第3話:上司たちへの再報告と、温かな反応
―祝福は、ふたりの努力の証。言葉よりも、想いのこもった贈り物。
会議室、午前10時。
定例の経営戦略会議が終わった後。
真琴と千聖は、互いに頷き合い、会長室へ向かった。
「ふたりで来るなんて珍しいわね」と、七瀬美咲会長が微笑む。
同席するのは、社長の橘悠真、常務の古賀結花、専務の広瀬誠一。
全員が前回の妊娠時にあたたかく支えてくれた、信頼する“家族のような”上司たちだ。
千聖がゆっくりと、けれどはっきりと報告する。
「……妊娠しました。第二子です。……三つ子です」
室内に一瞬の静寂。
「さ、三つ子……!?」と専務。
「ついに千賀家が美咲家に追いつき始めたね」と悠真社長が笑う。
美咲はその言葉に頷きながら、微笑んだ。
「ふたりとも、本当におめでとう。
これで、育児と経営の“二刀流”になるわけね」
結花常務も柔らかく言葉を添える。
「また忙しくなるでしょうけど、私たちができる限り支えます」
そして――机の上に、黒革の封筒がふたつ。
「……今回は、ふたりの努力に敬意を込めて。
美咲家と社長の悠真くんから、それぞれ750万円ずつ」
ふたりは声を失った。
合計――1500万円の祝金。
「いや、さすがにこれは……」と真琴が戸惑うと、
美咲が静かに笑った。
「私たちも、結婚も子育ても“秘密”にしてる。
その上で、社内で懸命に働くあなたたちを見てきたの。
これは“義理”じゃない。“想い”なのよ」
千聖が涙ぐみながら頭を下げる。
「ありがとうございます……。
この子たちのために、ちゃんと使わせていただきます」
そのあと、ふたりは応接ソファでお茶を飲みながら、
悠真に名前の話をした。
「春夜、春翔、桜羅って名付けました」
「春に生まれる命か……素敵だね。まるで希望の連なりだ」
室内に穏やかな空気が流れる中――
「さっきの話、もう一度いい?」と美咲が少し意地悪に笑う。
「……私たちの子ども、8人いるって言ったわよね?」
「ええ……」
「まだ、あと5人いけるわね?」
「ご、ご冗談を……!」
全員が笑いに包まれるなか、真琴は小さく千聖の手を握り――
その場で、そっと手の甲にキスを落とした。
そのキスには、ありがとうと、守るよの、ふたつの意味が込められていた。




