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帝国の月 -Resistance Rebellion-  作者: 風船ねこ(碧流&にゃんにゃん棒)
Chain Crescent
19/35

CHASE:18 自由な街の自由な月 -rumor-

 反帝国軍『自由な月(リバティムーン)』。

 現在判明しているレジスタンス勢力の中では最も巨大な組織であり、その活動の歴史も長い。

 マジェストラ帝国の首都セント・メトロから東に100km余り離れた、大陸を繋ぐ長く大きな橋の向こう側にある街『アドリビトム』。

 この街の中心にある巨大な施設こそ、リバティムーンの本拠地――。


 モニターを眺め、ミッションの報告を待つシャーリー。

 昨日夕方から開始したミッションから、既に半日近く経つ。

 未だ帰らぬカイムの報告を待ち、シャーリーはモニターを、そしてトランシーバーを気にしている。

 ずっとにらめっこの状態が続いており、加えて技術班としての仕事も抱えている。

 睡魔に襲われ、頭がかくんと揺れたその時だった。

「よぉ、お疲れさん。報告はあったか?」

「…ま、マグナ隊長!!おはようございます!!」

 寝ぼけ眼のシャーリーの前に、ボトルを差し出したマグナが立っていた。

 慌てて椅子から立ち上がり、敬礼を返す。

「夜通しモニターとにらめっこか?あんまり無理すんなよ、ほれ」

「あ、ありがとうございます、隊長」

 差し出されたボトルを手にし、さしてあったストローをくわえる。

 一口飲んだその瞬間、シャーリーは突然むせた。

「…ま、マグナ隊長!!これお酒です!!しかも一番アルコールキツいやつ!!」

 むせながら叫ぶシャーリーを見て、マグナは楽しそうに笑う。

 手渡されたのは本来入っているはずのスポーツドリンクではなく、ウォッカ。

 ここで販売されているアルコールの中で、一番度数が高い物だ。

「目は覚めたか?あいつが帰ってきたら、自室でゆっくり寝てな」

 そういって自分の手にしたボトルを口にする。シャーリーのとは違い、ウォッカの銘柄が貼ってある。

(朝からお酒なんて…)

 半ば呆れながらも、モニターからは目を離さない。

 ――できれば早く帰ってきてほしいと、重い目蓋を持ち上げながら願う。

 そんな折に聞こえた、もう一人の声。

「一晩中ぶっ通しで報告待ちか…そろそろ疲れたろ?差し入れだ」

「あ、おはようございます、姐さん」

「おはようございます、ジュディスしょ…――っ!?」

 振り返りそこに立っていたジュディスを見て、シャーリーは言葉を失った。

「しかし、あの阿呆はまだ戻らんのか?」

「まだ階級すら貰えてない新兵なんすよ?多少は目を瞑ってやってくださいよ」

 ごく普通に会話を続けるマグナを尻目に顔を赤くするシャーリー。原因はジュディスにあった。

「んで、差し入れってなんすか?朝飯っすか?」

「生憎お前の分はないぞ。自分で食堂に取りに行くんだな」

 ジュディスが手にしたトレイに目を向けるマグナ。

 乗っているのは、サンドイッチとコーヒーの簡単な朝食。シャーリー一人分しか用意していないのだろう。

「じゃ、ここに置いてくぞ……――ん、どうしたシャーリー?」

 視線を彼女に向け初めて気付いた異変。シャーリーは俯き、両手で顔を覆っている。

「あ、あの!ジュディス少佐、その…、ちゃんと、服を……!!」

 シャーリーが指摘したのはジュディスの服装。

 驚いたことに支給されたボトムス以外、上半身は何も羽織っておらず、惜しげもなくその肢体をさらしていた。

 髪を下ろしているので辛うじて胸元は隠れているものの、かえって艶めかしさが際立っている。

「あぁ、これか。すまないな、シャワー上がりで暑かったもんだから…。まぁ男が 上半身裸でうろついてるのと同じだ。気にしないでくれ」

「私じゃなくて少佐が気にしてください!!」

 ジュディスの男らしい返答に、思わず叫ぶシャーリー。

「隊長だって男の人なんですから……」

「あ、俺は平気だぜ?それに姐さんの裸人癖は今に始まったことじゃないだろ?いい加減慣れろよ」

「無理です!!……ていうかお二人共、少しは恥じらいと言うものを――!!」

 マグナの冷静な物言いに反論しようとしたその時、トランシーバーに通信が入った。



「まず、何から聞こうか」

 小さな会議室のソファーに腰掛けながら、ジュディスは言う。

 そのジュディスの目の前には、手錠をかけられたオリバーがいた。その隣にはカイム達もいる。

「なぜ工場を自分達の手で爆破する必要があった?あそこは流通ラインの中心のはずだろう?」

 あの時工場は、カイム達が支給された爆薬を使う前に、ゴルドーの指示によって爆破された。

 ならば何故工場は爆破されたのか。

「……餌なんです、あの工場は。貴殿方をおびきよせるための」

「おびき寄せる……?」

 オリバーの口から告げられた言葉。

「わざと情報を流したんです。貴殿方から見れば飛び付かざるを得ないようなおいしい情報を。兵力でも物資でも勝るこちらより優位に立とうとするなら、これしかない。それが解っていたから、このような罠をしかけたんです」

「何も知らない間抜けを一網打尽にするために……ってことか」

「はい。予想外だったのは、侵入者が彼ら二人だけだった……ということですが」

隣にいたカイムとルイスに視線を送る。

「つまり、あそこは既にもぬけの殻だったわけか。とんだ骨折り損だな、こりゃ」

ため息と同時に吐き出たマグナの言葉。

 あらかじめ聞いていたとはいえ、カイムもその失望は大きかった。――が、そんな時オリバーが呟いた。

「そうそう、研究所内にあったデータなら、一部だけバックアップしてきましたよ。水でずぶ濡れなのが心配ですが」

「本当か!?じゃあそれを――」

 オリバーが持つメモリーチップに、カイムは手を伸ばす。

 ところが、その手に触れる前にオリバーはチップを引っ込めてしまった。

「――取引です」

「取引?」

 カイムではなく、マグナとジュディスに視線を向けながら、オリバーは取引を持ちかけた。

「僕の後ろにいる彼女…、エレナと言います。彼女の身の安全と生活の保障、それから、彼女を絶対に『利用』しないこと。これら3つの条件と引き換えにこのチップを渡します。悪い条件ではないはずです」

 厳しい表情で二人を睨む彼の後ろで、エレナが不安そうにそれを見ていた。

「――貴様は自分の置かれた状況がわかっていないらしいな、『黄昏の隼(トワイライトファルコン)』」

 テーブルを挟んでオリバーを見ていたジュディスが、懐の銃を取りだしオリバーに銃口を突き付けた。

「ジュディスさん!?」

 突然のジュディスの行動に、カイムも立ち上がりそれを止めようとする。だが、カイムの行動をマグナが制した。

「お前は黙ってろ、カイム」

「隊長!!やめて下さい、この人は…!!」

「どんな事情があろうと、俺達にとってアイツは帝国の兵士だ。解るだろ?」

「それはこっちの都合だ!!」

「あぁそうさ、俺たちの都合だ。――組織で動くっていうのはこういうことなんだ。いちいち個人の感傷で動いてたんじゃ、統率なんてとれやしない」

 解ってくれとマグナが訴えかけるのも当然だが、だからといって納得できるカイムではない。

 それはオリバーの心を、素顔を見たカイムだからこその判断だった。

 それでもまだ納得がいかないカイムの耳元に、マグナはそっと呟いた。

「…心配すんな。姐さんを信じろ」

 ――ジュディスを信じろ。そのマグナの言葉が、何故か温かい。

「――彼女の安全については約束しよう。貴様の提示した条件通り、こちらで保護させてもらう。だが……」

 ジュディスのその言葉に安堵するオリバー。しかし……

「貴様の身柄はこちらで拘束させてもらう。貴様をどうするかは司令部の意向次第……。死罪もやむなしと思ってもらいたい」

 その言葉にオリバーは動揺しない。むしろこうなることを予想していたのかのようだ。しかし、彼女は違った。

「待って!オリバーは帝国に裏切られたのよ!!もう帝国とは何も関係ないでしょう!?」

 恋人の不遇な扱いに、エレナは不満を隠せない。

「帝国に裏切られたといえど、それが本当かどうか、現状では判断材料が少ない。彼がスパイでないという証拠も無いからな」

 ジュディスのその言葉は、恐らく軍人としての建前。恐らくそれは彼女の本意ではないのだろう。

 表情から苦渋の決断だと言うことが見てとれた。

「――組織の一部を任されている以上、こう言うしかないんだ。すまない…」

 エレナの不満は最もだと言うように、ジュディスは深々と頭を下げる。

 そのジュディスを見たからこそ、エレナは何も言わなかった。

 沈黙が部屋に流れたとき、勢いよくドアが開いた。シャーリーだ。

「皆さん、大変です!!テレビを見てください!!」

「シャーリー?寝てなかったのか…?」

「いいから早くテレビを!!」

 その気迫に押され、マグナは手元のリモコンでテレビをつける。

 そのチャンネルで放送していたのは朝のニュースだ。映されていたのは、カイム達が潜入した工場。

 『臨時』というテロップがついており、普段の報道とは違う雰囲気が流れていた。

 なにより、ニュースの見出しが彼らを驚かせた。

「『未曾有の集団爆破テロ』だと!!どういうことだよ、あの工場を爆破したのは帝国だろ!?」

「これは、一体……!?」


 ――昨日、セント・メトロの商業区を中心に数ヵ所で爆発を確認。

 狙われた施設は公共事業も含まれており、その殆どが金属などを加工する生産工場であり、中には兵器を生産する施設も含まれておりました。

 これらを反帝国軍『自由な月(リバティムーン)』による集団爆破テロだと、帝国軍最高司令マチルダ=ウィンクロップ氏は発表。

 関係者も市民を見境なしに巻き込むこの事態を『卑劣なテロ行為』とコメント。

 現在、この事件による死傷者は、少なくとも数千人、負傷者は数万人に及ぶものと考えられます。


「――冗談…だろ?」

 半ば引きつった表情でマグナが笑う。最早笑うしかなかった。

 自分の知らないところで、事態がこれほど悪い方向へ進んでいるとは思わなかった。

「これも、貴様は知っていたのか?」

 キッと、厳しい視線がオリバーに向けられる。だが、誰よりもこの報道に驚いていたのはオリバーだ。

 カメラに向けて叫ぶ帝国市民の声は、どれもリバティムーンへの批判、中傷。

 報道されているありのままを鵜呑みにし、真実を知らぬままジュディスは叫ぶ。

「貴様らはこうまでして逆らう者を根絶やしにしたいか!!」

「あなた方がやっていないという確かな証拠があるんですか!?」

 手錠に繋がれたままいきり立つオリバー。見開いた瞳孔に、激しい呼吸。

 今にもジュディスに飛び掛かりそうだ。ジュディスの手にした銃などまるで恐れていない。


『マジェストラ帝国、皇帝直属首席秘書官、並びに軍部最高司令官、マチルダ=ウィンクロップです』


 テレビから目を離している間に、今度は生中継の記者会見のようだ。

「ようやく司令官様のお出ましか」

 マグナが呟く中、その様子をカイムは黙って見ていた。



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