表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
帝国の月 -Resistance Rebellion-  作者: 風船ねこ(碧流&にゃんにゃん棒)
Resistance Rebellion
5/35

CHASE:4 眠れる焔 -magic-

「とりあえずこれかぶれ!!」

カイムは頭にヘルメットを装着し、ルイスにもヘルメットを渡した。

「…さっき言ったことについてだが」

 ヘルメットのベルトを締めながらルイスが呟く。

「?」

「確かに私達の目を眩ますことは出来る。だが」

 ルイスは胸元に手を当てながら言った。

「私の魔力がいつまで保つか判らない。途中で魔法が消えることも覚悟してくれ」

 深刻な面持ちで、ルイスは言った。

「…出来るだけ短期決戦で頼む」

「解った。なら尚更急がないとだな!!」

 カイムの言葉と共にエンジンの温めが完了し、走行可能な状態になる。

 ルイスが自分の後ろに掴まった事を確認してからギアを動かし、アクセルを目一杯入れた。

「ルイス、頼む!!」

「任せろ…隠密(ステルス)!!」

 走り出したクーガーは、呪文に呼応し姿を消した。


 目指すはゴリアテの真下。アクセルを入れつつカイムは自分の手を見てみる。

「これ…本当に消えてるのか?」

「じゃなかったら今頃標的にされてる所だ」

「そうか…」

 会話する間にもゴリアテは破壊光線やら砲撃やらを続けている。ランダムに攻撃しているのか、いつこちらに攻撃が当たるか判らない。

「仕方無い…保険を使おう」

 魔法機関(マジカルウェポン)を呼び出すルイス。

「大丈夫なのか?さっき魔力が保つか判らないって」

「背に腹は変えられん。囮を使う…複製コピー

 詠唱と同時にルイス達の隣にもう一人ルイス達が現れる。クーガーに跨っており、そちらは本物のルイス達とは反れて違うルートに入った。

「これでしばらくの間は撒けるだろう」

 ルイスの声に疲れがの色が混じる。負担は先程よりも増しているようだ。

「でも、あと少しだ」

 気付けば、確かにゴリアテへの距離が縮まっていた。

「よし、このまま真下に潜り込んで」

「了解」

 アクセル全開で進むカイム。ゴリアテはもう目前だ。

「ゴリアテは真下への攻撃手段を持たない。そこから上によじ登るのが一番安全だ。」

「…って、まさか本当によじ登ることになろうとはな……」

「お前が言ったんだろ!!よじ登ってでも破壊するって!!」

 言ったからには、やらなければならないだろう。有言実行、カイムは覚悟を決めた。

「しっかり捕まっていろよ。揺れるぞ!!」

 ルイスに警告し、カイムは脇で倒壊しているビルに飛び乗った。

 建物から建物へ。徐々に高度を上げながら、倒壊した建物の上を走る。

「揺れるって、これ…じゃ!!そん…な……レベル…じゃ!!」

 後ろで揺られているルイス。――察するに、余程荒い道なのだろう。

 そんな揺れに悪戦苦闘してるルイスを余所に、カイムが再び警告をする。

「飛ぶぞ!!しっかり捕まっていろよ!!」

「いちいちしつこいな!!大丈夫だ!!」

 ギュッとカイムにしがみつくルイス。返答の後、倒壊した建物からクーガーは宙を舞う。

 その高さは地上からおよそ30m。普通に落ちればまず命は無い。

 飛び出してすぐに、カイムは自身の剣を抜いた。クーガーを踏み台に、今度はカイムが宙を舞う。そして、

「ふっ……!!」

 抜いた剣をゴリアテの脚に投げる。突き刺さった剣に捕まり、ぶら下がる体勢になった。

「……これまた随分と派手に近付いたものだな」

「で、ここからどうすればいい?このままよじ登るか?」

 風に揺られ、上下に揺れながらも、カイムは音も上げずにしがみつく。

 ――大した奴だ。ルイスはそう思った。

「こいつは脚一本一本にそれぞれ別の動力が働いてる。一本でも供給を止められれば、動きと一緒に火器管制も止まるだろう」

「その動力はどこに?」

「私は設計者じゃないからそこまではわからん。だが、これだけ大きな兵器だ。どこかにケーブルが集中する場所があるはず…」

「集中する場所……。…あそこか!?」

 何かに気づいたカイム。上を見上げると、カイム達の居る場所からおよそ5m地点に、脚の間接部が光るのを見た。光はそこから脚全体へと運ばれていく。

「多分あれで間違いない。だが、どうやってあそこまで?」

 ぶら下がったこの状態で、あそこまで登るのは無理がある。ルイスの問いに、カイムは無言で応えた。

 片方の手をゴリアテに伸ばし、掴めそうな出っ張りを掴む。揺れが収まったのを確認し、もう片方の手で剣を引き抜いた。

「か、カイム!?」

 支えを片方失い、体全体が左右に揺れる。酷く不安定なこの状況で、ルイスは落ちまいと必死にカイムにしがみついた。

 自分の足が宙ぶらりんなのが、これほど怖いと思ったのは初めてだろう。

 そんなルイスを後目に、カイムは剣を一度腰に納める。ルイスの身長が自分の背中に収まるサイズだったので、すんなり納められた。

「ん、呼んだか?」

 あれだけの力仕事の後、カイムは息一つ切らさずに喋る。

「て、手を離すならこと前に言え!!このバカイム!!」

「誰がバカだ、繋げるな!!…何度も言うが……」

「――しっかり捕まってろ…だろ。わかってる」

 自分を信じてしがみつくルイス。絶対に失敗する訳にはいかない。今まで以上に慎重に、カイムは登りだした。

 風が吹き、脚が上下に揺れる。反帝国軍は撤退しただろう。

 恐らく、今ここにいるのはカイムとルイスの二人だけ。戻れば命令違反で懲罰でもあるのだろうか…。

 そんな悪条件の中でも、カイムはひたすら登り続ける。5mがこんなに長く感じたのも初めてだ。

「…あと、少し……!!」

 あとほんの数十cm。手を伸ばせば届く距離に小さなデッキがあった。整備用の足場だろう。

 地に足がつく安堵感にホッとしたとき、銃声が響いた。

「……っ!!しまった、見つかった!!」

 ステルスの魔法が解け、姿を晒してしまったカイム。ゴリアテのセンサーが反応したのかもしれない。

 別の脚に搭載している機関銃を、帝国兵が動かしている。

「ここからじゃグレネードも届かない……!!どうする!!」

 隠れる場所すらないこの状況では、いずれ機関銃の餌食になろうことは予想できた。

 何か手段は無いか…。そう考えていると、近くから突如爆発音が聞こえた。

(近くで戦闘!?誰が!?)

 爆発のあった箇所は煙が巻き起こって確認できない。

 しかし、その煙を突き破って近づく物があった。――小型の戦闘機だ。

「『スワロー』!?中は誰が!?」

 小型航空戦闘機『スワロー』。小型ながら高い攻撃力と機動力を兼ね備えた、反帝国軍の主力兵器だ。

『よぉ、無事か新人?』

「マグナ隊長!?」

「ったく、無茶してくれるぜ…まぁこっちに来いよ」

 マグナがレバーを引くと、スワローの横から小さなアームが出た。そこにカイムが手を伸ばす。

「ルイス、先に行ってくれ」

「わ、わかった…」

 足場が不安定な状況の中、ルイスはカイムの体をつたってスワローに飛び移った。

 ルイスが後部座席に入る。続けてカイムが飛び移ろうとすると、突然ゴリアテの足が大きく揺れた。

 カイムを振り落とそうとしているのだ。

「おっと…危ねぇな!!」

 機銃掃射するゴリアテの銃口に向かって何度か弾を撃つマグナ。弾は見事に着弾し、一旦攻撃が止む。

 その隙にカイムに近付き、再度接触を試みる。

「今だ!!せー…のっ」

 タイミングを合わせて飛び移る。どうやら無事のようだ。ルイスとカイム、二人揃って後部座席に入る。

「隊長、何故此処に…?」

「整備班からクーガーが1台持ってかれたって聞いて、後を追ってきたんだ。結局そのクーガーも壊したみたいだが…後で姉さんの雷が落ちるかもしんねぇぞ」

「すみませんでした」

 頭を下げるカイム。

「それより…お前ら、ゴリアテを止めようとしてるんだろ?」

 再び始まった機銃掃射を、スワローを巧みにコントロールしてかわすマグナ。

「俺も協力する。何をすれば良い?」

「隊長…!」

 カイムの言葉を遮り、ルイスが指示する。

「上部にデッキが見えるはずだ。私達をあそこまで連れて行ってくれ」

 ルイスは先程のデッキを指差した。

「よし…任せろ!!」

 弾丸の雨をかいくぐりながらデッキへ接近するスワロー。

「…この辺で良いか?」

「バッチリだ」

 デッキへともう一度アームを伸ばし、そこにカイムとルイスが飛び移る。

 スワローがデッキを離れる直前、マグナはルイスに向かって一言呟いた。

「…カイムを任せたぞ」

「言われなくても!!」

 ステルスの魔法をかけ直し、攻略に臨む二人。

「さて…ここからが本番だ」

 ゴリアテの電力供給のための動力炉の一つ。ここから放たれた光は、脚全体へ伸びていく。

「こいつを破壊すればこの脚の動きは止まる。そうすればバランスを崩してゴリアテは倒れるはずだ」

 動力炉に触れ、ルイスが言う。その後ろでカイムは剣を構え、攻撃体勢を取る。

 ルイスの指示を待たずに、カイムは斬りかかった。

「…はあっ!!」

 巨大な大剣で一振り。だが、その攻撃は強固な装甲により弾かれた。

「…っ!?一度で駄目なら何度でも…!!」

 一度弾かれた程度では止まらない。二度三度と、カイムは剣を振るった。しかし、辺りに響くのは無機質な金属音だけ。

「ふっ…!!はぁ!!」

 何度も斬りつける。諦めずに何度も。だが、動力炉にダメージは与えられない。それどころか、傷一つついていない。

「無駄だ、カイム。どうやらこの装甲は魔力で強化コーティングされているらしい。魔力のこもらない一撃では、何万回斬りつけても傷一つつかないだろう」

 後ろで見ていたルイスが、カイムを止める。

「動力を供給する重要な部分が脆いはずはないと思っていたが、まさか魔法で強化してあるとはな…」

「感心してる場合か!!なら俺はどうすればいい?俺は魔法なんて使えない!!」

 この事態に少し戸惑うカイム。魔法が使えない自分に、これは倒せないのか。そう思うと、自分が酷く無力に思えた。

 そんなカイムに、ルイスは何も言わない。ただじっとカイムを見つめている。

「――イメージするんだ」

「い、イメージ…?」

「構えろ」

 突然のルイスの言葉に、言われるがままカイムは剣を構える。

「頭に思い浮かべるんだ。自分が欲する力を…。そしてそれを現実に引き出せ」

 ――力。カイムが今最も欲する力を。目を閉じて、思い浮かべる。熱い、炎にも似た感情。

 冷たい瞳の内に秘めた、内なる『焔』。

(俺は…、俺が欲しい力は…!!)

 ――切り裂く力を。例えどんなに頑強な壁であろうと、切り裂く力を。

「全身から解放しろ。心を解き放て!!」

 ルイスの言葉と同時に目を開くカイム。身体中からほとばしる、紅い輝き。

「……ぅぅうううおおおおぉぉぉーーーーーーーっ!!」

 猛る焔。咆哮とともに、カイムの剣は炎を纏っていた。

「それが、お前の『魔法』だ」

「俺の…、魔法……」

 不思議な感覚だった。大して自分が変わった訳でもなく、特別強くなった訳でもない。

 だが、はっきりとした自信があった。今ならあの装甲を切り裂けると。

 剣を構え直し、動力炉を正面に見据える。そして最上段まで振り上げた剣を一気に振り下ろす。

「……ふっ!!」

 手応えはあった。その剣筋は、纏った炎で紅い軌跡を描いた。

 先程まで歯が立たなかった装甲は、いとも簡単に切り裂かれた。その切断面は、まるで熱で溶けたかのようだ。

「や、やった!!」

 収束した光は広がる手段を失い、行き場をなくして暴れだした。

 火花を散らし、小さな爆発が幾つも弾ける。

「まずい!!爆発するぞ!!」

 ルイスがそう言ったとき、後ろで声が聞こえた。

『こっちだ、乗れ!!』

 スワローに乗ったマグナだ。爆発に気付いて来てくれたのだ。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ