第10話:家族という名の奇跡、そして未来へ
―この手をつなぐ理由は、“もう離さない”って決めたから。
春の休日。
胡春が手作りの「かぞくのきねんび」の看板をリビングに飾り、
家族6人で過ごす**初めての“記念日”**が始まった。
千聖は朝から台所で子ども用プレートを作り、
真琴はリビングを飾り付けながら、胡春と笑い合う。
「こうして過ごせる日が、何よりのご褒美だな」
「うん……これ以上、何もいらないって思える」
そんなふたりのもとへ――訪問者があった。
副会長・相川涼子が現れ、封筒を手にしている。
「少しだけ、時間もらえるかしら」
「もちろんです。……でも、今日はどうされたんですか?」
涼子は封筒を真琴に手渡しながら、穏やかに言った。
「――例の“美咲会長のプラン”、ついに始動するわよ」
「え……本当にあったんですか?」
「あるどころか、これがその第一号」
封筒には――
新規社内保育・教育支援部門の発足提案書と、
その部門責任者に、御上千聖の名前が記されていた。
「育児と仕事の両立は、私たちにとって最も大きな課題。
でもそれを“できている人間”が、あなたたちよ。
……千聖さんには、育児目線から、
そして真琴くんには、管理職目線から支える立場になってもらいたいの」
千聖は目を見開いたまま、真琴と顔を見合わせる。
「……こんな未来、思ってもみなかった」
「でも、俺たちにしかできないことなら、やってみたい」
涼子は最後にこう言い添える。
「これが“家族で働く”ってことの、本当の意味だと思うわ」
***
夜。子どもたちが眠りについたあと。
千聖はベランダに出て、春の風に髪をなびかせる。
「ねぇ、真琴さん」
「うん」
「あなたに出会って、子どもができて、
こんなにたくさんキスして、愛して、喧嘩して……
それでも、ずっと隣にいてくれてありがとう」
真琴は、千聖の手を取った。
その手のひらに、もう一度――深く、長いキス。
唇を離したあと、そっと耳元でささやく。
「ありがとうなんて、こっちのセリフ。
これからも、ずっと――夫婦で、家族で、未来をつくっていこう」
千聖は頷き、今度は自分から真琴の唇に、
今日一番、甘くて深くて長いキスを重ねた。
ベランダの空には、月と星。
部屋には、4人の子どもたちの寝息。
そして、ふたりの影が重なって、寄り添っていた。




