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帝国の月 -Resistance Rebellion-  作者: 風船ねこ(碧流&にゃんにゃん棒)
Chain Crescent
26/35

CHASE:25 追い詰められて -struggle-

「最近、随分と騒がしいな」

そこは古い工房だった。やけにキツい油の臭いが鼻につんとくる。

辺りに散乱した器材や部品。机の上に散らばった設計図。

部屋の真ん中にあるテーブルの椅子に腰掛けていた老人の手には、鋼の義手。

「全く、ネメシスとはとんだ貧乏くじを引いたじゃないか、えぇ?」

「…知ってたのかよ、おやっさん」

工房に居る老人の視線の先にはマグナがいた。

「わしだってテレビぐらいは目を通す。いつまでもアナログじじいと罵られたくないからな」

アナログじじいと言われ苦笑するマグナ。どこか後ろめたい気持ちを含んだ笑いだ。

差し出した義手はマグナの右腕。様々なギミックを内包した彼自身の武器でもある。

この老人こそ、彼が言っていた整備士なのだろう。義手を一度解体し、各部を丹念にチェックする。

「しかしまぁ、わざわざ帝都までこんな老いぼれを訪ねてくるたぁ、お前さんも物好きだな」

「アンタ以上の腕利きの整備士がいりゃ、こんな油臭い工房訪ねないんだがね」

「フン、若僧が抜かしおって」

今度は部品を組み立て、元の義手へと戻していく。老人の言葉に従い、まずは指から。

そして手首を、肘を曲げて、腕を回して。一連の動作はスムーズにできた。神経はよく繋がっている。

「それにしても、随分と荒く使ったもんだな。無茶やらかしおる」

老人がマグナの義手をみて、その痛み具合に気付く。

表面は誤魔化せても、細部まで調整されたら彼の目は誤魔化せない。

「ま、職業柄仕方がないっつうか、勘弁してくれよ」

上着を羽織り、荷物を手に取る。こちらは事前に受注していた品のようだ。

「あら?炸裂弾や装甲弾まで頼んだ覚えはねぇんだけどな…」

中身は銃器に用いられる弾丸。

「店仕舞いのサービスってやつだ。いいから持ってけ」

「店仕舞いて、おやっさん…」

言いかけて、老人が棚から何かを取り出した。一枚の手紙と写真だった。

「田舎の息子に、子供が産まれてな。帝都は危険だから、こっちへ来ないかって言われちまってよ」

写真には若い夫婦と幼い子供。戦争とは無縁の、とても幸せな家族だった。

「…ここから西にある町なんだがな。のどかで平和な良い町だ。町の中央のでかい時計台がよく目立つ。――婆さんをおいて帝都に飛び出したわしは、もう二度と帰れんと思っていたが…。息子が許してくれたよ」

懐かしむように思い出を語る。そんな老人を見て、マグナもふと昔を思い返していた。

「そうか…」

手にしていた写真と手紙。文面には、恨み辛みが書かれていながらも、父親の安全を願う息子の優しさが読み取れた。

「――いい家族じゃねぇか。大事にしろよ」

そう言いながら手紙と写真をテーブルに置き、老人の肩をポンと叩く。店を出ようとするマグナ。その時、

「マグナ」

老人の声で立ち止まる。振り返らず、ドアに手をかけたまま。そんなマグナへの一言。

「…死ぬなよ」

投げ掛けられたのは、彼なりの激励。それでもマグナは振り返らない。代わりに、マグナも一言だけ。

「アンタもな、おやっさん」

その一言だけ言うと、マグナは工房を出た。



「逃がすな!!侵入者を追え!!」

瓦礫で階段は塞がっている。反対側にある階段も帝国の兵士で埋まっている。

もはや袋の鼠であるカイム達の逃げ道は、自然と上の階へと逃げ込んだ。

「何か考えはあるのか!?」

「そんなものがあれば慌てて考えたりしないさ」

ルイスの優秀な頭脳を頼りにするカイム。

だが彼女もカイムと同じように、追い詰められたこの状況に切羽詰まっていた。

階段を上りドアを開けるとそこは屋上。見渡しもよく、隠れる場所などない。

風雨が体中に吹き付いてくるが、いちいちそんなことを気にしている余裕は無かった。

(どうする…、どうしたら…!?)

ここで考えられる行動は一つ、この屋上から飛び降りること。

しかし建物は6階。この高さから生身で飛び降りようというのは、あまりにも愚かしい選択だ。

なら、ルイスの魔法はどうだろうか。考えてみたが、風を起こしても2人を支えられる保証はない。

おまけに今日は無風で、巻き起こるのはせいぜい微風くらいだ。

思考を張り巡らしていたその時、勢いよくドアが開いた。

兵士達がこちらを追い込んでいる。その数は軽く20を上回るだろう。

「銃は使うな!!最優先保護対象であるルイス=ヴィクトワールを傷つけてはならん!!」

兵士達はルイスを保護するようだ。恐らく目的は月の書とそれを解読していたルイスの知識。

「ちっ、わざわざ変装して来たのに、意味が無かったか…」

ルイスが悪態をついた。

相手は銃は使うなと言う命令により武器は使わないものの、やはりこの数では不利に変わりない。

打開策を思い付かないまま、帝国兵士が襲いかかる。3人の兵士がまず同時にカイムへ。

「クソッ!!邪魔だ!!」

一人目の拳はかわし、二人目を下から殴る。三人目には飛び蹴りを。だが次は四人が同時に動いた。

「下がれ、カイム!!」

ルイスが魔法の詠唱を始める。

衝撃インパクト!!」

掌に集めた魔力を一気に解放する。単純だが、威力はそれなりだ。

大の大人を4、5人は纏めて吹き飛ばすくらいの力はあるだろう。

「一点集中突破だ。一気に走るぞ!!」

「わかった!!」

ルイスが考えた最善策は、強行突破。相手が素手なら、勝ち目はまだこちらにもある。

「子供相手に何を手間取っておるか!!早く捕らえよ!!」

その言葉で再び動き出す兵士達。倒れていた兵士も起き上がり、再びカイム達を捕らえようとする。

「クッ、どけよお前ら!!」

強行突破を試みようとするが、そう簡単には行かない。

「カイム!!止まるな!!」

もう一度魔力を爆発させ、周囲の兵士を吹き飛ばした。

ところが、背後から近づいてくる兵士に捕まってしまう。

「捕まえたぞ!!ルイス=ヴィクトワール!!」

「くっ!!離……せ!!」

三度目の衝撃を掌で産み出し、自分を拘束する兵士にぶつける。たまらず大きく仰け反った兵士はルイスを解放した。

しかし、その衝撃でルイス自身も大きく吹き飛んでしまう。吹き飛んだその先は、

「…しまっ――!!」

空中だった。屋上からその身を投げ出されてしまったのだ。

「ルイス!!」

それを見たカイムが、兵士を振り払いルイスの元へ駆けよる。彼女はなんとか屋上の縁に掴まっていた。

「ルイス、無事か!?」

「なん…とか……!!」

強がってはいるものの、かなり苦しそうだ。そう長くはもたないだろう。

兵士全てを倒していたら、まずルイスの方が先に落ちてしまう。

かといって引き上げようとすればその間は無防備になってしまう。まさかそれを見過ごす兵士達ではないだろう。

「…ルイス」

この状況にカイムは、ただルイスの名前を呼んだ。全てを言う時間もなかった。

だから解ってほしいと、我が儘を目で訴えた。

ルイスは理解した。彼が何を訴えたのかは解らないが、彼女はカイムを信じることにした。

「――信じてる」

彼女もまた、それだけを言った。カイムを信じて。

「――よし、行くぞ!!」

カイムは振り返り、迫り来る兵士に立ち向かった。カタナを正面に突き出す。

目を閉じ、全ての魔力を集中させ、精神統一を行う。

「はあああぁぁぁぁ………!」

刀身が紅色に染まった瞬間、カイムは目を見開いた。

「ルイスに手を出すやつは、何人たりとも近づけはしない!!」

カタナから凄まじい衝撃波が放たれ、カイムの眼前の兵士達を薙払う。

「なに!?」

「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁ………」

兵士達はその衝撃に圧倒され、なすすべもなく吹き飛ばされていった。

数瞬の後、屋上にはカイムだけが残った。

「はぁ…はぁ……」

全ての魔力を使い切り、辛そうな表情をしていた。それでも、彼の頭には彼女のことしかなかった。

「ルイス……」

よろけながら縁へと歩いていく。奇跡的にルイスは縁に掴まったままだった。

右手は限界だったのか左手だけで縁に掴まり、全体重を支えている。

それを見て、カイムがルイスの左手を掴んだ。

「待ってろ…今、引き上げるから…」

しかし、彼女の反応は予想に反する物だった。

「止めろ――離してくれ…」

「え?」

ルイスの瞳に恐怖の色が浮かんでいた。

「私を見るな!!離せ!!」

ルイスは左手をぶんぶんと振り、カイムの手を外そうとした。

「ちょ、暴れるな――」

その時、カイムが掴んでいたルイスの左手の、コートの袖がめくれた。

「!?」

その下にあった物は――



「――やれやれ、せっかちな人達だな」

誰も居なくなった図書館のホールに、一人の男性の姿があった。

「『実験No.0005』、君は確か…、――あぁ、クリス君か」

ホールにある担架に寝かせてあるクリスの遺体。

他人を名前でなく番号で覚えるところに、彼の人間性が垣間見えたような気がした。

「君は失敗作だと思っていたが、どうやら間違っていたのは僕の方らしいな。君に対する評価を改めなければ」

既に事切れているクリスに向かい、まるで独り言のように、彼は喋り続けた。


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