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帝国の月 -Resistance Rebellion-  作者: 風船ねこ(碧流&にゃんにゃん棒)
Ugly Undine
12/35

CHASE:11 仮面を外す時 -smile-

「爆発!?どこから…?!」

その場にいた者全てが爆発の轟音に動揺する。だが、一番動揺しているのはカイムだった。

作戦開始前に支給された爆弾はまだ設置していないので、本来なら爆発など起きるはずがないからだ。

(なら誰が…?)

カイムの頭の中が、ぐるぐると回るように思考する。

しかし現場から離れた場所にいる自分がそれを考えても時間の無駄だと、すぐに理解した。

カイムはすぐさま目の前の敵に集中を戻す。が、既にそこにオリバーの姿はなかった。

いや、正確に言えばカイムの視界から姿を消していた。

オリバーはカイムが注意を反らした僅かな隙に姿勢を低くし、足払いでカイムの体勢を崩したのだ。

それに気づかなかったカイムには、オリバーが突然消えたように見えただろう。

そして訳が解らぬまま、地面に倒れる。

「貴方達の目的はやはりこの施設の破壊ですか。この短時間でよくやるものですね」

「いや、あれは……」

感心と尊敬の念を込めながらも、オリバーが手にした銃はカイムへと向けられている。

(しまった、銃が!!)

カイムが体勢を崩したあの瞬間、オリバーは彼から銃を奪い取っていた。

銃口を額に突きつけられ、身動きがとれなくなる。

「カイム!!」

「動かない方が賢明ですよ。少女を傷つけるのは僕の趣味じゃありませんから」

軽い脅迫。その声から怒気は伝わってこないが、彼は本気だ。

「さぁ、覚悟は良いかい?残念だけど、君をこのまま見過ごすわけにはいかないんだ」

オリバーの指が、引き金にかかる。このままではカイムの頭が撃ち抜かれてしまう。

ほぼ至近距離の状態で、逃げることは不可能だろう。目の前にあるのは――死。あまりにも残酷な現実。

カイムの中でざわめく恐怖。もはやまともな考えはできなくなっていた。

「――最後に一つだけ、聞かせてくれないかい?」

そんな時、不意に投げ掛けられた言葉。

「君のような人間が、なぜテロリストなんかに。関係の無い労働者を解放する君が、なぜテロリストに…」

「違う!!…自由な月(リバティムーン)はテロリストなんかじゃない!!」

――テロリスト。投げ掛けられたその言葉を、カイムは全力で否定する。

「レジスタンスと言えば、君達の行動が正当化されるとでも思ってるのかい?なら、前日の旧市街地での君達の侵攻。あの戦闘で、一体何人の関係無い市民が巻き添えになって命を落としたのか、君は知っているか?」

「っ…!?」

答えることは出来なかった。あの時のカイムはそんなことを考えもしなかった。

戦闘が激化したあの戦場で、どれほどの血が流れたのか。カイムは知ろうともしなかった。

「組織の思惑のために関係の無い一般人を巻き込むのは、テロリストと同じだ!!」

「違う!!俺は…。俺達は…!!」

その言葉に言い返せるはずもなかった。次第にうつむくカイム。

恐怖の代わりに、彼の中に生まれた感情は――迷い。

「俺達をそうさせたのは…帝国だ!!」

その迷いを振り払うかのように、全ての元凶の名を口にする。

「だから君達は戦うと、武器を取るというのか。他に方法は無かったのかい?力には力で立ち向かうしか無かったのか!!」

再び帰ってきた言葉。これもまた正論だった。自分が産まれるその前から戦ってきた、帝国と反帝国軍リバティムーン

その争いを見て、戦って当たり前だと、戦争をしているのが当たり前だと、カイムはいつしかそう考えるようになっていた。

「君個人が悪いと言う訳じゃない。けど、君が組織の歯車の一つなら、僕はそれを壊さなくちゃならない。この帝国には守りたい人が居る。その人をテロから守るためにも…!!」

決意を固め、再び銃を構える。ほんの一瞬の静寂。その一瞬の後、銃声が鳴り響いた。

薬莢が転がり、銃口から硝煙が立ち上る。それとほぼ同時に四散する鮮血。撃たれたのは――



――オリバーだった。



「ぐぅ…!!敵の、援軍…っ!?」

放たれた銃弾は、銃を構えたオリバーの右腕に直撃した。袖口から滴る血。

その衝撃で、オリバーは銃を離してしまう。

(今だ…!!)

落とした銃をすかさずカイムが拾う。

「動くな!!」

今度は、カイムがオリバーにその銃口を向ける。

姿勢を低くし、オリバーから少し距離を取り、両手でしっかりと銃を握る。

「…く、これでは、身動きが取れないのは僕の方…。形勢逆転ですね。お見事…です…」

右腕から血を滴らせ、苦しそうに傷口を押さえる。

(味方の援軍…?マグナ隊長か?)

そう期待し、辺りを見渡す。しかしカイムの目に写ったのは、全くの別物。

赤い軍服に身を包んだ彼らは、紛れもなく帝国の援軍だった。

「何故、帝国の兵士が…」

味方を撃ったのか。…誤射という可能性は、カイムとオリバーの距離を考えれば有り得なかった。

「これはこれは、随分無様な醜態をさらしているではありませんか、オリバー少尉」

聞こえてきた男の声。いつの間にか周囲を取り囲む兵士の中心にいた、少し小太りの男。

味方を心配するのではなく、見下すかのような低い声色。

「…ゴルドー軍曹。こんな所に何の御用で?」

「今の私は中尉だぞ、オリバー君。貴様より一階級上だ。それと、私のことはゴルドー『様』と呼んでもらおうか」

高圧的なその態度。見た目の醜悪さと相まって、初対面のカイムとルイスでも嫌悪感を抱く。

「すみませんが…只今取り込み中なので、御用があれば、後で御伺いしますよ…ゴルドー軍曹」

するとゴルドーは、工場の上の階から、手にした拳銃でオリバーの足元を狙い撃つ。

「っ!!」

鈍い音がして、アスファルトに弾痕が残った。

「ゴルドー『様』だよ、オリバー!!今や私は貴様の上官だぞ!!口を慎め!!」

逆上。このゴルドーという男のプライドは相当のものだ。先程とは打って変わって口調が荒くなる。

「…撃つべき相手を間違えていませんか?僕ではなく、隣の彼を撃つべきでは…?」

オリバーはあくまで笑顔だ。初めて顔を会わせた瞬間から、彼はいつだって笑顔を絶やさない。

ここまで来ると、それは一種の『仮面』のようにも思えた。

「いいや、間違ってはいないぞ、オリバー…。これはプロフェッサーの命令だ」

その声を合図に、一斉に銃を構える兵士達。標的はオリバーだけ――とはいかないようだ。

「カイム…」

「あぁ、本気だろうな…」

ルイスがカイムに促す。ここは任務よりも撤退を優先すべきだと判断した二人。だが、

「今ここで君達を撃ち殺すのは簡単だ。しかし味方に殺されたとあっては君も不憫だろう?だから君に、せめてもの贈り物をくれてやる。オリバー少尉…」

彼は引き金を引かず、代わりに懐から小型のリモコンを取りだし、ボタンを押した。

次の瞬間、カイム達が居る地上で、次々と爆発が起きた。

「…っ!!ゴルドー軍曹!!」

「君に名誉ある死を与えてやろう、オリバー。君は敵の侵攻を食い止めるため自ら犠牲になったのだ。殉職は二階級特進だぞ?良かったではないか!!フハハハハーッ!!」

高らかに響く笑い声。爆発の轟音が響く中でも聞こえてくる。

「去らばだ、黄昏の隼トワイライトファルコン。せいぜい天国でガールフレンドと仲良くやってくれたまえ」

「――ガール…フレンド……」

そう言ってゴルドーは去っていく。展開していた帝国兵も彼に続いて工場を後にする。

「…エレナ。エレナを…、彼女をどうした!!答えろ、ゴルドーーーーッ!!」

去っていくゴルドーへと叫ぶオリバー。しかし、その声は爆発の轟音でかき消されてしまう。

その顔から、仮面の笑顔はとっくに消え失せていた。膝をつき、左手の拳で地面を力任せに叩く。

「く…!エレナは一体どこに――」

静かに、彼の傍にルイスが立った。

回復(リカバリー)!」

それからオリバーの右腕に両手を当て、呪文を唱える。

その行動が理解出来ないオリバー。

「…なぜ、僕の傷を治すんですか…?僕は敵ですよ?」

「お前がもう攻撃してこないと判断したからだ。それ以上の理由が必要か?」

「――っ」

オリバーが悔しげに顔をしかめる。

ルイスはポケットから包帯を出し、くるくると患部に巻きつけた。応急処置はこれで完了だ。

「よし、終わったぞ」

そして、カイムがオリバーに手を差し伸べる。

「早くしないと火薬庫に引火して更に大変なことになる…お前も一緒に逃げよう」

しかしオリバーはその手を払いのけた。

「困りますね…どうして敵に情けをかけられなくてはならないのか」

すると、カイムは先程のトンファを見せた。

「これを返して欲しくば、俺達についてこい…そんなとこか?」

オリバーは目を丸くし、苦笑した。

「…お人良しなんですね。僕を助けて後で後悔しても知りませんよ」

「後悔なんて無いさ。とにかく、俺達と一緒に来ないか?」

苦笑しながらも、オリバーはどこか嬉しそうだった。

「ふふ、仕方ありません。どうせエレナを助けるまでは死ねませんからね…」

「それで良い」

オリバーは差し出された手を握りしめ、ゆっくりと立ち上がった。


燃え盛る火の中を脱出し、やや遠く離れた広場に着いた3人。

背後を見た時、突如轟音がし、工場の火の手が更に勢いを増した。

「間一髪だったな」

「ふぅ…これでひとまずは逃げ切れた」

人通りの少ない安全な場所ということで、3人は近くの椅子に腰掛けた。

「貴方達のお名前を伺ってもよろしいですか?」

「カイム=レオンハルトだ」

「私は…ルイスで良い」若干口を濁して答えたルイス。

相手は帝国の人間なので、素性を明かして身元がバレてしまっては元も子もない。

「ルイス…?どこかで聞いたことがあるような…」

オリバーは思い当たる節を探したが、

「…ちょっと良いか?」カイムが割り込んだ。

「なんでしょう?」

「さっき、奴は『ガールフレンド』と言っていたが…お前にも、守りたい人が居るんだよな?」

「えぇ…まぁ」

「…良かったら、話を聞かせてくれないか?」

「随分と野暮な事を聞きますね」

オリバーはくすりと微笑み、

「良いでしょう、貴方達には助けられてしまいましたからね…少し長くなりますが、お教えしますよ」

そうして、自身の過去について語り始めた。


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