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A Voice Within  作者: チャコ
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第1章: Upper Ground の女神

インディーズバンド『Upper Ground』

東京初公演、満員御礼。



今日は俺らにとって記念すべき日になるやろう。



高校時代から始めたバンド活動は、4年たった今もメンバーが代わることもなく続いとった。



ボーカルとギター担当の亮と、ベースの翔太、そしてドラムスは俺、大介。



関西を中心に路上から始めて、ライブハウスを満員に出来るようになったのは、高校を卒業して全員バイト生活に入った頃やった。



レコード会社の人に声をかけられ、まだデビューが決まったわけやないけど東京での公演の背中を押してもらい、ここまで来た。



外資系CDショップでのインディーズランキングでも、上位をマークできるようになって、今回の東京公演が成功したら・・・と正直期待しとるのは、メンバーみんな同じやと思う。




ライブの打ち上げ兼、亮の誕生会で六本木に来とったった。

Upper Groundのメンバーといつも手伝ってくれとる路上時代からのファンであり大事なスタッフ、そしてそれぞれの大事な人、総勢8名。

レコード会社から多少援助金をもらったから、ちょっと奮発して、円卓があるようなそこそこ値が張る中華料理店でお祭り騒ぎやねん。




「ホンマにあれから彼女おらんの?」



俺の左側でくるくる表情を変える子は、真由ちゃん。



「ほな、大阪帰ったら誰か紹介しよか?コンパの方がええやろかぁ?」



俺に彼女をとノリノリで話してんねんけど、こっち向いてる真由の後ろから、雅人がめっちゃ睨んでんねん・・・。



真由ちゃんに出会うたんは、初めて梅田で路上ライブをやった日やった。


5分も立ち止まっとったら骨の髄まで冷え切ってまうような寒い日やった。


誰もまともに聴いてくれへんかった中、奮えながらもたった一人でずーっと俺らを見つめとった。



あん時はメンバーもあっという間に寒さに負けて、結局1時間で撤退したんやけど、その後行ったラーメン屋で亮ちゃんが中3から付き合うとる彼女やってわかって、メンバー全員知らんかったからごっつびっくりさせられたんを覚えとる。




何度か顔を合わす機会があって、元気で明るい子やなって、そん時は付きおうてる子もおったし、その程度やった。



普通に亮ちゃんの彼女やと思って見とったんや。




なんでやろ、いつの間にか気になるようなって、亮ちゃんが真由ちゃんを呼び出すのが楽しみになっとった。



時々、真由はみんなに差し入れ持って来てくれんねんけど、大食いの俺だけにこっそり他のもんも用意してくれてんねん。


こないだはドーナツやったな。








「 真由 、醤油とって」



仏頂面で亮ちゃんが真由ちゃんをこずいた。


円卓回せば済む話やねんけど・・・


醤油が理由やないことぐらい俺やってわかってる。




「あんなぁ、大介くん彼女おれへんし、今度コンパする言うてんねん」



あー、またそんなダイレクトに言うたら・・・



「コンパぁ?なんでお前が行かなアカンねん」



亮ちゃん、不機嫌になるに決まってますがな・・・



「せやからウチやなしに、大介君のためやねんか」




亮ちゃんの視線が俺に突き刺さっててん・・・ごっつ睨んどるし。


わかってんねん。亮ちゃんが嫉妬深いヤツやって。



「なあ、ええやろ?」



ちょっと甘えた声の真由に、亮ちゃんはタジタジや。



「ほんまに?せやったら俺もまぜてや!」



翔太までノリノリや。



「・・・ええで」



明らかに納得いってへん顔で、亮ちゃんは承諾した。



「やっぱり嫁はUpper Groundの女神やな。プライベートまで世話してくれんねんもなぁ」


真由ちゃんを俺らのつけた"嫁"てニックネームで呼んで、翔太がニンマリした。



亮ちゃん、堪忍な・・・そう思いつつ、真由ちゃんと携帯、赤外線してもうた。








連絡先聞いたとはいえ、俺から連絡なんてようできん。


あの夜から何度携帯のメモリで呼び出しては消して、呼び出しては消して・・・


3日たった今も気づいたら携帯をいじっとる。



ホンマは新曲用の歌詞書かなアカンのに・・・。


Upper Groundでは、亮ちゃんが主に曲を作り、それに俺が歌詞をつけるのが当たり前になっとった。


そもそもバンド結成時、あの頃は高校のクラブ活動の一環やったけど、ボーカルは俺で、亮ちゃんはギターオンリーやった。


せやけど学園祭間近になって、俺が風邪をこじらせて歌われへんかった時、代打で亮ちゃんが歌とぅたら評判がよかってん。次いでその当時のドラムスが辞めて、俺が少しドラムができたから・・・今の形に落ち着いた。


一番人の視線を浴びとったはずの俺は、いつの間にか一番後ろのドラムセットの後ろという目立たへん場所が定位置になっとった。


ライブで名前叫ばれるのも亮ちゃんが一番多い。インディーズの取材で一番目立っとるのも亮ちゃん。


そしてUpper Groundの女神は、亮ちゃんの彼女。




真由ちゃんはあの夜、亮ちゃんとどこ行ったんやろ。


久しぶりて言うてたし・・・あぁーーーーっ!


いらんこと想像してもうた・・・俺はアホや。




携帯を床に放り投げて、俺は机に向かうと亮ちゃんから渡されたMDを再生した。


・・・途端、携帯がフローリングの上でガタガタと震えよったっ!



「きたっ!!!!」



慌てて携帯を拾い上げて覗き込む。



『大介君、こないだ振り〜!

こないだのコンパやねんけど、

ベッピンばっか揃えたで!

亮も来ぅへんし、ウチも羽伸ばして楽しむさかい、

空いてる日教えて〜な♪』



コンパでもええねん。


亮ちゃんがおらんとこで、真由ちゃんに会えんねんから。








待ち合わせは、夕方6時。


なんや落ち着かへんかって俺は店の周りをウロウロ、買い物でもと思いきや、物欲どころやないねん。


なんも目に入ってこーへん。




「あれ、大介君ちゃう?」



肩を叩かれ振り返ると・・・嘘やろ! 真由ちゃんが立っとった。



「どないしたん?ここ、メンズの服屋やんか」


「もうじきクリスマスやんか。ええもんないかなーって」


「ああ、亮ちゃんにプレゼントやね」


「そうやねん。亮は寝不足続きで今時分まだ寝てるやろしね」



真由ちゃんは幸せそうに笑った。


こんな笑顔独り占めなんて、ほんまに亮ちゃん、ずるいわ。




「大介君は?なんか買うたん?」


「まだなんも」


「ウチでよければ、一緒になんか選ぼうか?」


「ホンマに?ええの?」


「当たり前やん!」




うわ、デートみたいやん。


ドキドキしてきよったわ・・・





真由ちゃんに選んでもらった帽子をかぶって並んで歩く。


ショーウィンドウに映ったら俺らは、ホンマのカップルに見えた。




「亮ちゃんとも、よう買いもん行くん?」


「全然やで。最近デビューするんやって気合入りすぎてほとんど家にこもって曲作っとるし、お互い実家やからたいがい夜に公園とか車で会おうとるねん。どうせ会うても喧嘩ばっかやけど」



俺らの前では亮はかっこつけたがるし、真由ちゃんも負けてへんから、よう下らん事で言い合いになっとる。二人がどんなに長い付き合いか、どんなに仲がええかもようわかっとるから、痴話喧嘩としてか見てへんかったけど・・・。



「亮ちゃんは優しないん?」



「そんなことないで。せやけど、亮は毒舌やんか。うちもついつい・・・アホやろ?」



「確かに喧嘩ばっかやね。もっと二人で一緒におれたら違うんやろな」



「まあ、そうやね。亮には言われへんねんけど」



真由ちゃんは、切なそうな目で笑ろうた。



「・・・俺やったらもっと彼女と一緒におりたいなぁ」



「大介君の未来の彼女さんは幸せやね。大介くんやったら優しいし、ウチの友達安心して任せられるわ」



そんなにっこりせんといてや。


ホンマ、胸が苦しいねん。



俺やったら、亮ちゃんよりもっと優しくしてあげるんやけど・・・。



「・・・これからもっと東京行くことも増えるんやろ?デビューが決まったら芸能人やねんもんなぁ。亮には言わんようにしてんねんけど、めっちゃ怖なる時があんねん。いろいろ噂も聞くやんか。ウチにはわからん世界やねんから」



「せやなぁ」




俺にはまだそんな実感はないけど、亮がメンバーの中では一番野心家で上昇志向が高いのはようわかっとったし、実際亮ちゃんがバンドをひっぱっとるって言うても過言やない。



「亮、東京でアカンことならへんよな?」



「そんなん・・・俺にはわからへんよ」



曖昧な返しになったんは、なんでやろ。


亮ちゃんは口ではあんなやけど、ホンマに一途で真由ちゃんを誰よりも大事にしてるんは、ようわかってるはずやねんけど。



「まぁ、言うてもしゃあないわな。惚れたウチが悪いんや」




真由ちゃんの真っ直ぐな気持ちは、全部亮ちゃんに向いとる。

もし亮ちゃんがいい加減やったら、もっと楽になれたんよ。


俺の方が 真由ちゃんを大事にできるんやって。







真由ちゃんが集めた女は3人。

地元の幼馴染みで、確かにボチボチかわいかってたし、俺らに興味津々やねんけど・・・



「うわー!かっこええ!もうじきメジャーデビューなん!?なんで先に言うてくれんかったんっ?」


「そうや!もっとイケたカッコしてきたんに!!」


「十分かわいいですやん!」




翔太が言うて、場が沸いた。

俺は、何かうまく笑われへんかった。



「せやけど亮は知ってるんよね、うちら後でしばかれんの嫌やで」



怪訝な顔で友達の一人が真由ちゃんに言うた。



「当たり前や。ウチかて怖いねんもん・・・」




亮の前ではいつも強気な真由ちゃんも、本音は亮ちゃんに気を使うとる。




不意に真由ちゃんの携帯が鳴り出して、




「あー、亮からや・・・」



席を外してしまった真由ちゃんを俺は目で追っとった。







腹が痛いと嘘ついて、俺はこっそり電話を立ち聞きしとった。



「なんでメンバーと会うてるだけやのにそんな嫉妬深いねん!他人の幸せはどうでもええの?」



また喧嘩しとる・・・



「女の子はみんなアンタの知ってる人やねんで。亮がおったらいらんツッコミ入れるし、みんなやりづらいやんか」



亮ちゃんは自分も行く言うてるっぽい。



「アホっ!メンバーの誰がうちに興味持つ言うねん!ウチはアンタの彼女やねんで?」




亮ちゃん、まさか俺の気持ちに気づいとるんじゃ・・・


初めて湧き上がった疑問に、俺は一人で焦ってもうた。







具合悪いし、帰るわ・・・と言い残し、真由はまだ亮ちゃんと電話中やったから挨拶もせずに、俺は一人で店を出た。


ホンマに気が滅入る。

なんでこんな相手に惚れてまったんやろ。



「・・・アホっ!心配してんちゃうねん、怒っとんねん!」



聞き覚えのある声・・・店と店の間のほそーい隙間から聞こえてくんねんけど、まさか・・・



覗いてみると、キャップを目深にかぶった亮ちゃんが壁を蹴りながら電話に向かって怒鳴りつけとった。



気配に気づいた亮ちゃんがびびってこっち向いて、



「・・・お前、コンパは?」



そして、電話口に向かって言い放った。



「30分もあったら上等やろ?30分で盛り上げて、出てこなアカンで!」



携帯を切ると、ぶっすーとした顔で路地から出てきた。



「何しとるん?お前の為のコンパやろが」


「なんか腹痛なってや」



気まずい。どないしょ・・・



「亮ちゃん、ごめん。ホンマは嫌やったんよね」


「大介のせいちゃうで。アイツがアホやねん。ホンマに人の世話ばっかりで、俺はいったいなんやねんっ!」


「真由ちゃん、亮ちゃんのことめっちゃ考えてんねんで?今日もクリスマスプレゼント探しとったし・・・」



アカン。俺の口、余計なことを。

案の定、亮ちゃんの目にギロっと力が入った。



「なんでお前が知っとるん?一緒に買いもんした、そういうことやな?」


「たまたま会うたんよ、店でばったり」




亮ちゃん、顔が極道や。




「ホンマむっかつくっ!コンパまで俺と買いもん行ったらええやんけ!」


「亮ちゃん、最近寝不足で疲れてるやろからって言うとったで」


「お前らが遊んどったら俺やって休みやで?休みに一緒におらんかったらいつおれんねん!」



亮ちゃんがここまで言うのは、珍しいことやった。どんだけ嫉妬してんねん。


せやけど俺はそんな亮ちゃんの想いに逆に腹が立ってきとった。



「そんな嫉妬して怒鳴るくらいやったら、ええ加減真由ちゃんにもっと優しくしたらどうやねん!俺、二人が喧嘩してへんとこ見たことないねんで。おかしいやろ、好き合うてる二人やのに」


「お前らの前でイチャイチャできるかっ!」


「二人の時やって喧嘩ばっかやって言うとったで」


「いらんことばっか言いよって・・・」


「 真由ちゃんが意地張っても、亮ちゃんがそうさせてんねんで。亮ちゃんが傍におらんから、ホンマは自信失くして心配してんで!どんだけ付き合ってんねん!そんぐらいわかれや、ボケっ!」



言い捨てると、駅に向かって歩き出した。

足が勝手に早歩きになって、気づいたら走り出しとった。



「なんやねんっ!・・・アホくさっ!・・・二人して結局惚気とるだけやんけっ!」





わかってんねん、はなっから失恋やってことは。









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