第4話:つかの間の夫婦時間と、“育児より濃いキス”
―ふたりでいる夜に、遠慮なんていらない。
その夜。娘は千聖の実家に“お泊まり”へ。
家にふたりきりになるのは、何ヶ月ぶりだっただろうか。
リビングには、音楽もテレビもない静けさ。
けれどふたりの鼓動だけが、確かに空気を揺らしていた。
「……ねぇ、なんか静かすぎて落ち着かないね」
千聖が言った。
「……それでも、俺は好きだよ。この“ふたりきり”ってやつ」
千賀真琴は、ゆっくりと千聖の頬に手を添えた。
ふたりの視線が重なる。次の瞬間――
そのキスは、ゆっくりと始まった。
最初は優しく、確かめるように。
だが、すぐに熱がこもる。
千聖の唇が小さく震えると、真琴はその隙間に舌を滑り込ませた。
舌と舌が絡まり、唾液の音が静かな部屋に濡れた音を立てる。
「……んっ……ん、っ……」
千聖が息を漏らしながらも、身体を離さない。
むしろ、自ら真琴の首に腕を回す。
「……もっと……重ねて……」
千聖の声はかすれ、甘く、誘うようで――
真琴はソファに千聖を押し倒し、覆いかぶさった。
そして――もう一度、唇を深く重ねる。
音を立てるほどの、深く、濃く、長いキス。
ただの唇ではない。
互いの“心ごと”を吸い合い、確かめるキス。
「千聖……」
「真琴さん……今日は、いっぱいキスして。ぜんぶ、あなたのものにして……」
耳元に囁く千聖の言葉に、真琴の息が荒くなる。
そのあとふたりは、ソファで唇を離すことなく、
1分、2分――いや、数えられないほどの時間、
お互いを貪るように口づけ続けた。
呼吸すら交わり、肌と肌が熱で滲む。
「……これ、娘が見たら呆れるね」
「見せないわよ。これ、**“夫婦の時間”**なんだから」
最後にもう一度、深く、甘く、そして熱く――
何度目かのキスを交わした夜。
ふたりの心は、たしかに新たに結ばれ直していた。




