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帝国の月 -Resistance Rebellion-  作者: 風船ねこ(碧流&にゃんにゃん棒)
Ugly Undine
18/35

CHASE:17 月下美人 -fiendish-

「…ん、な、なにが――!!カイム!!」

目を覚ましたルイス。

気を失っていた彼女は状況が整理しきれず、慌てて立ち上がろうとするが、身体中が痛む。

「そうか、あの時…」

気を失う直前まで思い出し、随分丈夫な体だと自分でも感心する。

「ルイス!!大丈夫か!?」

ルイスが目覚めたのに気がつくカイム。側に駆け寄り、彼女を抱き起こす。

「あいつは!?プロフェッサーは……!!」

「大丈夫だ、もう終わったよ」

優しく微笑むカイム。その側には、エレナを抱きかかえるオリバーも居た。

「帰ろう。任務完了だ」

そう言って、カイムがルイスを抱きかかえて、立ち上がる。

「ば、離せ!!一人で歩ける!!」

「打ち身だらけのその体で無茶言うな。アザだらけじゃないか」

カイムの言うことはもっともだった。幼いその体で、あれだけの攻撃を受けたのだ。無事でいられるはずがない。ルイスは渋々カイムに身を預けることにした。

「君達って本当に仲が良いんだね」

「「どこが!!」」

その時、何かが動く音がした。振り返るその視線の先に、横たわっていた人物がいる。

「プロフェッサー!!」

先程の威圧的な外見は縮み、地面を這いずるその姿に、最早脅威はない。

だが、その手にはリモコンの様なものが握られていた。

「…ふ、フハ、フハハハハ!!…逃がさん、誰一人とここから逃がさんぞ!!」

手にしたリモコンのスイッチを押す。すると突然壁が爆発し、そこから海水が流れ込んだ。

「僕たちもろとも海に沈めるつもりか!?」

急いでもと来た道を戻る。しかし、全ての扉にシャッターが降りていた。

「そんな、閉じ込められた!?」

「俺がこじ開ける。下がってくれ!!」

カイムが魔力を込め、鉄のシャッターを思いっきり殴る。

しかし魔力が思うように留まらず、ただガシャンという金属音が響くだけだった。

「痛っ!?……な、さっきの力はどこにいったんだ――!!」

魔力の使いすぎか、体力の消耗か。何度も試したが結果は同じだった。

そんなカイムの努力を嘲笑うかのように、流れ込んできた海水が彼らを飲み込む。

研究所にあった機材、書類、データ。全てが激流に巻き込まれ、海へと沈んでいく。

(――!!る、ルイス…!!)

激流に飲まれながら、必死にルイスへと手を伸ばすカイム。しかし、彼女との距離は開く一方だ。

懸命にもがき、ルイスのもとへと必死に泳ごうとするカイム。

――しかし、この荒波はあまりにも無情だった。波に飲まれた機材の一部が、カイムの頭に激突する。

「がはっ……!!」

(しまった、息が…!!)

衝突のせいで体内の空気が吐き出てしまい、再びルイスを探した時には既に彼の視界の外へ離されてしまっていた。

それでも手を伸ばし、ルイスの手を掴もうとする。そこにルイスがいなくとも。

(…ここまで……か…)

息が苦しくなり、意識が朦朧としてきたカイム。だが、その虚ろな瞳になにかがよぎった。

(…あれは……)

この荒波の中でも優雅に、そして可憐に。踊るように泳ぐ美しい女性が、カイムに近づき手を差しのべた。

「――今度は私が、貴方達を助けるわ」

そこに居たのは本物の人魚――いや、水妖(ウンディーネ)だった。

彼女の腕には既にルイスとオリバーが抱かれており、もう片方の手でカイムを(女性とは思えない力で)引き寄せると、すぐさま水上に向かって泳ぎだした。

迫る濁流を掻き分け、銀色の美しい長い髪が水に揺れる。目指すは満月の光が差し込む水面。

愛する者を地上に送り届けるために、彼女は懸命に尾ひれを動かした。

カイムはそんなエレナの真剣な横顔を見た後、意識を失った。


…数十秒後、彼女は水上に飛び出した。辺りは静けさが支配しており、特に人気は無さそうだ。

「プロフェッサーは振り切れたかしら…それにしてもこんなに全力で泳いだのは久々ね…ん?」

気付けば、辺りが妙に硫黄臭い。そして水面には研究所の書類や固形の石がバラバラに浮かんでいる。

どれもキメラに関する書類で、調査報告書や実験結果のまとめ、おまけに割れた試験管の破片までもが飛び散っていた。

「こんなに海を汚して…全く環境に悪いったら」

海岸までゆるく泳ぎ、抱えていた3人を砂浜の上に下ろす。幸い3人共息はあるらしく、

(もしオリバーに息が無かったら人工呼吸してあげたのに…)

エレナはちょっぴり残念がった。そして、すっかり暗くなった夜空を見上げた。

真っ白な満月が4人を照らしている。その中でも、エレナの姿だけを一際綺麗に照らしている。

乱れた髪の毛の水滴が淡く煌めき、白磁のような素肌が艶っぽく、月光を照り返す。

(あんなに綺麗な月の光に操られていたなんて…)

満月を見つめ、物思いに耽るエレナ。

「あまり浴び過ぎちゃいけないって言うけど、今日くらいは良いわよね――」

「うん…とってもお似合いだよ、エレナ」

「えぇ!?」

傍らを見ると、すぐ傍にオリバーが迫っていた。どうやら彼女が気付かない内に起きていたらしい。

「二人は大丈夫だね。エレナも無事…とまでは行かなかったけど、助かって本当に良かった…」

柔らかな肌の感触を確かめるように、オリバーは彼女の頬に手を添えた。途端に頬を染めるエレナ。

「…迷惑かけたわね」

「僕は迷惑だなんて思っちゃいないよ?恋人としてすべきことをしたまでなんだから」

「女たらしにそんなこと言われたかないわ…でも、ありがと」

エレナはさっとオリバーの頬にキスをした。

「じゃあ僕からも。助かってくれてありがとう」

彼女の額に優しくキスを返すオリバー。その時、

「ふわぁぁ~……ん?ここは…海岸!?」

「俺達は助かったのか?」

ルイスが目を覚ました。続けてカイムも。

いち早く反応したエレナとオリバーは慌てて離れた。

「え、えぇ。エレナが僕達を岸まで運んでくれたんです」

「そうか…悔しいが恩に着る」

「ありがとう、エレナ」

エレナが得意げに、豊満な胸を反る。「ふふん、水中は私のホームグラウンドよ?」

「グラウンドじゃなくてオーシャンだよな」

ルイスの的確なツッコミにエレナが狼狽えた。

「う、うるさいわね!」


「プロフェッサーは流されたのか?」

カイムが辺りを見回して訪ねた。

「みたいね。水上に上がってから一度も見てないもの」

「だとしたら、この硫黄臭いのは何だ…?」

「…あ」

不意にルイスが立ち上がった。

「どうした?」

「この石…」

ルイスは水面に浮かぶ黄色い石を拾い上げると、くんくんと匂いをかいだ。

「…硫黄臭いのはこれのせいだな。固形の硫黄だ」

「何故そんな物が海に?硫黄って火山地帯にある物じゃ――」

オリバーが訝しむ。

「プロフェッサーが研究に使っていたんだろう。だが、これはこれで儲けものだ」

「どういうこと?」

エレナが首を傾げた。

「まぁ見てろ。すぐに解る」

するとルイスは魔法で硫黄に火を付け、それを海に向かってぶん投げた。

その瞬間、水上に火が引火した。

「え?何で水の上に火が…?」

「外国の温泉でよく行われるんだが、硫黄ガスを含んだ水には火を付けることが出来るんだ。こんな風に硫黄が水に浮かんでても可能なんだよ」

海の上に広がる青い炎。やがて一緒に浮かんでいた書類に引火し、火は更に強くなった。

「これで書類を燃やす。ウイルスに関しては原液を薄めずに直接体内に投与しないと効果は無いから、万が一海に流れても問題無いな」

ルイスの詳細な説明に対し、エレナが疑問を述べた。

「貴方、何者?硫黄とか、ウイルスの効能について知ってたり…とても子供とは思えないんだけど」

「帝国のしがない賢者さ」

ルイスが不敵な笑みを浮かべると、オリバーが顎に手を当てた。

「さて、あなた達はこれからどうするんだ?」

ルイスが問うと、二人がまつげを伏せた。

「良かったら…しばらくの間、うちの軍に来ないか?」

「え?」

カイムの提案に、怪訝そうな顔をするオリバー。

「表向きは捕虜として連れて行くが、上司に事情を話せば保護してくれるだろう。その間にこの後どうするか考えれば良いさ」

「そうは言っても、敵に助けられた挙げ句お世話になる訳には…」

遠慮がるオリバーを、エレナが上目遣いで見た。

「…確かにあまり安全とは言えないけど、貴方の家にも帝国軍が来てるかも…このまま家に帰るのも得策とは言えないわ」

オリバーは小さく溜め息をつき、

「仕方ありません。しばらく厄介になります」

「歓迎するよ」

カイムが微笑んだ。

「なら早速戻るとするか。善は急げだ」

「あっ…」

エレナが声を上げる。今も人魚の姿なので、どうやら自分で立ち上がって歩けないらしい。

「大丈夫ですよ」

そんなエレナを、オリバーは優しくお姫様だっこした。突然のことにエレナが赤面する。

「ちょ、オリバー!?」

「さ、行きましょう」

それを見たカイムも有無を言わさずルイスをひょいと抱き上げた。

「なら俺達も」

「またやるのか!?」

「たまには良いだろ?」

こうして4人は自由な月(リバティムーン)の兵舎へと歩き出した。


一方、そんな4人をテトラポットの上から監視していた男が一人。

帝国軍の赤い軍服を身に纏い、帽子を目深に被った茶髪の青年。

ゴツゴツと硬い赤褐色の異形の左手にトランシーバーを持ち、尖った耳に当てている。

「…標的が帰還した。すぐに例の件、準備しとけよ…あぁん?放送機材が事故った?くたばれカス!皇帝様のご命令だっつってんだろうが!!チンタラしてねぇでさっさと直しやがれ!俺様にぶち殺されてぇのか!?」

それだけまくし立てると一方的に通信を切り、その左手でトランシーバーを粉々に握り潰した。

「あ、皇帝様に連絡取るの忘れちまった…ちっ、今日はツイてねぇなぁ!!」

トランシーバーの破片を風に流し、彼は立ち上がる。背中に広げた翼は正に悪魔のそれだった。

「こんなクソみてぇな世界、さっさと滅べっての…マジかったりぃわ、皇帝様もあんな真面目腐ったクズ共を監視させるなんてよ…あー面倒臭ぇ」

テトラポットに唾を吐き捨てると翼を羽ばたかせ、彼は夜空に姿を消した。


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