表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
帝国の月 -Resistance Rebellion-  作者: 風船ねこ(碧流&にゃんにゃん棒)
Ugly Undine
13/35

CHASE:12 トワイライト -Oliver Falconer-

オリバーはかつて、兵器開発部ではなく空軍に所属しており、その戦績・撃墜数からエースパイロットの地位を確立していた。

そして彼は、愛機の色が夕陽のような金色であることから「黄昏の隼トワイライトファルコン」の二つ名を持ち、持ち前の誠実さから人望も厚かった。

そんなある時、とある湖に水妖ウンディーネの調査をしに行くという任務が入り、彼は現地に赴いた。

「そこにはとても美しい人魚――いえ、水妖が居ました。ところが上層部は、キメラを造る為に彼女を捕獲しようとしていたんです…でも、僕はその計画に賛同出来ませんでした」

彼女の名はエレクトラ=カークウッド。水妖の数少ない生き残りの一人だ。

しかし正義感の強い彼は任務に背き、秘密裏に彼女を匿うことを決めた。

彼女は自らをエレナと呼ぶよう要求し、彼に大人しく従った。

衣服を着せると人と変わらぬ姿に見え、誰も彼女が水妖だと気付かなかった。

その内二人はお互いに惹かれ合い、やがて恋人同士になる。

「でも…水妖と人間は違う種族だろ?」

そこにルイスが注釈を加える。

「いや、古い言い伝えだと、水妖は人間と結婚して出産すれば魂を得られる…と聞いたことがある。あながち有り得なくは無いんじゃないか?」

「貴方の言う通りです。たとえ種族を隔てた恋だとしても、僕は彼女を愛さずには居られなかった…そして、彼女に魂をあげたかった。でも…」

ある時、彼女は何の連絡も無しに行方不明となってしまった。

どうやら帝国内部の人間が密告し、オリバー不在の間に自宅を襲撃し、エレナを連れ去ったらしい。

「同じ頃、僕の所属する部隊でも厄介な事が起きました。――任務の最中、僕の機体が突然誤動作を起こして仲間を撃墜してしまったんです…」

原因は、あの小太りの男…ゴルドーだった。彼はいつの間にかオリバーの機体に細工を施していたのだ。

「ゴルドーって、さっきの偉そうな奴か…」

傲慢かつ強欲であり野心家で、若輩であるオリバーが戦績を上げていることに嫉妬していたゴルドー。

結局彼の思惑通り、オリバーはその件で兵器開発部へと左遷させられ、自身は中尉に昇進し、紆余曲折を経て先程のやりとりへと至る。

「どうも彼はエレナの失踪と関係ある気がしてならない…だから僕は任務を遂行すると同時に、手掛かりを探していたんです。…正直、帝国の考えには賛同出来ない」

「…何でお前みたいな優しい人間が、帝国なんかに…?」

「――ちょっと、ね」

オリバーが一瞬、笑顔の仮面を被った。それを見て、ルイスが意味深に呟く。

「…なかなか、苦労してるんだな」

「俺達に何かやれることは無いのか?」

カイムの言葉に対し、オリバーは真剣な表情で言った。

「その気持ちは嬉しいんですが…これは僕個人の問題です。貴方達を巻き込んで良い道理なんて、何処にもない」

オリバーから発せられた、はっきりとした拒絶の言葉。

しかしカイムもルイスも、その言葉に従うつもりはさらさらなかった。


「ピピーッ」

「?」

その時、カイムの小型通信機にジュディスから連絡が入った。

「はい、こちらカイムです。え、敵の個体の情報が入った?…はい…はい…――え!?」

カイムが相当驚いた様子で耳から受話器を離す。

「どうした?」

「指令からの連絡だ…生体兵器P-407――『エレナ』が起動テストに入ったらしい」

「『エレナ』!?…そんな馬鹿な、僕は何も聞かされてません!!」

オリバーが立ち上がった。恋人の名と実験中の兵器の名が同じことに、緊張が高まる。

「待て…伝達ミスの可能性も有り得る。それかあえて情報を開示しなかったのかもしれない。まずは情報を集めるんだ」

ルイスの判断を仰ぎ、カイムが慌ただしく質問する。

「えっと…すみません、個体情報を詳しく…種族は水棲生物…水妖……」

「…間違いないな」

冷静にルイスが答えた。

「そんな、エレナが…」

ぎりっ、とオリバーが唇を噛み締めた。

己の愚かさを悔やむ。それでも、前に進まなくてはならない。

「…この工場の近くに、今は廃館になった劇場があって、その地下に生体兵器の実験ラボがあるんです。きっとエレナはそこに…でも…」

言葉が尻すぼみになる。一人で攻略出来るか自信が無いのだ。

その時、通信を終えたカイムが叫んだ。

「…彼女は今も苦しんでるかもしれないんだ!!お前が助けに行かなくてどうする!!」

カイムの言葉にハッと我に返るオリバー。

今はどんな手段を使ってでも、彼女を取り戻さなければ。

やがて意を決して、彼は言った。

「――二人のお力を、貸していただけませんか?」

一瞬の後、ルイスとカイムは顔を見合わせ、ゆっくりと頷いた。

「…勿論だ!!」

二人の返答を聞き、オリバーもまた頷いた。

「二人とも、ありがとう…僕についてきて!」



「――事は順調に進んでいるな、ゴルドー」

「えぇ、全て手筈通りですよ、プロフェッサー。邪魔者の始末は完了しました」

薄暗い部屋に、うっすらと光る計器。モニターの前に座る男の声が、低く、静かに響く。

この部屋に響く音といえば、男の声とキーボードを叩く音くらいだ。

「しかし貴方も凄いことを考えたものだ。『アポカリプス計画』が、こうも素晴らしい物だとは」

そういうゴルドーの視線の先には、大きなカプセル。その異形の中心には、美しい女性がいた。

「彼は優秀な兵士だが、我が強すぎる。駒としては失格だ」

「だから奴を切り捨てた。貴方も非道ですな」

「君こそ、この話には随分と乗り気ではないか。…邪魔者が始末できて満足だろう?」

タイプする手を止めゴルドーに視線を向けると、彼の顔には満面の笑みが浮かんでいた。

「彼の様な実直な輩は、目先の物事に捕らわれて大局を見ようとしない。感情で動く低脳な人間は、軍人として失格だ」

――それに…と一言。先程の笑みが消え、今度は憤怒の表情。

「気に入らんのだ。若輩の輩が私の上に立つなど!!私はもっと上にいるべき人間なのだ!!」

吐き捨てた言葉は、傲慢とも言える。彼に大義名分などありはしない。

ただただ自分の欲に忠実に…ある意味、真に人間らしい人間である。

そんな彼だからか、プロフェッサーは彼に興味を持っていた。

そしてオリバーにもまた、ゴルドーとは別の興味を抱いていた。

「…なら、君自身の手で彼を葬ってはどうだ?」

そんなとき、ふとモニターに目を移した彼に、ある人物が目に入った。

「君の客人だ。どうやらよほど『彼女』が気になるらしい」

「オリバー!?あの爆発の中逃げ延びたというのか…!?――いや、そうでなくては面白味がない。やはり奴には、私が直接引導を渡さねばならんようだ!!」

高らかに笑う。この静かなラボに、ゴルドーの声はよく響いた。

「では、私は失礼しよう。客人はもてなさなければならないからな。貴方から頂いたこの『力』…、早速試させてもらうとしよう」

そう言うとゴルドーは部屋から出ていった。



陽も沈みかけた頃、彼らはそこに辿り着いた。

「この劇場です。今は廃棄されたこの劇場の地下に、生物兵器のラボがあります」

「ここに…」

工場からさほど離れていない、海の近くの劇場。

現在は使用されている痕跡はなく、看板はすでに取り外されており、劇場の名前までは分からなかった。

外壁のあちこちに、潮風の影響で錆びが付いている。

「なるほど…こんな古びた劇場の地下にあるとは、誰も思わないだろうな」

「えぇ。通常は地下からの特殊な通路を使うので、人目に触れることもありません」

この近くの埠頭は人通りが少なくない。

機能が停止しているのはこの劇場だけで、今この時間でも作業している人は目についた。

怪しい噂が一人歩きしていない辺り、カモフラージュは完璧なのだろう。

「しかし、どうやって中に?入り口は鎖と南京錠でロックされているようだが…」

ルイスが疑問を口にする。扉の取っては頑丈な鎖がとぐろを巻き、おまけに南京錠が3つも付いている。少し錆びているものの、人の力では到底壊すことはできないだろう。

「下がってください。少々乱暴にいきますよ」

そういってオリバーが取り出したのは、大口径の銃。六連装のマグナムリボルバーだ。

銃口を鎖に向け、引き金を引く。

大音量の銃声と共に、重たい鎖が意図も容易く破壊され、地面に落ちる。

「さあ、これで中に入れますよ。急ぎましょう」

銃声に反応した一般人の視線などまるで気にする様子もなく、オリバーはそのまま扉を開け、中に入っていった。

――冷静を装っているが、彼には余裕などなかった。

少なくとも、周囲の視線すら気に止めない程度に。


劇場の内部はひんやりとしていた。電装の類は機能しておらず、しんと静まり返っている。

ロビーの装飾も使われなくなった当時のそのままの状態で、埃を多量に被っていた。

「使われた気配は無し…か。地下だけを利用しているのか?」

「えぇ。閉鎖された後にラボが増設されました。入り口はホールの方にあります」

一階はまるまるカモフラージュ。目指すは劇場のホールにある地下への入り口。

「…1つ、良いか?」

不意に、カイムが口を開いた。

「あんたにとって、彼女はそんなに大事な存在なのか?」

投げ掛けられた質問。オリバーの足が止まった。

「帝国の兵士という立場を捨ててまで、あんたは彼女を守ろうとしている。そうまでして彼女を守りたい理由ってなんなんだ?」

計算し尽くされた笑顔。本性を隠すための仮面。

カイムが今まで見てきたオリバーという人間は、とてもずる賢かった。

そんな人間が見せた、愚直ともいえる行動。感情が表面に現れないだけに、それは一際際立つ。

「――世界ですから」

オリバーが口を開いた。

「彼女は、――エレナは僕の世界なんです。それを守るためなら、僕は…」

――世界。そう語るオリバーの言葉は、重みを含んでいた。

前を歩くオリバーの表情は見えなかったが、その言葉に偽りはなかった。

「少し道草をしてしまいましたね」そう言って、無理矢理笑顔を作る。

歩幅も自然と大きくなる。…それはまるで、子供が見られたくないものを慌てて隠すように。

そんなオリバーを見て、カイムは何も言わなかった。――いや、言えなかった。

彼の並々ならぬ決意を垣間見たから…。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ