表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
帝国の月 -Resistance Rebellion-  作者: 風船ねこ(碧流&にゃんにゃん棒)
Negation Nemesis
31/35

CHASE:30 二枚の志願書 -enlistee-

「……」

 一同絶句した。

 ――オペレーションネメシス。その実態は、空からの強襲。光がすべてを飲み込む、一瞬の大量虐殺だったのだ。

「つまり、なんだ……。帝国は俺たちもろともアドリビトムを消し去ろうってか?」

「おまえさんの言う通りだ。どんな兵器か、どんな原理か。細かいことは何ひとつわかっちゃいないが、帝国はそれほどの兵器を持ってるってことだ」

 ため息混じりに、エヴァンがつぶやく。

「わかってることと言えば、とんでもなく馬鹿でかい光の束が空から降ってきたってことぐらいだな」

「光の束?」

 カイムが尋ねる。

「レーザーのような攻撃……ということでしょうか?」

「恐らくな。上空からの、とんでもないデカブツからの攻撃としか思えんが……」

 オリバーの言葉に、エヴァンは言葉を濁した。エヴァンが言うには、それほどの威力の兵器であるなら、必ず目視できるはずということだ。

「目視できないってことは、つまり――」

「その遥か上……。ひょっとしたら、宇宙からの衛星砲かなにかが奴らの手札にあるのかもしれんな」

 宇宙という、その言葉のスケールの大きさに戸惑ってしまう。衛星やロケットなどの宇宙へ飛び立つ技術は開発されているものの、既に商業から衰退した事業だ。当然、民間組織のレジスタンスがそれを所持しているはずがない。

 仮にそのような兵器が実在するなら、地上からのなんらかの迎撃の手段を持ち得ないリバティムーンには、対抗策の練り様がない。完全に手詰まりだ。

「馬鹿な!なら、我々はただ敗北を待つことしかできないと!?」

 そんな現状に、ジュディスが声を荒げた。そして、そんなジュディスの苛立ちに応えるものは誰もいない。その叫びは、虚しく沈黙へと消えていった。

「……まだ、希望はあります」

 沈黙を破り、言葉を発したのはオリバーだ。

「どういう意味だ?」

 その言葉に真っ先に反応したのはジュディスだ。

「その兵器の発動には、月の書が必要不可欠だからです」

「月の書が?」

「知っているのか!?」

 ルイスに呪いをかけ、カイムと二人を結びつけた月の書。暗号の解読を依頼されていたルイスだが、そんなことは知らされていなかった。

「月の書の暗号に含まれる呪文で兵器を起動させ、なんらかを媒介に月から魔力を直接地表に打ち込む。これが、オペレーションネメシスの全貌です」

 やっていることは至って簡単だと、最後にオリバーが付け加える。

「月そのものを兵器にしちまうとはな…。正直笑えねぇ」

「でも、その計画に必要な月の書がこっちにあるなら、勝算はあるはずだ!」

 スケールの大きさについていけないマグナと、新しい希望に活路を見いだしたカイム。無論、それはジュディスもエヴァンも同じだ。

「しかしネメシスが使えない今、恐らく帝国あちらは物量で侵攻してくるでしょう。いずれにせよこちらの分が悪い事には変わりありません」

「構わんさ。元から賭けみたいなものだからな。少しでも勝ち目が見えたなら、希望があるってもんだ」

 エヴァンが笑みを浮かべながら言う。だが、その言葉の中には固い決意も垣間見えた。

「そんな訳で、防衛戦とはいえ死傷者が出ないとも限らない。中途半端な気持ちで作戦に参加する者や、命を落としたくない者には早急に帰還を命ずる。これは一個人の見解で言ってるんじゃない、上司としての命令だ。帰還を希望する者は居るか?」

 しんと静まり返る部屋。帰還を望む者は誰一人として居なかった。

「……命知らずな奴らだ。何があっても責任は取れんぞ」

「んな気遣いいらねぇっすよ。俺達は自分の意志で此処に来たんだ。帝国が何を企んでようが、俺達の気持ちは変わんねぇ」

 皆それぞれ、思い思いの信念を持って集っている。生半可な気持ちで戦場そこに立つことは許されない。引くに引けぬ状況の中、彼らは慄くどころかむしろ、戦士としての誇りを抱いていた。

「……じゃあ、全員出撃ってことで良いな?」

「待ってください」

 ジュディスの声が鋭く響いた。

「どうした?」

 エヴァンの話を聞いてからというもの、彼女には思う節があった。

「まず、民間人の安全を最優先にすべきかと」

「というと?」

「一人、出撃を見合わせて欲しい者が」

 彼女が注視したのは――ルイスだ。

「……私か?」



 カイムが出撃前のブリーフィングで会議室に招集されたため、ルイスは一人部屋に戻っていた。

 そこにはなぜかエレナが待ち構えており、視線の先で一人ごちていた。ルイスは特に驚くでもなく、ただ淡々と尋ねた。

「何故ここに?」

「たまには女二人でお茶してもいいじゃない?」

「ふん……気分転換にはもってこいだな」

 言うなりルイスはソファーにもたれた。テーブルの上にはティーセットとお茶請けがちらほら。

「で、用件は?」

 エレナはテーブルの上にルイスの分のカップを置き、ハーブティーを注いだ。

「これを見て」

 ルイスは注がれたばかりのハーブティーを見た。

「ん?ただのハーブティー……じゃないのか?」

「じゃなくて、その中身」

 ルイスがハーブティーを見つめると、その水面に波紋が広がった。

「貴方には見えないと思うけど…これは良くない事が起こる前兆なの。水面に渦が巻いてる」

 エレナの視線は渦の更に向こう側を見ているようだった。

「このままだと――誰か死ぬかもしれない」

「……え?」

「安心して、未来は変えられるわ。決められた運命に少しのエッセンスを加えるだけでね」

 エレナはハーブティーにミルクを注いだ。と同時に水面が白く濁り、ミルクティーが完成した。

「未来なんて誰にでも見通せちゃたまったもんじゃないわ。未来は決まってないからこそ面白いのよ」

「……」

 ルイスはベージュに染まった紅茶を見つめた。

「ところで、そっちの話はどうだった?」

「納得が行かん」

 ココアビスケットの包みを破り、ぼりぼりと豪快にかじる。

「いくら民間人で保護対象になっているとはいえ、私達は戦力外でオリバーだけが作戦に参加するなんて……、不公平じゃないか?」

「オリバーもよく言うわ。『あれはするな』、『これもするな』……私達が彼らを助けたいのと同じように、彼らも私達を守りたいのよ」

「しかしだな……」

 ルイスは言葉を濁しつつミルクティーを啜った。その顔が急に険しくなる。

「……何だこれ!めちゃくちゃ苦いじゃないか!!」

「良薬口に苦しってやつよ。その紅茶にはいらいらを鎮める作用があるの。どう、頭がすっきりしたでしょ?」

「うぅ……砂糖は無いのか……」

「生憎切らしてたとこなの。勿体ないからゆっくり飲みなさいな」

 ルイスが渋々紅茶を啜るのを見て、エレナは意地悪く微笑んだ。

「ぐぅ……」

「ま、貴方が思うほど世の中そう甘くないってことよ」

「そんなの痛いほど知ってる。それでも私はカイムと一緒に居ないと――」

「死んじゃうんだっけね?でも、同じロッカ内に居ればさほど影響はないと思うけど…?」

「そうだ、そこをジュディスやつに指摘されて――あーもう!私は単に仲間外れにされるのが嫌なんだ!」

 なんて子どもっぽい、とエレナが思うのを余所にルイスは続ける。

「なのにカイムは『危ない目に遭わせられない』とか『万が一の時心配』とか言いやがって、私が足手まといとでも言いたいのかあいつは!!」

 ルイスがテーブルを叩くと、その上のティーセットが忙しく鳴った。

「だったら、私達の実力を認めさせればいいんじゃない?」

「…何をする気だ?」

「私達は民間人だから保護されてる訳でしょ?ならいっそオリバーみたいに軍に入隊しちゃえば誰も文句は言わないと思うの。勿論、そのためには誰かに打診する必要があるんだけど」

「マグナはジュディスの肩を持ちそうだし、ジュディスは嫌でも動かないだろうから…あ!」

「あたり」

 エレナはウインクした。



 先程のジュディスの裸体がちらついてしまい思わず赤面するカイム。

「あの、隊長は慣れてるんですか?さっきのジュディスさんの……」

「慣れてるもなにも、あいつはあれが素だからなぁ……。ま、俺的には裸にブラウス羽織ってるだけの方がそそるけど」

「そ、そ、そそ……!?」

 カイムの顔が一気に耳まで赤くなった。

(毎日何やってんだ、この人達は…!?)

 いくら上司とはいえ、そういう関係を疑わざるをえないカイムだった。



 来客用の部屋のドアをノックする二人。

「失礼します」

「どうした?」

 二人を出迎えたのはエヴァン一人だけだった。

「ちょっと准将に御用がありまして……」

 にこにこと微笑むエレナ。そんな彼女をよそにルイスは早速本題を切り出した。

「率直に言う。私達をリバティムーンに入隊させてほしい」

「はぁ……?」

 エヴァンは目を丸くした。

「確か階級さえあれば入隊できるんだったよな。一番下の階級で良いから私達によこせ」

「ちょ、ちょっと待ってくれ。今の俺に階級を与える権利は無いんだ」

「え?」

 今度はルイス達が目を丸くする番だった。

「あなたはジュディスに准将と呼ばれていただろう?准将は少佐よりも上の階級なんだろ?階級を与えるくらい朝飯前じゃないのか?」

 矢継ぎ早に問い詰めるルイスに対し、エヴァンは少々困ったような顔をした。

「あのなぁ……それは昔の話だ。ジュディちゃ……少佐に准将と呼ばれてたのも厳密には元准将と言って、収容所に入る前に階級が引き下げられたんだ。俺の現在の階級は『准尉』。今の俺は彼女より階級も低いし、権限は何も持ってないんだよ」

「じゃあ、結局私達は階級はもらえないっていうのか!?」

「誰も階級をやらないとは言ってない。それは直接少佐に頼めば良いことだろう?」


「――まさか准将じゃなくて准尉になってただなんて……聞いてないぞ私は……」

 がっくりと肩を落とすルイス。

「でも、これで残るはジュディスしか居なくなったわね……あとは正面突破するしかないみたいよ」


 司令室前の廊下に響くノックの音。

「失礼します」

「ルイスにエレナ…なんだ?」

「話があって来た」

「……」

ジュディスは無言で部屋に入るよう促した。

「――用件は?」

「さっきの会議での話は納得がいかなかった。軍に入隊するから階級をくれ」

 ジュディスの机の上に二枚の志願書をたたき

「……あの時も言っただろう?一般人を巻き込む訳にはいかないと。それに、生半可な決意で与えられるような階級はこの世に無い」

「それはあなたの自己満足だろう?」

 ルイスはジュディスを睨んだ。そこにエレナが一押しする。

「私達はあなた達の助けになりたいの。この戦いに関わることで私達が怪我をしたとしても、それは私達自身の責任だわ」

「……この戦いは怪我で済むようなレベルじゃない。もしかしたら命を落とすこともあるかもしれない。だから准将は死にたくない者は帰れと言ったんだ。それでも――」

「承知の上よ。お願い、私達を……リバティムーンに入隊させて」

 エレナの真摯な瞳。ルイスの眼差し。二つの視線に圧し負けて、ジュディスはついに首肯した。

「っはぁ……わかったわかった。二人まとめて二等兵の階級にしといてやる、それで文句無いな」

 そう言いながらジュディスは二枚の志願書にそれぞれ乱雑にサインを入れ、押印し、二人に突き返した。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ