黒は白を染めゆく【聖夜】
まさかのまさかでトップバッターは聖夜だ!(当初はケインの筈だった)
それにしても聖夜の初期設定がこんな所に出てくるとは。
黒は白を染めゆく。朱とは違い禍々としたそのオーラは純白のオーラを濁す。白い羽根は徐々に灰に、そして漆黒へと染まる。漆黒に染まったら最後、もう何色にもならない。
俺は彼女を濁してしまったのだろうか?その選択は間違えていたのではないか?でもその選択をしたのは自分自身だ。
自分は何を望んだ?彼女を望んだ。彼女の全てを手に入れようと躍起になった。今では彼女は俺の手の中に、腕の中に。だけど、どうしてだろう?何だか虚しくてしょうがないんだ。
悪魔は天使を引きずりこんだ。悪魔は安心感が欲しかったんだ。でもその安心感は悪魔には合っていなかった。だから結局は自身を滅ぼしてしまったんだ。自身が天使を黒に引きずりこんだと思っていた反面、自らが“白”に惹かれて灰になり白に近づいていたのに気が付かなかったんだ。
僕も今、そんな感じになりつつある。
それはいいことなのか?一般的に言えばイエス。でも俺からしたらノー。どうしてって黒なのは僕のアイデンティティー。越えてはならない一線だからさ。
あぁ、今日はホワイトデーか。本当に白いね。気分が、町が、君が。行けばすぐに会えるはずだ君と。だけど何故だろう、足が進まない。
君に会いたくないだなんて思った事はない。だから君に会いたいはずなんだ。ならばどうして?俺は今彼女と会うのが怖いんだ?薄々何かを感じている?
確かめなきゃ、今すぐに――。
自分の部屋から抜け出し、白一色に染まる街へ。そこから遠くに見えるはずの君の家へ、翼で飛んで。
町中の人が空を見上げても気にするものか。今はそんな時じゃない。
やっとセイラの家について、深呼吸。いつもと変わらない其処は何だか異世界のようだ。流れに逆らうように進むその建物は、取り残されたように見えた。
古びたその音で君が顔を出す。
「聖夜・・・!」
嬉しそうな顔、嬉しいよ。君はいつも通りマニュアル通りの聖なる微笑みを見せる。魅せる。
「今日はホワイトデーだね」なんて俺、急に何言ってるの?
「うん、そうだね」
ほらほら予想通りの反応。さぁ早く次の会話を。
「・・・何が食べたい?」
あぁそうじゃなくて。
「うーん、パフェが食べたいな!」
そんな嬉しそうにしないでよ、俺が言いたかったのはそれじゃない。
「じゃあ一緒に食べにいこう」
街に戻り集中する目線。さっき街を飛んだのは失策だった。見るな、見るな俺のセイラを。その淀んだ瞳で見るなよ穢れる。でも一番最初に汚したのは――。
「パフェDXひとつ」
カフェでのんびりデート。いつもと変わらない、君がすぐ目の前に。いつかこの手を離れていくのかと思うと何だか苦しい。
「どうしたの?顔色悪いよ大丈夫?無理しないでね」
慈悲なる言葉が俺に降り注ぐ。でもそれは傷口に塩を塗るようなもので。いつかセイラが他の誰かを好きになった時、俺の居場所はもうない。
「ううん、大丈夫だよ気にしないで」
マニュアル通りに言葉を吐いて、さぁパフェが来たよ。
長いスプーン二人差し込んで、生クリームに舌鼓。甘い香りは話を誤魔化し沈黙化。
頬にクリーム付けたままの君に、王子様は微笑みそのクリームを指でなぞる。恥ずかしそうに頬を赤らめる君は、俺の顔を見ていない。
君は何を望んでいるのかな?望むものは全て差し出そう、愛する君が望むのだから。君は何を望む?愛?愛?気持ち?
「美味しいかい?」
「うん、とっても!」
そう僕は悪魔。白に魅了され灰になったその人。昔はこんなんじゃなかったんだ。望むものは全て差し出した。対価は穢。俺は何人もの天使を地に堕としてきたんだ。なのに今はどうだろう。白に振り回されっぱなしじゃないか。悪魔が見たらさぞお怒りになるだろう。
でも後悔はしてないんだ。だって穢じゃなく愛が手に入ったんだから。そのままの自分を、怪物じみた俺をセイラはそのまま受け止めた。俺の黒を見ても、恐がらなかった。
“黒は誰にでもあるから”って笑って。
俺は負けたんだ。彼女の言葉に笑顔に。
「聖夜?」
君が名前を呼ぶ度に僕は白になっていく。黒の絵の具に白を足していくように。それは灰で止まる運命だとしても構わない。
「セイラ、そんな心配そうな顔しないでよ。ほら、あーん」
「・・・んっ」
口に含んだチェリーは甘い?それとも――。
「セイラ、大好きだよ」
この言葉の方が甘い?
聖夜の初期設定は、“悪魔”。セイラの初期設定は天使、もう一人のセイラは堕天使。(セイラは二重人格だった)
確か他の作品にも同じ名前の“セイラ”がいたはず。
だから悪魔=聖夜のお父さん。きっと女誑しだったんでしょうね。
だから聖夜も引き継いでたり。
今回はあんまりホワイトデーっぽくなかったかな?でも、“白”がテーマの話でした。
次回は誰になるかな。