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帝国の月 -Resistance Rebellion-  作者: 風船ねこ(碧流&にゃんにゃん棒)
Negation Nemesis
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CHASE:29 准将、来たる -constant-

 ――静寂が辺りを包む。廃墟の中で、機械の兵士はゆっくり、ゆっくりと歩みを進める。

 一歩進む度にズシンと重い音を鳴らしながら、辺りを探る。

 機械の中で様々な機器に囲まれた彼は、常時モニターに映し出される景色と、周囲の熱源や音に反応するレーダーにその視線を集めていた。

 響くのは重い足音だけ。それが余計に彼の緊張を高まらせた。

「――っ!!」

 レーダーに反応あり。甲高いアラートは高熱源体が近づいていることを知らせた。二発のミサイルだ。

「くっ……!!」

 ペダルをおもいっきり踏み、バーニアをふかす。

 機体を急旋回し、追尾するミサイルにレバーの操作で手持ちの武器の照準を合わせる。

 機体の片手に持った軽量のマシンガンでミサイルを撃ち落とそうとするが、足場の悪い廃墟では照準がかなりブレる。思うように当たらない。

 ならばと彼は廃墟内の建物に身を潜めた。五階建ての立体駐車場だ。

 柱などの障害物でミサイルをやり過ごそうというのだ。

 追尾型ミサイルは攻撃対象を失い、彼の思惑通り柱と壁に一発ずつ着弾した。

 爆風に乗じ再び建物の外に出て、相手に奇襲をかける。

「がぁっ!!」

 …はずだったが、敵は彼の行動を読み、先回りしていた。上から機体を押し付け、白兵戦を強要する。

 敵機の腕部には、対敵機用の切断チェーンソー。敵は身動きのとれない彼の機体にそれを突きつけた――


 そして、モニターには『You Lose』の文字。

『お前、ソルジャーの操縦センスねぇな~』

 インカムから聞こえるのはマグナの声。その声に少しムスッとしながら、カイムはコクピットを出た。

「ライセンスも持たない君が、マグナに技術で勝てないのは仕方ないよ。気を落とさないで」

 外で見ていたオリバーが、出てきたカイムに声をかける。

 確かに仕方ないかもしれないが、それでもやっぱり悔しい。カイムの負けん気は強い。

 反帝国軍が新たに開発した兵器は、既存の物とは違い人型を模していた。

 戦車のような強固な装甲に高い火力、戦闘機のような機動性を両立した、戦略的に幅の広い兵器。

 次世代の新しい兵士という意味を込め、『ソルジャー』と名付けられた。

 そして今カイム達が乗っていたのは、実際のソルジャーのコクピットを模した模擬用のシミュレーターである。

 今回が初の実戦配備のため、パイロットには念入りな訓練を行っていた。

「しっかし随分思いきったよな。今回生産した分、全部こっちに配備したんだろ?」

「はい、報告書ではそう書いてありますよ。ソルジャーを配備してるのは、この基地だけです」

 模擬戦の様子をモニタリングしていたシャーリーが答える。

「つまり、支援を題目に新型兵器の実戦テストをさせるという訳か」

 報告書の内容に皮肉を交えてルイスが返す。

「多分そうだろうね。ちょっと極端過ぎるようにも見えるし。まあ単純に防衛線の強化ともとれるけど」

 オリバーも大方同意見のようだ。

「そういえば、今回はオリバーも出撃するんだろ?機体はどうするんだ?」

 彼が黄昏の隼(トワイライトファルコン)として名を馳せたことを思い出したカイムはオリバーに聞いた。

 防衛戦、それも拠点の制圧を重視した編成のため、常に動き回る戦闘機よりも固定砲台の役割を果たす戦車やソルジャーが多数配備されていた。

 前回マグナが乗っていた『スワロー』は今回は配備されておらず、あるのは緊急連絡用の輸送機のみ。

 愛着のある戦闘機ではなく新型での出撃。そのことにオリバー自身少し迷いがあるようだったが、

「たとえスワローでなくとも、今回はソルジャーがあるよ。…まぁ、ちょっと心残りもあるけどね」

 やはり戦闘機には少なからずこだわりがあったのだろう。そしてオリバーの心配は、もう一つ…

「朝から訓練とは、精が出るじゃないか」

 カイム達のいる訓練室に、ジュディスが入ってきた。

「あ、おはようございます姐さん。今日でしたよね?准将やってくるの」

 ジュディスに気がついたマグナが声をかける。

「ふむ、そうらしいな。私はそう聞いているが…」

「ネメシス作戦の唯一の目撃者…。今までそんな話は一度も聞いたことなかったけど、准将は何見たんすかね?」

 過去に二度、帝国が行った殲滅作戦ネメシス。だが、その規模の大きさに反比例して、目撃者や記録は全く残っていない。

 理由は対象となった土地の全てが、一片の瓦礫も残さず消えているためだ。

 これについて少しでも情報を集めようと数々の組織が躍起になったが、映像や音声はおろか、当事者すらいないという有り様であった。

「さぁな、私にもそれは見当がつかん…。だがエヴァン准将の言うことだ。有力な情報には違いない」

 唯一の手がかりであるエヴァン。彼は今日こちらに来るらしい。二人とも、それがどんな人物であるかわかっているようだ。

 そんな何気ない二人の会話。…なのだが、周囲の様子は尋常でない。

 ――オリバーは自身の両手で眼を覆い、カイムは驚きのあまりその視線はジュディスに釘つけだ。そして二人とも、ひどく赤面している。

「どうした、二人とも。顔が赤いぞ…?」

 二人のおかしな態度に気づき、ジュディスがカイムに近寄る。今正に、ジュディスにその視線を向けていたカイムに、

「見るなぁぁぁぁ―――――っ!!」

 ルイスの叫び声が響き、強烈な飛び蹴りが炸裂した。カイムの膝にクリーンヒットし、彼が撃沈する。

「もう、ジュディスさん!!いい加減服は着てください!!」

 このハプニングを一度経験済みのシャーリーも、同性と言えど未だ慣れない様子だ。

 ルイスはジュディスの上半身を見、カイムを見、そして自分の姿を見て、溜め息をついた。

「…そんなにグラマラスが良いか……」


―――――――――――


 陽が傾いてきた。灯りもない廃墟では、少し陽が沈むだけで都市より遥かに暗い。

 その闇に乗じ、こっそり口を開く地下への入り口。そしてその中に足を進める一台の車。どうやら護送車のようだ。

 地下へ進むと、そこは格納庫だった。ありとあらゆる兵器が並んでいる。

 そして車が止まったその場所に、ジュディスを先頭にカイム達がいた。

 護送車からまず一人の兵士が降り、続いてやや老けた男が登場した。

「お待ちしておりました、エヴァン准将!!」

 ビシッと綺麗な敬礼。その後に続いてカイムも敬礼する。

「准将はよしてくれよ、ジュディちゃん。…いや、ジュディス少佐」

「いえ、今まで通りで構いません。よくお戻りになられました、准将」

「はいはい、ただいまってね」

 柔和な笑みを浮かべるエヴァン。あんなに嬉しそうなジュディスを見るのは、カイムは初めてだった。

「しばらく見ないうちに、大分細くなっちまったんじゃないっすか?」

「お前の憎まれ口も、久々に聞くと懐かしいよ。元気してるみたいだな、マグナ」

「ま、それはお互い様ってことで」

 口はふざけているものの、マグナも敬礼でエヴァンを迎える。

「…そっちにいるのはオリバー=フォールコナーだな。帝国のエースパイロットに会えて嬉しいよ」

「僕の事もご存知でしたか」

黄昏の隼(トワイライトファルコン)と言えば、こっちじゃ誰もが知ってる有名人さ。事情はわからんが、お前さんがこっちにつけば心強いな」

 そういって二人は握手を交わす。

「で…、そっちの坊主とおちびさんは?」

「ぼ、坊主!?」

「おちびさん!?」

 カイムとルイスを見て、エヴァンは言う。

「カイム=レオンハルトとルイス=ヴィクトワールです。カイムは最近入隊した新人で、ルイスは戦場で保護した民間人です」

「…カイム?……あぁ、あいつか。この間の図書館の」

「うぐ…」

 まさかこんな所まで噂が広まっているとは。思わず虚をつかれてしまった。

 ――あれは、もう思い出したくない。心からカイムはそう思っていた。

「なるほど。期待の新人ってやつだな」

「ま、俺に比べたらまだまだっすけどね」

 張り合うようなマグナのその言葉に、

「なに言ってやがる。まだまだケツに殻が引っ掛かったひよこがぬかすもんじゃねぇぞ?」

「誰がひよこだ誰が!?」

 そんな様子を見て、カイムは自分の想像以上にこの三人は親しいようだと感じた。

「なぁシャーリー、あの人は隊長達と随分仲良さそうだけど、どんな人なんだ?」

「さあ、私も詳しくは知らないんですけど、家族みたいなもの…って、マグナ隊長が言ってましたよ」

 確かに、こうして見ると三人はまるで家族のようだ。

「さて、着任早々格納庫で談笑も味気がない。部屋を案内してくれるか?話はそっちで話そう」

「わかりました。こちらです」

 ジュディスを先頭に、基地の中へ。



「さて、ネメシス作戦について…だな」

 談話室に到着し、いよいよエヴァンから話を聞くことに。

「はい。現状ネメシス作戦に対する対抗策もろくに取れない状態です。准将の話から、何か対策を講じられるかと…」

 そうか…と一言。その次の言葉がなかなか出てこない。考えているのか、本当はわからないのか…。沈黙が続く。

 それからしばらくして、エヴァンが口を開く。

「悪いな、ジュディちゃん。こいつにはそんな対策とか、まるで意味がないのさ」

「意味がない?」

 意味がないというエヴァンの言葉に、戸惑いを感じる。敵はそれほど大規模な軍勢だというのか…

「過去に二度あった中で、俺が見たのは二回目のネメシス作戦だった。俺はその時、大陸を越えた『エスカーレ』という街の支部に所属していた。最前線で帝国と戦う激戦区だ」

 昔からエヴァンは最前線で戦ってきたと、マグナは言っていた。

「ある日、アドリビトムから帰還命令が出されてな。俺がエスカーレから一度離れたその瞬間さ」

 そう言って、一度口をつぐむ。

「その時、何が…?」

 おそるおそる、ジュディスがその結末を尋ねた。

「――空から光が刺してきた。大きな光がエスカーレを包んで、光が消えた後にはもう何もなかった。街があった場所は、一面焼け野原さ」



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