別にお前の為じゃ【静】
今回短め。
ついに買ってしまった・・・!自分で作れないとはいえこれはチートだよな、そこまで高いものでもないし・・・あいつ怒るかも・・・でもそんな事言ってられないよな。だってホワイトデーは今日だし。こうでもしなきゃ間に合わないし。
あいつはあれで意外とモテるから既にいくつかもう貰ってたりして。だったらもっと目につくようなものにしないと、もはや視界にすら入らないんじゃないかっていうかそもそもあいつはチョコとかそういう類いが好きなのかっていうか、それって結局は皆から同じようなの貰っててもうすでに飽き飽きしてるとかそんな事ないよな!?
ダイエットしてるからそういうの食べれないとかそういう可能性も無くはないしなぁ。ってどうすればいいんだよ!
猫ならやっぱ魚だよな。でも煮干しは猫には良くないとかいうし・・・だからって野性的でもないあいつに小動物をあげる訳にもいかないし、マタタビとかもはや酒の類いだし、あいつ酔ったらどうなるか分かんないしっていうか、準備したところでどうやって渡すって言うんだよ。言葉は?まさか無言で渡すとかないよな、自分?
自分で自分に聞いてどうする自問自答かよ気持ち悪い。俺自身に言ってるとかもう終わりじゃね?っていうか俺焦りすぎ。落ち着けよ。
・・・。
俺は今日、あの猫女の為にホワイトデーの菓子詰めを買った訳だけど、どうやって猫女に渡していいかが分からなくて困っている。
何処かに呼び出しするという手が一番楽だけど、それを誰かに見られたらマズイ。非常にマズイ。呼ぶなら俺しか知らない場所に誘導しないとな。
・・・さてと、俺しか知らない場所で尚且つアイツがいてもおかしくない場所――、!そうだ、あそこがあるじゃないか。よし、そこにしよう。
思い当たる店があった俺は、ノエルに電話を掛けた。あいつはスリーコール後すぐに電話に出てきた。
「今日暇?」
「生憎、暇じゃないのよねぇ」
「はぁ?他に物好きがいるのかよ」
「物好きって失礼ね!それが口説き文句なのかしら。素直に会いたいって言いなさいよ」
「――ッ、分かったよ。言えばいいんだろ言えば!猫耳の姐さん、今日とある事情で会いたいから、ここに来て。以上」
「ここって言われても――」
「メールする」
一方的に電話を切って即座にメールを送る。あの場所への地図を載せたメールを送信すると、俺は菓子包みを持ち家を出た。
待ち合わせ場所はここから電車に乗って数駅先にあるカフェ。最近人気らしいけど今のとこ誰にも会ってないし大丈夫だろう。
「いらっしゃいませ~」
先回りして席を確保。流石にこれはやっておかないと。こっちが呼び出した訳だし。
適当に飲み物を頼んでダラダラ過ごしていると暫くして猫女がやって来た。
「――!?」
「何よ、おめかししちゃ悪いって言うの?」
「べ、別に悪いなんて言ってないだろ。ただいきなりだからビックリしたんだよ!」
「それより何よここ――!」
「・・・猫カフェ。」
巷で噂の猫カフェ。猫耳ついてるくらいだしアイツは猫好きだろ?まぁ、俺が普段からここで猫とじゃれてる訳だけど。
「あんた猫だけにはモテるのね・・・」
俺の周りに集まりだした猫達を見て猫女が言った。そんな彼女の周りにぽつんといる猫はかなり警戒心を持ちながらノエルを見ている。
「ほぅら怖くないわよ?仲間だからね?」
一応猫には優しいらしい。不気味でしかないけど。今にもとって食いそうな勢いだし。
「逃げられてるぞ」
「五月蝿いわね、ちょっとタイプが合わなかっただけよ」
「ふーん。」
「鼻で笑わないでよね!」
「笑ってすらないし」
「~~ッ、うっさい!」
俺は玩具で猫の気を惹きながら、ノエルの様子を見ていた。ノエルが猫を寄せようと躍起になっているのが面白くて仕方ない。普段上から目線のあいつが必死になっている姿が。あいつにもこんな一面あるんだなとか思う。普段からこんな感じだったら可愛いのに。
「あー、もうあったまきたッ!猫になれば流石に仲間に入れてくれるわよね!」
やけくそになったあいつは猫化の能力を使い完全に猫になった。猫カフェにいる猫達は新しい仲間が来たのかと好意を見せ始める。あいつが得意な猫被りで何とかなったようだ。
俺は完全に猫になったあいつに向かって猫じゃらし型の玩具を突き付ける。流石に本能まで猫になってないよなと皮肉を込めてやったけれど――。
「にやぁっ!」
何故かあいつは飛び込んで来ていた。
そのまま俺の膝に乗っかり玩具で遊ぶノエルを見て微笑ましくなり、放っておいた。
見ると自分の飼い猫にそっくりだと分かり、思わず抱え頭を撫で始める。ふわふわした毛並も色もそっくりだ。
撫でられたノエルは気持ち良さそうにゴロゴロと喉を鳴らした。さっきの言葉は訂正。人間の時よりこっちの方が可愛い。
――ズシッ!
「いてっ!」
急に膝の上に鋭い痛みが走った。引っ掻かれたような痛みではない。重みに耐えられないという痛みに近い。視界には大きな耳が入る。あれ?これって――。
「ひっ!」
「の、ノエ――」
「きゃああぁっ」
「ちょちょちょ落ち着けって!」
そう、俺はノエルを抱きしめていたという訳である。いつの間にか猫化を解いたノエルをそのまま抱えていたという事だ。
俺はとりあえずノエルを隣に座らせ、謝った。
「ごめん、完全に猫だったからつい――」
「分かってるわよ。一応猫の時の記憶もあるから」
「は?」
「ただ記憶はあっても理性は猫になっちゃうのが大変なのよね――効果もいつ切れるか分からないし」
「へぇ」
「でもあんたが猫好きなのは良く分かったわ。だから私の事も好きなのね」
「ははっ、そういう事か」
「――で、用事は?もしかしてこれのこと?」
ノエルはいつの間にか俺の持ってきた菓子包みを手に持っていた。これが所謂泥棒猫ってことか。
「お手上げだなこれは」
「ふふ、観念しなさい」
猫にしてやられたのは悔しいけど、自分で伝える手間が省けたからまぁいいや。
こういう風に人と関わるの、なんだかんだで久々なんだよな。いつも相手を突き放して来たから――、案外こういうのもいいかもしれないな。
「菓子包み、有り難。」
「どういたしまして」
静×ノエル、案外好き。ノエルが好きだから。強がりだけど実は弱かったり、意外と泣き虫照れ屋だったり、ツンデレな所とか。
半々だけどね。
逆に静は一匹狼だから出し辛い。動かしにくい。だからこんな話になっちゃうんだよ全く。