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白詰草【真琴】

延々と片想いをする一途な男子。それが報われないと知りつつも期待してしまう――そんな彼の話。

白詰草っていうのは所謂クローバーのこと。四つ葉を見つけたら幸せに、なんて話よく聞くでしょ?僕はある人に幸せになってほしくて、一生懸命に四つ葉を探してたんだ。


でも、中々見つからない。色んな場所に行って探してみたけど、皆取られちゃったみたいでもうなかった。


四つ葉のクローバーは、突然変異で現れるんだって。だからレアなんだってさ。でも最近は、その仕組みが解明されたから、四つ葉のクローバーを育てられるキットみたいのもあるらしい。


花屋さんに行ってその鉢を買ってみたら、本当に四つ葉が生えてきた。 これでオッケーなんて思ったけど、こんな簡単に手にはいるものじゃ、何だか物足りない。やっぱり草を掻き分けて探し見つけた方がさ、感動的じゃん?


川までジョギングついでにクローバー探し。空き地に広がる緑を見逃さないように目を凝らし進む。白詰草を見つけては四つ葉を探すの繰り返し。神様、どうか僕に四つ葉を下さい。


願い虚しく四つ葉は見つからない。読書家のセイラに栞を作ってあげようと思ったのに・・・諦めろっていう事なのかな?神様もそう考えて態々こんなことをしたと?残念、僕は諦めないよ。彼女が黒に染まる前に、助け出さなきゃいけないんだから。ほら、あんまりアニメとかゲームとか分からないけど、勇者が姫を救い出してハッピーエンドってよくある話じゃん?あれを実行したい訳さ。


セイラの気持ちは痛いほどに分かるけど、僕は往生際が悪いし頭も悪いし負けず嫌いだから、どうしても聖夜アイツに勝ちたいんだ。


ごめんね、我儘で。でもそれが僕だからさ。


次から次へと公園を周り早数時間。いい加減見つかって欲しい。体力も限界に近づいてる。今ここで倒れてしまいそうなくらいクタクタだ。


広い公園へ向かえばそこにきっと。そう思い今居た公園を背に走り出した。喉はカラカラ、足は棒のよう。ぎこちない姿で走り向かって公園。人が集まり賑やかだった。そんな中で僕は諦める事なく四つ葉のクローバーを探す。


白詰草はあった、三つ葉は沢山ある。でも四つ葉は――。


流石に疲れも溜まり、芝生の生えた地面に寝転ぶ。すぐ下にある白詰草を背で踏むようにして。両手を広げ、空を眺めた。雲一つない晴天だった。何だかバカにされているようでムカつく。


僕はすぐ横に生えていた白詰草を手で掴み引っこ抜いた。乱暴な真似はしたくなかったけど、あまりに見つからないから。手の中に沢山入っているであろう三つ葉に恨みを込めるように、一つずつ投げていく。空に散っていく白詰草。ざまぁみろ。あーあ、そんな事言っても何にもならないのに。


手に残った最後の白詰草を指でつまみ上げ、葉を一枚ずつ千切ろうともう片方の手の指を近づけた。目が勝手に枚数を調べていく。一枚、二枚、三枚と。あぁまた三つ葉かよ、そう思ったときだった。三つ葉の陰に隠れたもう一枚がちらりと覗いたのだ。


これ・・・四つ葉じゃん!


それまで否定的だった思いは空の向こうに飛んでいった。そして手に残った一枚のクローバーを大事にハンカチに包む。よし、早速家に帰って栞を作ろう。


疲労感も何処かにいってしまったようで、やけに体が軽い。気分は体を支配するようだ。来た道を風のように駆け抜け、寮へ戻る。重いドアを開け、自分の部屋へ。

栞のセットは準備済み。だから簡単に栞を作る事が出来た。完成した栞を見て、ジャンプをしたいような気分になった。でもまだだ。だってこれをセイラに渡さないと!


しかし意外にも優秀な僕の頭は、未来を予想していた。今家に向かっても、聖夜といると知りショックを受けるだけだろうと。


僕はそれを避けるため、仕方なく便箋に想いを託すことにした。


小学生の頃から使っている勉強机の前で文をひたすら考える。引き出しからおもむろに便箋を取り出して思いつく限りで手紙を書いた。でも上手くまとまらなかった。


思えば自分の気持ちを言葉で表現するのは苦手だ。昔から何だかんだで口下手だった。友達もあまり出来なかった。セイラと出会うまでは。


上手くまとまらない部分を省き、分かりやすい形で文をまとめていく。これならいけそうだ。筆はちゃくちゃくと進み、紙を埋めていった。


「これでよし!」


自分には似合わない可愛らしい封筒に便箋を入れ、シールで封をする。きっとこれならどこからみても、女子からの手紙だ。


何でそんな事をしなければならないかというと、簡単に言ってしまえばガードが固いから。セイラへの手紙が届くと、一度父親が全ての手紙を確認するらしい。璢夷や聖夜なら、家公認の仲だから通してもらえるだろうが、僕の手紙は通してもらえないだろう。


差出人が不明だと怪しまれる場合があるので、悪いけど妹の名前を借りた。これならちゃんとセイラに届く。後で妹には謝っておこう。


それから封筒に切手を貼り、ポストに入れた。近場だから今日中に届くに違いない。


結局、今日はセイラに会えず仕舞いだ。でも今日くらいは我慢する事にする。だって今、セイラは微笑んでいるだろうから。

【真琴の後日談】


 次の日、手紙が届いた。誰かと思えばカインさんからだ。一体何が書かれているのだろう?


 封を切り、中身を見るとそれはセイラからのお礼の手紙だった。どうやらセイラから手紙を出すのも難しいらしい。


簡単にお礼が書いてあると同時に、僕が贈ったのと同じサイズの栞が同封されていた。セイラが自分で育てた花を押し花にして栞にしてくれたという。


彼女は僕の作った栞を大層気に入ったそうで、毎日の読書タイムに愛用しているとか。何だか嬉しい。


僕もセイラからの栞を使って今日から小説を読もうと思う。ジャンルは何かって?勿論――分かるよね?



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