)文章校正能力もみての通りなので、みなさんの調きょ……御指導お待ちしております。


ではでは、次話で逢いましょう

以上、素人作家Otamaでした。


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