第5話:3つ子誕生、産声の嵐と涙の名前発表
―春に来た命は、涙と祝福の中でこの世界に生まれた。
出産予定日の朝。
病室の窓からは、桜の花が揺れていた。
「今日かもしれない」と医師に告げられた直後から、
千聖の表情が引き締まる。
「真琴さん……」
「大丈夫。全部そばで見てる。全部受け止める」
分娩室。
モニターの音と医師の指示が交錯する中、
千聖は汗をかきながら、必死に呼吸を整えていた。
「もうひと息です、御上さん――!」
「――っ、ああっ!!」
大きな声とともに、第一声が響いた。
「おぎゃあっ……おぎゃああっ……!」
「……第一子、男の子です」
その声を聞いた瞬間、真琴の目に涙がにじむ。
「春夜……」
彼が口にしたその名に、看護師たちも微笑んだ。
続いて、
「おぎゃっ、あ……おぎゃああ……!」
「第二子、男の子!」
「――春翔だ……」
さらに数分後、
「――おぎゃ、あああっ……!」
「第三子、女の子。全員、無事です!」
その瞬間、千聖は酸素マスクの下で泣いていた。
苦しみ、痛み、そして――
この上ない達成感と、歓び。
真琴がその手を握り、額にキスを落とす。
「千聖……ありがとう。……ありがとう。俺たちの宝物だ」
「名前……呼んであげて」
「うん」
真琴は、3人の赤ん坊の小さな手を順に握りながら、ささやいた。
「君が春にくれた命……
長男、春夜。
次男、春翔。
長女、桜羅。
――ようこそ。俺たちのところに、生まれてきてくれてありがとう」
生まれたばかりの命たちは、小さく泣きながらも
まるで答えるように、その手をほんの少し動かした。
千聖はベッドに横たわりながら、真琴の顔を見上げて微笑む。
「……ねぇ、私、また母になれたね」
「ああ。そして、俺もまた……“父親になった”んだ」
その言葉を噛みしめるように、
ふたりは病室でもう一度、涙まじりのキスを交わした。
今度のキスには、命と愛と、約束がこもっていた。




