表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
帝国の月 -Resistance Rebellion-  作者: 風船ねこ(碧流&にゃんにゃん棒)
Resistance Rebellion
3/35

CHASE:2 出会い -opportunity-

 通りを駆け抜ける最中、大砲の流れ弾がルイスの右横をかすめた。彼女は小柄な体を生かし、それをひょいと軽く避ける。

(危ないったらありゃしない…でもこの体、ちょっとは役に立つじゃないか)

 彼女はそもそも大通りを逃げ道に選んだのが間違いだったと悟り、流れ弾が少ない路地裏に逃げ込むことにした。

 曲がり角の先はひっそりとした路地裏で、ゴミ箱を漁る野良猫の金色の瞳が幾つもこちらを睨み、不気味な印象を受ける。

 その時、路地の向こう側から男性の声がした。

「おい、誰か居るのか?居たら返事をしろ!!」

 その男性は大通りから路地裏を見た。見た所帝国の軍人の様だ。そこにルイスを見つけると、

「見つけた、一般人だ!!」

(まずい、このまま捕まったら…!!)

 このまま捕まれば身分を証明出来ず、反帝国扱いされて処刑されてしまうに違いない。慌てて逃げようとしたが、果たして軍人の足にはかなわなかった。

「くそ、子供のくせにうろちょろしやがって…」

「放せ、放せってば!!」

 ルイスはじたばたと暴れるが、子供と大人では力の差は歴然だった。

(折角ここまで逃げ切れたのに…)

 ルイスは唇を噛んだ。すると、

「貴様、見覚えのある顔だな――まぁ良いか」

 軍人は彼女を小脇に抱えると、もう片方の手で無線を取り出した。

「民間人少女を一名確保した」

『了解。至急帰還されたし』

 通信が終了するなり、軍人は歩き出した。

「だから、放せって!!」

 軍人の乱暴な扱いに憤るルイスだった。



 カイムが戦場に到着したとき、既に戦火は旧市街地に止まらず、民間人にも被害が及んでいた。

 初めて立つ戦場の空気に、カイムは戦慄する。

「…ったく、お構い無しかよ。少しは道徳心ってもんがねぇのか、あいつら!!」

 マグナが悪態をつく。周囲の建物は崩壊し、火の手が上がっている。消化活動は捗りそうもない。

「――ビビるなよ。お前たちは、覚悟を決めたんだろ?」

 ――当然、周囲には死体も転がっている。その多くは、カイムと同じ、支給された軍服を着た、反帝国軍兵士。

 目の当たりにした『死』の恐怖に、他の兵士も自然と体がすくんだ。

「作戦は伝えた通りだ。民間人の保護を最優先し、敵との交戦はなるべく避けろ。それから、必ず二人一組で行動すること。わかったか?」

「了解」

 ――返事をしたのはカイムただ一人。他は皆、首を縦に振って返答する。

「お前みたいな肝の座ったやつは頼りになるな。期待してるぜ」

 ポンとマグナがカイムの肩を叩く。

「俺は北を進んでいく。お前らは西と東だ。仲間とはぐれるんじゃないぞ」

「はいっ!!」

「良い返事だ。マグナ隊、作戦開始!!」

 マグナの指示を皮切りに、部隊は進軍する。マグナは北を、カイムは西を進んだ。走りながら、横に居るパートナーを確認する。

「き、君はさっきの…」

「……あんたは」

 カイムのパートナー。それは、先程話しかけてきた兵士。カイムが無視をしたあの兵士だった。

「……さっきはすまない。無視をしたわけじゃなかったんだ…」

「あ、あぁ、気にしてないよ。君も緊張してたんだろう。僕なんて、身体中震えてるんだ」

 仲間が語る、戦争の恐怖。昨日まで戦争を知らなかった人間が知った、戦争。

「無理ないだろ。あんなもの見たら、誰だって怖くなるさ。――俺も怖いんだ」

「君がか!?一番落ち着いてるように見えたよ。意外だな」

「怖かっただけさ。怖くて震えて――……っ!!」

 その時だった。カイムは何かを感じ、足を止めた。

「どうかしたかい?」

「…声だ。女の子……、子供か!?」

 ぶつぶつと呟くカイム。そして、弾かれたように走り出した。

「あ、おい!!」

 制止する声を振り切り、全力で走り出す。

 声がしたであろう方角を目指し、カイムは脇道に入り路地裏を走り抜ける。

(………あれは!!)

 路地裏を出たとき、カイムは見た。小さな女の子が、帝国軍の兵士に捕らわれているのを。

「っ!!貴様ら!!」

 瞬間的に、カイムは宙を舞った。加速をつけ、少女を抱えた帝国軍兵士に全力で蹴りを喰らわす。

「グアァ……ッ!?」

 蹴りは兵士の顔面に直撃した。突然のことに対処しきれず、派手に転がった。

 その衝撃で、少女を捕らえていた手が、少女を解放する。

「き、貴様!!反帝国軍だな!!」

 周囲にいた帝国軍の兵士が、カイムと少女を囲んだ。

 じりじりと兵士が詰め寄る中、地面に投げ出され、横たわっていた少女がよろよろと立ち上がる。

「うぅ……いきなり何するんだ……」

「怪我は無いか?」

 カイムの問いに対し、全身についた砂埃を払う少女。

「服は多少汚れたがな。とりあえず助かった。恩に着る」

 見た目よりも大人びた言葉遣いに違和感を感じたが、少女の身体には幸い傷一つ無かった。

 安心したカイムは周囲の兵士を見やる。その数およそ十人。

 すると、少女がカイムに声をかけた。

「…名前を教えてくれないか」

「カイム=レオンハルトだ。君は?」

「…ルイスで良い。諸事情で逃亡中の身なんだが…」

 ルイスはカイムの前に立ちふさがった。

「さっきのお礼に、こいつらを片付けてやる」

「…いや、君みたいな子供一人には危険過ぎる。下がっててくれ」

 カイムは剣を取り出し、正面に構えた。

魔法機関マジカルウェポン!!」

 カイムの言葉を無視し、ルイスもまた左手に盾の形をした装置を召喚した。

「それは…、子供なのに魔法が使えるのか…」

「仕方ない、一時共闘だ」

 ルイスの言葉を皮切りに、帝国兵が襲いかかってきた。怒号をあげ、10人の兵士が四方から迫る。

「…避けては通れないかっ!!」

 構えた剣を強く握る。そのまま踏み込み、大きく横に剣を振るう。

 カイムの背丈程の刀身が、空を裂き、敵を斬る。その巨大な刃は、一振りで3人の帝国兵を切り裂いた。

「あ、あんなでかい剣を片手で!?」

「じ、銃だ!!銃を使え!!」

 その様子を見ていた他の帝国兵。彼らは手にした銃を構え、カイムに狙いを定める。

「今だ!!撃てーっ!!」

 号令とともに、引き金を引く。甲高い発砲音と共に火薬の臭いが辺りに広がった。しかし、

「……!!なめるな!!」

 その巨大な刀身を盾に、カイムは弾丸の雨の中を走る。

「む、向かってくる!?」

「ひ、怯むなー!!撃て、撃てーー!!」

 止まない弾丸の雨。それでもカイムの前進は止まらない。臆することなく、カイムは前を見ている。

「はぁ…っ!!」

 敵の懐に飛び込み、隊列が崩れた所をそのまま刀身で敵を凪ぎ払う。この攻撃で、更に2人が没する。

「調子に…!!」

 仕留め損なった一人が、カイムに斬りかかる。

「乗るなぁぁああーーーーっ!!!!」

 手にした刃を降り下ろした。しかし、その刃はカイムには届かなかった。

 ――ほんの一瞬だった。

 帝国兵が剣を降り下ろした瞬間、カイムも剣を抜いていた。片手でそれを振るい、武器ごと帝国兵を両断する。

「…残り4人か。ルイス!!」

「後は任せてくれ!!」

 ルイスがカイムの呼びかけに答えると、彼へ攻撃してもまるで歯が立たない事を理解した帝国兵4人が、標的を彼女に変更した。

 仲間の敵討ちと言わんばかりにルイスに猛攻をかける4人。

「うぉぉぉぉぉ!!」

 その様子を若干心配げに見つめるカイム。

「…小さいからといって甘く見て欲しくないな」

 涼しい目をしたルイスは左手を空に掲げ、魔法機関を起動させた。すかさず呪文を詠唱する。

小休止(ポーズ)!!」

 兵達がルイスに突っ込むか突っ込まないかのタイミングで、突然足が止まった。

「なに…!?」

「足が動かない!?」

 どうやら周辺一帯に魔法が効いているらしく、カイムも足を動かせずにいた。してやったりと、ルイスの目が鋭くなる。

疾風の射手(エアロシューター)!!」

 続けざまにルイスの周囲から四方八方に鎌鼬かまいたちが繰り出され、身動きが取れない兵達の武器と装甲を難なく破壊した。

「ふん……このくらいで勘弁しておいてやる」

「くそ…一時撤退だ!!」

 攻撃手段を失った4人は一目散に退避していった。


「…それは?」

 ルイスの魔法機関を指差すカイム。

「色んな呪文を取り込んだり、少ない魔力を増幅する優れ物。…まだ開発中だがな」

「君は一体――」

 何者なんだ、と聞く前にルイスはきびすを返した。

「そろそろ行くよ…また今みたいに襲われても厄介だ」

「いや、行かせる訳には行かない」

「え?」

「俺は任務を任されてるんだ」


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ